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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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友との別れ

登場人物


◎ヨネン・ゲンシュ

 21歳 女性

 闇氷河将軍タリサの側近の1人。

 多数を相手するのが得意な大剣使い。


◎マリーナ・フォルセルン

 20歳 女性

 闇氷河将軍タリサの元に埋伏として仕えていた神官戦士。

 ヨネン・ゲンシュは追い込まれていた。

 多勢に無勢。

 いや、それが一番の原因ではない。

 一対一でも倒せるか判らない上級アンデットが三体もいる事が主因。

 躱すしかない巨漢アンデットの戟、それを躱すと生まれる隙を確実に狙ってくる騎士アンデットの長剣、そして、次から次と攻撃魔法を繰り出してくる魔術師アンデット。

 

 (魔法力が尽きるのを待つのは都合が良すぎるか?)


 飛んでくる魔法は初級のものではない。

 消費する魔法力はそれなりのものだろう。

 それを続けて使ってくるのだから、早々と魔法力が尽きるのでは? と、期待はしてしまう。

 脳の腐っているアンデットだから考えなしに連発してくるのだろうと……

 ヨネンは夫々のアンデットが本能で攻撃してくると予測していた。

 そう思える理由は上級アンデット同士の連携が取れてないからだ。

 これ程の実力者なのだから生前は軍でそれなりの地位にいたのだろう。

 そんな立場だったのであれば、もっと連携を取るはずだ。

 少なくとも元が騎士だったと思われる者だけでも……


 (ま、このレベルの奴等に連携を取られたら、既にやられているだろうがな……)


 ヨネンは冷静に分析する。


 (魔法力が尽きるのを期待して待つべきか……

 いや、いつ尽きるかも予想もつかない。

 先にこちらの体力が尽きる可能性が高いな……)


 冷静に考えれば考えるほど、絶望しか見えてこない。

 どうにかこちらから打開する行動を取らなければ、一体も倒せずに終わるだろう。

 それだけはあってはいけない結末だった。

 タリサや他の仲間の為にもできるだけ……、いや、この場に居る全員を道ずれにしなければならないのだ。

 疲れというものを知らないのだろう。

 三体は次から次へと攻撃を仕掛けてきて、ヨネンに落ち着いて考える時間を与えない。


 (埒が明かない……)


 ヨネンは手に持った大剣に魔力を込める。

 大剣が雷を帯び、それを解放させるタイミングを伺う。

 そんな中、不意に魔術師からの攻撃魔法の雨が止む。


 「!?」

 

 魔法力が尽きてきたか?

 それとも罠か?

 一瞬、迷いを見せるヨネンだったが、直ぐに決断する。

 魔力を更に込めて雷の力を強めると、巨漢の戟を躱すと同時に騎士へと放つ。

 大剣から放たれたその雷は、騎士に躱されたがそれはヨネンの狙い通り。

 敢えて、自身と騎士の延長上に魔術師が位置した時に狙ったその攻撃は、振るった瞬間は騎士の体に隠れて魔術師には見えなかったはず。

 騎士が躱して初めて、自らに襲い掛かる雷に気付くように放ったそれを完全に防ぐ事は難しいはずだった。

 特に先程まで攻撃魔法を好き勝手に連発していたのだ。

 このタイミングで攻撃が自分に向くなんて思っていないはず。

 それがヨネンの考えだった。

 しかし、ヨネンが放った雷は、魔術師の前で何かに吸収されたように消えていく。


 「な!?」


 驚くヨネン。

 思考する暇もなく、巨漢と騎士の同時攻撃がヨネンに襲い掛かる。

 それを間一髪で躱しながら巨漢の脇をすり抜けて、その背後に回る。

 そして、改めて魔術師へと目を向けた。

 ヨネンの放った雷の魔力を吸収したのか、その身が魔力を包んでいるのが判った。


 「魔法力を回復されたか……?

