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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
2・仲間
7/144

127体の・・・

前回からの引き続きの登場人物


 アミス・アルリア ;見た目は美少女、中身は少年魔法使い。

 ティス      ;アミスの使い魔

 ラス       :謎のハーフエルフ

 ディルク・・(長すぎて省略);深淵の森を抜けるための護衛依頼をしてきたが・・・


 夜は更けてきたが、寝るにはまだ早いと思いながら、アミスは考え込んでいた。

 ふと数えてみると、冒険者として旅に出てから12日経っていた。

 たった12日間の間で、遺跡の(たぐい)に二度入り、本来であれば、自分のレベルには不釣り合いなほど戦いを経験し、5体もの聖獣を手に入れた。

 聖獣に関しては、ありえない程運が良かった。

 しかし、その為に払った代償は決して小さくはなかった。

 今は、思い出すには辛い経験であった。

 いつか心の傷も癒え、じっくり思い出せる日がくるかもしれない。

 初めて得た仲間を失ったあの経験を・・・


   コンコン


 眠りかけた時だった。

 アミスは、ノックの音に慌てて身を起こした。

 ベットの横に立てかけていた杖を手に取り、警戒する。


   コンコン


 再度のノック。


 「どなたですか?」

 「・・・ラスだ」


 その名に、警戒を更に強めるアミス。


 (ティス・・・透明に・・・)

 (わかった・・・)


 アミスは、ゆっくりと扉へ近づく。

 

 「警戒しなくていい・・・、と言っても無理か・・・」

 「・・・今、開けます・・・」


 アミスが扉を開けると、


 「一人か?」


 と、ラスは尋ねた。


 「だれもいません。どうぞ・・・」

 「ああ、夜分に悪いな・・・」

 

 ラスは、部屋へ入ると、すぐに話を切り出した。


 「手伝ってもらいたいことがある・・・」

 「え?」

 「ふっ・・・」


 アミスの反応を見て、ラスは小さく笑った。


 「?・・・、手伝うって何をですか?」

 「用心深いのか、人が良いのかわからんな・・・」

 「・・・どういう・・・」


 やや混乱気味のアミスに、ラスは腰の剣を外し、ベットの上に放り投げた。


 「依頼内容は、ディルクへの調査だ」

 「ディルクさんへの?」

 「朝の四人組が行方不明になっている。十中八九、ディルクが絡んでる」


 あまりに突然すぎるラスの話に、アミスは戸惑った。。

 しかし、ディルクが四人組へ向けた殺気のことを思い出す。


 「・・・殺気・・・」 

 「気づいていたか・・・」


 ラスは笑みを浮かべながら、辺りを見渡した。

 

 「他に仲間がいるのか? 気配を隠しきれていないが・・?」

 「!?」

 

 驚くアミス。

 そして、ティスはため息をつきながら姿を現した。


 「やっぱり、気づかれてたのね・・・」

 「ピクシーか・・・、珍しい組み合わせだな」

 「そう?」


 置いてけぼりになりそうなアミス。


 「アミちゃん、たぶん、彼は大丈夫よ。少なくとも、あのディルクって奴よりは信頼できそう」

 「なんでそう思う?」


 ティスの言葉に、疑問を投げかけたのはラスだった。


 「あいつと違って、魔の力を感じないもの・・・」

 「魔の?」

 「うん、魔の・・・、変な奴との戦いが続いて、なんとなくわかるようになっちゃった」


 アミスもラスも驚きの目をティスに向けている。


 「たぶん、良い人よ。ラス君はね」

 「ラス君って・・・」


 ラスは、やや呆れていたが、


 「それなら話が早いな。詳しく話させてもらうがいいか?」

 「いいわよ」

 「お前に訊いてない」

 「むむ・・・」


 既に仲の良いやり取りをするラスとティスに、戸惑いながらも、


 「はい、お願いします」


 と、アミスは返した。



 ラスが受けた依頼は、通る事が出来なくなった深淵の森の調査だった。

 依頼主はキックオークの治安維持団。

 調査していくうちに、行きついた先が、ディルクという存在だった。


 「まだ確証を得る段階ではないんだが、まず間違いないと思う。しかし、調査の結果を報告するにしても、キックオークまでは五日かかるからな。できるだけ情報を増やしたい。もし可能であれば・・・」

 「原因を無くしたいと・・・」

 「できればな・・・、調査だけなら一人で充分なんだが、もし戦闘になると考えるなら、戦力が多い方がいい」

 「戦力? 僕がですか・・・」

 

