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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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一騎打ち×2

登場人物

◎タリサ・ハールマン

 元グランデルト王国騎士団所属の将軍だった女戦士

 現在はアミスを忠誠の対象として共に行動している


◎ヴェルダ・フィライン

 ラスやアミスと因縁のある魔剣士

 偶然同じ依頼を受けて行動中


◎カルディス

 今回の仕事の依頼主であるウェディックの護衛の一人


◎アイン

 カルディスと共にウェディックの護衛として遺跡へ入っている

 タリサ・ハールマンが飛ばされた場所も広めの空間だった。

 今までの部屋や通路と同じように壁が魔力の光を帯びており、照明を必要としない。

 最初は自分一人だけかと思っていたが、直ぐにもう一つ人影がある事に気付く。

 タリサと同様に慌てた様子を見せないその人物は、じっとタリサを見つめていた。


 (依頼主の護衛の一人か……)


 タリサが強さを感じ取り、気にしていた護衛の一人だった。

 その落ち着き払った表情を見て、タリサは直ぐに理解をする。


 (今回の依頼自体が罠という事か……)


 他に人が居ない事を再度確認してから、タリサはその男と正対し、観察しながら彼の名前を思いだしていた。

 

 (カルヴィスと名乗っていたか……)


 正直、興味を持ってなければ覚えていなかったかもしれない。

 依頼主の護衛など普段ならその程度の認識だ。

 今回は強さを感じ取り何となく興味を持っていた。

 いや、どこかでこのように相対する事を予想していたのかもしれない。


 「大丈夫ですか?」


 心配をするような言葉をかけられたが、そこからそんな感情を感じ取ることができなかった。

 思わずタリサの口元に生まれる失笑。


 「やはり気付いているか……」


 タリサの表情から思考を読み取ったのか、カルヴィスも失笑しながら崩した口調でそう言った。


 「目的を訊いてもいいか?」


 タリサは笑みを浮かべたまま訊ね、カルヴィスも笑みを浮かべたまま返す。


 「ただ、お前と戦いたかっただけだ」


 その返しに、タリサは笑みを消して考える。

 そんな個人的な理由とは思ってはいなかったからだ。


 「どういうことだ?」

 「お前は、報酬の一部なんだよ」

 「報酬?」


 その言葉に、タリサの頭に嫌な考えが浮かんだ。

 自分が女性だからこその報酬という意味が……

 

 「勘違いするなよ」


 タリサの考えた事に気付いたのか、カルディスはそう言葉を出した。


 「俺が望むのは、強者との一対一の戦い」

 「それならば剣闘士にでもなればいい。

 確か、ログナリア帝国に闘技場があったはずだ」


 タリサは現在地から遠く西方面にある国の名前を紹介する。

 戦い自体を目的にしたことがないタリサは、冷ややかな目をカルディスに向けていた。

 

 「納得していないようだな……」

 「いや、そんな考えを持つ者がいることを自体を否定する気はない。

 だが、出来ればそういう価値観の者同士で戦っていて欲しいものだがな……」

 「それでは満足できないのだ……」


 そう言って笑みを浮かべるカルディスとは対照的に、タリサの目付きは冷たいまま。

 カルディスはそんなタリサの表情を気にした様子も無く言葉を続ける。

 闘技場では戦う相手が限られる事。

 ルール無用と謳っておきながら、暗黙のルールというものが存在する事。

 例えば魔法等の使用は認められずに自らの肉体と武器での戦闘のみ等。

 

 (そうは見えないが魔法戦士なのか?)


 対魔法使い用に魔法の知識はある程度学んできたタリサだったが、自らが使用しない分知識でしか判らない為、実際に相手が魔法を使えるかどうかは風貌や雰囲気でしか判断しようがなかった。

