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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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エリフェラスの真意

 その部屋には一つの灯りが灯っていた。

 だが、この部屋は一つで照らすには広過ぎであり、灯りの側だけが微かに明るさを感じる程度だった。

 そんな室内にいる人の数も一つ。

 灯りから少し離れた椅子に腰を降ろしている人物だけだ。

 光の少ないその空間で一人じっと座り込む姿は、他者が見れば不思議な光景に見えるだろう。

 故に当然のように声がかけられた。

 人が一人しかいないその部屋の中で……


 「何か気になる事でも?」

 「……気になる事ばかりだよ……」


 椅子の背後からの声に、椅子に座る人物ゼオル・ラーガは振り向きもせずにそう返す。

 その部屋は防御結界の張られた特別なものであり、旧王派からの襲撃に備えつつ、今回のクーデターでの為に様々な任務に出した部下達の報告を受ける為に、寝ずに待機している状況だった。

 ゼオルの声は明らかに疲れている様子であり、それに気づいた先の声の主が再度心配げに言葉をかける。


 「少し眠って休んだ方が……」

 「いや、肝心の報告が入っていないからな」

 「肝心の?」 

 

 ゼオルの背後で光が生まれだす。

 白く強いその光は、直視すれば目をつぶしかねない程の明るさだったが、その光が生まれると予想していたゼオルは目を閉じていた。

 白い光は女性を形作り、その形をハッキリとさせながらゼオルを後ろから包むように抱きしめる。

 

 「貴方が求めていたお二人の事?」

 「……」


 ゼオルは少しの間を置いてから黙って頷いた。

 ゼオルが配下として欲しかった2人の人材。

 側近となれると評価していた逸材だった。

 だが、その2人を手に入れることはできなかった。

 最初からできないと判っていたため、その事に関してはそれほどショックを受けてはいなかった。

 『やはり無理だったか……』

 程度の感情しかもっていない。

 だが、死なせるには惜しい人材であり、縁があれば再びチャンスは巡ってくるだろうと思っていた。

 しかし、自身が選んだ選択肢とはいえ、それを崩されそうな展開となり、立場上表立ってそれを防ぐこともできない状況。

 出来る範囲で裏から手を回すことしかできずにいた。

 それで駄目なら仕方ない。

 そう割り切っていたいたはずだったが、一人になると考えてしまう。


 『他に方法は無かったのか?』


 と……


 「大丈夫……

 貴方の認めた人達は大丈夫よ。

 ほら……」


 彼女のその言葉に反応したかのように、そこで扉が叩かれ、その小さな音が静かだった室内に響いた。


 「入れ……」


 ゼオルの指示に従い、扉を開けて一人の兵士が入ってくる。

 ゼオルを包んでいた女性の光は消えており、小さな一つだけの灯りの中、兵士を迎える。

 既に多くの報告を受けてきたゼオルは、極力感情を抑えて報告を受けた。

 一つの報告に一喜一憂してると心も体ももたない事が判っているから。

 だが、その兵士が持ってきた情報にゼオルの心は揺れた。

 それでもその情報を届けに来た兵士には、その揺れを見せることをせずに下がるように指示を出し、


 「……ふぅ~」


 兵士が居なくなってから、ゼオルはゆっくりと深い息を吐いた。

 そんなゼオルの後ろに再び現れる光。

 