 自分を戦力とみるラスを不思議に思うアミス。


 「聖獣持ちだろ?」

 「!?」

 「驚いたか? それぐらいは感じることができるんだ。なんとなくな・・・、ま、話を戻すが・・・」


 ディルクまで辿りついたはいいが、Aランク冒険者が行方不明になっている以上、何かやっかいな存在がいるはずだった。 

 そのために戦力が欲しかったのだ。

 その時、聖獣の力を感じるアミスが現れたのだ。

 ラスもまずは様子を見るつもりだったのだが、四人組の失踪の情報を耳にし、のんびりする時間はないと思い、行動開始に踏み切ったラスは、アミスを訪ねてきたという。


 「依頼料は、今回の調査の依頼料を頭割りだ。全時点での報酬は3万バリューだから、二人でやれば1万5千だ。危険度によっては追加報酬もあり得る。どうだ?」

 「・・・危険度によっては、逃げる選択肢もあるなら・・・」

 「当然だな、俺は騎士でもなんでもない。依頼主の為に死ぬ気はない」


 ニヤリと笑うラス。

 アミスとティスも笑顔になる。


 「わかりました」


 と、アミスは手を出す。


 「・・・普通、冒険者は、利き手を相手に差し出すものじゃないぞ」


 無警戒過ぎるアミスに、ラスに警戒心は薄れていく。


 「これが演技なら、恐ろしい奴だがな・・・」


 と、右手で握手をしながら、ラスはそう思っていた。



 アミスは、ラスに自分のできることを全て話した。

 魔法に関しては、黒魔法が主で、水と風の精霊魔法と多少の神聖魔法を使えること。

 魔力はそれほど強くはなく、攻撃魔法は得意ではないこと。

 身体能力はそれほど高くはなく、力に関しては、見ての通り、強くはないこと。


 そして、現在契約している聖獣のことも。

 五体の聖獣と契約していることに、当然ラスは驚いた。

 俄かに信じられない事だったが、アミスが一体ずつ聖獣を呼び出して証明しようとし、三体目を呼び出そうとした時点で、ラスは認めるしかなかった。


 ラスも自分の能力を語る。

 片手剣による近接戦闘と、水と氷の精霊魔法と、あまり大きな効果は望めないが、魔力の物質化も使えるとのことだった。

 今度は、アミスが驚いた。

 魔力物質化魔法は、高度な魔法であり、できない者は生涯かけても会得することはできないものだった。

 もちろん、アミスも習いはしたが、会得はできなかった。

 三人は次の行動を決め、それぞれの部屋に分かれた。

 眠りにつくラスとティス。

 アミスだけは、寝付けなかった。

 Aランク冒険者ですら失敗した相手。

 また、ぎりぎりの戦いが待ってるかもしれない不安が、アミスを中々寝付かせてくれなかった。


 



 「まさか・・・あれか?」

 ディルクのアジトがあまりにもあっさり見つかり、拍子抜けとばかりに、ラスは呟いた。

 ティスの『 透明化 』に気づかずにあっさりと尾行を許し、あっさりと深淵の森の中にあるアジトへ案内してくれた。

 森の中には不自然な、大きめの建物が建っている。

 大きさの割には、扉も一つで窓もない。

 まるで誰かを監禁するために建てられたような・・・


 「森の中にあんなの用意してるとは、犯人確定だな・・・。あとは、どんな手でAランクを、だがな・・・」

 「どうしますか?」

 「・・・そうだな・・・、もう少し様子を見るか・・・」


 アジトに火を点ける?ことも考えたが、中に捕まっている冒険者達がいてもやっかいだった。

 

 「あのピクシーの能力は、どれぐらい持つんだ?」

 「そんなに長くは持たないですね・・・」

 「そうか・・・、なら、戻した方がいいな」


 アミスは頷くと、ティスに戻るように指示を出す。


 「どうするの?」


 戻ってきたティスがさっそく訊いてくる。


 「どうする・・・かな・・・」

 「決めてないの? なら、もう少しあっちにいても・・・」

 「いても意味ないから、戻らせた。それとも、あの中を見てきてくれるか?」

 「・・・無理」

 「だろ?」


 (仲が良いな・・・)


 出会って間もないのに、自分より仲良く感じてしまうアミスだった。


 「!?」

 「出てきた・・・」


 観察していた建物からの二つの人影。

 一人はディルク、そして・・・ 

 

 「スコット・・・か」

 

 名前は知らなかったが、アミスにも見覚えのある人物だった。

 四人組の冒険者のリーダーだった男。


 「グルだったってこと?」

 「・・・いや、違うな・・・」

 「え?」


 ティスの言葉を否定するラス。

 アミスにも気が付いていた。


 「ラス君! アミス君! 残念ながら、そこに隠れているのはわかっている」

 

 ディルクの言葉に、ラスは溜息を一つ。


 「やはりか・・・」


 あまりにもあっさり尾行が成功してたことに、違和感はあったのは確かであり、しかし、慎重になりすぎては、調査は進まない。

 ラスは、そのギリギリを攻めたつもりだったが、ディルクの方が一枚上手だった。


 「まあ、君達が組んでくるとは、まさかにも思わなかったがね」

 「そうかい? 一人ってのは不安だったからな・・・」


 と、返しながら、ラスはディルクの視界内に出た。

 アミスも続き、ティスはアミスの服内へ隠れた。

 

