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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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変わらない心

登場人物


◎アミス・アルリア

 主人公。ハーフエルフの魔法使いの少年

 聖獣を使役する事に関しての特別な才能をもつ


◎ラス・アラーグェ

 エンチャントドールと呼ばれる魔法生物化している元ハーフエルフの青年

 強力な魔力を持つ魔法剣士


◎タリサ・ハールマン

 元グランデルト王国の将軍

 クーデターにより国を追われ、アミスと行動を共にするようになった女戦士


◎リン・トウロン

 白虎へと姿を変えることができるのシェイプチェンジャーの娘

 力とスピードに優れた女戦士

 

◎レン

 禁呪まで使いこなせるダークエルフの女魔術師

 アミスを心配し、一時的に同行中


◎ジーブル・フラム

 逃走中に偶々出会った氷の神に仕える神官の少女

 一時的に同行中

 雨が上がったばかりで空には黒い雲が広がっていた。

 そんな黒い雲の合間から、地平線から昇ったばかりの太陽の姿が見える。

 グランデルト王国の領土から逃げることに成功した一行が進む道はその太陽に真っすぐ向かっているかのようであり、アミス達は過酷だった状況から抜け出すことができたという実感を味わうことができた。

 途中野営で休憩は取ったものの、突然の雨により疲労感が抜けない状態の一行に、その陽の光は僅かな安らぎが与えてくれる。

 時折、安堵の溜息が漏れるが、言葉は誰も発しない。

 一人、事情を知らない少女も一行の重々しい雰囲気を感じ取って、何も言えないでいた。

 少女の名前はジーブル・フラム。

 彼女は氷の女神イエロに仕え神官であり、布教の旅に出て早々にグランデルト王国の騎士団を関わる事件に巻き込まれ、その領土内に連れてこられたと言った。

 騎士達の僅かな隙をつき逃走に成功したが、火竜の巣が有ることも知らずにケイヨウ山に逃げ、運悪くファイアドレイクと接触ししてしまい、己の不幸呪いながら逃げていたらしい。

 自ら一人旅に出たので、最低限の能力は持っているつもりだったが、彼女が思う以上に一人旅に必要な能力は多く、苦労が多かった上、更にグランデルトの騎士団と関わってしまい心が折れかけていたらしい。

 その為、安全な町に行くまで、アミス達に同行させてもらうようお願いし、了承をもらった。

 最初は積極的に話しかけていたジーブル。

 アミスは笑顔で返してくれていたが、他のメンバーの反応の鈍さ、重苦しい空気を感じ取り、彼女の口は止まってしまった。

 時折、横目でアミスに目を向けると笑顔が返されるが、自分に向けられる別の視線に息苦しさを感じていた。


 (ラスって人ね……)


 最初から人を疑うような視線が彼から向けられていたのは感じていた。

 が、それが二晩経っても続けられている状況に、普通じゃないものを感じる。


 (やっぱり、暗黒騎士団と何かあったということよね……。

 一緒に行動したかったけど、無理かしら……)


 同行を願いでようと考えていたジーブルだったが……


 (ま、町に着いてから考えましょう……)


 ジーブルは難しいことを考えるのを止めた。


 (町に着いたら、まず美味しいものを食べよう)


 簡単で単純な思考に移行することにした。




 

 いつ以来の宿での就寝だっただろうか?

 灯りを消しベットに横たわり、ラスはふと考える。

 直近のたった数日の密度が濃すぎて、宿で眠れたのがずっと過去の事に思えてしまう。

 とりあえず、一安心できるはずだったが、ラスの心は落ち着かなかった。

 念のために個室は取らずに、ラスは仲間で唯一の同性であるアミスと同室だった。

 何気なくアミスが眠っている方向へと目を向ける。

 灯りがないその空間の中では、アミスの動きを確認することはできない。


 「ふぅ……」

 「眠れないんですか?」

 「!?」


 聞こえるとは思わなかった小さな溜息に、反応が返ってきてラスは少し驚いてしまった。


 「お前もか……?」


 ラスは平静を装ってそう尋ねた。


 「久しぶりの温かいベットに入れて、安堵感が体を包んでいるんですけど、心の方が……、落ち着きませんね……」

 「ま、そうだな……」


 疲労感より心の乱れが上回っているのは、ラスだけではないようだった。

 冷静に考えれば、アミスがそうなるのは当然のことと思い、ラスは自分の気の回らなさに嫌気がさす。

 明るく気遣いができるリンならば、何と返しているだろう?

 そんな考えが頭を過ぎり、自分がこういった気遣いは苦手なのだとつくづく実感してしまう。


 「アミス……」

 「はい、なんでしょうか?」

 「本当にあの娘の提案を受け入れるのか?」


 ラスは苦手な事を無理にすることを止めた。

 自分らしく、アミスや仲間の事を考えることにする。

 それは人を簡単に信じるアミスの代わりに疑うこと。


 「困ってたみたいですから……」


 あの娘とはジーブルのことだった。

 彼女は暗黒騎士団から逃げることはできたものに、着ている物以外は取り上げられて旅費が一切無い状態だと言った。

 すぐにでも仕事をしなければならない状況だったが、町に到着した頃には夜も更けていた。

 宿に泊まるお金も無いジーブルに、当然のようにアミスは手を差し伸べた。

 アミスは宿代を出してあげるつもりだったが、ジーブルは借りるだけだと言い返し、すぐにでも仕事をしてすぐに返すと譲らなかった。

 ただ、一人での仕事に不安を見せていた彼女に、アミスは更に手を差し伸べた。

 冒険者としてのその仕事を一緒にすることを提案し、ジーブルは嬉しそうにそれを受け入れたのだった。

 アミスなら当然の流れだった。

 故にラスも不満はあれどもその場では反対しなかった。

 だが、アミスもラスの不満を感じ取っていた。

 信じていた人に罠を仕掛けられて囚われの身になったばかりのアミス。

 にも拘らず、出会ったばかりの相手に手を差し伸べる。

 正直、ラスには理解しきれない思考だった。

 アミスは暗黒騎士団との一件で、大事な使い魔を失った。

 聖獣に変わる事で完全に失った訳ではなかったが、その命を一度失っているのは事実であり、それが精神的に堪えていない訳がなかった。

 それなのに……


 「ラスさんの言いたいことは判ります。

 でも、僕は……

 これが僕なんです……」


 理由になっていない理由。

 だが、それが理解できる程度には、ラスもアミスの事を判るようになっていた。

 それが危険と忠告してもアミスが引き下がる事はない。

 自分を騙していた者でさえ、危険を承知で助けようとしてしまうのだから。


 「判っているのなら、最低限の警戒心は解くなよ」

 「はい……」


 ラスはこうやって忠告し自分でも警戒するしかなかった。

 

 「ま、そろそろ眠った方が良い。

 どんな仕事を受けることになるか判らないが、とりあえず疲れた状態では戦力なれないからな」

 「……」


 そう言って、ラスはアミスに背を向けるように寝る態勢を変えた。

 暗くて見えないが、アミスはそれを感じ取ることができた。


 「はい、そうですね」


 アミスはそう笑顔で返した。

 見えないはずのその表情が容易に想像できるラス。

 決して長い付き合いでは2人だったが、互いにお互いを判るようになっていた。

 そんな仲間を得ることができるとは、少し前のラスには想像もできない事だった。

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