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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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主従

 外から何も音は聞こえない。

 アミスはリンが黙って待ってくれていると思いこんでいたが、タリサは気づいていた。

 リンが敵と対峙している事を……

 今は互いに動きを伺っているようで、気や魔力が動いていないのでアミスには気づけていない。

 幾度となく修羅場を潜り抜けてきたタリサは、冷静になりさえすれば、そんな僅かな気でも感じ取る事ができる。


 (すまない……、もう少しだけ時間を……)


 タリサは心の中でリンに謝罪をすると、できるだけ急ぐために意を決してを口を開く。


 「アミス……」

 

 呼ばれたアミスはタリサをじっと見つめた。

 何かを話してくれる気になったのだと判断して……

 彼女が何を言おうとしてるかは、アミスには予想がつかない。

 王を助けに行くと言うだろうか?

 それが無理と判っていても……

 だが、先程の様な心の乱れは感じない。

 故に、先程の様なネガティブな発言はしないのではないかと期待していた。


 「もし……、私が王を助けるために王城に戻ると言ったら、お前はどうする?」


 予想内の言葉だった。

 そして、その質問に返す言葉は決まっていた。


 「勿論、助力させていただきます」


 それはタリサの予想していた答。

 タリサは更に質問を続ける。


 「それがラスやリン達を窮地に陥れる事と判っているのか?」

 「……はい」

 「お前を信じてついてきてくれる彼等を巻き込むのか?

 お前達を騙し、罠に陥れた私の為に……」

 「……はい」

 「それが正しい行動だと思っているのか?

 お前はそれで仲間を失っても良いのか?」

 「……それは……」


 一瞬、アミスの言葉が詰まる。


 「そんなことにはさせません……」

 「お前は馬鹿なのか?

 それが現実的な考えだと思っているのか?

 それが出来るほどの力があると思っているのか?」

 「それなら……」


 捲し立てるタリサに、アミスは静かに返す。


 「タリサさんこそ、王様を1人で助けれると思っているのですか?」

 

 アミスから返ってきた言葉に反応して、タリサの目つきを鋭くなる。


 「無理だと判っていても、やらない訳にはいかない」

 「それなら、僕もそうです」

 「……」

 「僕もタリサさんを死なせない為に、タリサさんについていかなければなりません」


 そう返すアミスをタリサは睨みつける。

 アミスはタリサのそんな目にも引き下がる事はない。


 「タリサさん、無理をしないでください……」

 「……」


 アミスにはタリサの気持ちが判ってきていた。


 (やっぱり、タリサさんは優しいんだ……)


 タリサは自分の事を思って、厳しい意見を言ってくれている。

 それが判るようになってきていた。

 だからこそ、彼女を死なせたくなかった。

 死なせる訳にはいかなかった。

 故に、アミスは絶対に引き下がるつもりはなかった。


 「アミス、お前はこんな所で死ぬべき奴じゃない。

 私には、お前に生き延びて欲しい」

 「それはこっちも同じです」

 「同じ?」

 「僕はタリサさんに死んでほしくありません」


 判りきっていた答だった。

 アミスならそう言うと判りきっていた。


 「どう言えば、お前は諦めてくれる?」

 「諦めません……」

 「お前……」

 「死のうとしている人を置いて行くことはできません」


 気弱で一歩引いた性格のアミス。

 だが、人の生き死にが関わると絶対に退かない。

 こういった時だけは、頑固な一面が姿を見せる。

 タリサから見れば、それはとても危ない一面だった。

 その優し過ぎて甘い一面が、アミスを死に近づける。

 今回も今生きている事が不思議な状況だった。

 アミスもタリサも様々な人のおかげで生き延びている。

 ここで2人共死んでしまったら、その人達の助力は無となってしまう。


 (だからこそか……

 思えば今までやってきた事も、大差ないか……)


