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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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ダークエルフの反撃

登場人物紹介


◎アミス・アルリア

 15歳 男性 魔導士

 本作の主人公

 タリサを助けるために仲間と共に駆けつける。


◎タリサ・ハールマン

 19歳 女性 暗黒騎士

 グランデルト王国、真権皇騎士団の将軍の1人で、闇氷河将軍の二つ名を持つ女騎士。

 ゼオル・ラーガのクーデターにより、追われる身となり、逃走中。


◎ラス・アラーグェ

 21歳 男性 魔法戦士

 魔法生物化している元ハーフエルフ。

 アミスと共に行動中。


◎リン・トウロン

 19歳 女性 精霊戦士

 白虎と人型、二つの姿を持つシェイプチェンジャー。

 アミスと共に行動中。


◎レン

 ? 女性 魔導士

 高レベルな魔法を使いこなすダークエルフ。

 アミスを助け、そのまま行動を共にしている。


◎フェミリアーネ・ギフト

 17歳 女性 魔法戦士

 闇氷河将軍側近の1人。

 まだ若く騎士になりたてだが、その素質は誰からも評価されている。


◎コンスタン・バーム

 雷炎将軍の二つ名を持つ将軍で、アミスの使い魔ティスに直接手をくだした男。


◎リグス・キャンベル

 将軍の位に近いと評される魔法戦士。

 弱体化の結界の使用者。


◎ミックス・コトー

 将軍の位に近いと評される魔術師。

 小さな灯り一つに照らされた空間に人影が一つ。

 彼は続いていた部下からの報告を一通り受け終えて一息ついていた。

 一旦人払いをして室内にて1人になり、静寂の空間の中で思案に耽る真権皇騎士団団長ゼオル・ラーガ。

 報告を聞く限り、クーデターは無事成功で終わりそうだった。

 しかし、全てにおいて予定通りだった訳ではない。

 部下の暴走によってゼオルが願っていた結果にならなかった事もある。

 それがゼオルの心を僅かに苛立たせ、彼は1人になる時間を求めた。

 苛立たせた一番の原因は、最も求めていた人材を手に入れる事が出来なかった事。

 

 「いや……、元々無理な話だったがな……」


 思わず漏れる独り言。

 それに反応する者はいないはずだった。


 「確かに……」


 不意に返ってきた言葉に、ゼオルは鋭い視線をその声の主に向ける。


 「人払いをしたはずだがな……」


 ゼオルの視線の先に立つのは、知衛将軍(ウィズダムガード)エリフェラスだった。

 エリフェラスは一瞬だけ笑みを浮かべたが、直ぐに真剣な表情と口調に変えて言葉を返す。

 

 「失礼しました。

 ですが、早急に私も出なければならなくなったので、報告をと思いまして……」

 「お前が動かなければならない程危険な状況か?」

 「ええ、急ぎますので報告は後程……」

 「……判った」


 ゼオルの了承を得ると、エリフェラスは直ぐに姿を消した。

 再び一人だけとなった室内で、ゼオルは小さく笑いだす。

 

 「さて、どうなる……」


 副団長モルデリドと知衛将軍エリフェラスとの争い。

 それは水面下での抗争だった。 

 新国王となるゼオル・ラーガの腹心となるのはどちらなのかの……

 役職は既に決まっている。

 モルデリドが副王で、エリフェラスが参謀長となる。

 だが、それは表向きのもの。

 そして、2人が自分に100%の忠誠を誓っている訳ではない事は、ゼオルも判っていた。

 モルデリドは強い権力欲があり、ゼオルの事を利用しているだけ。

 エリフェラスは、別の目的がありゼオルとは利害が一致している協力関係のようなものだった。

 ゼオル自身もそれが判っていながら、2人を頼りしている。

 この2人の舵を取れるのは自分だけと思いながら。

 そして、だからこそ、100%信頼できる側近が欲しかった。

 しかし、その候補だった2人は、今、側にはいない。

 

