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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
2・仲間
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多くのオーク

これまでの登場人物

 

 アミス・アルリア;聖獣を使役することに優れたハーフエルフの少年。美少女顔。

 ラス・アラーグェ;ハーフエルフの魔法剣士。アミスと一緒に行動中。

 ティス;アミスの使い魔。アミス以外とはめったに話さないが、意外にラスと楽し気に話す。


 「・・・なんでこんな所に?」


 アミスがぼそりと呟いた。


 「なんでだろうな・・・、運が悪かったとしか言えないな・・・」


 ラスはやや呆れ気味に返した。

 アミスの言葉に呆れているわけではない。

 今現在の状況への呆れ、半分諦め気味の呆れだった。


 現在、アミス達がいるのは、キックオークの治安維持団の詰め所。

 深淵の森の事件の調査結果を報告するために、ここへ訪れたアミス達は、暫し待つように言われて、中の一室へ通された。

 30人は優に座れるであろう部屋。

 冒険者を待たせるにしては、随分と大きな部屋に通したものだと、ラスは思いもしたが、それ以上に深くは考えなかった。

 そうしている内に、兵士らしき者、冒険者らしき者、身なりを整えた貴族らしき者と、次々と入室し、席に座りだす。

 そして、治安維持団団長と、立派な鎧に身を包んだ中年の男性が入室し、席に着くと、他の全員の目が集まる。


 「急に集まってもらって申し訳ない。さっそくだが、軍議を開始する。では、バリス隊長、お願いします」

 「うむ・・・」


 (軍議?)


 顔を見合わす、アミスとラス。


 「ちょっと待てよ・・・」

 「ラス・アラーグェ! 君への話は後だ、黙っていろ!」

 「・・・」


 ラスは、文句を言いたかったが、この中では、その言葉に従い、黙るしかなかった。

 バリス隊長と呼ばれた男は、本国から来た軍事担当官とのこと。

 キックオークの南東側にあるステイル高原には、亜人のモンスターであるオーク族が小さな部落を造り住んでいるらしく、そのオーク達が最近近くの村々を荒らしているとの情報があり、その対応案を協議するのが、今回の軍議の主内容らしかった。


 「(小声) なんで、それに僕達が・・・?」

 「(小声) さあな・・・、とりあえず、話を聞くしかなさそうだぞ・・・」


 納得いかない二人を余所に、軍事は粛々と進んでいく。

 討伐軍を出すという案が、大勢を占めており、早々とそれで話がまとまりそうだった。


 (早く決まればいいのに・・・)


 ティスもアミスの服の中で、当然不満げである。


 調査した結果、オーク族の規模は思いの外多く、2百を上回るらしく、治安維持団だけでは力不足に感じ、本国を頼ったらしい。 

 軍議前から、討伐の方向だったらしく、すでに千の兵が向かっているとのこともあり、貴族達もそれ程慌てた様子もなかった。


 「たった2百のオークに千の兵とは、随分と慎重ですな・・・」


 冒険者が放ったその一言に、馬鹿にした意味が含まれていたのは、誰が聞いても明らかだった。

 おそらく、アミス達と同様に、わからないまま連れてこられたのだろう。


 (気持ちはわからんでもないがな・・・)


 正直、ラスも嫌みの一つでも言いたい気持ちはあった。

 しかし、それより、この意味の感じられない軍議に早く終わってほしかった。


 「思いの外、オーク達の装備が充実してるという情報が入っている。大型のタイプも30体ほど確認されている」


 (大型? 純血のオークか・・・)


 オークは、本来人間より大きく、筋力に優れている。

 豚とも猪とも取れる顔の亜人型のモンスターであり、野蛮で好戦的で、時折人間の里を襲っては、家畜や食料を奪い、時には女達をさらう。

 そして、その女達を孕ませ産ませた混血のオークは、純血のオーク程大きくは育たずに、人間と同程度か、小さかったりする代わりに、多少頭が良い。

 そんなことが繰り返されるうちに、混血のオークの数が増えていき、今では混血のオークの方こそが、『 オーク 』と呼ばれるようになっているのが現状である。

 モンスター知識に劣る者の間では、大型のオークを特殊視するものが多く、今、この軍議参加者で、正確に把握する者が何人いるか怪しいものだ。


 (こいつは知ってるのか?)


