多くのオーク
これまでの登場人物
アミス・アルリア;聖獣を使役することに優れたハーフエルフの少年。美少女顔。
ラス・アラーグェ;ハーフエルフの魔法剣士。アミスと一緒に行動中。
ティス;アミスの使い魔。アミス以外とはめったに話さないが、意外にラスと楽し気に話す。
「・・・なんでこんな所に?」
アミスがぼそりと呟いた。
「なんでだろうな・・・、運が悪かったとしか言えないな・・・」
ラスはやや呆れ気味に返した。
アミスの言葉に呆れているわけではない。
今現在の状況への呆れ、半分諦め気味の呆れだった。
現在、アミス達がいるのは、キックオークの治安維持団の詰め所。
深淵の森の事件の調査結果を報告するために、ここへ訪れたアミス達は、暫し待つように言われて、中の一室へ通された。
30人は優に座れるであろう部屋。
冒険者を待たせるにしては、随分と大きな部屋に通したものだと、ラスは思いもしたが、それ以上に深くは考えなかった。
そうしている内に、兵士らしき者、冒険者らしき者、身なりを整えた貴族らしき者と、次々と入室し、席に座りだす。
そして、治安維持団団長と、立派な鎧に身を包んだ中年の男性が入室し、席に着くと、他の全員の目が集まる。
「急に集まってもらって申し訳ない。さっそくだが、軍議を開始する。では、バリス隊長、お願いします」
「うむ・・・」
(軍議?)
顔を見合わす、アミスとラス。
「ちょっと待てよ・・・」
「ラス・アラーグェ! 君への話は後だ、黙っていろ!」
「・・・」
ラスは、文句を言いたかったが、この中では、その言葉に従い、黙るしかなかった。
バリス隊長と呼ばれた男は、本国から来た軍事担当官とのこと。
キックオークの南東側にあるステイル高原には、亜人のモンスターであるオーク族が小さな部落を造り住んでいるらしく、そのオーク達が最近近くの村々を荒らしているとの情報があり、その対応案を協議するのが、今回の軍議の主内容らしかった。
「(小声) なんで、それに僕達が・・・?」
「(小声) さあな・・・、とりあえず、話を聞くしかなさそうだぞ・・・」
納得いかない二人を余所に、軍事は粛々と進んでいく。
討伐軍を出すという案が、大勢を占めており、早々とそれで話がまとまりそうだった。
(早く決まればいいのに・・・)
ティスもアミスの服の中で、当然不満げである。
調査した結果、オーク族の規模は思いの外多く、2百を上回るらしく、治安維持団だけでは力不足に感じ、本国を頼ったらしい。
軍議前から、討伐の方向だったらしく、すでに千の兵が向かっているとのこともあり、貴族達もそれ程慌てた様子もなかった。
「たった2百のオークに千の兵とは、随分と慎重ですな・・・」
冒険者が放ったその一言に、馬鹿にした意味が含まれていたのは、誰が聞いても明らかだった。
おそらく、アミス達と同様に、わからないまま連れてこられたのだろう。
(気持ちはわからんでもないがな・・・)
正直、ラスも嫌みの一つでも言いたい気持ちはあった。
しかし、それより、この意味の感じられない軍議に早く終わってほしかった。
「思いの外、オーク達の装備が充実してるという情報が入っている。大型のタイプも30体ほど確認されている」
(大型? 純血のオークか・・・)
オークは、本来人間より大きく、筋力に優れている。
豚とも猪とも取れる顔の亜人型のモンスターであり、野蛮で好戦的で、時折人間の里を襲っては、家畜や食料を奪い、時には女達をさらう。
そして、その女達を孕ませ産ませた混血のオークは、純血のオーク程大きくは育たずに、人間と同程度か、小さかったりする代わりに、多少頭が良い。
そんなことが繰り返されるうちに、混血のオークの数が増えていき、今では混血のオークの方こそが、『 オーク 』と呼ばれるようになっているのが現状である。
モンスター知識に劣る者の間では、大型のオークを特殊視するものが多く、今、この軍議参加者で、正確に把握する者が何人いるか怪しいものだ。
(こいつは知ってるのか?)