 「ま、時間をかけても無理だっただろうがな……」


 その2人を頭に浮かべながら、ゼオルは深く溜息をついてから立ち上がる。

 今はやるべきことをするだけ。

 迷っている暇など無いのだ。

 新たに届いているであろう報告を受ける為、ゼオルは部屋を出る。


 「死ぬなよ。俺を憎しんでいてもいいからな……」


 そう祈りながら……




 タリサが断崖絶壁から身を投げた。

 それはリグスやコンスタンにとって予想外の行動だった。

 その為、驚きにより意識が全てそちらに向いていた。

 そして、その隙をつき、タリサの行動を予測していた2人が動く。

 走り出すアミス。

 慌てて攻撃を仕掛けようとしたリグスとコンスタンに対して、レンの攻撃魔法が飛ぶ。

 予測してた者と予測できていない者の差が出た。

 本来なら絶対的に有利だったリグス達が遅れを取り、アミスは攻撃を受けずに目的を果たす。

 タリサを追って跳ぶアミス。

 そして、僅かに遅れてリンが走り出す。


 「リン! アミスを信じて追え!!」


 レンのその言葉に、リンは頷きながら姿を変えていく。

 白い虎の姿へと……


 ≪ 風の乙女(セラリス) ≫の風を纏い跳んだアミスは、着水前にタリサに追いついた。

 タリサを頭から抱きかかえると、風を纏ったまま滝壺へと落下していった。

 リンはその後を追うが、そのまま滝壺に飛び込むわけにはいかずに、足場を探しながら崖を駆け降り、そのまま下流方面に向かって走っていった。

 アミスが自力で助かる事を信じて……




 弱体化の範囲内から魔法の触媒だったタリサが出ていった為に、その場の魔力の地場が消え去っていった。


 「ちっ……」


 リグスは舌打ちをしながら、残っていたレン・ラス・フェミリアーネに目を向ける。

 その不機嫌そうな表情はすぐに不敵な笑みへと戻る。

 冷静さを取り戻し、小さな声で詠唱を唱える。

 新たな触媒を使い新たな弱体化の魔法を発動させる為の……

 リグスは魔力の発動を感じ取り、少し安堵し辺りを見渡す。

 気付けば、コンスタン・バームもミックス・コトーも姿を消していた。


 (タリサ達を追ったか……)


 視線をレンに向け直す。

 見ると横にいるラスと何か会話している。


 「チャンスを逃すなと言っておいて、何故止めた?」

 

 不機嫌そうなラス。

 弱体化の魔法が無力された瞬間、すぐに攻撃に出ようとしていたラスはレンに止められていた。

 そうしている間に新たな結界の魔力が辺りを包んでいる。


 「くっ……、再度結界が……

 どうするつもりだ?」


 レンは笑みを浮かべて返す。


 「問題ない。

 ラスは、あの娘と一緒に周りの兵士達を相手してくれ」

 

 と、フェミリアーネに視線を向けながら言った。

 断崖絶壁の方へと向かおうとした所を、複数の兵士達に妨害されて癇癪気味に斬り合っている。


 「あのままではやられかねないからな……」

 「悠長なことを……」


 呆れ顔のラスは、仕方ないとばかりにフェミリアーネを助けに向かう。

 

 「さて、1人残されたな……」


 レンはそう言うと、笑みを浮かべたままリグスに目を向けた。

 余裕を見せるレンに対して、リグスは違和感を覚えながらも余裕を見せて返す。


 「1人で問題ないと判断したんだろ?

 ま、確かに問題ないからな……」

 「いや、あの2人は、お前ほど頭が悪くないみたいだぞ……」

 「なに?」

 

 レンの言葉に目つきを鋭くするリグス。


 「貴様こそ弱体化の結界が復活している事に気付いていないのか?」


 自分の立場を判らせてやりたかった。

 そして、絶望を味えば良いとばかりに言葉を出す。

 しかし、レンは不敵な笑みを崩さない。

 再び苛立ったリグスは、短い詠唱で魔法を完成させると、大きめの【 火炎球 (ファイアーボール)】を生み出しレンへと投げつけた。

 相手の得意としている属性の魔法で判らせる。

 そんな考えで……

 

 「ふっ……」


 不敵な笑みを浮かべながら、レンの同じ魔法を返した。


 「馬鹿が……」


 ぶつかり合う二つの【 火炎球 】。

 その結果が判り切ってると思っているリグスはそんな言葉を吐き出した。

 しかし、結果はリグスの思いと逆となる。

 火炎球の大きさはむしろリグスの方が大きかったが、やや小さめのレンの火炎球はリグスのそれを貫くように霧散させ、そのままリグスへと襲い掛かる。

 まったく頭に無かった結果にリグスの対応は遅れ、レンの火炎球がその右腕を捉えた。

 リグスは慌てて燃える右腕の魔力を中和し消化する。

 

