それぞれの道
相手の戦い方が巧みだった。
無理を承知で強引な突破を考えていたリン・トウロンに、行動を起こさせることもさせない程に……
膠着状態となった戦況だったが、敵であるロイの堅い警戒心が急に緩んだ。
好機か?
と、いう思考に、武器を持つリンの手に力が入る。
だが、それより先に炎の槍がロイを狙い飛んできた。
ロイは余裕を持って躱す。
躱した先を狙っていたのか、氷の槍と雷の槍が次々と襲い掛かる。
流石のロイも慌て気味だが、全て躱すと、少し下がりリンや攻撃魔法を放ってきた者達との間合いを取った。
リンに一定の警戒心を残しながら、ロイは魔法の飛んできた方向へと目を向ける。
それに釣られるようにリンも視線を向けると、僅かに安堵の笑みを浮かべた。
確認できたラス・レン、そして、フェミリアーネの姿に……
だが、直ぐに真剣な表情をロイに向ける。
形勢逆転かはどうかは判らない。
まだ数の面では劣っているのは事実であり、まだまだ相手が力を隠し持っているように思えた。
故に油断はしない。
だが、どうにもならなかった状況からは、変化が起きたと言えた。
「ここまでだね……」
そう口を開いたのはロイの方だった。
「思ったより諦めが早かったな……」
そう返したのはラス。
「あ、勘違いしないで欲しいな」
「?」
そう言うロイの表情には余裕が感じられた。
まだ何か隠し持っているのかと警戒するリンと、状況が掴みきれずに相手の言葉の続きを待つラス。
レンとフェミリアーネは、会話などの対応を2人に任せて、相手の動きだけに警戒をしていた。
「撤退する理由は、白虎娘に増援が来たからじゃないってことだよ」
リンには、一瞬負け惜しみにも聞こえてしまったが、すぐにその理由が判った。
先程までロイが必死にリンを近づけまいとしていた小屋の扉が開いていた。
そして、その扉から姿を見せた2人を見て、リンは心の底から安堵をした。
アミスとタリサの無事な姿を見て……
「防げって言ってた人がやられちゃったみたいだからね。
俺の仕事もここまでってことさ……」
「随分とあっさりとしているんだな……」
「そう?」
あまりに簡単に言うロイ。
外見に似合った少年らしい態度だった。
ずっと対峙して、自分の行動を見通すような対応をされていたリンは、彼の急な変貌っぷりに唖然としてしまう。
「ま、このまま粘っても勝ち目はなさそうなのは事実だけどね……」
ロイは、黙って自分を睨みつけているダークエルフの魔術師に目を向けながら言う。
そう言いながらも、余裕を感じさせる表情のままだ。
「それならば……」
自分に視線を向けられている事で、レンが漸く口を開く。
「さっさと立ち去れ。
お前にいつまでも構っていれる程、こちらも暇ではない」
「……」
レンの言葉に、ロイの表情が僅かに崩れる。
不機嫌そうなそれへと……
「死にたいというなら、かかってきてもいいがな……」
僅かに殺気をはらんだ言葉。
挑発とも取れるその言葉に、ロイは逆に笑顔を作って返した。
「死にたくはないので止めておくよ」
「そうか……」
レンもロイのそんな態度を気にした様子もない。
そんな2人のやり取りに呆然とするラスとリンだったが、フェミリアーネの興味は既にそんな所には無かった。
まだ敵が去っていないと言うのに、タリサの下へと走っていた。
「フェミル……」
自分に向かって走ってくる部下の姿に、タリサは複雑な表情を浮かべていた。
これから彼女に告げなければならない話。
彼女は絶対に怒るだろう。
絶対に納得しないはずだった。
どう説明すれば良いか思いつかなかった。
「あ……」
何を言うか決めないうちに、フェミリアーネが目の前に来てしまった。
タリサがとりあえず口を開こうとする。
が、それより先に、ロイが口を挟んだ。
「将軍、お初にお目にかかります。
初めてがこういった状況なのは残念。
もうお会いすることはないかもしれませんが、次があったらよろしくお願いしますね」
「次?
