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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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生まれる絶望

登場人物

◎アミス・アルリア

 本作の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士(見た目美少女)

 6体の聖獣を契約済み(内1体は仮契約)

 

◎レン

 ダークエルフの女魔術師

 今回限定でアミスと行動を共にしている

 古代魔法や禁呪等の高ランクの魔法を使いこなす


◎エル

 アミスと同い年(15歳)の女剣士

 その身に秘めた魔力を宿す

 スピードを生かした剣技と、火系の攻撃魔法を使用する

 

◎ロビック

 転移魔法で飛ばされたアミス達を待ち受けていた上級魔族

 常に冷静な分析することを信条としてる

 炎系の魔法を得意としている



◎ヴェルダ・フィライン

 剣技と特殊な魔法に長けた魔剣士

 アインと一騎打ち中


◎アイン・シソン

 ウェディック・バールソンに雇われている魔法戦士

 ヴェルダと一騎打ち中 

 二人の戦いはまだまだ決着が付きそうになかった。

 そんな拮抗した勝負に不満の感情を抱いているのはアイン・シソンの方だった。


 (どうしてだ……?

 どうしてここまで動ける?)


 納得ができなかった。

 何故ならば、目の前にいるヴェルダ・フィラインの事を再評価したアインは、この部屋を包む結界の効果を強めていたからだ。

 彼の計算では、既に明らかな実力差が生まれているはずだった。

 それが彼の依頼主であるウェディック・バールソンが作り出した結界の効果だったはずだから……

 戦力差が変わっていないという計算外の状況に、アインは心中焦っていたが、それを表情に出さずに牽制しながら様子を見ていた。


 (更に強めなければならないのか?)


 効果を強めるとその分だけ余分な魔法力を消費することになる。

 幾ら、目の前のヴェルダから魔力を奪えたとしても、消費分との差し引きで0近くなってしまっては意味がなくなってしまう。

 最悪負けそうになればそれも止む無しなのだが、できればそれは避けたいというのが正直な思いだった。


 焦りの感情を抱いているのはアインだけではなかった。

 ヴェルダも同様、いや、それ以上に焦っていた。

 強まった結界の効果は、彼にとって予想以上のものだった。

 それでも、それを楽しいと思う感情が、焦りの心を弱めている。

 

 (ここまで余裕がない状況は初めてかもしれないですね……)


 ヴェルダは考える。

 勝つための手段を……

 いや、手段が浮かんでいないわけではなかった。

 だが、それは失敗の許されないもの。

 それを逃せば同じチャンスは巡ってこない。

 故に焦らずに考える。

 そして、チャンスを待つ。

 今はそれだけだった。





 エルを狙って放たれた炎の槍は、アミスの小さな体を捉えていた。

 投げ放たれた槍の勢いそのままに弾き飛ばされたアミスの体を、エルが受け止める。

 炎の槍を放った魔族ロビックにとっては予想外の出来事だったが、それは彼に取って寧ろ喜ばしい事態だった。

 元々、アミスは最初のターゲットにしていた相手だったからだ。

 笑みを浮かべて優越感に浸りそうになるロビック。

 そこに生まれていた一瞬の油断。

 それは自分に向けられた炎を魔法によって消え去る。

 ロビックは少し慌て気味に生み出した防御魔法でそれを防ぐが、レンが放ったその炎の威力は予想以上のものであり、ロビックは身に纏っていた魔法のローブを燃やされ、驚愕の表情をレンに向けた。

 だが、既にレンの姿はその場所から移動しており、アミスとエルの前で彼等を守るように立ち塞がっていた。

 弱体化の魔法により弱っているはずのレンの魔法が、自分の想像を超えるものだったことに、ロビックは慎重にならない訳にはいかなかった。

 この結界の中であっても油断できない相手という事を改めて実感する。

 だが、そう思わす事自体がレンの狙いであり、思惑通りのものだった。

 レンが放った炎は、彼女が少し無理して生み出したものであり、ロビックに警戒させることによって、アミスが回復する時間を作る為のもの。

 

 「大丈夫か?」

 「あ、はい……」


 アミスの体をまともに捉えたと思われた炎の槍は、その身体を貫いてはいなかった。

 ≪白翼天女(ラシェール)≫の力により咄嗟に張った防御魔法のおかげだろう。

 だが、結界により弱っているそれでは、完全に防ぐことはできておらず、アミスは右の脇腹を焼かれて、かなりのダメージを受けているようだった。

 せめてもの救いは、焼かれた肉が止血の役目を務めて殆ど出血が無いことだろう。


 「なぜ、そんな事を?」


 そう言ったエルは口調こそ静かだったが、そこから怒りの感情がにじみ出ている事は、アミスにもレンにもすぐに判った。


 「危ないと思ったのでつい……」


 辛そうな表情を無理やり笑顔に変えてアミスはそう返した。

 その笑顔が返ってエルの感情を逆なでしたようで、その表情からは明らかな激怒の感情が出てきていた。


 「馬鹿なのか?」

 「エルさん……?」

 「お前は魔法使いが後衛役という自覚はないのか?」


 怒鳴りつけたい気持ちを抑えて、エルは静かに言う。

 

 「前に出て味方を庇うのは前衛系……、私の仕事だ。

 華奢なお前が代わりに攻撃を受けて、何かプラスになると思っているのか?

