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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
98/144

ありえないこと

登場人物

◎アミス・アルリア

本作の主人公

15歳のハーフエルフの少年魔導士

5体の聖獣と契約中


◎レン

ダークエルフの女魔術師

高い魔力と古代魔法や禁呪を使いこなす魔法技術を持つ


◎エル

15歳の女剣士

火系の攻撃魔法を使いこなし、とある秘密の力により炎の魔法が効かない


◎タリサ・ハールマン

元暗黒騎士団の将軍だった女戦士

現在はアミスに忠誠を誓っている


◎ジーブル・フラム

氷の神イエロに仕える女神官

神聖魔法の他に、氷系の攻撃魔法も使う


◎ウェディック・バールソン

アミス達を罠に嵌めた仕事の依頼主

高位の魔法使い

 有り得ない事だった。

 様々な事に対しての備えをし、どんな状況でも対応できると自負してきた経験豊富なウェディックでも、冷静さを失う程の状況だった。

 

 (何故こいつらが……?)


 目の前に現れた5人の冒険者達。

 その誰もが、ここにいるはずが無い者達だった。

 詠唱を終え、魔力も溜まり、実力の劣る冒険者達を一網打尽にできる炎の上位魔法が発動する直前に、その五人による妨害が入った。

 予想外の方向から、続けて繰り出された予想外の攻撃。

 予想外であっても、結果的にウェディックの思うがままに、その一連の攻防は終わるはずだった。

 途中からはその先の攻撃の予想ができており、完全に防ぎきるイメージがウェディックの頭の中では固まっていて、それを完全に実行したはずだった。

 にも拘らず、予想通りに進んでいたその攻防は、最後の最後で予想外の結果となった。

 防げたはずの攻撃により負った左腕からの流血が、ウェディックの心を逆に落ち着かせていた。

 何が起こったかを冷静に思いだす。

 目の前に現れた5人の冒険者達に目を向けながら……

 アミス、レン、タリサ、ジーブル、そして、その右手に持つ剣でウェディックの左腕を斬りつけたエルという名の少女に……


 まず最初に攻撃魔法を放ってきたのはダークエルフの魔術師であるレン。

 予想外の方向から感じ取ったその魔法を、もしもの時の為に用意してあった魔法具の魔力(ちから)によって受け流すと、次なる攻撃に備えた。

 その備えがあったからこそ、タリサの聖獣による氷の銛とジーブルによる氷の礫、同時に二方向から飛んできた氷系の攻撃を簡単に防ぐことに成功する。

 そして、突然吹き荒れる突風。

 アミスが聖獣≪風の乙女(セラリス)≫によって生み出したそれは、殺傷能力のない魔法(もの)と即座に

把握し、次なる攻撃に繋げるための牽制の様なものだと判ったウェディックは、次に来るであろう攻撃もある程度予想が出来た。

 そして、予想通り強風によりに動きを一瞬止められたタイミングで、現れた女剣士エル。

 戦闘経験豊かなウェディックにとって、余りのも簡単に予測できる流れだった。

 特に直前の突風がいただけなかった。

 攻撃意識が感じ取れないそれは、次に他の攻撃があると教えてくれていると同じだった。

 タイミングや攻撃方向すらをも予想させてくれるほどの悪手だった。

 読んだ通りのタイミングと方向から現れた少女に、別のターゲットの為に用意してあった炎を上級魔法をぶつけて終了。

 完全に読み切った流れに、ウェディックは得意気味な笑みを浮かべながら、他の者達の表情を観察する。

 何人が絶望の表情で、炎に包まれた仲間に目を向けているかと僅かに楽しみにしていたウェディックは、その期待を裏切られる。

 誰一人として、目の前で仲間が命を落としたことを気にした様子が無く、それはウェディックの心に大きな違和感を与える。

 そして、その違和感が間一髪の所で、彼の命を救った。

 咄嗟に体を捩じりながらの回避行動は、体を捉える軌道だったその斬撃を左腕に受けるだけに止めたのだ。

 炎から伸びる剣。

 簡単に収まるはずのない魔法の炎が鎮火していき、その中から現れた少女は不敵な笑みを浮かべていた。

