アミスを守る為……
登場人物紹介
◎アミス・アルリア
本作主人公
ハーフエルフの少年魔導士
タリサを助ける為に駆け付けたが……
◎タリサ・ハールマン
元暗黒騎士団の女将軍
騎士団長のクーデターにより国を追われ逃走中
◎リン・トウロン
アミスと行動を共にするシェイプチェンジャーの娘
アミスに思いを寄せる
◎ミックス・コトー
タリサ追跡部隊の一員の魔術師
常に慎重に行動する
◎ロイ
ミックスの部下の少年
獅子のシェイプチェンジャー
◎エリフェラス
知衛将軍の称号を持つ謎多き男
「アミス!!」
タリサの反応は遅かった。
だが、アミスは反応すらできていない。
タリサの表情で気付いた時には、既に背中に魔力が迫っていた。
魔力の塊がアミスの背中に炸裂し、アミスの小さな体が吹き飛ばされる。
幸いにも飛ばされた方向がタリサが立っていた場所だった為、タリサは咄嗟に受け止める体制に入った。
勢いは強かったが、元々アミスの体重が軽かった事もあり、受け止める事に成功。
受け止めなければ、壁に強く体をぶつけて大きなダメージを受けていただろう。
「おい、大丈夫か?」
タリサは自分の体をクッションとして、衝撃を和らげていた上に、頭なども打っていないはずだった。
故に大丈夫のはずと思いながらも、そう訊ねる。
タリサの思いとは裏腹に、直ぐに返ってくるはずの返答が返ってこなかった。
「アミス?」
目を閉じたまま動かないアミスを見て、タリサの心は激しい鼓動を打つ。
「おい、アミス!」
体を強めに揺するが、アミスから反応が返ってこない。
軽く混乱しかけた所で、声がかけられる。
「残念ですが、簡単には目を覚まさない……」
声が聞こえた方向へと目を向けると、そこには一人の魔術師風の男が立っていた。
「ミックス・コトー……」
「じっとチャンスを待った甲斐がありました」
冷たい目付きでタリサをじっと見つめるその姿は、リグス達の戦いを後ろからずっと観察していた時と変わらない。
落ち着いた雰囲気のまま、ただ、口元に浮かべた笑みだけが彼の今の感情を表しているように見えた。
一切戦闘に参加せず力を温存しつつも、その姿を見せる事で警戒だけを煽る。
警戒心の強いタリサには、それだけで充分に効果があった。
「今の魔力弾は、単純な攻撃ではないのですよ」
「なに?」
タリサは自分の手の中のアミスに目を落とす。
大きな傷を負った様子はない。
見る限り呼吸も正常に思えた。
だが、目を覚まさない。
「気を失わせつつ眠りへと誘う魔力を帯びさせていました。
それをまともに喰らった以上、簡単には目を覚まさない……」
静かに淡々を告げるミックス。
「将軍が【 解呪】を使えたなら、簡単に目を覚ませることができたかもしれませんが……
あ、もう将軍ではないか……」
「なるほどな……、だからまずアミスを狙ったという事か……」
「それだけではないですよ。
タリサ・ハールマン、不意打ちで狙ったとしてもあんたなら躱してしまうかもしれないですからね……」
ミックスがより確実な方を選んだという事だった。
だが、それだけではない。
「あと、まともな武器を持たない戦士より、聖獣を複数有する魔法使いの方が厄介……」
慎重に冷静に、より確実な選択肢を選ぶ。
ミックス・コトーとはそういう人物だった。
慎重さのおかげで、今まで大きな失敗をしたことが無かった。
だが逆に慎重すぎるが故に、大きな手柄を立てる事も出来なかった。
今回の任務も、あのまま行けばリグスの補佐という小さな手柄で終わっていたはずだ。
しかし、予想外の展開が、ミックスに千載一遇のチャンスを与えたのだ。
そのチャンスは、僅かにミックスの意識を変化させ、少しだけ手柄をあげる為の行動をさせた。
「打開策があると思わないことです……」
ミックスは会話を打ち切り魔法を放つ。
【 魔力弾 】
まずは牽制の攻撃魔法。
威力より手数で牽制する。
激流で受けたダメージで、万全ではないタリサだったが、それでも問題ない攻撃のはずだった。
だが、今はアミスがいる。
気を失っている小さな体が、その両手で抱き抱えていた。
躱せるはずの攻撃が躱せなくなっていた。
歯ぎしりをするタリサを見て、ミックスの口元の笑みが大きくなっていく。
「おっと……」
ミックスはそれに気づくと口元を左手で隠した。
(油断はするな……、リグスと私は違う……)
タリサは完全な回避は出来ていないまでも、大きなダメージを受けない様にアミスを庇いながら間合いを詰める。
ミックスはタリサの実力の高さを再度実感していた。