 ……やはり、罠だったか……」


 その可能性は充分にあるとは覚悟していた。

 だからといって、慎重過ぎては現状を打破するチャンスも作れずにジリ貧になるのは目に見えて判る事だった。

 故に自らの下した決断に後悔はない。

 だが、更に厳しい現状となったのは認めなければならない事実。


 「ソ、ソロソロ諦メタラドウダ?」


 ここまで一言も喋ることをしなかったアンデット騎士が、不意に口を開いた。


 「!? ……喋れたのか?」

 「アア、喋レナイト思ワレタホウガ、オマエノ思考ヲ読ミ易イ……

 故ニ、黙ッテイタノダ」

 「なるほど……」


 ヨネンは見事に嵌められてしまった。

 ヨネンの眼が鋭いものへと変わっていく。

 その目を向けられたアンデット騎士の歯しか残っていない口がカタカタと音を立てる。

 ヨネンには、それがまるで満足げな笑みを浮かべているように楽しげなものに感じた。


 「悔シイカ?

 元々、皆我ノ部下ダッタ者達ダ。

 我ノ作戦ヲ充分ニ理解シテイル者達ヨ……」

 

 ヨネンは冷たい視線を向けたままその言葉を聞いていた。

 その目つきを向けられている事に、アンデット騎士の心は更に満たされる。

 ヨネンには、骨だけのその顔から何故かそれを感じる事が出来た。

 そして、自分の中にある感情を勘違いしている事も……


 「我ノ名ヲ教エテヤロウ……、我ハ……」

 「いらないな……」

 「ナニ?」

 「名乗らなくていいと言っている。

 これから再度死んでしまう奴の名に興味は無い」

 「……」


 騎士の楽しげだった雰囲気が消える。

 口から聞こえるカタカタという音も、先程までとはリズムが違い、苛立っている事が分かるものだった。


 「強ガリヲ言イオッテ……」


 騎士が剣を振るう。

 それを躱すヨネン。

 そこへ間髪入れずに魔法が飛び、そして、戟が続く。

 先程までとは違い明らかに連携の取れたその攻撃は、浅くではあるがヨネンの左肩を捉え鮮血が飛ぶ。

 

 (なるほど、微妙な連携の悪さも油断させる為のものだったか……)


 魔術師の魔法力が尽きるのを待って堪えていたヨネン。

 それが相手の策に嵌って魔法力を回復させてしまった。

 追い込まれた状況と、策が成功し本性を見せだしたアンデット達の動き。

 それはヨネンから迷いを捨てさせるキッカケとなった。

 慎重に待ってもジリ貧になるだけなのは目に見えている。

 反撃に出る事を決めたヨネンは、ある事を待つ。

 多少のダメージを受ける事を覚悟の上で、ギリギリで攻撃を躱し続けるヨネン。  

 致命傷は避けてはいるが、攻撃を受ける事が増えていく。

 ダメージを受ければ受けるほど、動きは鈍くなり、攻撃を躱せなくなっていく。

 アンデット騎士の歯がカタカタとなる。

 勝ちを確信して笑っているのだろう。

 ヨネンが既にジリ貧になっていると思っているのだろう。

 最後の詰めに入っている事を確信し、既に策を練ろうとは思ってはいなかった。

 そして、その考えが統率の取れた連携をパターン化させていく。

 それがヨネンの狙いとは思いもせずに……


 少し離れた場所でその戦闘を見つめるマリーナも、それには気づいてはいなかった。

 ただ、慎重にじっくりと観察はしている。

 既に逆転の一手は無いと思いながらも、ヨネンが再度自分の予想を超えてくるのではという可能性を捨てきれずにいた。

 故に攻撃には参加せずに、もしもの時に備えて心の準備だけは怠らなかった。

 

 (諦めた様子は見せないか……)


 悪足掻きなのか?

 それとも何か打開策があるのか?

 そんな思考が、変化のない事態により次第に薄れていく。

 代わりに頭の中に浮かんできたのが、今までのヨネンとのやり取りだった。

 最初から埋伏の計によりタリサに仕えていたマリーナだったが、全てが演技だったわけではない。

 本当の主であるモルデリドからの指示がない限りは、タリサの力になってきたのは事実であり、その間に築いてきた絆も、全てが偽りだったわけではない。

 その中でも、真逆な考え方のヨネンとの関係は特別に思っていた。

 最も言い争い、最も理解し合えた仲。

 そう思っていた。

 『もしも』という考えに意味は無いのかもしれない。

 だが、考えてしまう。

 『もしも』最初からタリサ・ハールマンという人物に仕えていたら、ヨネンとは本当の親友になれていたかもしれないと……

 だが、やはりそんな思いは無意味な事。

 自分の主君はモルデリドであり、ヨネンは討たなければならない敵なのだ。


 「!?」


 集中力が落ちてきていたマリーナの目に、ふらっと体を揺らすヨネンの姿が映った。


 (限界が来たか……)