ああ、判った。
次があったらな……」
「では、失礼します」
「ああ……」
丁寧にお辞儀をしてその場を去ろうとするロイに対して、タリサはぶっきらぼうに返す。
そして、最後に
「今回のお前の主君によろしく伝えておいてくれ……」
「……」
立ち去ろうとしていたロイの足が止まる。
(今回の?
気付いているのか?)
「今回の主君は、貴女が倒してしまいましたがね……」
僅かに動揺が出かかるが、何とか抑えてそう返す。
するとタリサは笑みを浮かべて、
「そうだな……」
と呟く。
(ま、まさかな……)
疑念を抱きながらもロイはその場を後にする。
素早く立ち去ったロイとその部下達の後姿を見送ると、タリサは視線をアミスへと向けた。
視線に気づいたアミスは一瞬首を傾げたが、直ぐに事態が無事に収束した事に笑顔を浮かべる。
その笑顔にタリサも僅かに笑みを浮かべたが、直ぐに表情を真剣なものへと変えて、フェミリアーネに視線を移した。
「タリサ様……」
「……」
「……」
返す言葉に困るタリサ。
そんなタリサの態度に違和感を感じて、言葉に詰まっているフェミリアーネ。
「で?
どうなったんだ?」
黙り込む2人の代わりとばかりに、ラスが訊ねた。
アミスの表情からラスにもある程度の予想はついていたが、目の前でタリサの態度に戸惑うフェミリアーネが何も理解できていないようだったので、話を進める為のきっかけを与える為の質問だった。
「……アミス達と一緒に行くことになった」
少し躊躇いながら、タリサはそう言った。
タリサの静かなその言葉に、フェミリアーネも戸惑いの表情を浮かべる。
「みんなの……」
少しの間の後、フェミリアーネは縛り出すように言葉を出した。
「みんなのことは忘れるんですか……?」
湧き出る感情を抑える様に、できるだけ静かに訊ねる。
「シルア様達は何の為に……、誰に為に犠牲になったんですか?」
今にも爆発しそうになりそうな感情を必死に抑えていた。
タリサもそれを感じ取り、返す言葉に悩んでいた。
タリサの言葉が直ぐに返ってこない状況が、フェミリアーネの感情を高ぶらせていく。
「タリサ様を助ける為にみんな犠牲になったんです。
それを無にするんですか?」
言われて当然の言葉だった。
タリサはそれが判っていた。
返す言葉は一つしかないと思い、
「犠牲にはなっていない……」
と、エリフェラスから聞いたシルア達の無事を伝える。が……
「誤魔化さないでください!」
と、すぐさまフェミリアーネは反発の言葉を発する。
「みんな、討ち取られたんです。
死んでしまったんです……
シルア様もトリッセル様もヨネン様も……
王様だって……」
「フェミル……」
「私達を生き残らせる為に犠牲になりました……」
「生きているんだ」
「……生け捕りになったと?
それなら尚更助けに戻らないと……」
「フェミル……、とりあえず聞いてくれ」
フェミリアーネの両肩に手を置き、彼女の体と心を抑えようとする。
今にも動きを見せそうだった彼女の体が止まる。
だが、きっかけ一つですぐにどういった動きを見せるか判らない。
それほどに彼女の心が混乱している事は、簡単に見て取れた。
「シルア達は、ある人物が匿ってくれている……」
「ある人物?