 「良かったですわね」


 女性の言葉に、ゼオルは小さく微笑みながら、


 「ああ……」


 と答えた。

 無事を願っていた2人の安否。

 捕まえることができずに、国外に逃げられたという報告。

 口惜しそうに言われた兵士の言葉に感情を見せなかった

 本来なら逃走された相手の無事に安堵する姿を見せるわけにはいかなかった。

 だが、兵士が居なくなり、心許せる存在である彼女だけになら見せることができた。

 アミス・アルリアとタリサ・ハールマン。

 二人の無事を喜ぶことができた。


 「少し目を瞑って休んで……

 眠らなくても、それで少しは疲れが取れるから……」

 「ああ、そうさせてもらうよ」


 再び彼女に包まれて、ゼオルは目を閉じた。

 光の翼を背に持つ、天使のような彼女に抱かれながら……





 部屋は静まり返っていた。

 知衛将軍エリフェラスやクエルスからの説明を受けて、各々(おのおの)が己の身の振り方を考えている。

 シルアもじっくりと考え込んでいた。

 トリッセルとヨネンはシルアの判断に従うと言っている。

 責任を押し付けられた感はあるが、闇氷河将軍の副官としての立場上、それは当然と受け入れていた。

 シルアの心内は殆ど決まっていただが、すぐには決断できない。

 説明に無かった事で、どうしても気になっている事があった。


 「なぜ……」


 シルアの口から自然と言葉が零れる。


 「なぜ、助けたのですか?」

 「……タリサは死なせるには惜しい人材だと思っている。

 ま、惜しんでいるのは才能だけではないがな……」


 エリフェラスからの返答は、当然と言いたげな物言いだった。

 しかし、シルアの聞きたい事はそれではなかった。


 「いえ、なぜ、アミス・アルリアを助けたんですか?」

 「……タリサが助けようとしたから手伝っただけだが……」

 

 エリフェラスからの返答から、シルアはそれまでのエリフェラスからの言葉とは異なる雰囲気を感じ取っていた。


 「違いますよね?

 他に理由があるんですよね?」

 「……」


 エリフェラスの口元から笑みが消えた。

 しかし、不機嫌になった様子は感じられない。

 ただ、何か悩んでいるような雰囲気だった。


 「その理想は素晴らしいと評した王は助けずに、こちらの都合で捕らえたとはいえ、敵対関係にある者を優先して助ける理由が私には判りません」

 「いや……」

 「変な誤魔化しや繕いはいりません。

 しっかりとした説明を……」

 「ブランキス王を殺す予定はないぞ」

 「は?」


 予想外過ぎる答えに、シルアは少し間の抜けた反応を返してしまった。

 そんなシルアの反応に、エリフェラスの口元に笑みが戻る。


 「え? どういう……」

 「そもそも、お前のすぐ後ろにいる」


 シルアが振り返ると視線の先には、自分達をこの部屋に案内してきた執事が立っていた。


 「え?」

 

 一同の視線を受けて、その執事は少し困ったような表情で頭をポリポリと掻くと、少し不満そうな視線をエリフェラスに向けたが、エリフェラスの笑みを浮かべたままの表情に、諦めたかの様に溜息を一つついた。

 彼は短い呪文の詠唱をするとその身が光を帯び、その姿を変えていった。

 現れたのは、この国に暮らすものなら誰もが知っている顔。

 前日まで、この国の象徴として君臨していたブランキス・フォルド・ライデン王だった。


 「王様……」


 目を丸くしたまま呟くシルアに、ブランキスは苦笑いを浮かべながら、


 「もう王ではない」


 と、寂しそうに返した。

 誰もが次の言葉を発することができないまま、少しの時が過ぎる。

 その静寂を打ち払ったのは、静寂の素となっていたブランキス自身だった。


 「そう悲しむ必要はない……」


 そう言ったブランキス自身の表情が悲しそうに見えたのはシルアだけではないだろう。

 それに自分で気付いたのか、ブランキスは笑顔を作ると、


 「私も悲しい気持ちを持っているのは否定しない。

 しかし、肩の荷が下り、気持ちが楽になっている方が大きい」


 ブランキスは言う。

 覇道というは厳しい道だった。

 力による支配。

 民の為に決めた方針とはいえ、犠牲を伴うその方策は、王であったブランキスの精神を確実に蝕んでいた。

 自らの手によるその道を閉ざされ、残念で、無念で、悔しい気持ちが大きかったが、それよりも開放感が勝った。

 そう感じ取った事で、自分のその道を進むのは無理だったと実感させられた。

 そんなブランキスにエリフェラスは言った。


 『覇道はゼオル・ラーガが引き継ぐ』


 と……

 そう言われて、ブランキスは最初は戸惑ったが直ぐに、

  