 と、ラスは、一瞬アミスへ眼を向けた。

 冒険者になって日が浅いと聞いているため、知識がない可能性は充分にあるとラスは思っている。


 混血のオークは、力もそれ程強いわけでもなく、一般的にゴブリンと並ぶ下級モンスターであり、下級の兵士や新米冒険者でも、対処は難しくない。

 しかし、純血のオークとなると話は変わる。

 オーク討伐に出た初級の冒険者パーティーが、純血のオーク一体に殲滅された例があるぐらいだ。

 

 大型のオークの数を聞き、部屋が座喚き?だす。

 バリスは更に続けて言う。

 

 「完全殲滅が目的だ」

 「ちょ・・・」

 「おいおい・・・」

 「まじかよ・・・」


 バリスの言葉に驚きを隠せず、騒然さは更に増していく。


 はるか昔は、このキックオーク周辺は、すべてオーク族が治めていた。

 しかし、領土を拡げることに執着していた祖先たちが、オークを追い出し、この地に領土を構えたのだ。

 この町のキックオークという名も、その時の領主となった祖先が、悪ふざけで付けたのが始まりだった。

 オークを蹴って追い出したと・・・

 そんな歴史もあり、この近辺のオーク達の人間への憎しみは深い。

 故に、小さな争いはずっと続いてきたのだ。


 「かつて、野蛮だっただけのオークも、最近は知恵をつけ、武器や頭を使うようになってきた。このままでは、今度は我々が追い出される番になる」


 まるで演説をするかのように語りだすバリス。


 「余計な火種を生まなきゃいいが・・・」

 「火種自体を無くすのだ!!」


 バリスは、雄弁に語り悦に入っていたのを邪魔され、激怒し怒鳴りつけた。

 余りの形相に、部屋は静まり返る。


 「・・・・」


 暫しの沈黙の後、その場を収めるために治安維持団団長のリッカーが言う。


 「一旦解散とする。本国より兵士が到着後、改めて集まってもらう・・・」


 (ようやく、開放か・・・)


 ラスが安心したのも束の間、


 「なお、冒険者達は残ってくれ、仕事の話がある」


 ラスは落胆するのであった。




 ステイル高原のほぼ中央に位置する集落に、様々な装備に身を包んだオークの集団が集まっていた。

 一堂に会したオーク達は整列し、二人の男に注目していた。

 

 「ふふふ・・・、素晴らしいぞ、な? ヴェルダよ」

 「・・・そうですな」


 一人はオーク。

 体格は大きくないが、筋肉質でがっちりした体型なのは、鎧の上からでも見て取れた。

 威厳に満ちたその身なりは、オークの中で特別な存在なのは明らかだった。

 名前は、サーニ・ムイオルといい、ステイル高原のオーク達の中で最も戦闘に優れ、最も統率に優れた存在であり、自ら騎士を名乗り、この地にオークによる国を建国するのが野望だった。

 まずはキックオークを襲い奪う。

 その為に、戦えるオーク達を集結させていた。

 もう一人は人間だった。

 ローブに身を包み、魔法使いを連想させるが、腰には剣を差している。

 僅かな笑みを口に見せ、オーク達を見回していた。

 名前は、ヴェルダ・フィライン。

 旅して流れ着き、サーニに頭の切れと魔法の腕を評価されて、二月程前からそばで力を貸していた。


 「人間どもは、我々を甘く見ているだろうな?」

 「およそ千程の兵が、キックオークへ向かっているらしい」

 「千か・・・妥当といえば妥当か・・・」

 「そうですな・・・。流した情報を全てと考えたなら、やや多めの兵を用意したとみるべきでしょうな。相手は慎重な者らしい・・・」

 「臆病ともとれるがな・・・」


 あまりにも予測範囲内の状況に、笑みが止まらないサーニ。


 「油断は天敵です・・・」

 「判っている」

 「そうですか・・・。では、引き続き偵察を・・・、そして、相手の偵察員への対処を続けます」

 「任せた・・・」


 サーニの口から笑みが消えることはなかった。




 「今回の仕事が終わったら、ここから離れた方がいいな・・・」


 ラスは、不満が隠せずにアミスに愚痴を零した。

 

 「そ、そうですね・・・」


 アミスは苦笑いで返す。

 正直言って同感だった。

 アミス達は、偵察任務のためにステイル高原敷地内にある林の中を進んでいた。

 リッカー達のあまりに勝手な物言いに、断る事も考えはしたが、断るなら討伐作戦が終わるまでは監禁されると言われた。

 力ずくで逃げれないこともなかったが、前の依頼の報酬を手放すことになる。

 それなら、さっさと偵察を済ませて縁を切るのが手っ取り早いと判断した。

 前回の追加報酬額も、今回の報酬額も決して安くはなかったのも、渋々任務を受けた理由にもなった。

 