と、ラスは、一瞬アミスへ眼を向けた。
冒険者になって日が浅いと聞いているため、知識がない可能性は充分にあるとラスは思っている。
混血のオークは、力もそれ程強いわけでもなく、一般的にゴブリンと並ぶ下級モンスターであり、下級の兵士や新米冒険者でも、対処は難しくない。
しかし、純血のオークとなると話は変わる。
オーク討伐に出た初級の冒険者パーティーが、純血のオーク一体に殲滅された例があるぐらいだ。
大型のオークの数を聞き、部屋が座喚き?だす。
バリスは更に続けて言う。
「完全殲滅が目的だ」
「ちょ・・・」
「おいおい・・・」
「まじかよ・・・」
バリスの言葉に驚きを隠せず、騒然さは更に増していく。
はるか昔は、このキックオーク周辺は、すべてオーク族が治めていた。
しかし、領土を拡げることに執着していた祖先たちが、オークを追い出し、この地に領土を構えたのだ。
この町のキックオークという名も、その時の領主となった祖先が、悪ふざけで付けたのが始まりだった。
オークを蹴って追い出したと・・・
そんな歴史もあり、この近辺のオーク達の人間への憎しみは深い。
故に、小さな争いはずっと続いてきたのだ。
「かつて、野蛮だっただけのオークも、最近は知恵をつけ、武器や頭を使うようになってきた。このままでは、今度は我々が追い出される番になる」
まるで演説をするかのように語りだすバリス。
「余計な火種を生まなきゃいいが・・・」
「火種自体を無くすのだ!!」
バリスは、雄弁に語り悦に入っていたのを邪魔され、激怒し怒鳴りつけた。
余りの形相に、部屋は静まり返る。
「・・・・」
暫しの沈黙の後、その場を収めるために治安維持団団長のリッカーが言う。
「一旦解散とする。本国より兵士が到着後、改めて集まってもらう・・・」
(ようやく、開放か・・・)
ラスが安心したのも束の間、
「なお、冒険者達は残ってくれ、仕事の話がある」
ラスは落胆するのであった。
ステイル高原のほぼ中央に位置する集落に、様々な装備に身を包んだオークの集団が集まっていた。
一堂に会したオーク達は整列し、二人の男に注目していた。
「ふふふ・・・、素晴らしいぞ、な? ヴェルダよ」
「・・・そうですな」
一人はオーク。
体格は大きくないが、筋肉質でがっちりした体型なのは、鎧の上からでも見て取れた。
威厳に満ちたその身なりは、オークの中で特別な存在なのは明らかだった。
名前は、サーニ・ムイオルといい、ステイル高原のオーク達の中で最も戦闘に優れ、最も統率に優れた存在であり、自ら騎士を名乗り、この地にオークによる国を建国するのが野望だった。
まずはキックオークを襲い奪う。
その為に、戦えるオーク達を集結させていた。
もう一人は人間だった。
ローブに身を包み、魔法使いを連想させるが、腰には剣を差している。
僅かな笑みを口に見せ、オーク達を見回していた。
名前は、ヴェルダ・フィライン。
旅して流れ着き、サーニに頭の切れと魔法の腕を評価されて、二月程前からそばで力を貸していた。
「人間どもは、我々を甘く見ているだろうな?」
「およそ千程の兵が、キックオークへ向かっているらしい」
「千か・・・妥当といえば妥当か・・・」
「そうですな・・・。流した情報を全てと考えたなら、やや多めの兵を用意したとみるべきでしょうな。相手は慎重な者らしい・・・」
「臆病ともとれるがな・・・」
あまりにも予測範囲内の状況に、笑みが止まらないサーニ。
「油断は天敵です・・・」
「判っている」
「そうですか・・・。では、引き続き偵察を・・・、そして、相手の偵察員への対処を続けます」
「任せた・・・」
サーニの口から笑みが消えることはなかった。
「今回の仕事が終わったら、ここから離れた方がいいな・・・」
ラスは、不満が隠せずにアミスに愚痴を零した。
「そ、そうですね・・・」
アミスは苦笑いで返す。
正直言って同感だった。
アミス達は、偵察任務のためにステイル高原敷地内にある林の中を進んでいた。
リッカー達のあまりに勝手な物言いに、断る事も考えはしたが、断るなら討伐作戦が終わるまでは監禁されると言われた。
力ずくで逃げれないこともなかったが、前の依頼の報酬を手放すことになる。