 タリサの心は決まっていた。

 あとは……


 「お前は、この国から逃げるべきだ……」

 「タリサさんを置いてはいけません」

 「逃げろ」

 「駄目です」

 「なら……」


 タリサは目を伏せる。

 次の言葉の為に気を溜める。

 そして……


 「ならば、どうすればいいんだ!?」


 タリサは怒鳴りつける様に言い放った。

 それに対して、アミスは声のトーンを上げて返す。


 「諦めてください!」

 「諦める? 何をだ?」

 「王様を助ける事を諦めてください!」


 タリサは目を見開く。


 「そんなことは……」

 「もう、タリサさんには助ける事はできません……」

 「そんなひどい事を言うのか……」

 「ごめんなさい……」


 謝るアミス。

 その瞳から零れ落ちる物に、タリサは更に目を見開く。

 

 「タリサさんを助ける事が出来るなら、何でも言います。

 死んでほしくないから……

 優しいタリサさんに死んではほしくないから……」


 次から次へと流れてくる涙を止める事もせずに、アミスは懇願する。

 そんなアミスを見つめるタリサ。

 

 (最低だな……、私は……)


 もう心内は決まっていたというのに、決心はついていたというのに、余計な事を言い、そして、余計なことを言わせた。

 そして、アミスを泣かせてしまった。

 タリサは目を瞑る。

 そして、再度決意を固めた。

 タリサはアミスとの間合いを詰めて正面に立つ。

 そして、アミスの前で片膝をつくと、剣を前に置き頭を下げた。

 まるで、謁見の間で王に対しているかのように……


 「!?」


 驚きでアミスの涙が止まる。


 「タ、タリサさん!?」

 「私は!!」


 慌てて手を添えてタリサの頭を起こそうといたアミスの動きを、タリサの声が止める。 


 「今まで、主であるブランキス王の為に生きてきた……」

 「……」


 口を挟むことはしてはならないと思った。

 だから、アミスは黙ってタリサの言葉を聞いた。


 「かつて、生まれ育った村を山賊に襲われ、復讐心に支配され、闇に落ちかけていた私の心を救ってくれたのがブランキス王だった」


 村の仇である山賊の話。

 かつて言っていた話が嘘ではなかった事にアミスは驚いたが、それでも口を挟むことはしない。


 「それから、私の全てになった。

 王の理想の国家をつくることが私の全てだったんだ」


 頭を下げたままのタリサの肩が震えている事に気付く。

 もしかしたら泣いているのかもしれないと思った。

 それでもアミスは我慢した。


 「その王の国は無くなった。

 だから、私には何も残っていない……」


 アミスの瞳から再び生まれる涙。

 アミスは何も言えない。

 言うのを我慢している訳ではなく、言えなくなっていた。

 先程言った自分の言葉がどれだけ酷い言葉だったかを、改めて実感していた。

 それでも、あの言葉を取り消す訳にはいかなかった。

 だから、まだ王を助けると言うなら……

 王の後を追うと言うなら……


 (絶対に止めなければ……)

  

 アミスは涙を止める事をせずにそう思う。


 「だから……」

 

 止める言葉を心の中で準備をするアミス。


 「私の主になってほしい!」


 タリサは下げていた頭を更に低く下げた。

 思ってもいなかった言葉に、アミスは言葉を失った。

 準備をしていた言葉も頭から消え去っていた。


 「もう私には、王を助ける事が出来ない事は判っていた。

 だが、私には王の為になる事しか生きる道はなかったから……」


 タリサは頭を上げずに言葉を続ける。


 「だから、死んでも良いと思った。

 助ける事は出来ないと判っていても、助けに行く……

 それで命を落としても……」

 「!!……」

 