 「どこまで調べるかだな・・・」

 

 隊列の3番目を歩く男エルフが呟いた。


 アミス達は二人だけではなかった。

 あの場にいた冒険者は、5名ずつ三組に分けられた。

 つまり、アミスとラスは、他の3名の冒険者と行動することになったのだ。

 一人がこのエルフのマーキス・サーラント。

 外見はラスとそう大差はない年齢と思わせたが、長命でいつまでも若々しエルフという種族というのもあり、実際の年齢は予想できない。

 自己紹介では、精霊使いで弓も得意と言っており、水、風、土の精霊魔法を使えるらしく、外での探索に向いているとラスは思っていた。

 先頭を歩くのは、人間の女性冒険者で、狩人のティサ・フリージャ。

 野外探索を得意としており、戦闘では弓を使う。

 風の精霊魔法も使えるらしい。

 最後にその後ろを歩くのが、背は低いがガッチリしたがガタイのドワーフのグドル。

 武器は持っておらず、ドワーフとしては珍しい素手での格闘戦闘を主とした戦士だった。

 

 ラスは、即席に組まれた割にはパーティーバランスは悪くはないと思った。

 贅沢を言えばグドルがドワーフらしく重戦士であれば、防御面での安定さが増したと思えた。

 

 「数の確認と、動き、そして、どこまでやろうとしてるか・・・、て、所だろ?」


 殿(しんがり)で警戒しながらラスが返した。


 「正直、さっさと終わらせたいな」

 「それは確かにね・・・」


 ラスの呟きに、先頭のティサが賛同する。


 「こんな無理やりな依頼は嫌い」

 「まったくじゃな・・・」


 グドルも不機嫌そうに言う。


 「無理やりでも、受けた以上はしっかりと仕事した方がいい・・・」 

   

 マーキスがくぎを刺す。


 「真面目じゃの・・・」

 「そうでもないけどね・・、ただ・・・」


 と、立ち止まり、辺りを見渡すマーキス。

 それに気づき全員止まり、同じく見渡す。


 「さっきから、なんか変なのよね・・・」


 ティサが言う。

 それにマーキスは頷いた。


 「この林・・・」


 アミスがふと言い出す。


 「元々帯びているものかわからないんですけど、魔力を帯びてますね」

 「魔力か・・・」

 「でも、微弱で、誰かの魔法の影響だとは言い切れないですが・・・」


 生きているものも、微弱な魔力を持っている。

 その強さはそれぞれであり、林の木々から多少強めの魔力を感じてもなんら不思議はない。

 そのため、今まで黙っていたアミス。


 「とりあえずは、魔法の可能性も頭に入れてだが、もしそうなら、予想よりやっかいかもしれないな・・・」

 

 オークの中にも魔法が使える者がいないわけではない。

 稀の存在ではあるが、言葉を解し、思考できる以上、魔法を使える可能性はある。


 (いやな予感がするが・・・、まさかな・・・)


 ふとしたラスの予感。

 それが的中するとは思わずにいた。




 「・・・面白い・・・、まさかラス・アラーグェがいるとは・・・」

 「?・・・、どうかしたか?」

 

 楽し気な笑みを浮かべ呟いたヴェルダに、訝し気な表情でサーニが尋ねた。


 「・・・」

 「おい!」

  

 反応を返さないヴェルダに対し、語気を荒げるサーニ。

 それでようやくサーニが、不満げな顔を自分に向けていることに気づく。

 しかし、ヴェルダは悪びれる様子もなく、笑みをサーニに向けた。


 「いえ、面白い男が近づいてきてましてね・・・」

 「知り合いか・・・」

 「まあ、そうですね・・・」


 契約している土の精霊による偵察だった。

 土属性であるヴェルダにとって、林の中でこれほど偵察に向く存在は他になかった。

 それにより、ラスが近づいてきていることに気づいたヴェルダは楽しみだった。

 約1年ぶりの邂逅。


 (さてさて、どれぐらい強くなったか・・・)


 楽しみで仕方のないヴェルダだったが、念のため、他の冒険者達への偵察も続ける。

 そして思う。

 今回、この目の前のオークに力を貸したことが正解だったと


 (こんな豚でも役に立つとはね・・・)


 まだヴェルダは知らない。

 ラス以上に、自分を楽しめる存在が、そこにいることを・・・   

新たな展開で、これから登場人物も増えていく予定です。


次回は、28日の19時更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 即興で作られたパーティーって、 なんかワクワク感を感じてしまうネギw それぞれの性格や能力がまだわかってないからかな? どんな個性があるのかが凄く気になってしまうw
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