ミックスの予測では、アミスを見捨てない限り、回避行動しか取れずにジリ貧になっていくだけだったはずだ。
だが、実際のタリサは、多少のダメージを負いながらも自分に近づいてきている。
思ったより高い実力だったが、予想の範囲外ではない。
(問題はない……なんの問題はない……)
ミックスは冷静に用意していた魔法具を発動させる。
部屋が光と魔力を帯びだすと同時に、ミックスの体が宙に浮き始めた。
タリサは深追いせずに、警戒態勢をとる。
魔力を帯びた室内を冷静に見回す。
何が起こったかは直ぐに知る事が出来た。
本来では戦闘に向かない狭さだったその部屋が、壁さえ見えない程の空間へと変わっていた。
天井も見えない程高くなっており、短剣しか持たないタリサには、宙に浮いたミックスへ攻撃を当てる事は難しくなってしまう。
元々気を失っているアミスを守りながらの戦闘であるタリサの攻撃範囲はかなり狭いのだから。
(チャンスを待つしかないか……)
タリサは冷静に戦況を分析する。
どう考えても、戦況を打破できる要素が無かった。
自身の優位性に自惚れてくれるタイプであればチャンスも与えてくれるだろうが、今の所、ミックスはそんなタイプとは思えなかった。
タリサは、視線を自分の腕の中で眠るアミスへと向ける。
(なんとしても、アミスだけは……)
タリサは、この戦闘の目標地点を定めた。
願うのはアミスの無事だけ……
「!?」
冷静にタリサの動きを観察するミックスは、目を見開く。
彼女の口元から笑みが零れていたからだ。
(何か策が……?)
ミックスは牽制の攻撃魔法を放ちながら考える。
絶対的に有利な自分に溺れる事はない。
だが、ミックスは知らない。
時には多少のリスクを背負わなければ成功者にはなれない事を……
万全と思われていた今回の策に一つの穴がある事を……
そして、タリサ・ハールマンという女将軍の真の実力を……
リン・トウロンは後悔していた。
自分の優しさが、自分の甘さが、守らなければならないアミスを危険な目に合わせてしまっている。
小屋の中の状況は判らない。
魔法によって隔離された空間となっている。
そして、それ以上に邪魔なのが、自分の周囲を囲む連中だった。
気配を探った限り15名程だろうか?
目に見える位置にいるのは7名。
正面に立っている男が率いている様子だった。
その見た目からリンの頭に浮かんだことは二つ。
周りの兵士達と比べて随分と若いという事。
外見だけでの予想では、15歳前後といった所だろう。
それでも命令に慣れた雰囲気はあるので、見た目よりは上かもしれないとレンは判断する。
そして、もう一つ気になったのが、
(随分と軽装だな……)
そう思ったリン自身も軽装な部類だ。
だが、今まで見てきた暗黒騎士団達は、魔法使い系であってもしっかりと鎧に身を包んでいた。
(スピード重視の軽戦士タイプか? それならば比較的楽だが……)
リンには、シェイプチェンジャー特有の高い身体能力がある。
最悪の場合は、獣人化すればスピードで負けない自信はある。
半獣人化すれば、パワーとスピードで圧倒できるだろう。
ただ、問題は敵の数だった。
(さて、どうするかな……? まずは半獣人化してか……)
「半獣人化はお勧めしない……」
「!?」
まるで心の中を覗かれたような言葉だった。
相手が直ぐに攻撃を仕掛けてくる気配がしない為、リンはその少年をじっくり観察する事にする。
「もしかして、あなたも……」
僅かに感じ取れた魔力と匂いで、ある一つの可能性に気付く。
そして、少年は察したように笑みを浮かべる。
「リン・トウロン……、君の思った通りボクもシェイプチェンジャーだよ。
君は虎らしいけど、ボクは獅子だ」
「獅子……」
素直に驚きの表情を見せるリン。
人と獣、二つの姿を持つシェイプチェンジャー。
珍しい種族であり、普通はそんなに見かける事はない。
実際、リンは村を飛び出て冒険者になって5年の月日が過ぎようとしているが、最近まで会った事はない。
それが、ついこの間出会った銀狼のシェイプチェンジャーのトリスタン・ゼラに続いて立て続けに出会う事になるとは思ってもいなかった。
故に、驚きを隠すことが出来ていない。
「あなた、名前は? 出身はどこ?」
他愛もない質問。
少年はそれに答える事に意味は感じなかったが、とりあえず名前だけでも名乗る事にした。
「ロイ……」
「……」
リンは少しだけ待ったが、それ以上の言葉が返ってくることはなかった。
元々、思考の為の時間稼ぎ。
ロイが感じた通り、返答があっても大した意味はない。
