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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
89/144

予想外の力

登場人物

◎アミス・アルリア

 本作の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士(見た目美少女)


◎レン

 ダークエルフの女魔術師

 今回限定でアミスと行動を共にしている


◎エル

 アミスと同い年(15歳)の女剣士

 その身に秘めた魔力を宿す


◎ロビック

 転移魔法で飛ばされたアミス達を待ち受けていた上級魔族

 

 レンの予想を上回っていたことが二つあった。

 

 一つは、立ちふさがった魔族ロビックの実力が思ったより高かった事。

 一人で待ち受けていた以上、戦闘力の高い上級魔族だろうと予想はしてはいたが、その予想を超える魔力を持った相手だった。

 ダークエルフという種族特有の魔力の高さには自身のあるレンでも、単純な魔力のぶつかり合いは避けたいと思うほどのだった。

 だが、そのレベルの魔族を相手にした経験がないわけではない為、特別焦る事はない。

 簡単な相手ではないと気を引き締める必要はあったが、それ以上にレンの興味を引き付けるのはもう一つの予想外。

 高位の魔術師であるレンでさえもやっかいと思える上級魔族相手に、物怖じせずに攻撃を仕掛ける15歳の少女剣士エル。

 最初こそ、無謀な突撃は控えるように注意の言葉を飛ばしていたレンだったが、今ではそれが無用だと思い攻撃魔法と敵となる魔族の観察に集中していた。

 レンが支援の為に放った攻撃魔法に合わせて攻撃を仕掛けたり、逆にレンが攻撃しやすいように牽制の為の攻撃も交える。

 様々な場面での戦い慣れを感じ取れる。

 アミスもそれに気づいたようで、エルの動きを観察しながら支援の為の魔法を挟んでいたが、エルの素早い動きと、思いの外、威力の高い攻撃魔法が飛び交う状況に、やや躊躇いながらのものとなっていた。

 邪魔にならないようにという遠慮もあるのだろう。

 アミスのそんな行動でも、その年齢や冒険者歴を考えれば、充分に優秀だと思えた。

 少なくともレンが初めて出会った時に比べれば、明らかな違いがあり、充分な成長を感じられる。

 だが、そんなアミスと同い年のはずのエルはそんなレベルではなかった。

 身体能力、技能、そして、精神的な安定感。

 どれをとっても中々見ることができないレベルであり、それはベテラン冒険者でも中々到達できない高さだった。


 (何者なんだ?)


 疑念は残るが、今は戦闘能力の高い者が前衛にいる事は助かる状況だったので、レンはその疑念を心の奥にしまい、目の前の魔族と戦闘に集中する事にした。

 そんな時、相手となる魔族がニンマリと大きな笑みを浮かべる。

 それに気づいたエルが間合いを広げて警戒の態勢を取り、アミスも様々な状況を予測して対応できるように考えながら警戒する。

 レンはそんなアミスの前に出ると、魔族に対して言葉を発した。


 「何が可笑しい?」


 レンの口から出た何のひねりもないそんな問に、ロビックは小さく声を出して笑う。

 挑発とも取れるロビックの笑いにレンは僅かに目を細める。

 そんなことで冷静さが乱されているに気付き、レンは自分の心に生まれている焦りを実感していた。

 どんなに才能を感じさせる2人とはいえ、15歳二人と共に相手するには厳しい相手だと思っているからだ。

 正直、気にしなければならない味方がいるぐらいなら、一人で戦った方は良いと思える。

 それは元々、自分が一人での戦いに慣れているからであり、仲間を巻き込みかねない魔法を多く所持しているからだ。

 

 「やり甲斐がある者達だと思ってな」

 「?」

 「この仕事を受けて一番の相手だ」


 『仕事』という言葉にアミス達3人は反応する。

 依頼を受けて待ち伏せていた魔族。

 それが何を意味するのかを夫々が理解していた。

 元々、この遺跡にいた存在ではない事。

 転移の魔法により飛ばされた先に、依頼を受けて待ち伏せていたこと。

 準備万端なその状況と『仕事』という単語が、レンに今置かれている状況の意味と目的の予想をつけさせた。


 「やはり、依頼主の罠か……」

 「ほほぅ~」


 レンの呟きに感嘆の声を上げるロビック。


 「これだけのやり取りで確信を得たか?」

 「……」

 「中々頭の回る女だ」


 余裕の笑みを浮かべる魔族の表情を見て、レンは言葉に迷った。

 目の前の魔族にペースを握られているような気がしてならない。

 レンから見ても、こちらの戦力は予想以上のものとなっている。

 こちらの外見も相まって、魔族が戦力を正しく予想できていたとは思えず、相手からすれば想定外のことだったはず。

 それでも、落ち着いた様子をまったく崩さないロビックの姿は、レンに迷いを与えていた。

 それは経験豊かだからこそ生まれた迷い。


 「わたし達を殺すのがお前の仕事なのか?」


 ロビックに鋭い目付きを向けてそう訊ねたのはエルだった。

 

 「それは間違いとは言えないが、完全に正しい解釈ではないな」


 ロビックはそう言うとすっと目を細める。

 それは魔族特有の不気味さを帯びており、それを見る経験の少ないアミスの背筋を冷たい汗が流れた。


 「ではどういう事だ?」


 レンの問。

 問を投げかけたレン自身は答えが返ってくる期待はしていなかったが、ロビックはすんなりと答えを返した。


 「お前達の魔力を奪う事が(われ)が請け負った依頼」

 「魔力……」


 それはレンやエルにとって予想通りの理由だった。

 レンの心が次第に落ち着きを取り戻していく。


 「では、私達が選ばれた理由はなんだ?