 ヨネンの最期を見届ける。

 ただ、そんな思いでマリーナ見つめていた。


 ヨネンに止めを刺すとばかりに、襲い掛かる巨漢アンデットの二本の戟。

 二本の戟を同時に振るうのは、それが初めてだった。

 そして、それがヨネンが待っていた反撃のチャンスだった。

 ヨネンは咄嗟に両手・両足に魔力を込める。

 強化目的ではない。

 受けたダメージによる動きへの影響を少しでも減らすために……

 右からの戟を大剣で受ける。

 体格差もある強力な一撃を受けきれるはずはなかった。

 故にアンデット達はそれで決着がつくと思っていた。

 大剣が戟ぶつかる瞬間、ヨネンは力を緩める。

 そのまま飛ばされそうになった体を捻ると、戟の軌道が僅かに逸れる。

 戟はヨネンの大剣を斬り飛ばしながらも、その体を捕らえる事はできなかった。

 だが、もう一本の戟がある。

 そんな事を思考できない刹那の瞬間で、二本の戟が交差する。

 その中心にヨネンは雷の魔力ぶつけた。

 微弱な魔力であり、何の意味もなさないと誰もが思ったが、微弱の磁力を帯びた二本の戟の引かれ合う力に巨漢の手から戟が離れる。

 ヨネンが戟を蹴ると、巨漢が振るった力の向きだけが変わった。

 