 「な、ど、どういう事だ……?」


 リグスの頭は混乱していた。

 弱体化の魔法による結界の地場は、間違いなく生まれている。

 その結界の中で負けるわけがない。

 ましてや正面からの魔法のぶつかり合いで負けるわけがなかった。


 「魔法という物を理解していないからそうなる……」

 「何?」


 リグスはレンを睨みつける。

 強い怒りの籠った表情で……


 「もう少し、しっかりと周りを見た方が良い」

 「何が言いたい?」

 「判らないか?」

 「だから、何をだ!?」


 レンは呆れ顔を浮かべる。

 既にまともな会話が成立していない。

 説明をしてやろうとも僅かに思いもしたが、考えもせずに訊ねてくるその顔を見ていると、その気持ちもどんどん薄れていく。

 

 (古代魔法とは、この程度の魔法使いが使っていいものではない……)


 禁呪を含む古代魔法を己のものにする為に、レンは長い年月をかけて文献を漁り、知識を仕入れ、考え研究し、必要なものを厳選して己のものとしてきた。

 禁呪となった危険性も充分に理解し、使う場も選んできた。

 それなのに目の前にいる男は、充分な知識も無く、何も考えずに使用し、全てに関して簡単に考えている。

 それが腹正しく、そして、許せなかった。

 レンの心の中に、闇の種族らしい感情が湧き上がってくる。


 「貴様!! 聞いているのか!?」


 怒りで声を荒げて、今度は【 炎の槍 (フレアランス)】をレンに向けて放つリグス。

 感情に任せて放たれたそれが、レンから我慢という感情を消し去る。

 

 「もういい……」

 「なにぃ?」

 「耳障りだから、もう喋るな……」

 「き、きさ…………!?」


 リグスは、口から出かかった反応の言葉を飲み込む。

 レンの身を包む膨大な魔力気づいたからだ……

 自分にはどうしようもないレベルの魔力だった。

 リグスはこの場は逃げるべきと判断する。

 両足のブーツの魔力を解放させ、【短距離転移】の魔法でその場を離れようとした。

 が、その魔法は発動しない。


 「!?」

 

 リグスを襲う混乱。

 冷静さを取り戻そうと考えたが、それは遅かった。

 レンが生み出した膨大な魔力は一匹の獣へと姿を変えていた。

 黒い炎で作られたその獣は、生きているかのように獲物を見定める。

 そんな炎獣と視線が合い、リグスは背筋が凍る思いだった。

 直ぐに自身が使える魔法で最も威力の高い魔法の詠唱を唱えだす。


 (くっ、間に合うか?)


 威力には自信がある魔法だった。

 ただ、詠唱に時間がかかる。

 その詠唱さえ間に合えば防ぐ事ができる。

 そう思い詠唱を急ぐ。

 

 「良し! 【 極炎 (メガフレイム)】!!」


 その魔法が発動し、リグスは安堵する。

 これで防げるはずだったから……


 リグスの魔法の発動に合わせるかのように、レンの炎獣が襲い掛かてくる。

 その炎獣に向けて放たれた【 極炎 】による炎。

 どちらの威力が勝っているかは、リグスにも判らない。

 ただ、少なくともある程度の威力は相殺されると思っていた。

 しかし、その期待は裏切られる。

 先程の【 火炎球 】のぶつかり合いと同様に……

 リグスの【 極炎 】はまるで炎獣に喰われているかのように消えていく。

 何が起こっているか理解できずに硬直する。


 「な? じゃ、弱体化は確かに発動して……」

 

 弱体化の結界の中で負けるはずがない。

 頭に湧き上がってくるのはその思いのみ。

 迫りくる炎獣。

 もう防ぐ手段が浮かばない。

 死を悟り、諦めて初めて冷静に分析する事ができた。

 そこで初めて気づく……


 (ち、違う……)


 辺りを包む弱体化の結界の魔力。

 それが自分が生み出したものでない事に気付く。

 そして、弱体化の効果対象が敵ではなく、自分である事に…… 

 それが判った所で、もうどうしようもない。

 いや、早くに判ったとしてもどうにもならない。

 自分が敵に回した相手の恐ろしさを実感したが、それも遅すぎる事だった。

 リグスは炎獣の炎に包まれ全身が燃えていく。

 諦めきっていたリグスは、短い断末魔しかあげなかった。

 もっと慎重になるべきだったという後悔が沸き起こっていたが、それより大きく浮かんだ感情。

 それは自分とは違い、諦めずに常に冷静であったタリサや目の前にいるダークエルフに対して、素直な称賛を送りたいという感情だった。

 笑みを浮かべながら燃えていくリグスを、レンは静かに見つめていた。

 彼がもっと古代魔法に対しての知識を求めていれば、状況は変わっていたかもしれないと思いながら……


 