 『ゼオル・ラーガの方が覇道を進むのに向いている』


 という結論に辿り着いた。

 ブランキスは言葉を選びながらも、その胸の内をその場にいる者達に語る。

 感情を抑えながら語るブランキスの表情に涙を流す者。

 怒りを必死に抑える者。

 何も言えずに俯く者。

 様々な反応を見せる一同だったが、全員に共通してるのが誰も口を挟むことができないという事だった。

 そんな中、ブランキスの言葉が止まる。

 その目が向けられているのはエリフェラス。

 彼が静かに頷くと、ブランキスは再度口を開く。


 「今は時間が惜しい状況。

 私が言いたいのは、今は彼を……、知衛将軍を信じて力を貸して欲しいという事」

 

 本来なら力を捧げる相手であるはずの元王にそう言われて、誰もが反論する気を奪われていた。

 ブランキスの気持ちはその言葉だけでなく、その表情からも充分に感じ取れる。

 誰もがそのまま元王の言葉を受け入れようとしていたが、ただ一人、口を開く者が居た。


 「私の……」


 躊躇を見せながらも、シルアは言葉を続けた。


 「いや、私達の直接の(あるじ)は闇氷河将軍です。

 彼女の言葉なしに……

 彼女の安否を確認せずに、他者に仕えるつもりはありません」


 そう言い切ると、トリッセル、ヨネン、フェミリアーネに順番に視線を向ける。

 3人は、シルアの意見に賛同するように静かに頷く。

 そして、揃ってシルアと共に目をエリフェラスへと……


 「タリサは無事なのは確かだ。

 それはフェミリアーネも知っているはず……」

 「そういう事ではないのです」

 「アミス・アルリアと共に行くことが安全とは限らない」

 「そもそも、相手が受け入れるか保証はない」


 シルア、ヨネン、トリッセルと続けて言葉が投げつけられる。


 「アミス・アルリアの考えは、私には理解できませんでした。

 ですが、少なくともタリサ様に敵意を持っている者はいると私は感じました」


 フェミリアーネは自分の考えを言い放った。

 ラディ達に連れられてエリフェラスの下に来てから、質問に元気なく答えるだけだったフェミリアーネだったが、3人の仲間の言葉を受けて漸く自分の意見を述べることができた。

 どんな言葉にも反論する。

 そのつもりでフェミリアーネはエリフェラス達を睨みつけた。

 しかし、それに対して返ってきたのは、エリフェラスの優しげな笑顔だった。

 言い返されまいと、張っていた緊張感が緩む。

 気を抜かれたのはフェミリアーネだけではなかったが、直ぐに気を張り直し、言葉を発したのはシルア。


 「知衛将軍!!

 貴方は何を企んでいるのですか?

 仰っている事は理解しました。

 しかし、それだけでは納得できないです。

 クーデターという危険な行動を起こしているのにも関わらず、最善ではない行動を、失敗のリスクを高める行動を取っている。

 何か他の目的の為に行動しているとしか思えない」


 エリフェラスは、笑みを浮かべたまま黙ってシルアの言葉を耳を傾けていた。

 そして、その言葉を聞き終え、ゆっくりと目を閉じる。


 「確かに……」


 暫しの沈黙の後に漸く口を開いたエリフェラスに一同の視線が集まる。


 「確かに、私には諸君等に言えない目的がある…………が」


 目を細く開くと、再び笑みを浮かべてシルアに向かって言う。


 「今回の件……、タリサとアミスの件は、その目的とは関係ない……」

 「それならば何故?」

 「それに関しては、至ってシンプルな理由だ……」

 「シンプルな……?」


 シルアはエリフェラスの次の言葉を待った。

 そんなシルアの思いに気付いているのかエリフェラスは小さく溜息をつき、クエルスとルーメルに視線を向ける。

 クエルスもルーメルも黙ったまま何も言わない。

 エリフェラスの考えに一任しているのだろう。

 エリフェラスはもう一度溜息をつくと、


 「ま、もう言ってもいいだろう……」


 と、小さく呟いた。


 「今回に一連の流れで、私が一番頭を悩ませたのがアミス・アルリアという存在だった」


 エリフェラスは語りだし、全員が黙ってその言葉に耳を向ける。 

 ゼオル・ラーガとアミス・アルリアとの繋がり。

 アミス一行がグランデルト王国の真権皇騎士団と接触した事。

 それに伴い、アミス・アルリア捕縛指令が出た事。

 それらの話が耳に入る度に、エリフェラスが頭を悩ませたという事。

 そして、アミス・アルリア捕縛の報告が耳に届いた。

 任務に就いたのがタリサ・ハールマンである時点で、捕縛作戦が成功するのは予想できたと言い、その後を考えた行動の為に、人材を求めた。

 隠密行動に向く人材を……


 (それが彼等ということ?)