 そんな事を理解していないのなら、お前は魔法使い失格だ……」

 「いえ、ラシェールの魔法で防げると思ったんですけど……」

 「なら尚更、前に出る必要はないだろ?

 お前は状況を判断できていない。

 防御魔法を私にかけてダメージを減らして、その後回復魔法で支援した方が効率的だと考えないのか?」

 「いえ、咄嗟のことだったので……」


 少し苦しそうに返すアミスに、エルは怒りを通り越して呆れていた。

 完全に状況を把握しきれていない。

 今、敢えてこんな今更なことを自分が言っている意味が判っていないのだ。


 「お前は頼りにならないな……」


 (何のためにレンが無理をしたと……)


 エルは申し訳なさそうな視線をレンに向ける。

 それに対して、レンは冷静にロビックを睨みつけながら心の中で驚いていた。


 (この娘は、どこまで把握しているんだ?)


 レンが無理をして炎の攻撃魔法を放ったことには意味があった。

 アミスがそれに気づいてくれる可能性は低かったが、それしか自分にできる事が浮かばなかった。

 慎重なロビックに、自分が危険な相手だと思わせて攻撃を躊躇わせる事。

 それによって、アミスに密かに回復魔法を使わせようとしていた。

 大きなダメージを受けた今のアミスには、防御魔法と回復魔法を同時に使う余裕はないと判断して、回復魔法に集中させようと思ったのだ。

 だが、アミスはそのチャンスに気付かなかった。

 冷静な思考をさせようと、怒鳴りたい気持ちを抑えて意味のなさない言葉を時間稼ぎのために言ったエルの考えには気付かなかった。

 慌てているようで冷静に頭が回るはずのアミスだったが、今回はそんな部分も鳴りを潜めているようだった。

 レンは思う。


 (やはり私の存在が悪い方に……)


 アミスはレンの実力に絶対的な信頼感を持っていた。

 それが今回はマイナスに働いたのだ。

 どこかで、レンなら何とかしてくれるという甘えが出てしまっているのだ。

 レンが無理やり絞り出して、余分な魔法力を消費してまで放った攻撃魔法が尚更アミスに、彼女を頼る気持ちを与えてしまったのかもしれない。


 (やはり、私はアミスと一緒にいるべきではないな……)


 そう改めて思うレンだったが、今はそれよりこの場を切り抜ける事が最優先だった。


 (どうすれば……?)


 アミスがあまり戦力にならない状況下でどうするべきか考える。

 良い答えが浮かばないレンの目の前に、出てくる人影。

 

 「エル?」

 「一気に勝負をつける」


 そう言うエルに、レンは訊ねたかった。

 何か手があるのだろうか?

 だが、その答えを聞くわけにはいかない。

 口に出せば相手にも聞こえるのだから……

 お互いの手の内を知らない仮初(かりそめ)の仲間。

 高レベルな連携を取れるわけがなかった。

 だが、レンにも感じ取れる強大な何かが彼女の体には眠っている。

 もうそれに期待するしかなかった。

 それが決め手にならなくても、事態を好転させるきっかけになる事を祈って……


 「判った……」

 「支援は任せた」


 レンの返事に対して間を置かずにそう言うと、エルは返事を待たずにロビックに向かって走り出した。

 ロビックは落ち着いて対応する。

 あくまでも冷静に……

 それが見るだけで分かったレンは、何も策が浮かばなかった。

 だが、エルの『一気に勝負をつける』の言葉を信じて援護するしかなかった。

 それでもどうにもならなければ、最期の奥の手を使うしかないと思いながら……

 