誰ですか?」
「それは言えない……」
タリサの返答に、フェミリアーネは無感情な目つきで溜息を一つついた。
「嘘はやめてください。
誤魔化すような発言で、私をがっかりさせないでください……」
表情を無から悲しみへと変化させるフェミリアーネ。
タリサは次の言葉に迷う。
まだ敵の監視があるかもしれない状況下で、エリフェラスの名前を出す訳にはいかない。
敵がいなくても出してはいけない理由もある。
仲間にも、自身の主と決めたアミスにすら伝える訳にはいかない。
「もし本当にみんなが生きているなら、私は助けに戻ります。
私1人でどうにかできない事は判っていますけど、私にはみんなを見捨てる事はできません」
タリサにはフェミリアーネのその気持ちを理解できた。
自分も同じ気持ちだった。
エリフェラスからの情報や説得が無ければ、そんな無謀な行動に出ていたのは自分だったのだ。
気持ちが良く判り、止めてはいけないという気持ちが心にあった。
止めていい立場でもないかもしれない。
それでも、止めなければならない気持ちの方が強かった。
このままフェミリアーネを止めなければ間違いなく彼女は命を落とすことになる。
そうなっては、後悔が残る。
国を捨てる事になったタリサだったが、そこに遺恨を残したくはなかった。
「フェミル……、少し待ってくれ……」
静止の言葉を口にはしたが、フェミリアーネを納得させる言葉が浮かばなかった。
故に、タリサは頼る事にした。
「……誰か監視しているんだろ?」
誰に向けられた言葉か、フェミリアーネにはわからなかった。
それはタリサ自身もわかっていない。
あくまでも予想から生まれた言葉。
(用意周到なあいつが、国を出る前の私達から監視を解くわけがない……)
確信を持った予想。
そして、その予想が外れていない事がすぐに判る。
人の気配を感じる。
(大した隠密能力だな……)
タリサは気配を感じる方へと目を向ける。
そして、確認できた姿に僅かに驚きな表情を浮かべた。
「まさか、お前達だとは……」
情報でアミス達の逃走の手助けをしたのは聞いてはいた。
そんな彼等の姿が無い事を疑問に思わなかった。
そんなことに気付けない程、心に余裕を持てていなかった自分自身に、タリサは呆れてしまう。
「ラディさん、ミスティアルさん、2人共無事だったんですね……」
2人の姿に、アミスは素直に嬉しそうな笑みを見せる。
それに対して、ラディとミスティアルはバツが悪そうに苦笑いで返した。
そんな2人の表情にアミスは首を傾げるが、2人は視線をタリサへと戻した。
「タリサさん、あの人って人使い荒いよ……」
ミスティアルの脈絡のない突然の言葉に、タリサは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうか……」
何を言いたくて、そう切り出したのか何となく判った気がしたタリサ。
「偵察してたのに、救助の手伝いさせられて、それが終わったと思ったらあなた達が国を無事に出るまで見守れって……」
「救助?」
「えっと、なんて人だっけ?」
表情をコロコロと変えながら喋るミスティアルからの問いに、ラディが反応する。
「助けた人ですか?」
「うん」
「ヨネン・ゲンシュですよ」
ラディの口から出た名前に、フェミリアーネが判りやすく驚く。
「ヨネン様?
本当にヨネン様を助けたんですか?」
「ええ、危なかったですけど、何とかね」
明るく裏表のないミスティアルの物言いは、初対面のフェミリアーネにも安堵感を与えるものだった。
フェミリアーネが少し落ち着いた事に気付いたタリサは、本題を切り出す。
「フェミルをミスティアル達の今の依頼者の下に連れてやってくれないか?」
「「え?」」
ミスティアルとフェミリアーネが口を揃えて驚きの声をあげる。
「え? タリサ様?」
「フェミルはこの国に残るべきだ……
彼女の才能は、組織内でこそ生きるし成長するものだ」
タリサが認めるフェミリアーネの才能は多様性。
多方面に感じさせるその才能は、同様なタイプだったタリサ以上だと評価していた。
そのつもりで指導もしてきた。
だが、それは器用貧乏に成りかねない危険な指導法だった。
タリサの様に全てに才を発揮できるものなどそうはいない。
騎士団内でも多様性な指導を受けている者はいたが、全てが中途半端な成長に留まってる者が殆どで、そうでない者でもどれかに特化した成長を見せている。
(私の下では難しかったが、あいつの下でなら或いは……)
エリフェラスならフェミリアーネの才能を発揮させれるのでは? と、いう期待があった。
ルーメルを闇氷河将軍部下として預かるときに、代わりにフェミリアーネを知衛将軍配下として預ける提案をしたぐらいだ。
「それならば、タリサ様も……」
「私は……」
タリサは一瞬そんな選択肢もあったかもしれないと思いもしたが、
「今回の件で実感したよ。
私はこの様な立場は似合わない、とな……」
「え?」
そう、タリサは自分自身で気付いたのだ。
時としては自身の感情を捨てなければいけない立場が……
犠牲を顧みずに命令を実行しなければいけない立場が……
国に仕え人の上に立つ役目が、自分には合わない事を……
「どちらにしても、私はアミスと一緒に行くと決めた。
それを今更撤回する気はないさ」
タリサのその言葉を聞き、フェミリアーネは落胆の表情を見せた。
「タリサ様には、まだまだ教えていただきたい事が……」
そう言いながらも、フェミリアーネにも判っていた。
タリサの意思が固い事を……
自分が何を言っても無駄だという事を……
「すまないな……」
タリサは短い言葉で謝罪し、直ぐに目をミスティアルとラディに移す。
「どうだろう?
