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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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少女

 目を覚ますと、見慣れない天井が目に入ってきた。

 起き上がり室内を確認しようと思ったが、体の痛みで動きが止められてしまう。

 まずは自分の置かれた状況を確認する事にして、ヨネン・ゲンシュは頭を働かせ始めた。

 だが、その答えを導き出す前に、側から声をかけられ、思考は止められてしまう。


 「やっと目を覚ましたか……」

 

 姿を見ずとも、声でその相手が誰なのか判る。

 それでも、ヨネンはゆっくりとその声が聞こえた方向へと目を向けた。

 そして、思った通りの顔が目に映り、ホッとしてしまう。

 それはもう会えない事を覚悟した相手だった。


 「無事だったのか……」


 自分が寝るベットの横に座っているシルア・アインの姿に、ヨネンの口からそんな言葉が洩れた。

 

 「心配したのはこっちだよ。

 あなた、生きているのが不思議なレベルの状態だったのよ……」

 「あ……」


 言われて、ヨネンは思い出す。

 マリーナの召喚したアンデット達との戦い。

 自分を貫いたマリーナの剣。

 そして、自分を助けた3人の存在。


 「トリッセルは……?」

 

 ヨネンは訊ねて直ぐに気づく。

 シルアを挟んでもう一つベットがあり、そこに横たわっている人物がいる事に……

 シルアはその人物に視線を送り一言。


 「こっちもあなたと同じで、生きているのが不思議なレベルよ……」


 頭を起こすをできないヨネンには、はっきりとその顔を確認する事はできなかったが、シルアの様子から見て、横たわっているのはトリッセルと思って間違いがないのだろうと、ヨネンは判断する。


 「タリサ達もいるのか?」


 それは微かな期待だった。

 だが、それは無言という反応で否定される。


 「まさか、死んだのか?」


 その問いには、首を横に振るシルア。


 「あの2人がどうなったのかは判らないのよ……

 ただ、少なくともこの場には居ない……」

 「そ、そうなのか……」


 2人は揃って表情を曇らせる。


 「無事だと信じましょう……

 誰も死んでいないと……信じましょう」


 シルアは、自分に言い聞かせるようにそう呟く。

 それに対して、ヨネンも黙って頷く事しかできなかった。

 ただ、自分達も絶体絶命の状況で生き残ったのだ。

 だから、タリサ達もきっと……

 そう思わずにいられない2人だった。




 

 うっすらと見えていた氷の竜の姿が完全に消え、その女性はくるりと踵を返した。

 アミス達に初めて見せたその顔は、やや幼さを残した少女のもの。

 その整った顔が驚きの表情を見せる。

 自分以外に人がいるとは思ってなかった様子であり、その姿をじっと見つめていたアミスとふと視線が合った。

 二人の動きが止まり、その顔が微かに赤みを帯びる。


 「あなた方は……?」

 「僕達は……」


 少し戸惑い気味の2人。


 「おい、まずは逃げるのが先だ」

 

 上空から聞こえる大きな翼が羽ばたく音がラスやリンを焦らせるが……


 「いや、じっとしていろ」

 「おい、倒す気か?」

 「そうではない。

 とりあえず、みんな私にできるだけ近づけ……」


 ラスは怪訝な表情で躊躇ったが、他のメンバーが素直に従ったので、仕方なしにそれに倣った。

 レンが集中し、詠唱、一瞬高まった魔力が小さく球状に収縮し、一同を包み込む。

 何をしているのか?

 ラスが確認しようとした瞬間、上空に大きな生き物が姿を見せた。

 全身赤黒い肌のその生き物がファイアドレイクなのは、初見である者でも簡単に予想できた。


 (思った以上にでかいな……)


 心の奥から湧き起こる恐怖という感情を抑えながら、ふと思ったのはそんな感想だった。

 落ち着いているようで冷静になりきれていないのだろうと、ラス自身実感していた。

 その火竜はそれだけの威圧感を感じる相手だった。

 一瞬、火竜の視線が向けられ、目が合ったように感じた。

 ぞくりっと、背筋が凍る感覚を覚える。

 だが、火竜はそのまま通り過ぎていき、その姿が完全に見えなくなると、全員が深く安堵の息を吐いた。


 「何をしたんだ?」


 ラスがレンに訊ねると、レンも安心したような表情を浮かべて答える。


 「奴等から見えないようにした……」

 「【透明化(インビジビリティ)】の魔法か?」

 「いや……」


 ラスは知識内にある魔法を口に出したが、それはすぐに否定するされた。


 「違うのか?」

 「【透明化】では、奴等から逃げる事はできないからな……」

 「上位のドラゴンは、魔力自体を見ることができると文献に……」

 「あ……そういえば……」


 アミスに言われて、ラスもその事を思い出す。

 確かにそんな文献を読んだ記憶があった。

 上位の竜が魔力自体を視認できる瞳を持っていると……

 レンはアミスに笑みを向けると、小さく頷きながら口を開く。


 「ま、オリジナル魔法とだけ言っておく……」

 「オリジナルって……」


 あまりに簡単に言い放つレンに対して、ラスはやや呆れ気味の表情を向ける。

 アレンジを加えるレベルならラスにもできないことではない。

 それが効率的なものかは別にしてもだ。

 まさかそんなレベルのものをオリジナルと言っているわけではないだろうと、ラスは思い、ゼロから作り出したものではなくとも、少なくとも他に使える者が存在しないような魔法なのだろう。

 それは、言うだけなら簡単だが、言うほど簡単ではないことだった。


 「お前はいったい……」


 何者なのか?

 ラスの口から単純な問いが出てくる前に、


 「まずはここを離れるぞ……」


 レンから提案され、


 「……ああ、そうだな……」


 と、賛同するしかなかった。

 レンが使用した魔法の効果時間を知らないラスだったが、普通に考えてそう長いものではないだろうと予想できた。

 効果が切れる前に竜の巣からできるだけ離れるのが得策なのは判りきっていること。

 故に、ラスはそれ以上は何も言わずに従うことにした。

 動き出す一同の中、躊躇う名も知らぬ少女にアミスは右手を差し出して、


 「行きましょう」


 と、笑顔で言った。

 少女は笑みを返すと、頷いてアミスの手を取る。

 少女と共に仲間の後を追うアミス。

 アミスに促されるままに走り出す少女。

 この二人の出会いが何を意味するのかなんて、誰にも判りはしない。

 アミス・アルリアの運命を左右する出会いということを、予見できるはずもなかった……

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