 連続で放たれるロビックを攻撃魔法。

 それを躱しながら近づこうとするエル。

 レンが見る限り、ロビックの方に分があるように思えた。

 エルの動きが少し鈍く見えるのは、先程受けたダメージが抜けきっていないのだろうと予測できた。

 それを何とかするのが自分の仕事なのだ。

 レンは今残っている魔法力を全て投入するつもりで攻勢に出ることにした。

 どちらにしろ、エルが駄目になればもう二人を助ける事はできなくなるだろう。


 これまで仲間を持とうとしてこなかったレン。

 それは仲間が足手まといになるという考えがあるからだ。

 確かに助けられることもあるだろう。

 だが、レンにとっては仲間を守る事に気を取られる事はマイナスの方が大きく思えていたのだ。

 実際、今回もその考えは変わらなかった。

 だがそれでも、仲間を頼る事が悪いことではないと、仲間の為に戦う事が悪いことではないと、僅かだか理解できるようにもなっていた。

 絶望的な状況下でも必死に足掻く女剣士と心を通わせて戦力を打ち明け合えていれば、この状況を変えれたかも知れないと思えていた。

 

 「フレ・ドラ・ア……」


 レンは集中力を高めて詠唱を開始した。

 その詠唱が生み出す魔法をロビックは知っていた。

 元々はロビック達魔族用だった魔法を、とある人間の魔術師が自分達でも使えるように改良した高威力の攻撃魔法。

 この結界内でどれだけの威力を出せるかは、ロビックにも予想つかなかったが、先程の攻撃魔法の例をあるので充分な威力が出せると思って対応するしかなかった。


 「出でよ! 【 火龍招来(ファロム) 】」


 レンの詠唱が終了し、その右手から炎の飛龍が姿を現す。

 細長いその飛龍は一直線にロビックに向かって飛んでいく。

 それが充分な威力を持っている事をすぐに悟ったロビックは、咄嗟にできるだけ強力な防御結界を正面に生み出した。

 二つの魔法が衝突しあい、大きな爆発を生んだ。

 ロビックの防御結界の方が威力で上回り、ロビックはまったくダメージを受けなかった。

 だが、それは大きな差ではなく、


 (万全なら押し切られていたか……)


 目の前にいるダークエルフの恐ろしさを改めて実感させられた。

 結界を発動させることを選んだことが正解だったことを知り、ロビックは僅かにそのことに意識を持っていかれており、それが原因で気付くのに遅れた。

 もし、彼女が剣士らしく接近して来ていればすぐに気づいていただろう。

 だが、エルはロビックが思いもよらない行動に出ていた。

 その為、少し離れた位置で立ち止まっているエルの魔力が高まっている事に気付くのが遅れたのだ。

 そして、その高まった魔力が似ている事に気付くのにも……

 直前に魔法を放ったレンと似ている魔力に……


 「【火龍招来】!!」


 再度目の前に迫る炎の飛竜にロビックは明らかに対応が遅れた。

 それでも、身を翻しながら咄嗟に作り出した防御結界をぶつけて、その軌道を逸らしながら躱す事に成功する。

 自分でも奇跡的な反応だと思った。

 先に放たれたレンのそれよりは威力が低かったことが幸いしたのだろう。

 だが、攻撃はそれだは終わらない。

 攻撃魔法でバランスを崩された所へ、一気に間合いを詰めてくる気配。

 思ったより早い動きだったが、その行動自体はロビックの予想通りだった。

 故に彼は慌てることはなかった。

 それでも女剣士が見せた戦術と動きは一級品であり、普通であれば対処しきれない可能性は充分にあっただろう。

 だが、ロビックはあくまでも慎重な性格だった。

 あらゆる状況を想定して、様々な準備をして戦いに挑んでいた。

 ロビックが態勢を立て直す前にその背後に回ったエル。

 防御障壁に弾かれないように両手でしっかりと握られた剣で、一撃必殺のつもりで攻撃を放つその刹那の瞬間に、ロビックは用意していた魔法具の効果を発動させる。

 ロビックの身を炎を包む。

 それはその魔法具を発動させたロビックですら身を焼かれそうなほどの炎だった。

 自らの身に宿る炎の属性により強化された魔法具。

 いや、それだけではなかった。

 自分の得意の魔法である炎系の攻撃魔法を徹底的に強化するために、全身に十数個の魔法具を身に着けており、それらによって強化されたその魔法の炎は、レンやアミス、そしてエルの予想を超えるもの。

 全力攻撃の為に前のめりの態勢だったエルにそれを避けることは不可能なことであり、炎は完全にエルの全身を飲み込んでいった。


 「エルさん!!」


 咄嗟に駆け寄ろうとしたアミスを、レンが腕を掴んで止める。

 

 「もう手遅れだ!」

 「で、でも……」


 泣きそうな表情をレンに向けるアミス。

 その視線を受けても、レンは黙って首を横に振る事しかできなかった。

 ただ、アミスの腕を掴む右手に力を込めて……

 込められた力がアミスにも伝わり、彼は諦めの視線を炎の中にいるであろうエルへと向けるしかできなかった。

 

 助けることができなかった……

 自分の力が足りなかったから……

 再び味わうこととなった絶望感は、アミスの心に深い傷を残そうとしていた。

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