それなら、さっさと偵察を済ませて縁を切るのが手っ取り早いと判断した。
前回の追加報酬額も、今回の報酬額も決して安くはなかったのも、渋々任務を受けた理由にもなった。
「どこまで調べるかだな・・・」
隊列の3番目を歩く男エルフが呟いた。
アミス達は二人だけではなかった。
あの場にいた冒険者は、5名ずつ三組に分けられた。
つまり、アミスとラスは、他の3名の冒険者と行動することになったのだ。
一人がこのエルフのマーキス・サーラント。
外見はラスとそう大差はない年齢と思わせたが、長命でいつまでも若々しエルフという種族というのもあり、実際の年齢は予想できない。
自己紹介では、精霊使いで弓も得意と言っており、水、風、土の精霊魔法を使えるらしく、外での探索に向いているとラスは思っていた。
先頭を歩くのは、人間の女性冒険者で、狩人のティサ・フリージャ。
野外探索を得意としており、戦闘では弓を使う。
風の精霊魔法も使えるらしい。
最後にその後ろを歩くのが、背は低いがガッチリしたがガタイのドワーフのグドル。
武器は持っておらず、ドワーフとしては珍しい素手での格闘戦闘を主とした戦士だった。
ラスは、即席に組まれた割にはパーティーバランスは悪くはないと思った。
贅沢を言えばグドルがドワーフらしく重戦士であれば、防御面での安定さが増したと思えた。
「数の確認と、動き、そして、どこまでやろうとしてるか・・・、て、所だろ?」
殿で警戒しながらラスが返した。
「正直、さっさと終わらせたいな」
「それは確かにね・・・」
ラスの呟きに、先頭のティサが賛同する。
「こんな無理やりな依頼は嫌い」
「まったくじゃな・・・」
グドルも不機嫌そうに言う。
「無理やりでも、受けた以上はしっかりと仕事した方がいい・・・」
マーキスがくぎを刺す。
「真面目じゃの・・・」
「そうでもないけどね・・、ただ・・・」
と、立ち止まり、辺りを見渡すマーキス。
それに気づき全員止まり、同じく見渡す。
「さっきから、なんか変なのよね・・・」
ティサが言う。
それにマーキスは頷いた。
「この林・・・」
アミスがふと言い出す。
「元々帯びているものかわからないんですけど、魔力を帯びてますね」
「魔力か・・・」
「でも、微弱で、誰かの魔法の影響だとは言い切れないですが・・・」
生きているものも、微弱な魔力を持っている。
その強さはそれぞれであり、林の木々から多少強めの魔力を感じてもなんら不思議はない。
そのため、今まで黙っていたアミス。
「とりあえずは、魔法の可能性も頭に入れてだが、もしそうなら、予想よりやっかいかもしれないな・・・」
オークの中にも魔法が使える者がいないわけではない。
稀の存在ではあるが、言葉を解し、思考できる以上、魔法を使える可能性はある。
(いやな予感がするが・・・、まさかな・・・)
ふとしたラスの予感。
それが的中するとは思わずにいた。
「・・・面白い・・・、まさかラス・アラーグェがいるとは・・・」
「?・・・、どうかしたか?」
楽し気な笑みを浮かべ呟いたヴェルダに、訝し気な表情でサーニが尋ねた。
「・・・」
「おい!」
反応を返さないヴェルダに対し、語気を荒げるサーニ。
それでようやくサーニが、不満げな顔を自分に向けていることに気づく。
しかし、ヴェルダは悪びれる様子もなく、笑みをサーニに向けた。
「いえ、面白い男が近づいてきてましてね・・・」
「知り合いか・・・」
「まあ、そうですね・・・」
契約している土の精霊による偵察だった。
土属性であるヴェルダにとって、林の中でこれほど偵察に向く存在は他になかった。
それにより、ラスが近づいてきていることに気づいたヴェルダは楽しみだった。
約1年ぶりの邂逅。
(さてさて、どれぐらい強くなったか・・・)
楽しみで仕方のないヴェルダだったが、念のため、他の冒険者達への偵察も続ける。
そして思う。
今回、この目の前のオークに力を貸したことが正解だったと
(こんな豚でも役に立つとはね・・・)
まだヴェルダは知らない。
ラス以上に、自分を楽しめる存在が、そこにいることを・・・
新たな展開で、これから登場人物も増えていく予定です。
次回は、28日の19時更新予定です。