頼んでも大丈夫だろうか?」
「え? でも私達にはやる事が……」
アミス達がグランデルト王国の領地から逃げ切れるまで見守るのが2人が受けた役目だった。
その為、戸惑うミスティアルだったが、
「判りました……」
と、ラディは了承の言葉を口に出した。
「ラ、ラディ?」
驚きの表情をラディに向けるミスティアル。
そんな彼女にラディは小さく笑みを向けると、黙って頷いた。
ミスティアルは目を丸くさせて、少しの間思考する。
悩むミスティアルに対して、ラディは先程より笑みを強めてもう一度頷く。
ラディの思惑を察する事は出来なかったが、普段は一歩引いて自己主張をあまりしないラディが戦闘以外で意思を示すのは珍しく、それがミスティアルに悩ませ納得させた。
「……わかったよ」
ミスティアルは少し呆れ気味にそう言うと、フェミリアーネに向かって歩き出した。
ラディもその後ろに続くと、タリサもフェミリアーネの側に……
当然、アミスもタリサに続く。
「タリサ様……」
「フェミル、とりあえずあいつの下に行って話を聞いてきなさい。
そして、じっくり考えると良い……」
フェミリアーネは黙ってタリサの言葉を受け止めた。
タリサの優しくも強い言葉に反論を出せない。
落ち着いて冷静に考えれば、冒険者としてタリサ達と共に旅に出る選択肢は選べなかった。
憧れ夢見ていたタリサ・ハールマンという女将軍に仕えるという事。
その夢が叶い、これから自分の才能をどう見せていくか、どう成長していくか、どうやって彼女の力になれるか、そんな事ばかり考えてきた。
タリサや、共に彼女に仕える仲間達の力を目の当たりにして、自分の非力さを思い知らされた事もあった。
しかし、タリサはそんな自分の評価して、成長への道へと促してくれた。
只の憧れだった存在は、自分を導いてくれる掛替えのない存在へと変わっていた。
だが、それも今日で終わる。
騎士、将軍である立場を捨て、冒険者へと変わるタリサ。
自分を導いてくれる存在では無くなる。
タリサが言ったように、フェミリアーネの道は国の為になる事。
冒険者への道ではないのだから……
「タリサ様……」
「ん? なんだ?」
「この変わりつつある国の為に、私は力になれるでしょうか?」
タリサは少し考え、そして答える。
「どうだろうな……
私はただガムシャラに力になろうとしてきただけだからな。
そんな事を考える余裕も無かったよ」
「そ、そうだったんですか?」
「ふっ……意外だったか?」
向けられる優しげな笑み。
何度も見た事のある表情のはずだった。
だが、それは初めて見る表情に感じた。
それに気づき、フェミリアーネは漸く理解する事が出来たような気がした。
タリサ・ハールマンという人物の事を……
これまで見せてきた闇氷河将軍という存在。
強く、常に冷静で、どんな苦境の中でも正しい選択肢を選べる。
フェミリアーネの目にはそう映っていた。
それは将軍としてのキャラクターだったのだろう。
王の為に、そうあらねばならないという思いで作り上げてきたもの。
それに気づいたフェミリアーネは、タリサを説得する事を諦めていた。
いや、説得するべきではないという考えが生まれていたのだ。
(そう……、それが良いんだ……)
混乱していた心は既に落ち着きを取り戻していた。
冷静になって考える事ができるようになったフェミリアーネの頭は、そう答えを出す。
そして、タリサの言葉通りにする事が自分にとっても良い選択肢のなのだろうという結論も……
「わかりました。
でも、一つ約束していただけますか?」
「ん?」
首を傾げたタリサに、フェミリアーネは少し躊躇しながら言う。
「この国が落ち着きを取り戻したら、一度会いに来ていただけますか?