ただ、そんな時間稼ぎも必要なかったと思えるほどに、リンが目の間の敵から殺気を感じれなかった。
(なるほど……、奴等の任務は私を小屋の中に入らないようにすることか……)
寧ろ急がなければならないのはリンの方だった。
僅かに焦りの感情が湧き上がってくるが、目の前の少年が同族と判った事で慎重にならざる負えなくない。
シェイプチェンジャーの特性を良く判っているのだから……
獣の身体能力で武器を使用でき、幅広い戦い方が可能な半獣人化にはシェイプチェンジャーしか知らないリスクがある。
それは、体力の消耗。
獣の身体能力を無理やり人の姿で使えるようにする為に、身体への負担は大きく、それが体力の消耗に繋がってしまう。
一対一や、仲間と協力し合える状況であれば、気を付ける程度でいい。
相手がこの特性を知らなければ、体力の消耗を抑える時と力を使う時を上手く組み合わせる戦いもできただろう。
だが、相手はそれを知っている相手。
下手な事はできない。
それはお互い様な面はあるが、ロイには部下が居て、リンは今は1人の状態。
慎重になるべき状況だったが、焦る気持ちを消すことができるはずがない。
不安で鼓動が激しくなっていく。
リンは実感する。
自分がどれだけアミスを大事に思っているかを……
こんな短い付き合いで、ここまでの気持ちになるなんて思ってもいなかった。
考えない様にしたくても、アミスの笑顔が頭に浮かんでくる。
それを失ってしまうかもしれないと思うと、落ち着く事ができない。
冷静になり切れる訳がなかった。
(だが……)
リンは感情を抑え込む。
冷静になろうと抑え込む。
ただ、一つの目的の為に……
アミスを助ける為に……
アミスを助けようとしている人物はもう1人。
タリサ・ハールマンは反撃の機会を伺っていた。
しかし、過ぎるほどの慎重さを持つミックス相手に、チャンスの欠片すらも拾う事が出来ずにいる。
今はただ、アミスへの攻撃を防ぐだけしかできない。
自分の体を盾代わりにしながら、必死に防ぐ。
どうにもならない状況に、助けを期待してしまう。
だが、それを期待するだけ無駄な事は判っていた。
昔、自分を助けてくれたブランキス王。
親友であり、共に王を守り合うと誓ったフレイディア。
信頼できた精鋭とも言うべき部下達。
浮かんでくる顔は、もう会う事が出来ない人達ばかりだった。
「くっ!!」
タリサは出かかった涙を必死に堪える。
自分も同じ場所へ行くことは怖くはなかった。
ただ、自分のせいで不幸への道を進んでいるこの少年だけは救いたい。
それだけの思い出がタリサを諦めさせない。
どうにもできない状況でも諦めさせない。
そんな彼女の頭に新たに浮かんでくる顔。
それはまだ死んでいない、いや、死んでいないはずの顔。
フェミリアーネ、ラス、リン、レン、ミスティアル、ラディ……
そして、最後に浮かんだ人物の名が、自然と口から出た。
「エリフェラス……」
敵になったはずの男の顔。
敵になったはずなのに、自分を逃がした将軍の顔。
知衛将軍エリフェラス。
「エリス……」
「どうしたタリサ?」
そんな返事が返ってきた。
幻聴まで聞こえうようになったのだと、心の弱い自分に失笑が漏れる。
「いよいよ、限界か……」
心が折れかけているのだと思った。
自分一人なら、既に諦めているのは間違いない。
だが、アミスを守らなければならないという思いが、タリサを再び気をしっかり持たせる。
ミックスをキッと睨みつけるタリサ。
だが、ミックスの視線はタリサに向いていなかった。
気付けば連続で放たれていた攻撃魔法が止まっている。
タリサはミックスの視線の先へと、目を移す。
そして、一瞬動きを止める。
幻聴だけでなく、幻覚が見える様になったのかと思いもしたが、ミックスの驚きの表情がそうではない事を教えてくれていた。
「何をしに来たのですか?」
ミックスが眉をすっと吊り上げながら訊ねた。
そう、それはタリサも訊きたかったこと。
(何故、お前がここにいる? お前はここに居てはいけないはずだ……)
そう、エリフェラスの今の立場と性格を良く知るタリサには信じられない事だった。
(まさか、私を助けに来たのか? そんなことは……)
それはあり得ない事だった。
あの時、互いにそれを理解した上で別れたはずだった。
王の間でタリサを捉えず逃げる様に促したのは、エリフェラスの最期の優しさだった。
それ以上の事はできないと、あの時のエリフェラスは表情に現していたのだから……
「やはり、その女とグルだったという事か?