 シルアは横目でラディ達を見る。

 彼女にはその風貌からは実力は計ることはできなかったが、知衛将軍自身が求めた人材なのだから、この場で共に席を並べているメンバーに引けを取らない能力を持っているのだろうと予測はできた。

 エリフェラスの語りは続いた。

 どうせ危険を冒さなければならないのなら、今回は徹底的に人材を手に入れる為に行動した。

 勿論、直接自分を雇っているゼオル・ラーガの許可は取っての行動。

 2人の関係は、互いに利用しあう間柄だったが、互いにその実力を認め合い、奇妙な絆が生まれているとエリフェラスは説明する。

 それに近いものは、タリサ・ハールマンとの間にも結ばれていた。

 ゼオル・ラーガもタリサには絶大な信頼を寄せていた。

 だが、タリサにとっても一番はブランキス王だった。

 ブランキス王の考えは絶対であり、その理想の為にタリサは腕を磨き、知識を求めてきた。

 そんなタリサがクーデター後に、王を追い落とした相手に仕えるはずがなかった。

 それを承知の上でも、ゼオルとエリフェラスはタリサの命を惜しんだ。

 そして、話し合った結果、エリフェラスの提案により、アミス・アルリアと共に逃がす事に決めたのだ。

 

 「タリサの件に関しては随分と頭を悩ませたが、何とかなった……

 後は、国をより強固にする……

 その為にも、諸君達の力を借りたい……」


 エリフェラスは話を締めると、そう話を戻そうとした。

 がしかし、シルアはまだ納得していなかった。


 「まだ納得いきません……」

 「シルア……、その話はまた後に……」

 「タリサ様の件はわかりました。

 納得しきれませんが、貴方達の考えは理解しました。

 だが、一つどうしても理解できない事があります」


 エリフェラスは、目を逸らす。

 それはシルアが言いたいことが判っているから……

 

 (上手く話を逸らせたと思ったんだがな……)


 エリフェラスは話さなければならないと覚悟をした。

 そして、シルアからの問いかけを待った。


 「アミス・アルリアを助けた理由を教えてください。

 彼を助けるのにリスクを負うのはどう考えてもおかしい」


 シルアには確信があった。

 エリフェラスが何かを隠していると……

 

 「貴方は何を企んで……」

 「企みなんて何も無い……」

 「そうやって、誤魔化さないでください!」

 「誤魔化してなんかないさ……」


 エリフェラスは真剣な表情でシルアの瞳をじっと見つめた。

 

 「本当に何も企んでいない。

 理由は至ってシンプルだ。

 だが、これはゼオルには言ってないんでな。

 ここだけの話にして欲しい」


 エリフェラスはそう願う。

 その為にこの部屋には【密約】の結界が貼られていた。

 最初にこの室内に入る時に、中での会話は外では話さない約束が交わされており、そんな口約束を契約へと変化させる魔法の力に満ちていた。

 エリフェラスは再度全員に念を押して、外部に情報を漏らさない約束をさせる。


 そして、重い口を開く。


 「肉親を助ける事に理由は必要か?」

 「肉親?」


 シルアのオウム返しにエリフェラスは、少し考えてから話を続ける。


 「ま、親兄弟でも殺しあうことはあるだろうが、俺は違う……」

 「……」

 「俺()と言ってくれますか?」


 後ろからクエルスが言葉を挟み、その横でルーメルも頷く。


 「そうだな……」


 一瞬笑みを浮かべ、直ぐに真剣な表情へと戻すエリフェラス。

  

 「あいつはな……」

 「……」

 「俺達兄弟の中で一番愛されてるからな……」

 

 シルアは目を見開く。


 (俺達…兄弟!?)


