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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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理想の形

登場人物


◎アミス・アルリア

 本作の主人公

 聖獣契約に関する才能に異常なレベルに長けた魔導士の少年


◎レン

 ダークエルフの魔術師

 元々はソロで行動する冒険者


◎エル

 アミスと同い年15歳の女剣士

 秘めた魔力を体内に宿す

 不気味に感じる程、何も起こらない。

 罠により飛ばされたのだから、レンもエルも何か敵が待っていると思っていた。

 だが、いくつもの部屋を通りすぎても、敵も現れなければ、罠の類いのものも確認できていない。


 途中に何か見落としがあったのだろうか?


 そんな考えが頭を過ぎったが、こちらは既に一度罠により飛ばされた立場であり、その先にそんな見落としそうなものを用意するとは思えなかった。

 そもそも何故飛ばしたのか?

 考えられるのは、この遺跡から脱出させないためだろう。

 だが、それだけが理由であるはずがない。

 こちらが転移魔法を使えない保証はないのだから、その先に何らかの罠か敵が用意されているはずだった。

 実際、レンは転移系の魔法を覚えている。

 現状ではリスクもある為に使おうとは思っていない。

 その一番の理由は、今の位置がはっきりわからない以上、転移先の位置特定もままならないからだ。

 

 (対転移系の結界を張らずに、位置特定の為の対探知系の結界を張ってある所に、この遺跡を作った者の性格の悪さが出ているな……)


 レンの口から溜息が漏れそうになるが、彼女はそれを抑えた。

 そして、自分の前を歩く二人を観察する。

 先頭を前衛職であるエルが進み、武芸が殆どできないアミスが真ん中に入り、身を守る程には近接戦闘ができるレンが殿に付いていた。

 すぐ前を歩くアミスの小さな背中。

 思ったより落ち着いた様子に、レンはアミスの精神的成長を感じ取っていた。

 常に慌てた雰囲気を出していた出会った時と比べての事。

 まだ、経験不足からくる判断の甘さは見て取れたが、それでも、ほんの数か月の前から比べると雲泥の差を感じることができた。

 それだけ、濃密な経験をしてきたのだろうとレンは理解する。

 全てを聞いたわけではないが、少なくともグランデルト王国での話は説明を聞いている。

 挫折を味わいそうな経験しても、アミスが自分というものを変えずに成長する姿を見て、レンは少しほっとした気持ちだった。

 本来であれば、アミスは変わるべきという考えを持っているレン。

 冒険者として生きるなら、甘すぎる性格は命取りになりかねない。

 理想と現実の違いを把握して、現実を見た行動を取らなければならない。

 そう言う点に関してはアミスはまったく変わっておらず、甘い感情に流される。

 それは駄目なことだと思いつつも、優しい心を捨てることができないのがアミス・アルリアなのだと思えた。

 だが、それはアミス・アルリアという人物を知らない者からすれば危険極まりないもの。

 恐らく先頭を歩く少女からすれば納得できない事なのだろう。

 実際に、一つ前の部屋を調べている時に揉めていた。

 エルからあったのは、甘すぎるアミスの考え方への指摘。

 本来ならエルが言う事が正しいと思いつつも、アミスを擁護する言葉を出してしまったレン。

 そんな自分に一番驚いたのはレン本人だった。

 常に現実を見つめて一人旅を続けてきた自分が、アミスの甘すぎる理想を優先している。

 自分自身で覚える違和感。


 (今回のみにして正解だったな)


 アミス達と共に仕事を受けるのは今回だけという事になっている。

 自分が一緒の行動することが、プラスよりマイナスになる要因の方が大きいと判断したからだ。

 それはアミスに対しての要因のつもりでの発言だったが、レン自身にとってもそうなのかもしれないと、彼女は思えてしまう。


 (私は、甘い考えに流される訳にはいかないんだ……)


 流されないように強く思い直すレンは、今度は意識を先頭を歩く女剣士へと向けた。

 視線の先のエルという名の少女は、ある意味アミス以上に興味を惹かれる相手だった。

 落ち着いた様子と動き、考え方、そして感じ取られるのを隠そうとしているだろう魔力。

 どれを見ても、アミスと同い年の少女とは思えなかった。

 15歳という年齢で、ここまで完成度の高い冒険者を見るのはレンは初めてだった。

 どんなに素質を感じさせる者でも、どこかで甘さを感じられるものだ。

 それが今のところ見つけることができない事は、強い違和感しか生まない。

 どんな経験を経てここまでの完成度を手に入れたのか?