 一瞬の躊躇いを見せたウェディックの目の前で、足場を失ったかのようにエルは落下していく。

 だが、その落下スピードはアミスの生み出した風により緩められて、ゆっくりと床に着地した。


 全員が床に降り立ってから、漸くウェディックは気付く。

 アミスが生み出した先程の風が、聖獣という特殊な存在の力を借りている割に、威力が低かった理由に。

 ウェディックに対しての一瞬の拘束だけでなく、エルを空中に止める為にもその魔力(ちから)が使われていたのだ。

 だが、何故エルが無事な事が理解できない。

 どんな防御魔法を使ったとしても、至近距離で受けて無事で済むはずのない威力だった。

 その理由は解からなかったが、ただ無事で入れるはずのない攻撃を受けても無事という能力を利用した策に、自分がハマってしまった事にだけは気付くことが出来た。

 常に余裕を持った表情を崩さなかったウェディックの表情が厳しいものへと変わる。

 

 「何故、ここにいる?」


 ウェディックの問に、すぐに返答する者はいなかった。

 それがウェディックの心に湧き上がっている苛立ちをより強めようとしていたが、直ぐにそれを抑えねばと思い直す。

 ベテラン冒険者としての経験が冷静さを取り戻させていく。

 ウェディックは小さく溜息をつきながら落ち着いて考える。

 魔族のロビックの元へと飛ばされた、特に強い魔力を感じ取れる3人の冒険者達。

 ウェディックの護衛の一人、アインと一緒に飛ばしたはずの女戦士。

 そして、ウェディックの想定外の転移によって、レッサードラゴンと共に飛ばされたであろう女神官。

 そんな5名の冒険者達が目の前に現れた事は、ウェディックにとっては考えられない状況だった。


 「どういうことです?

 何故、貴方達が……?」


 考えられない状況な以上、やはり相手に訊ねるしかないと思い再度問を投げかける。

 

 「わからないか?」


 静かな声でそう問い返したのはエル。

 その表情からは何の感情も感じ取ることができない程、落ち着いた様子だった。


 「ここに私達がいる理由なんて一つしかないと思うけどな……」


 そう、彼女が言う通り可能性は一つしかないのだ。

 だが、ウェディックにはその理由が納得できないのだ。

 

 「そこの女戦士がいるのは、百歩譲って理解できます。

 勝つことより戦いに意味を求める様な人でしたからね、アインという人は……」


 タリサとの対峙したアインは、強者との戦いを望む男だった。

 その思いが強いあまりに、弱体化の結界の力を使わない可能性は否定できなかった。

 故に、単純な実力勝負に負けたと考えれば、納得はできない事はなかった。

 だが、アインの実力を評価していたウェディックとしては、それでも予想外のことには変わりはない。

 

 「ですが貴方達がここにいるのは理解できません」


 と、ウェディックはアミス、レン、エルの三人を睨みつけた。

 それに対して、少し呆れ気味な失笑を浮かべて言葉を返してきたのはレンだった。


 「理解できなくとも、ここに私達が現実を物語っている。

 おそらく、お前の頭に正解が浮かんでいるのだろ?」


 そう、答えは一つしかなかった。 

 だが、それが納得できないのだ。


 「有り得ない……

 それは有り得ないんですよ。

 あのロビックが、この遺跡の結界と私が用意した結界の中で負けるなんてことはね」

 「納得してくれなくてもいいさ……」

 「ああ、そうだな……」


 レンとエルが、揃って鋭い目付きでウェディックを睨みつけた。

 全身から殺気を帯びた魔力を放出しながら……

 感じ取れる魔力は、ウェディックが思っていた以上に高いものだった。


 (だが……)


 それでもロビックが負ける程とは思えなかった。

 あの慎重な戦術家であるロビックが負けるなんて事はある訳がない。

 そんな思いが、ウェディックの冷静さ再び奪いだしていた。

 そんなウェディックが心を落ち着ける前に、動き出すレンとエル。

 それに合わせて援護の魔法の準備に入るアミスとジーブル。

 アミス達の絶対的な不利を覆す戦いが、再び始まろうとしていた。

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