 「!?」


 絡まりながら二本の戟の先にいたのはアンデット魔術師。

 魔術師は万が一に備えて防御結界は張っていた。

 が、それは巨漢の力によって振るわれ、飛んできた重量のある二本の戟を防ぐには貧弱過ぎた。

 結界は何の意味も持たずに、魔術師を上下に両断しながら通り過ぎていく。

 残された魔術師の下半身がゆっくりと倒れていった。



 突然の事に唖然とする騎士と巨漢。

 反撃のチャンスを伺っていたヨネンがその隙を逃すはずはなかった。

 だが、アンデット達も反応できなかったわけではない。

 冷静にヨネンの動きを観察する。

 ヨネンの大剣は戟の一撃で弾き飛ばされてその手には無い。

 確認できる残りの武器は腰に見える短剣ぐらいだった。

 その短剣に手を添えながら自らに近づいてくるヨネンの姿を見て、騎士は充分に防ぎきれると確信していた。

 そして、防ぎきれた時点で勝負は決まると……

 長剣と盾、どちらでも短剣を防ぎ弾き飛ばせるように慎重に備える。

 ヨネンは素早く抜いた短剣を騎士に向かって投げつけた。

 が、それは騎士の予想範囲内の行動だった。

 簡単にそれを弾くと、丸腰となったヨネンを迎え撃つ。

 近づいてくる彼女の両手に魔力が込められているのが判る。

 そのままでも充分に防げると思いながらも、警戒を緩めない。

 アンデット騎士も盾に魔力を込める。

 後は、その盾で防ぎ長剣を振り下ろすだけ。

 それでヤれなくても、ヨネンを後ろから追っている巨漢アンデットの一撃で終わる。

 魔術師をヤられたのは予想外だったが、これで終わる。

 冷静な分析をする騎士に向かって、魔力を込めた拳を振るうヨネン。

 その拳を盾で防ぎ、騎士は長剣を素早く高く振り上げた。

 全力の力を込めたのだろう、盾に拳をぶつけたヨネンの動きは止まっていた。

 それを見て、長剣の一撃が決まると確信し、心中で笑いながら長剣を振り下ろそうとした時だった。

 攻撃の為に僅かに重心が後ろに移った騎士の体が、更に後ろに押される感覚を感じた。

 何が起こったか分からないまま長剣を振るうが、その軌道上にヨネンの体は無かった。

 ヨネンの体は騎士が思っていたより近くにあった。

 それに気づいたのと同時に、腹が熱を帯び始めていた。

 燃える様に熱くなっていく腹にゆっくりと目を向ける。

 そして、熱さの原因が解り、汗をかかないはずの骸骨だけの顔が脂汗をかいている錯覚に襲われていた。

 盾諸共自らの腹を貫いているヨネンの右腕。

 その右腕はアンデットに特効である聖系の魔力を帯びていた。

 故に貫かれた部分から煙が出て燃えだしている。

 自らが置かれた状況が信じられないように、ゆっくりとヨネンへと目を移した。

 が、そこには既にヨネンの姿は無かった。

 代わりに目に映ったのは、本来はヨネンへと向けられたはずの巨漢アンデットの太い右腕が自らに振るわれる映像だった。

 それがアンデット騎士オルグル・ブランケルが最後に見たものだった。



 巨漢アンデットも状況を把握しきれなかった。

 気付けば敵を捕らえたはずの己の拳が、主君(あるじ)の体を粉々に粉砕していた。

 バラバラに砕け散ったそれを目に動きを止める。

 そして、そんな隙を逃すヨネンではない。

 巨漢の背後に回っていたヨネンは、その無防備な背に右手を添える。

 巨漢が気付き慌ててそれから逃げようとするが、それより早くその体に聖なる魔力が流し込まれる。

 燃える様な痛みに声にならない悲鳴を上げる。

 直ぐに逃げた為に致命傷にはならなかったが、ダメージは小さくない。

 仲間と主君を失い精神的にも追い詰められ、既に戦意は喪失していた。

 だが、ヨネンは容赦はしない。

 敵であるモンスター相手に手加減をする理由はなかった。

 恥も外聞も無く逃げようとする巨漢アンデットを追うヨネン。

 既に大きなダメージを受けて動きの鈍っているので逃げ切れるわけも無く、ヨネンの魔力を込めた右腕が巨漢の右腕を貫き燃やす。

 その右腕に受けた熱さで巨漢は逃げるのは無理は悟り、残った左腕で反撃に出る事を決めた。

 よく見ればヨネンもボロボロであり、既に限界が近いことは明らか。

 まだ勝機はあると判断し、自らを奮いたたせた。

 逃げから一転しての反撃。

 結果的に見ればそれは選択ミス。

 冷静に観察する余裕があれば、ヨネンの方が余力がない事がわかったはずだった。

 防御に徹して時間さえ稼げば、ヨネンの方が先に力尽きる事をわかったはず……

 だが、今の現状へと追い詰められた過程が、巨漢アンデットにとって予想外過ぎた。

 絶対的な有利な状況から一瞬にしてひっくり返された戦況を前に、冷静さを維持できる程の強い精神的を持ったタイプではなかったのだ。

 ヨネンの体が一瞬ふらつくように後退る。

 それはリーチで勝る巨漢の間合いだった。

 早さを重視した短いタメで放たれる左腕での一撃。

 冷静さを失っているとはいえ、戦闘のプロである。

 大振りする必要はない。

 多少威力が落ちたとしても命中させれば倒せる。

 それが判っている彼は、最後の最後に落ち着いた攻撃を見せた。

 その落ち着きを攻撃前にも持っていれば結果は変わっていたかもしれない。

 ヨネンのふらつきが罠だという事に気付けていたかもしれない。


 ヨネンにも余裕は無かった。

 故に、最後に再び一か八かの賭けに出たのだ。

 一度使った、体をふらつかせるという誘引行動。

 再度そんな罠にひっかかった相手に、決して焦らずに冷静に最後の詰めへの攻撃に出た。 

 襲い掛かる相手の左腕を最低限の動きで右手で触れながら躱す。

 触れられた左腕から聖なる魔力を流し込まれ、悶絶しそうになる巨漢アンデットだったが、必死に耐えて再び左腕を振るう。

 だが、既にそれ以外の攻撃方法を失っている彼の攻撃が当たる訳がなかった。

 こうすれば、相手はこう来る。

 完全に積み将棋となったその戦いは、最後にヨネンの右腕が巨漢アンデットの右胸を貫して終了した。


 「……ふぅ~……」


 巨漢アンデットが倒れるのを待って、深く息を吐くヨネンはあくまでも冷静だった。


 (ここまでだな……)


