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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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一瞬の交差

今回の登場人物

◎シルア・アイン

 19歳 女性

 闇氷河将軍配下の作戦担当

◎トリッセル・コランジュ

 27歳 女性

 闇氷河将軍配下の剣士

◎ミフネ・バルバトス

 43歳 男性

 剣鬼将軍と呼ばれる騎士団最強の武勇を誇る剣士

◎ビラク・ロイトン

 19歳 男性

 副団長モルデリドの側近の1人

 空は薄い雲が広がっていた。

 先程まではっきりと見えていた月も、流れてきた雲により再度隠れる。

 雲が薄いため、月を覆ったとしても完全な闇になることはなく、飛び道具ならまだしも、近接武器による戦闘に大きな支障はなかった。


 トリッセル・コランジュとミフネ・バルバトス。

 2人の剣士による闘いは、周りの予想より静かに時を刻んでいた。

 互いに様子見状態なのは周りの目から見ても明らかであり、シルアはその状況に違和感を覚えていた。

 格下であるトリッセルが騎士団随一と評される剣鬼将軍ことミフネ相手に慎重になるのは当然の事だったが、ミフネが手探り程度の牽制攻撃しかしてこないことが不思議だった。

 一瞬、時間稼ぎかと思いもしたが、一騎打ちに突入した流れを考えるとミフネがそんな事をするとは思えなかった。


 (慎重にならなければいけない程の実力者と思われてるってことか……)


 シルアはトリッセルの実力を充分に知っているつもりだったが、ミフネ程の人物にそこまで評価されているとは思っていなかった。

 何故なら、彼女がその剣技を見せる事は滅多になかったからだ。

 トリッセルは、闇氷河将軍タリサ・ハールマン傘下で随一の実力であるが、普段はあまり自分を出さずに他の者の影に隠れているのが通常の状態だった。

 そんな彼女の実力をミフネはいつ知ったのだろう?

 トリッセルは言っていた。

 自分を最初に評価してくれたのはミフネだったと……

 

 「……このままでは埒が明かないな……」


 そう呟くと、ミフネは張り巡らしていた警戒心と緩める。

 横で見ていたシルアやビラクでもハッキリとわかる隙を見せる。

 が、トリッセルは動かない。

 トリッセルは警戒心を強めたまま口を開く。

  

 「……私の師と知り合いでしたよね?」

 「ああ、若い頃のライバルであり、尊敬する先輩であり、親友でもあった……」

 「……つまり、私の技はある程度知っているということですね」

 

 その言葉でシルアも理解した。

 ミフネが牽制程度の攻撃しかしてこなかった理由を……

 トリッセルの流派の技に、おいそれとは攻撃に出る事ができない技があるのだろう。


 「あれはお前が13歳の時だったな?」

 「ええ、そうですね……」

 「あの時点で、あいつの流儀の真髄を理解していた。

 そんなお前に恐怖を覚え、そして、将来性を楽しみにしたものだ……」


 トリッセルはミフネからの攻撃を待っていた。

 相手の攻撃に合わせて、相手の武器を抑えながら攻撃に移るのがトリッセルの基本的な戦闘スタイルだったからだ。

 だが、その闘い方を教えた師の事を知っているミフネは迂闊に攻撃を仕掛けてこない。

 

 (何か変化をつけなければ状況は動かないか……)


 ミフネが動きを止めてる事で、トリッセルは考える時間を作る事ができた。

 一番簡単に変化を作る方法。

 それは自分から攻撃を仕掛ける事だが、ミフネ相手にはリスクが高過ぎて躊躇われる。


 「トリッセル……」

 「? なんでしょう?」

 「お前は何故今の地位に甘んじているのだ?」


 ミフネのその問いに、トリッセルは警戒の態勢のまま眉を顰めた。


 「将軍クラスの戦闘力を持ちながら、ただの戦闘要員にすぎない今の立場に……」

 「……私は……」


 僅かな躊躇いの間。


 「私には将軍なんて似合わない……」

 「自分は戦闘しかできないと?

 それならば我も同じだが?

 自分に足りない面は、部下にやらせればいいだけだ」

 「いえ、そもそも人の上に立つタイプではない……」

 「だから、タリサ・ハールマンに仕えてると?

 確かにあの娘は総合力は高い。

 特に軍を率いた統率力では勝てる気はせぬ。

 しかし、いいのか?」

 「?」


 訝しげな表情を強めるトリッセル。


 「お前は自分の強さに対してプライドはないのか?

 年齢でも戦闘力でも下の小娘の配下で満足なのか?