 それでも魔法不使用のルールを敢えて不満点としてあげるのだからカルディスも魔法を使うのだろうと、タリサは解釈する。


 「俺は本気の戦いを望むだけだ。

 生死を賭けたギリギリの戦いをな」

 「迷惑な話だ……」

 「その手の剣を頼りに冒険者をしている以上、そんな事を言える立場ではあるまい」

 「……」


 口元から笑みを消して言うカルディスの言葉に、今度はタリサが苦笑いを浮かべる。


 「確かにな……」


 そう返しながらも、タリサはカルディスの考え方に呆れていた。

 だが、何を言い返しても、考え方も状況も変わるわけではない。

 それが判っているからこそ、タリサはそれ以上何かを言う事はしなかった。

 ただ、カルディスの勝負を受け入れるかのように、右手に握られている【熱き氷】(ヒーティングアイス)の名を持つ剣を彼に向けた。

 カルディスは楽しげな笑みを浮かべ、同じように右手の剣をタリサに向けた。

 そして、ゆっくりと間合いを詰めていった。





 ウェディック・バールソンが連れてきていたもう一人の護衛アイン。

 彼とヴェルダ・フィラインと戦闘は早々と始まっていた。

 アインが無言でヴェルダに攻撃を仕掛け、ヴェルダも何も言わずに剣で反撃する。

 相手の実力を図る為のその攻撃は簡単に防がれ、アインも再度剣を横に振るう。

 ヴェルダの表情は少し驚きを見せていた。 

 牽制を兼ねたその攻撃は、本気の一撃ではなかったとはいえ相手の実力が低ければ命を奪える威力はある攻撃だった。

 少なくとも直ぐに反撃が返ってきたことは予想外であり、少し慌てるように間合いを広げる為に下がるが、アインは間合いを広げる事を許さなかった。

 素早い動きで再び間合いを詰めて剣の一閃。

 次々と繰り出される攻撃にヴェルダも、中々自分のペースにすることができなかった。

 思考も曖昧なまま、代わりに違和感に襲われていた。

 素早い動きではあったが単調な攻撃。

 そんな攻撃で自分が余裕を失っている事に違和感を覚え、そして、無感情の表情のまま攻撃を続けるアインにも違和感を感じる。


 (埒が明かないな……)


 今の様な攻撃なら、幾ら繰り返されてもかすり傷一つ負うつもりもなかった。

 スタミナ勝負でも負けるつもりはない。

 だが、このまま続けられる事は面白くないと思うヴェルダは、状況変える為に行動を起こした。

 攻撃を躱しながらの呪文の詠唱。

 ヴェルダの口から生み出される聞き慣れない言語での詠唱に、アインも警戒しない訳にはいかずに僅かに攻撃の手が緩んだ。

 そこへヴェルダの手から放たれた風の刃。

 正確にアインの首を狙っていたその刃を彼は間一髪で躱すことができたが、流石に絶え間なく続けていた連撃は止めざる負えなかった。


 「依頼主側が冒険者を騙し嵌めておいて、何も説明無いのは感心しませんね」

 「……」


 アインはヴェルダの言葉に返答を返さずに、姿勢を低くして今にも攻撃を再開させようという意思を見せつける。

 だが、直ぐに気づく。

 自分とヴェルダの間に居る存在に……


 「聖獣か……」

 「ほぅ、気付きましたか」


 風の刃を放つのと同時に呼び出していた≪蜜 刃≫という聖獣。

 透明で視覚では捉えることのできないその聖獣の存在に、予備知識なしに気づいたアインの能力に、ヴェルダは素直に感心した。


 「まだまだ、色々持っていそうだな……」

 「ま、そうですね」


 無表情なアインと、笑みを浮かべるヴェルダ。

 傍から見たらどちかが主導権を握っているか予測はつかないだろう。

 だが、今の時点では、アインが主導権を握っている事を、ヴェルダ自身も認めないわけにはいかなかった。

 実力で劣っているとは思ってはいない。

 だが……


 (中々、やっかいな結界が張られているな……)


 ヴェルダが生み出した風の刃は、本来のスピードであれば完全回避はされてはいなかったはずだ。

 だが、ヴェルダが思ったより遅かったそれは、ギリギリとはいえ掠らすこともできなかった。

 アインの連撃を躱している時から違和感はあった。

 僅かに感じる体の重さ。

 体調が万全でないだけだろう、としか思っていなかったが、魔法を放ってそんな理由ではない事に気付く。


 「騙して冒険者を嵌める奴が、まともに五分の条件で戦う訳がないか……」


 ヴェルダは敢えて思ったことを口に出した。

 効果はないだろうと思いながらも、口から出た挑発の言葉。

 ヴェルダの予想通り、まったく表情を変えずにアインは剣を構え直す。

 いつでも攻撃を再開できる態勢。


 「何故、狙われたかぐらいは教えてもらえないものかな?」

 「……」

 

 笑みを崩さずに願いを口にするヴェルダと、無表情のまま言葉を返さないアイン。

 しばらく沈黙が続いた。

 その沈黙の時間を崩したのはアインの方だった。


 「それを知りたければ、俺を倒してあの場に戻り、依頼主に訊けばいい」

 「君を倒せばあの場に戻れるのか?」

 「……」


 アインは少し考えてから首を横に振る。

 自分が倒されることなんてまったくに頭に無かった為、ヴェルダがどうやってあの場に戻れるなんかなんて考えもしていなかったのだ。

 僅かだが、自分の言葉の不備に表情を歪めた。


 「ま、どちらでもいい。

 お前が俺を倒すことなど有り得ない事だからな」

 「そうですか……」


 ヴェルダはそれ以上、アインに訊ねることを止めた。

 それがまったくの無意味だと感じたから……

 ただ、僅かに心に生まれる怒りの感情。


 (結界があれば勝てる相手と思われているとは、私も随分と嘗められたものだ)


 だが、怒りより強い気持ちがあった。

 それは……


 (だが、結界のおかげで楽しめそうだ……)


 楽しいという感情。

 一対一の戦いを楽しんだ事なんて、かなり昔の事。

 恐らく成人してからは、経験してない事だ。

 そう思うと楽しい気持ちがどんどん強くなり、僅かにあった怒りの感情は完全に消えていった。


 「ガッカリさせてくれるな……」


 小さく呟いたその言葉はアインの耳には入っていなかった。

 2人は動き出す。

 示し合わせたかのように、完全に同じタイミングで……

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