 他にも魔力が強い者はいたと思うが……」


 レンから見て、ラスやヴェルダの魔力も相当に高かったはずだ。

 人数を絞っただけなのだろうか?

 そんな予想も、すぐに否定される答えが返ってきた。


 「それは我の魔力を奪う方法が関係している……」

 「奪う方法?」


 ロビックの笑みの質が再び変わる。

 それは、魔族と対する経験の多いレンの体を強張らせるほどの気味悪さを帯びたものだった。


 「我の体の一部を直接体内に入れ魔力を吸い取る方法だ」


 その言葉に、レンとエルの2人が表情を曇らせた事がロビックに更なる笑みを与える。

 舌なめずりしながら3人を観察するその姿は、とても魔族らしく、レンもエルも蔑みの表情を向けている。

 ただ、アミスだけが魔族の言った言葉の意味を正しく理解できずに、頭に疑問符を浮かべていた。

 それは魔族が誤解している事に、気付いていないからこその不理解だった。

 そんなアミスの表情に気付き、ロビックは呆れ気味に判りやすい言葉を言い放つ。


 「犯し凌辱し、絶望と恐怖を与えながら魔力を奪うという事だ」 

 

 その言葉を受けてもアミスは一瞬理解が追いつかなかった。


 「えっと……」


 戸惑うアミスの後ろで、レンが小さく声を出して笑う。

 その笑いの意味を分かっているエルは苦笑いだった。

 ロビックは怪訝なものへと表情を変え、アミスもキョトンとした顔だ。


 「つまり、強い魔力を感じることのできた女を標的にしたという事だろう?」

 「ああ、そういう事だ……」


 笑いながら言うレンに、笑う理由を理解できないまま返答するロビック。

 アミスもロビックの誤解からくる発言の意味に気付き、子供の様に口を尖らせていた不機嫌さを見せた。


 「つまり、お前も女だと思われていたってことだ」


 エルの補足的なその言葉に、アミスは面白くなさそうに口を開く。


 「僕は男です……」


 ロビックは目を丸めて驚き、理解し、そして、鋭い目付きを笑うレンに向けた。

 八つ当たりとも取れる憎しみの表情を向けられたレンは、それにより逆に冷静さを取り戻していた。

 相手が全てを見通せる者ではないと判ったからだ。


 「では、まずは必要のない者から退場してもらう」


 と、視線をアミスへと移すロビック。

 その視線を遮るように、庇うように、レンがアミスの前に立つと、ロビックは呪文の詠唱なしに火球を生み出し、2人に対して放り投げた。

 だが、その火球は横から飛び出してきたエルのよる剣の一閃により、真っ二つに切られてすぐに爆発した。

 近い爆風にバランスと崩すエルとロビックだったが、それを自ら起したエルの方が先に態勢を立て直し、攻撃に移る。

 何とか躱し間合いを広げるロビックだったが、そこには初めて見せる焦りの心が見て取れた。

 判断が遅れるロビックに追い打ちをかけるエル。


 (最も近くで爆風を受けてダメージがないわけがないだろうに……)


 レンはそんなエルの行動を見て呆れながらも、素早く放てる攻撃魔法で援護をする。

 ロビックが冷静さを失っている今がチャンス。

 アミスもそれに気づいて、援護の為に聖獣≪魔 女(ニーネル)≫を呼び出す。

 先ずは全員の防御力アップさせ、それから援護の攻撃魔法や回復魔法を飛ばす。

 まだまだ拙い援護だったが、エルはそれを活かして攻撃を続ける。

 次第に落ち着きを取り戻すロビックだったが、その3人の連携に反撃の糸口を掴めずにいた。

 だが戦いに慣れているその魔族は、防御に徹してチャンスを伺う。

 所詮、体の小さな小娘である。

 どんなに予想外の戦闘力を持っているとしても、それを永遠に続けられるわけではない事は必定なのだから。

 そして、明らかに疲れから見えるスピードの衰え。

 だが、ロビックは焦らなかった。

 じっくりチャンスを待つ。

 完全に冷静な思考を取り戻したロジックは自分らしく戦うだけだった。

 そうすれば、上級魔族である自分が負けるはずはないのだから……


 だが、彼は判っていなかった。

 目の前にいる3人がどれほどの存在なのかを……

 今まで自分が相手にしてきた冒険者とは比べ物にならない存在という事を理解してはいなかった。

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