 お前が上に立ち、あやつを副将に副える形もあるのではないのか?」


 トリッセルを認めているからこそ、彼女の立場に納得がいかないミフネ。

 トリッセルはタリサより8つも年上であり、かつては将軍になろうとする意欲を感じられた。

 そう感じていたからこそ、ミフネもトリッセルを自身の下に置きたい気持ちを我慢して見守っていた。

 しかし、気づくと当時まだ15歳の小娘だったタリサの下にいた。

 その時には一時荒れていたミフネ。

 トリッセルに問いかけているうちに、その時の感情が再び湧き上がってくる。

 彼女へと向ける目つきを更に鋭くする。

 が……


 「ふっ……」


 トリッセルの不意の失笑じみた笑いにその目を見開く。


 「何が可笑しい?」

 「ふっ、いえ……、意外に見る目が無いと思いましてね……」

 「なに?」


 トリッセルが構えを解いた。

 ミフネにとっては攻撃のチャンス……、いや、攻撃するべき状況だった。

 だが、トリッセルが次に出す言葉が気になり、動けずにいる。


 「見る目、だと?」

 「節穴と言ってもいいですね」


 普通に考えれば、わかりやすい程の安い挑発だった。

 しかし、ミフネは『挑発ではない』と感じていた。


 「私が戦闘力に劣る者に仕えている。

 そう言いましたね?」

 「……ああ」

 「それが節穴だと言っているのです」


 失笑じみた笑みを消し、代わりに呆れたような表情を見せるトリッセル。


 「あやつがお前より強いと?」

 「ええ……」


 当然と言わんばかりの返答。


 「確かに単純な武勇なら私の方が上だと思います。しかし……」

 「……」

 「実際に戦えば、何度戦ってもタリサ様には勝てはしない……

 だから、私はあのお方の下にいるのです。

 まさか、貴方ほどの方がそれが判っていないとは思いませんでした。

 故に、見る目が無いと言わせていただきました」


 そうハッキリと言い切るトリッセル。

 その目つきは鋭く、ミフネはそこから怒気を感じていた。


 (それほどの評価を……)


 トリッセルがタリサを認めているのは、戦闘力・統率力・知略等の総合力だと思っていた。

 総合力を認めているからこそ、彼女の下についているのだと思っていた。

 だが、個人の戦闘力でも自分より上だと言うトリッセルの評価に、素直に驚きを見せるミフネ。


 「……そうか。なら、さっさとお前を倒して、あやつとも戦わなければな……」

 「させませんよ」

 

 2人は再度カタナを構えた。

 緊張感が辺りを包む。

 シルアやビラクは、感じ取れるそれが先程までとは比べ物にならない程強いものだと感じ取っていた。

 先程とは違い、様子見ではない戦いが始まろうとしている事が分かる。


 「決着に時間はかからないな……」


 小さく呟くシルア。

 それが聞こえていないビラクも、同じ事を思っていた。

 緊張感がどんどんと高まっていく。

 トリッセルは大きく息を吐きだし、そして、大きく吸い込む。

 敢えてそうしたと思える程のその深い呼吸を繰り返すトリッセル。

 大きな呼吸はミフネにも感じ取れ、次第にその呼吸に合わせてミフネの小さな呼吸もリズムを刻みだす。

 リズムが一致しだした呼吸が戦闘再開の合図になると2人の考えは一致していた。

 ミフネはトリッセルのリズムが途切れるタイミングを待つだけだった。

 トリッセルもミフネがそれを待っているのを理解していた。

 つまり、トリッセルの合図で再開するようなもの……

 そして、それが即決着に繋がっている事も理解している。

 

 (奴の切り札はなんだ?

  我が知らぬ技か?

  それとも策か?) 


 ミフネはタイミングを計りながら考える。

 真正面からの単純な斬撃だけとは思えなかった。

 自分の戦闘力(ちから)を過信しているつもりもなければ、相手の戦闘力(ちから)を過小評価しているつもりはない。

 現実的な評価としてまともな斬撃で負けるとは思っていない。

 トリッセルの方も同様の分析をしているはずだった。

 故に、何か切り札があるはずだった。


 (わからぬ以上、考えすぎる必要もないか……)


 ミフネは余計な事を考えるのを止めた。

 これまで鍛えてきた力を……

 これまで磨いてきた技量を……

 自らの実力を信じるだけだった。



 (チャンスは一度……)


 トリッセルも信じるしかなかった。 

 この一撃が、ミフネの戦闘力(ちから)を上回っていると……

 自分を信じてくれるシルアの期待を裏切る訳にはいかなかった。



 極度の緊張の時間。

 見守っているシルアの方が耐え切るのがきつくなってきていた。

 それはビラクの方も一緒であり、今にも声を出してしまいそうになっていた。

 一瞬、出しそうになった声を飲み込むビラク。

 声は出ていない。

 しかしその時、ビラクから生まれた気の揺らぎ。

 それがキッカケとなった。

 トリッセルの呼吸のリズムが止まる。

 そして、2人は同時に……、正に寸分も違わぬタイミングで動く。

 一気に間合いを詰めて、同時に繰り出される横薙ぎの斬撃。

 そのままぶつかり合えば、力に、一撃の威力に勝るミフネの勝ちだった。

 そのままのはずは無いと思いながらも、ミフネは斬撃を止めない。

 止めれるはずもなかった。

 一撃の勢い的に、互いに軌道を変えれる勢いではないのだ。


 「!?」


 だが、トリッセルのカタナの軌道が変化する。

 一瞬のことであり、流石のミフネでも反応はできなかった。

 変化したトリッセルの斬撃は、カタナを持つミフネの右腕を捉えた。

 一瞬落としそうになったカタナを握り直すミフネ。

 その僅かな間が、次の斬撃への対応を遅れさせる。


 (もらった!)