 「どういう事だったんだ?」


 背後からの声にレンは振り向く。

 視界に入ったのは声の主であるラス、そして不安そうに佇むフェミリアーネ。

 続けて周囲に目を向けると、既に敵兵は消えていた。

 倒れているのは十名にも満たない事を考えれば、上司を失い早々と逃げていったのだろう。


 (随分と、早い判断だな……)


 レンの炎獣を見て逃げ出し始めた者もいたのだろうと予想できた。

 視線をラスに戻すと、ラスは質問への返答を待っている様子だった。


 「弱体化の魔法の触媒は、あの女将軍の体内にある魔力だったって事だ……」

 「タリサの体内の?

 人間の魔力程度が触媒になるなら、使い放題なんじゃないのか?」


 ラスのその言葉を、レンはゆっくりと首を横に振り否定する。

 それに返ってきたラスの反応が説明を求めているのが判り、レンは仕方ないとばかりに説明を始める。


 「恐らくこいつら……、騎士以上の奴だけだと思うが、体内に魔法具が埋め込まれている」

 「魔法具?」

 「通信用か、それとも、裏切った場合の追跡用か……」


 と、言いながらレンはフェミリアーネに目を向ける。

 すると、フェミリアーネから答えが返ってくる。


 「両方の説明を受けています」


 一瞬だけフェミリアーネに向けた視線をレンに戻すラス。


 「つまり、その魔法具の魔力を使ったと?」

 「ああ……、まあ、正確に言えばその魔法具を始動させる為の法魔石の魔力を利用したと言った方が正しいがな……」

 「法魔石の魔力か……」 

 

 ラスにもある程度の事が見えてきていた。

 法魔石とは、魔法を使用する時に消費する魔法力の一部を肩代わりする魔法品であり、効果の小さい物ではそれほど希少な物ではなく、大きめの町で探せば見つける事も容易いだろう。


 「だが、これ程の結界を作り出すとなると……」


 小さな物ではないと予想できた。


 「確かにその辺に転がっている物では難しいだろうな。

 だが、お前が思っている程、大きな物は必要ない」


 まるでラスの心の中を呼んだかの様に言い放つレン。


 「魔法具が持つ魔力と法魔石、そして、タリサ自身が帯びている魔力を合わせれば充分なものになる。

 逆を言えば、体内に無ければ、多少強力な法魔石を持っていたとしても、足りないだろうな」

 「ほう……」

 「それで足りるなら、持って来ればいいだけだからな」


 レンは視線をフェミリアーネに移す。

 ラスもつられて見ると、フェミリアーネは心配そうに口を開いた。


 「タリサ様達を追った方が……」


 その言葉にレンは首を振る。

 訊ねようとしたフェミリアーネが次の言葉を出す前に、ラスが代わりに答える。


 「あれだけの激流の中に落ちたからな。

 今から追っても意味はないだろう……」

 「で、でも……」

 「落ち着け。

 闇雲に探しても、別の追跡部隊と鉢合わせになる可能性が高い。

 今はアミスとリンを信じて合流場所に向かうしかないだろう……」

  

 そう言われ、フェミリアーネは考える。

 正直、アミスやリンを信じれる程、2人の事は知らないフェミリアーネ。

 だが、今から追ってもリスクが増すだけで、タリサを見つけれるとは思えなかった。


 「とりあえず、話の続きは移動しながらだな……」

 「ああ」

 「……」


 ラスの提案にフェミリアーネも頷くしかなかった。


  

 タリサが滝壺に落ち、激流に流されていった時点で、触媒を失った弱体化の魔法は効果を失った。

 そして、少し間が合って、冷静になったリグスが今度はフェミリアーネを触媒して結界を生み出そうとした。

 最悪の場合、リグス自身の体の中にも触媒となるそれは埋め込まれていたが、自身の魔力をも弱めてしまう。

 それでは充分な効果なものとはならないので、フェミリアーネを触媒にしようとしたのだ。

 だが、それは彼女の魔力を確実に捉える為に集中力が必要だった。

 最初に張った結界の様に、相手の意識外から時間をかけて使える状況とは異なっていた。

 リグスの意識は全てフェミリアーネと魔法を使う事へと使われていた。

 だから気づかなかったのだ。

 それより先にレンがリグスを触媒にして弱体化の結界を張った事に……

 