新王の邪魔をするということですか?」
そう訊ねながら、ミックスは考える。
この状況を把握しているにも関わらずに姿を見せたエリフェラスが、何を企み何をしようとしているのか予想立てる。
直接の上司に当たるモルデリドからは、目の前にいる男の評価についての巷に流れる噂は当てにならないと聞いている。
知恵のみで戦闘力が低いという評価。
それが当てにならないという事は、実際は高い戦闘力を有しているという事だろうとミックスには考えられた。
そして、今この場に姿を見せたという事は……
(魔法使いタイプか……)
戦況を見つめ直す必要が求められていた。
いつも通り、慎重に分析を始める。
が、その前にエリフェラスがクスクスと笑い出す。
「何か面白い事でも?」
人を小馬鹿にした笑い方だった。
挑発目的だろうと思いながらも、ミックスは不機嫌さを顕わにして訊ねた。
「いえ、新王の邪魔とは、よく言えたものだと思いましてね……」
「どういう事ですか?」
「戦力を分散してまでの追跡は駄目だと言われませんでしたか?」
ミックスは新王となるゼオル・ラーガの言葉を思い出す。
確かにそんな事を言っていた。
しかし、ミックスにとって直接の上司は副団長のモルデリドであり、そのモルデリドからは最低でもタリサ・ハールマンは逃がさない様に厳命されている。
その為には、今の自分の行動は間違っていないはずだった。
「戦力を分散した結果、コンスタン・バームとリグス・キャンベルの両名は命を落とした。
今は少しでも戦力を残したいゼオル様の考えに抗う行動だと思いますけどね……」
笑みを言いながらのその言葉に、ミックスは僅かにイラつきを見せていた。
だだ、それをすぐに驚きの表情へと変える。
(命を落とした? 両名?)
ミックス自身も、あの状況ではリグスが敗死する可能性がある事は予想できていた。
だが、コンスタンについては予想外だった。
自分と同時にあの場を離れたはずなのだから……
(いったい誰が?)
ミックスの思考に混乱が混ざりだしていた。
だが、直ぐにその事は忘れる事にする。
今必要なのは、この場の行動選択とそれに伴って得られる結果のみ。
「私にも反省すべきことがあるのは事実でしょう。
ですが!」
ミックスは珍しく強気を見せていた。
この場の空気をエリフェラスに支配されつつある状況を変える為。
「今、この場でタリサ・ハールマンとアミス・アルリアを逃がす理由にはなりません。
邪魔者さえ居なければ、問題なく討ち取れますからね……」
「なるほど……」
「ですから、邪魔はしないでもらいたいですね……、知衛将軍……」
ミックスの言葉を受けて、エリフェラスは考える素振りを見せていた。
タリサ、アミスと視線を移し、そのままの流れでミックスへと目を戻す。
「さて、どうしたものか……」
「何を悩む必要がありますか?