 「やはりな・・・」


 僅かに近づいて、確証を得る。

 元はスコットいう名の冒険者だった彼が、既にそうではないことを・・・


 「ゾンビ化ですか・・・」


 アミスは眉を(ひそ)めた。

 ディルクの横に立つ冒険者は、すでに目玉がなくなっていた。

 皮膚も(ただ)れ、原型はない。

 ただ、体型と身に着けている装備類が、元スコットと呼ばれていた冒険者だったことをわからせる。

 会話をしたことはない、ただ見たことがあるだけの人物とはいえ、どうにもならない感情が、アミスに湧き上がってくる。


 (ゆるせない・・・)


 「なんでそんなことを?」


 黙ってディルクを睨みつけるアミスとは違い、ラスは、感情を殺し、状況を整理する。

 教えてくれるとは思っていない。

 ただの時間稼ぎの質問だった。


 「言う必要はないだろ? 動く死者になれば考えるとかはいらないのだから・・・」


 おおよそ予想範囲内の返答に、ラスは苦笑する。


 「何がおかしい?」

 「いや、なにも・・・」

 

 今度は楽しげな笑みを浮かべるラスに、ディルクはイラ立ち始める。


 「状況が解っているのかね? それとも、これだけだと思っているのかね?」


 ディルクの動きに反応してか、視界内にさらなるゾンビが現れだす。

 見えるだけでも、30体はいる。

 行方不明者数を考えれば100体以上いるのかもしれない。

 だが、ラスには余裕があった。


 「アミス、頼むぞ・・・」

 「え? 何がですか?」

 「は、何がって・・・」

 「あ、あ、あんな数のゾンビ、僕の神聖魔法でも、どうにも、な、ならないです・・・」


 (いや、そんなわけ・・・)


 慌てふためくアミスに、ラスは一瞬戸惑ったが、すぐに・・・


 「いいから、【 死者浄化 (ターンアンデット)】を使え!!」


 と、怒鳴りつける。


 「は、はい!!」


 咄嗟に【 死者浄化 (ターンアンデット)】を唱えたが、発動しなかった。


 「そんな無駄なことやめたまえ、せっかく貯めた127体のゾンビを無駄に減らすな・・・」


 ディルクは怪しげな笑みを浮かべる。


 (127体・・・)


 アミスは聞き逃さない。


 「もう少し冷静になりたまえ・・・、そこでその魔法が使えると思うのかね?」


 二人は辺りを見回した。


 「気づいたかね? 森の中だったから気づかなかっただろ? この中では神聖魔法は使えんよ」


 森の中

 草木が繁り見えなくなった地面に、魔法陣が描かれていた。


 「くっ・・・、魔法陣からでるぞ、アミス!!」

 「無駄だって、この数のゾンビの中、出れるかね? 127体のゾンビの中をかき分けて・・・」


 すでに囲まれていた。

 ラスと、アミスを完全に包囲したゾンビ達。


 (127体だってさ・・・)


 ティスも聞き逃さない。


 「さあ、君達も129体目のゾンビへと・・・、!?」


 ディルクは気づいた。

 絶望的な状況と思える中で、二人は笑みを浮かべていることに。


 「何が・・・」


 『・・おかしい?』と続くはずだった。

 しかし、言葉の途中で、突然現れた神聖魔法の魔力に、驚愕し、言葉が止まる。


 「一網打尽だよ」


 ラスが言った。

 そして、森の木々よりさらに高い上空から、≪ 白翼天女 (ラシェール)》が唱えた【 死者浄化 】が発動し、127体全てのゾンビが消え去っていった。

 

 「この範囲すべてかよ・・・すげ~な・・・」


 聞いてはいたが、やはり驚くラスだった。


 

 ゾンビがいなくなれば、ディルクはすでに何もできなかった。

 逃げようとして、簡単にラスに取り押さえられた。

 抵抗もむなしく、ラスに剣を突き付けられ、軽く凄まれただけで、抵抗を辞めた。

 念のために、【 眠り (スリープ)】で眠らせてから、魔法の綱でしっかりと縛り付ける。

 そして・・・



 「急に、あんな反応するからビックリした・・・」

 「すいません、確実に全てゾンビを範囲内に集めたかったので」

 「いや、すぐに気づけたから問題ないが、打ち合わせにないこと急にやられると、こちらが慌てる可能性があるってことは考えなかったのか?」

 「あ、ラスさんならなんとかなるかと・・・」

 「昨日会ったばかりで、よくそこまで信じれるな・・・」


 ラスは呆れてしまう。


 「でも、予想した中で、一番対処が簡単なので良かったですね」

 

 アミスは安堵した様子で、微笑む。


 「いや、その聖獣ありきだぞ。それがなければ、俺らもゾンビだ・・・」


 楽観的な発言をするアミスに、更に呆れた。


 「とりあえず、こいつをキックオークへ運んで報告するまでが仕事だから、一緒に来てもらうからな」

 「はい、大丈夫です」

 「・・・・」


 じっと自分を見るラスに、アミスは首を傾げる。


 「何か?」


 ラスは一拍置いてから尋ねる。


 「ホントに男か?」


 何度見ても美少女にしか見えないアミスに、再度確認。


 「男です!!」


 アミスの大きな声が、森に響いていた。 


   

次回更新は、27日の19時予定

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[良い点] "(((ΦωΦ)))" アミスの女の子ネタっ!ww
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