 レンの興味は、そんな疑問と隠されているであろう魔力の源の二つに向けられる。

 だが、考えれば違和感の塊となる存在だったが、それは少女にとって自然なものであり、自分達を騙すために作られたものとは思えなかった。

 故に、気になりはしつつもレンは訊ねる事はしない。

 もしも訊くとしても、自然な会話の流れが必要だろうと思い、今はただ後ろをついていくだけだった。


 通路を進んでいくと漸く次の扉が見えてきた。

 魔法で飛ばされてから、既に5つ目となる扉だった。

 また何もないのだろうか?

 一瞬浮かんだそんな考えをすぐに否定する。

 はっきりとした今までとは違うものを感じ取ったからだ。

 レンと同じものを感じ取っているのだろう。

 先頭を進んでいたエルも足を止め、後ろを振り返る。

 目を向けられたレンは少しの思考の間の後に頷き、その意味を理解したエルも頷くと再度足を進めだした。

 扉の前で立ち止まり、そして、再度目を合わせて確認しあうレンとエル。

 間違いなく扉の先に何者かが居る事が判る。

 それはほぼ確実に敵となる相手だろう。

 緊張感が3人を包み込む中、エルは扉に手をかける。

 僅かに力を入れると、鍵が掛けられていないのか抵抗もなく扉が動く。


 「ふぅ~」


 エルが小さく息を吐き、扉にかけた左手に力を込めようとした瞬間だった。


 「そのまま入ってきたまえ」


 扉の向こうからの声に、エルは動かしかけた左腕を止めると、アミスとレンに目を向ける。

 

 「行くしかないだろうな」


 レンは小さい声で呟き、アミスも頷き賛同の意思を見せた。

 それに対して、エルも頷き返すとゆっくりと扉を開いた。

 扉が開いた先には広めの空間が広がっていた。

 天井も高く開放的な部屋。

 そんな部屋の中央に佇む一人の存在。

 アミス達三人の視線はその人物に集まる。

 ゆったりとした黒いローブに身を包んだその姿は、その見た目で判断する限りは魔術師と思われた。

 だがしかし、ただの魔術師ではない事は明白。

 ただの魔術師がたった一人で迎え撃つと思えない。

 魔法が主であったとしても、近接戦闘でも身を守る術を持っているに違いない。


 「いや、違うか……」


 頭の中だけでの自らの思考を否定する言葉が、エルの口から自然に漏れた。

 アミスは首を傾げるが、レンは自分が思案することに集中しているのか、敵であるだろう相手をじっと見つめていた。

 そして、レンもエルと同じ結論を導き出していた。


 「魔族か……」


 その言葉を口から漏らしたのはレン。

 その言葉に楽しげな笑みを浮かべる中央に佇む者。

 その不敵な笑みは、レンの言葉を肯定しているようだった。

 アミスはそんなやり取りを見て、冷静に相手の魔力を感じ取ろうとし、そして気付く。

 今まで対峙した魔族と似た魔力を身に纏っている事を…… 

 杖を持つアミスの手に力が入る。

 そんなアミスの頭をレンが優しく撫でる。


 「!?」


 少し驚き、レンの顔を見るアミス。

 レンは真剣な表情で言う。


 「力むな……、逆に対応が遅れるぞ」


 魔法使いに求められるのは冷静な思考。

 特にアミスのように魔力に頼った攻撃魔法より、様々な事をできることを強みとしているタイプであれば尚更だった。

 アミスは、レンの様な黒魔法メインの魔術師ではなく、精霊魔法や白魔法を使用できる万能タイプの魔導士だった。

 まだまだ経験不足で全てを使用して対応できているとは言い難いが、将来的には状況に応じて様々な魔法を使う、そんな存在になるのを目標としている。

 その為には、冷静な状況判断力と柔軟な思考力が必要となる。

 警戒心を持つのは大事だが、それが力みに繋がってはいけない。

 同じく魔法使いと分類される存在だとしても、強い魔力を持ち基本的に攻撃魔法を主とするレンとはタイプが余りにも異なる為、参考にはなりはしない。

 目指すべき形は、まだ15歳のアミスに求めるのは酷と思えるものだったが、同じ15歳で理想とするべき存在に出会えたとレンは思っていた。

 ラミルという名の魔法使い。

 アミスとは、年だけでなく身に纏った魔力や雰囲気も似通った存在。

 それなのに、知識、技術、冷静さ、思考力、万能タイプの魔導士として必要なものを全て持ち合わせているとレンは見ていた。

 そんな存在と出会えた事は、アミスが成長するチャンスだとレンは思う。

 自分といるよりずっと成長できると……

 その為にも、再び合流しなければいけなかった。

 その為には……

 目の前の魔族を倒さなければならなかった。


 だが、レンは感じ取っていた。

 目の前にいるのが簡単な相手ではない事を……

 この空間にもやっかいな仕掛けがある事を……

 ラスやタリサ達が居ない事が、致命的になるかもしれない。

 そう思うレンだった。

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