 「奴もまさか敵に同じ魔法を使える者がいるとは思ってもみなかったのだろうな……

 失われた古代魔法だったからな」


 ラスの後ろを歩きながら説明を続けていたレンが、説明の合間にそう呟いた。


 「本当に詳しいな、お前は……」

 

 振り向かずに進みながらラスはそう言うが、レンは小さく笑うと、


 「知っていたのは私だけではなかったみたいだがな……」

 「?」


 足を止めて振り向くラス。


 「まさか……」

 「ああ、アミスも知っていたみたいだな。

 だからこそ、アミスは結界を消す方法が一つしかない事が判って、戸惑い迷いの表情を浮かべた。

 そして、それのおかげで私もあの女将軍も触媒の場所が判ったんだ」


 結界を消すには術士を倒すか、触媒を消すしかない。

 結界の中で術者であるリグスを倒すのは困難な状況だった。

 つまり、触媒を消すしかなく、その触媒がタリサであるいう事が判り、アミスの頭の中には手段がなくなったのだ。

 触媒を結界内から消す方法。

 普通に考えれば結界外まで逃げる事は難しい。

 あの状況下では不可能に近い。

 それこそタリサが取った手段、助かる見込みの無い滝壺へのダイブしかない。

 もう一つの手段は、アミスには絶対に出来はしない。

 それが出来るのなら、そもそもアミス達はあの場に居ない。

 タリサを助ける為に駆け付けたのに、そのタリサの命を奪う事などできるわけがなかった。


 「アミスの表情で、私は触媒の場所が判った。

 そして、あの女将軍……タリサだったか、タリサを見たら、あの女も気づいた様だった。

 そして、覚悟を決めた様だったから、私は後は任せろと意思を込めて頷く事で知らせたんだ」

 「そ、それなら言ってくれれば……」

 「奴に気付かせる訳にはいかなかったからな。

 こちらが気づいた事を、あのリグスという術者が知れば、次なる術の準備をさせてしまう」


 レンの目付きが鋭いものへと変わる。


 「そうなれば、新たな触媒となるであろうお前も殺さなければならなかった。

 それでは助けに来た意味が本当になくなってしまうからな……」

 「で、でも……」

 「ただ、あの女も、アミスの性格を完全に理解しきってなかったみたいだな……」


 今度は呆れ顔を見せるレン。


 「……お前は随分と理解してるんだな……」

 「ああ、あいつは敵対していたはずの私を……、一時的な協力関係ですぐに敵対するはずだった私を助ける為に命を投げ出そうとした奴だからな……」

 「……」


 ラスはレンの言葉に目を丸くした。

 何があったかは知らない。

 だが、なんとなしにその話を理解する事ができた。


 「あいつは、馬鹿だからな……」

 「本当だよ……」


 ラスの表情も呆れ顔になり、言っている意味を理解しきれないフェミリアーネだけ、不思議そうに首を傾げていた。

 

 「だから、私にはタリサが飛び込めばアミスが追う事が判っていた。

 止める事ができる距離ではない。

 だから……」

 「援護をした……か……」


 レンは頷く。

 

 「アミスの事を信じるしかなかったよ……」

 「フッ……」


 ラスの失笑に、レンは訝しげな視線を向ける。


 「いや、悪かった。

 お前の事をただの冷たい奴だと思ってたよ」

 「……」


 レンはラスから目を逸らした。

 ダークエルフ特有の黒い肌のせいで分かりにくかったが、レンの顔が僅かに赤らんでいた。


 「ま、とりあえず、アミスとリンを信じるしかないさ……」


 ラスがもう一度呟き、レンが頷く。

 ラスもレンも不安が無いわけではない。

 ただ、今の自分達に出来る事は信じる事だけ……

 合流地点にアミス達が戻ってくる事を信じるしかできなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (^v^)アミス側が負け続きだったから、レン達が勝ててよかった! さあ、次は滝つぼに落ちたアミス達…どうなるか(; ・`д・´)
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