 自分にはもう力は残っていない。

 既に立ってるのが不思議な程のダメージを負っていた。

 そして、再度息を吐いたヨネンの体を一本の細剣が貫く。


 「残念だったわね……?」


 静かな口調でそう言うマリーナの声は、ヨネンのすぐ背後から聞こえた。

 その右手は、細剣を通じてヨネンと繫がっている。


 「そうでもないさ……」


 マリーナと同じぐらいに静かな声で返すヨネン。

 反撃に出たくても、もう腕を上げる力は残っていない。

 

 「……しかし……」


 次にかける言葉に悩むマリーナより先にヨネンが呟く。


 「いつも言っているだろ? 攻撃には正確さも大事だと……」

 「……そ、そうね」


 言葉に躊躇いを見せるマリーナとは反して、不思議な程静かに言葉を発するヨネン。

 先程まで憎しみの視線を向けていたのが嘘のように感じるほどだった。


 「ふふっ……」

 「?」

 「わかってるさ……」


 既に、ヨネンの体は力を失っていた。

 体を貫いている細剣に支えられているような状態だ。

 そんな状態でも、ヨネンの言葉は落ち着いていた。


 「安心したよ……」

 「安心?」

 「全てが演技だった訳じゃなかったんだな……」


 その言葉で、ヨネンが何を言いたいか、マリーナは漸く悟ることができた。

 そして、それが判ると同時に自身の目に熱いものが沸き起こるのを感じ始めていた。


 「お前は優しいな……、そう思っていたからこそ、お前が内通者と知った時、最初は信じられなかったよ」 

 「そ、そんなこと……」

 「これから大変だぞ……」

 「判っています」

 「その性格であのジジイに仕え続けるのは……」

 「判ってます」

 「タリサの下の方がお前に向いているのにな……」

 「判ってます!!」


 細剣を持つマリーナの右手から力が抜け、それによって支えられていたヨネンの体が崩れ落ちる。


 「あっ……」

 「必要ない……」


 咄嗟に助け起こそうと動いたマリーナを、ヨネンが小さな声を制する。

 首だけを捻るような態勢でマリーナを見るヨネン。


 「な、なんて顔をしている……」

 「……」


 ヨネンは呆れたような笑みを浮かべ、優しげな瞳でマリーナを見つめていた。

 咄嗟に顔を逸らすマリーナ。

 だが、既にその両目から零れ落ちているものがある事は見えていた。


 「まったく、敵には無情になりなさい……」

 「だから、判ってる……」

 

 (判ってる奴の顔じゃないだろ……)


 呆れながらも、少し嬉しく感じるヨネン。

 自分なら躊躇なく止めを刺していただろう。

 しかし、マリーナは躊躇い、簡単にとらえれるはずだった急所を外した。

 おかげでこうして最後の会話を交わすことができていたが、逆に最後に苦しみを味わう事になっている。

 

 (思ったより恐怖は感じないものなんだな……)


 自分は死ぬ。

 それが判っているのに、恐怖を感じていなかった。

 マリーナの優しさを感じ取れたおかげかもしれない。


 「もし……」


 マリーナの声で、閉じかけていたヨネンの眼が再び開かれる。


 「もし、最初にタリサ様に会っていたら……」 

 「……」

 「もし、私を助けたのがモルデリド様ではなく、王様だったら……」


 今度は流れる涙を隠さずにヨネンに目を向けたまま訊ねる。


 「タリサ様のように王様に助けられていたら……、親友になれていたかな?」

 「……どうだろうな……」


 少し意地悪な返しだったかもしれない。

 心中では、親友になれたと思っていても、素直にそう口にすることはできなかった。

 意地悪でひねくれた心と、素直になれない照れが混じった返答だった。

 だがしかし、マリーナもそれを感じ取ったのか、ヨネンと同じような小さな笑みを浮かべていた。


 「タリサ……様……、どうかご無事で……」


 ヨネンは目を閉じる。

 そして、最後に……


 「お前も死ぬなよ……マリーナ……」


 と、言い残し動きを止めた。

 止める事のできなくなった涙を流し続けながら、マリーナは僅かに頷く。

 もう声は聞くことがないだろう友を思いながら……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンは、一挙手一投足がわかるように丁寧に、 かつスピーディーに。 速い速度のフィルム映像みたいでハラハラしました。 別れのシーンは、読み手がシーンを想像できるように抽象的に、 淡い…
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