そこの2人は敵です。
それを躊躇う理由など……」
「いや、私はこの2人は殺すべきでないと思っていましてね……」
「そんな、個人的な理由で……」
「ゼオル様も同意見でしてね」
「……?」
ミックスは威圧されていた。
エリフェラスが口元の笑みはそのままに、身にまとう殺気だけを高めているからだ。
だが、引き下がる気はなかった。
ここで引いてしまえば、もう手柄を立てるチャンスは回ってこないとかもしれないという思い。
慎重すぎる性格を自分で自覚しているからこそ、今回を千載一遇のチャンスと強く認識していたのだ。
ここで目の前の将軍に逆らう事が危険であることは判っている。
だが……
「将軍……」
「……?」
「まさかとは思いますが、万が一の可能性があるので言っておきますが……」
背中を伝う冷や汗を感じながら、ミックスは平静を務めてエリフェラスに考えを伝える。
できるだけ確実に任務を達成できるように……
「もしも、貴方が秘密裏に私を亡き者にし、彼女等を助けようとしているなら、それは不可能な事ですよ」
「亡き者ですか……」
「いえ、もしもの話ですよ、もしものね……」
『もしも』と強調するが、ミックスには確信があった。
目の前で笑顔を浮かべながら殺気を向ける男は、間違いなく自分を殺そうとしている。
目の前に姿を現した事で、ミックスが有利であるはずの魔力の地場の中でも、それを実行する自信があるのだと予想が出来た。
エリフェラスの力に関しての情報が無い。
予想でしか判断できないこの状況は、慎重な性格のミックスには厳しい状況。
出来る事なら、エリフェラスとの戦いは避けたいが、今回の任務は簡単に引き返す訳にはいかないもの。
コンスタンとリグスの2人が、既にこの世に居ないのなら尚更であった。
「特別な魔法品を所持してましてね、私が誰かに殺された場合、その相手が判るようになっています。
それがモルデリド様に伝わるように……」
「……随分と副団長へと忠誠心が高いのですね?」
例え死んだとしても、モルデリドの為になる為の魔法品だった。
「……勿論です。モルデリド様には大変お世話になっております。
その恩は返さなければならない……」
「なるほど……」
エリフェラスは思う所はあったが、敢えて黙る事にする。
言ったとしても意味がないと判っているからこその判断。
(あのジジイは、お前達を便利な駒としか思っていないがな……)
エリフェラスは実際に同じ言葉を言った者が、モルデリドから簡単に見捨てられるのを何度も見ていた。
子供の時からの洗脳……
それを取り除くことは難しい。
モルデリドがその裏の顔を本人達に見せない限り、どんな言葉を並べても消すことはできない。
(ま、どうでもいいがな……
俺も親しくない者に気を遣ってやる程優しくない……)
「とりあえず、そこに居られても邪魔なので、立ち去ってもらいたいのですが?」
考え込むような素振りを見せるエリフェラスが悩んでいると思ったのか、ミックスは自分が有利になるようにする為に言葉を続けた。
「ここに来たことは黙っていますから……、信用できないなら【 約定 】の魔法を使ってもいいですよ。
今は、お互いに人材を減らすべきではないでしょ?」
「そう思うなら、貴方も引き上げた方が良いですよ」
「……どういう意味ですか?」
「言葉の通りですよ。
判りませんか?」
言葉遣いは丁寧だったが、エリフェラスの言葉には、相手を馬鹿にしたような色が見え隠れしていた。
当然、ミックスには勿論、タリサにもそれは判っていた。
(エリスは何を考えてるんだ?)
2人の言葉のやり取りによって生まれた時間。
タリサはその貴重な時間で体力の回復に努めた。
タリサには傷の手当てなどをする魔法も無ければ余裕もない。
だが、少しの体力だけなら回復する術は持っている。
2人の話がどう転ぶかは判らないが、僅かなチャンスを逃さない為に準備は欠かさない。
「直ぐに外にいる連中と引き上げるなら、不必要な犠牲を出さずに済みますよ」
「知衛将軍、貴方の邪魔が無ければそんな心配も必要がないんですよ。
判っていただけませんか?」
「……」
エリフェラスは少し困っているかのように頭を軽く掻いた。
「ミックス君、どうも貴方は理解できていないようですね……」
「? 私がですか?」
「ええ……、ま、いいでしょう……」
エリフェラスのその言葉に、ミックスは無益な戦闘を回避できたと期待した。
しかし、続いて返ってきた言葉はそれを裏切るものだった。
「私が……、いや、俺がそいつらを見捨てる事はあり得ないんだよ。
絶対に……
何があろうと絶対にな」
そう言い髪をかき上げるエリフェラスの顔から普段の穏やかさは消えていた。
口元に見える笑みも、いつものそれとは大きく違っていた。
タリサもミックスも目を見開き驚きを見せていた。
「ま、もういい……
お前、死ねよ」
鋭い目付きを向けられて言われたその言葉に、ミックスは反応が出来ない。
体を硬直させて、ただ瞳を見つけ続ける事しかできなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように……
味わった事の無い恐怖がミックス・コトーの体を震わせていた。