 「アミスは俺の……、俺達の弟だよ」

 「……」

 「シンプルな理由だろ?」


 そう言い苦笑いを浮かべるエリフェラス。

 一瞬、何の冗談かと思ったシルアだったが、そのエリフェラスの表情を見てそれが嘘ではない事を悟った。


 「……ですが……」 

 

 戸惑いながら、そう呟いたのはフェミリアーネ。

 そして、彼女の疑問に気づき答えたのクエルスだった。


 「兄と私達は母親が違うのですよ」

 「え?」

 「違いましたか?」


 フェミリアーネの反応の鈍さから、彼女が疑問に思ったことを勘違いし、答えを間違えたかと、クエルスは首を傾げた。

 だが、クエルスの方に間違いはなかった。

 フェミリアーネは心を読まれたように感じて戸惑いを見せただけだった。

 

 「……副長にバレたら弱みになってしまうからな、くれぐれも他言はな……」


 エリフェラスの表情は苦笑いのままだった。

 その表情がどんな感情を表しているか悟れるほど、シルアはエリフェラスの事を知っている訳ではなかった。

 エリフェラスとのやり取りは、基本的に将軍同士のやり取りとしてタリサ自身が行う事が多く、シルアが直接意見の交換をしたことなど簡単に数えれる程度の数だった。

 

 「シルア・アイン……」


 名を呼ばれて思考の中から戻ったシルアは、エリフェラスから視線を向けられている事に気付く。


 「危険を冒してまでアミスを助けた理由に納得してくれたか?」

 「……それが本当なら理解できなくはないですね……」


 そう返したシルアだったが、エリフェラスの言葉を疑っている訳ではなかった。

 逆にそれ以外の説明だったらどうだったかわからなかったが、肉親というとても判りやすい理由に妙に納得してしまった。

 誤魔化して言うにはあまりに稚拙な理由であり、それが返ってそれが本当だと表しているようだった。

 

 「俺はな……」


 エリフェラスは静かに語りだす。

 自分がタリサを気に入っていたこと。

 必死に抑えて周りには隠していた彼女の優しすぎる性格は、騎士として生きるのは余りにも厳しいものだった。

 優しい彼女がどう生きるべきか、ずっと心配してきた。

 そして、今回の一件はそんな悩みを打破する転機とエリフェラスは捉えた。

 アミスと共に生きるタリサ。

 それはエリフェラスには理想的な光景に思えた。

 故に、そう仕向けるように作戦を立てた。

 心置きなくその道に進めるように、タリサの心配事は既に解消するした上での作戦を……


 ブランキス王のこと

 部下であるシルア達のこと

 そして、国のこと……


 それら全てを自分が引き継ぐと、タリサに宣言し、安心させた。

 だが、それを普通に説得しても納得をさせる事は無理なのは判っていた。

 故に、彼女を限界まで追い詰めた。

 死を覚悟させるほどに追い詰めた。

 実際にどこで死んでもおかしくなかった。

 そんな分の悪い賭けだったが、エリフェラスはリスクを承知でそれに賭け、そして勝利したのだ。


 シルア達からそれ以上質問が飛ぶことはなかった。

 エリフェラスは最後に、


 「どうするかはゆっくりと考えてくれ……

 無理強いはしない。

 ただ、俺はお前達の能力を必要としているからな……」


 と、話を締めると、クエルス達に後を任せて一人で部屋を後にした。

 そして、部屋を離れて大きく息を吐く。


 「後は任せたぞ……、アミス……タリサ……」


 アミス・アルリアにタリサ・ハールマンを託し、タリサ・ハールマンにアミス・アルリアを託したエリフェラス。

 そんなエリフェラスの願いを胸にアミスと共に生きることを選んだタリサ。

 そして、兄が関わっている事を知らないアミス。

 これから先がどうなるなんて誰にも判らない。

 アミスにも、タリサにも、エリフェラスにだって……

 それでも、今回の結果は最も良いものだった言えた。

 それぞれ別の思いから始まった関係だったが、そこにある絆は偽りではない。

 タリサもエリフェラスもそう心から思えたのだった。

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