 アミスにとって認める事の出来ない発言に、言葉が出かかるアミス。

 だが、タリサの言葉がまだ途中だと判っていたので我慢する。


 「それが自己満足にしかならない事は判っていた……

 だが、部下達を失い、それしか選択肢が残っていないと思っていた。

 だけど……」


 そこで、タリサが顔を上げた。

 真剣で強い想いがこもった瞳でアミスへと向ける。


 「私を生かそうとする人がいる……

 死んではいけないと言う人がいる……

 そんな()()の言葉で、思い出した……」


 タリサの感情が高ぶっていくのがアミスにも伝わり、アミスの感情も同じように高まっていく。

 目頭に再び熱いものを感じるアミスだったが、それも我慢する。


 「たとえ自分が死んだとしても殉死は認めないと、王が言っていた事を……

 そう、死は何も生まない……

 助けてもらった命を捨てる事は誰も望んでいない事を……」


 アミスは黙ったまま頷く。

 それを見てタリサの口元に僅かに笑みが灯る。

 

 「だから、生きる意味を欲しい……」

 「……生きる意味……」

 「私は忠に生きる者だ。

 その対象がいないと進む道が見えてこない」

 「だから、僕を主に……?」


 タリサは頷くと、再び頭を下げる。


 「今、私に希望があるとすれば、心優しい貴方の力になる事。

 ブランキス王の様な優しさを持つ貴方の……」

 「タリサさん……

 でも僕はただの冒険者です……」

 「判ってます」


 タリサは再び顔を上げる。


 「判っている……

 アミス様……、アミスがそういうのを望んでいない事は……」


 戸惑っていたアミスに優しげな笑みを向けるタリサ。


 「仲間として受け入れてくれるだけでいいんだ。

 ただ、私の心の奥底にある忠という心を判って欲しかっただけ……

 私は騎士だから……

 もう騎士ではなくなるかもしれないが、最後に騎士として忠誠を誓いたい。

 もう裏切る事は……

 二度と、アミス・アルリア様を裏切る事はしないと……

 だから……」

 

 タリサは頭を下げながら、剣をアミスへと掲げた。

 忠誠の証として、アミスへと剣を捧げる事を示す。


 静寂が時を包む。

 アミスは考える。

 どうするべきなのか……

 

 (どうするべき?)


 そんなのはひとつしかなかった。

 断る理由などないのだ。

 それを認めるだけで、彼女は生きてくれる。

 側にいてくれる。

 それはアミスが望んでいることだった。


 「タリサさん……」


 タリサは名を呼ばれても反応しなかった。

 それが何を示しているか気づき、アミスは言い直す。


 「タ、タリサ・ハールマン……」

 「はい……」

 「その忠誠を認めます……」


 詳しい形式など判らないアミス。

 そんな中、必死に言葉を発し、タリサが掲げた剣を受け取った。

 それを確認したタリサは、もう一度深く頭を下げるとすくっと立ち上がる。

 そして、アミスの事を見つめる。


 「……」

 「……」

 「あの……」


 アミスが躊躇いがちに口を開く。


 「今まで同じ口調でお願いします……

 アミス様は嫌ですよ……」


 そんなアミスの言葉に、タリサは思わず笑ってしまった。

 優しくアミスの頭を撫でながら……


 「判っているよ……」


 タリサのその言葉に笑顔を見せるアミス。


 「よろしくな……アミス様」


 タリサのその言葉に口を尖らすアミス。

 そして、直ぐにお互いの表情は笑顔に……


 「では、皆と合流しましょう」

 「あぁ」


 2人は小屋から出る。

 ラス達と合流する為に……

 仲間と共に、グランデルト王国から逃げる為に……


 (エリス……、これで良いんだな? これで……)


 タリサは自分が生きる事を願った者の1人の事を思う。

 誰よりも策を好み何を企んでいるか判らない男。

 タリサのそんな考えを完全否定した男。

 そんな男がたった一つの簡単な理由で願った事。


 (今度こそ守って見せるよ……)


 タリサは恩返しとする為……

 そして、自分自身の願いとして、アミスを守る事を決めた。


 (お前の大事な弟をな……)


 エリフェラス・アルリアの顔を思う浮かべながら…… 


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