成長した私の姿を見に……
これが今生の別れになるのは……、私は嫌です……」
これ以上の望むことはもうできないと思った。
この願いですら、叶う可能性は低いだろう。
それでも、何か絆を残したかった。
そんな絆があれば……
タリサ・ハールマンという憧れの存在を心に残すことができれば……
フェミリアーネは頑張れる気がしたから……
「……」
タリサにもその約束が果たされる可能性は極めて低い事は判った。
そう言ったフェミリアーネ自身もそれが判っている事にも気付いた。
それでも……
「判った……、約束だ……」
と、言い、右手をフェミリアーネに差し出した。
フェミリアーネは嬉しさと寂しさを同居させた笑みを浮かべて、その差し出されたタリサの右手を両手で握りしめた。
「はい、約束です」
「ああ……」
互いにもう会えないかもしれないと思いながらも、純粋にそう願い約束する2人。
そして、フェミリアーネは手を離すと、意を決した表情でミスティアルとラディに視線を向けた。
ラディは黙ったまま頷き、ミスティアルは笑顔でフェミリアーネを促すように手を差し伸べる。
フェミリアーネも黙ったまま頷く。
「アミス君、ラスさん、リンさん、そして、タリサさん……」
ミスティアルは名を呼びながら順番に4人へと視線を向ける。
「私達もこの国に残るから、ここでお別れね」
「ミスティアルさん……」
アミスが悲しげな表情を見せる。
直ぐに感情を表情に出すアミスを見て、ミスティアルは小さく笑みを浮かべる。
「本来ならもう会えないはずだったのに再会だけで来て良かったよ」
そう、本来なら自分達は死んでるはずだった。
アミス達にもそう思われていたはずだ。
それがこうやって再会できて、力になる事が出来た。
ミスティアルとしてはそれだけでも満足だった。
アミス達と共に行くという選択肢もあっただろう。
だが、ミスティアルはこの国に残る事を選んだ。
敵対してはずの相手、自分達を殺したはずだった者の力になる事を選んだ。
本来ならば、アミスを助け出す為に協力してただけだった。
だが、気付けばそのまま仕える事になった。
知衛将軍エリフェラスと言う名の人物に……
「ミスティ……、そろそろ行きましょう」
ラディの言葉にミスティアルは頷くと、アミスに手を振った。
アミスも悲しそうな表情を強めながらも手を振り返した。
「じゃ、またね」
ミスティアルが選んだ別れの言葉。
再会を約束するような言葉に、アミスは表情を笑みへと変えると、
「はい、また……」
と、振る手を強めた。
そんなアミスを見て楽しそうな笑みを最後に浮かべると、ミスティアルはラディとフェミリアーネと共にその場を後にした。
三人の姿が完全に見えなくなるまでその背中を見送ったアミスは、やはり悲しさを隠せない表情で、目を伏せた。
そんなアミスが落ち着いて目を仲間達に戻した所で、ラスが口を開いた。
「説明してもらえるか?」
真剣で少し険しい表情のラスに、アミスは一瞬目を丸くしたが、当然の要望と判断し、ラス達を見渡すように視線を動かし、言葉を口に出そうとした。
しかし、それをリンが静止する。
「まずはこの国から出る事が先決。
説明は移動しながらでもできるでしょ?」
と、まずは移動を開始する事を提案する。
その提案に反対する者は居らず、5人はその場を後にする事にした。
様々な事があったグランデルト王国からサヨナラする為に……