 僅かな遅れが命取り。

 そんな斬撃だった。

 握り返したばかりで力が乗りきっていないミフネのカタナの背に、トリッセルは斬撃を当ててそのまま滑らすようにミフネを切りつける軌道で振りぬく。

 ミフネの()()の予想を超える、ミフネの斬撃を越える威力と速さを持った一撃。

 躱す事も防ぐ事も不可能な一撃であり、それはそのままミフネの胴を薙ぐはずだった。


 

 それは一瞬の出来事であり、一騎打ちの邪魔をしないように少し離れた場所で見守っていたシルアやビラクには何が起こったかわからなかった。

 2人が間合いを詰め、斬撃を放ちながらすれ違った。

 ただ、それだけに見えた。

 そして、それだけで決着はついていた。

 ミフネのカタナは地面に落ち、ミフネの右手から飛ぶ鮮血。


 「勝った?」


 シルアが呟き、トリッセルに目を向けると同時に視線を向けられた体がゆっくり倒れた。

 左脇から血を噴き出しながら……


 「トリッセル!!」


 シルアは慌ててトリッセルへと駆け寄る。

 一方ビラクは、一瞬焦りの表情を見せたものの、安堵の溜息をついてゆっくりとミフネに近づいていった。

 トリッセルに駆け寄るシルアを横目で見てから、ミフネへと視線を移すビラク。

 ミフネは、ゆっくりと落としたカタナを拾い鞘へと納めていた。


 「問題ありませんでしたな……」


 余裕の笑みを浮かべてそう言うビラクに対して、ミフネは軽く睨むような眼を向けると、


 「いや、紙一重であった……」


 と、返した。

 その言葉にビラクは目を丸くする。

 いつも余裕の表情しか見せないミフネが、安堵の表情を浮かべていたからだ。


 「あの一瞬で何が?」


 ミフネは、ビラクのその問いに返事を返さずにトリッセルの元へと足を移した。

 ゆっくりと近づいてくるミフネに気付いたのか、倒れた後動きを見せていなかったトリッセルが体を起こそうとする。

 シルアの助けもあり、ミフネが側に来る前に上半身を起こすことはできたが、それ以上は無理そうだった。


 「残念だったな……」


 トリッセル達の前で足を止めたミフネがそう声を掛けた。

 辛そうに息を切らた状態でミフネへと目を向けるトリッセル。


 「何が……?」

 「お前と同じ事をしただけだ……」 

 「!? 同じ……?」


 ミフネはカタナの柄の部分に埋め込まれていた一つの石を取り外して、地面に投げ捨てた。

 もう必要ないとばかりに……


 「そ、それは?」

 

 それが何かわからないビラクが訊ねると、ミフネの代わりにトリッセルが答える。


 「焼魔石……」

 「しょうませき? それはいったい……」

 「能力強化する魔法の石だ……」


 強化系の魔法品(マジックアイテム)

 それを聞き、ビラクは驚いていた。


 (この方の強さはそんなものに頼っているものだったのか……)


 純粋な剣士としての強さだと思っていたビラクは、失望と蔑みの感情が顔に出る事を隠せなかった。

 それに気づいたミフネは、軽く呆れながら反論しようとする。

 言い訳に聞こえるかもしれないと思いながら……


 「能力強化と言っても、ほんの一瞬だがな……

 相手が強化系のアイテムに頼った場合に対抗する為に一つだけ購入しておいたのだ」

 「……」

 「効果が一瞬過ぎて、この石を活かせる者などそうはおらぬがな……」


 そう、この焼魔石の効果時間は本当の意味での一瞬だった。

 一秒にも満たないその強化は普通に使えば無意味に終わる。

 無駄に魔法力と精神力を消費するだけで終わる。

 ミフネが細かい説明をしない為、ビラクにはそんなことはわかっていない。

 ただ、純粋剣士同士の戦いで、剣士としてのプライドを捨ててそんな物に頼ったという考えに支配されていた。


 「この女も……」


 ビラクの視線がトリッセルのカタナへと移った。

 その柄には、ミフネの物と同じ石が三つ埋め込まれていた。

 ビラクは魔力感知でその石が魔力を失っている事がわかった。

 今の一瞬の斬り合いで三つの焼魔石を使っていたのだ。

 

 「あ……、貴方もこの石を持っていたとは……」


 苦しそうに脂汗を浮かべながらトリッセルは言う。


 「今回のように強化アイテムを使ってくる者に対しての切り札としてな……

 ま、我も焼魔石を使ってくる者……、いや、使いこなせる者がいるとは思わなかったがな」


 ミフネにとって、強化系の魔法品はそれほどやっかいと思った事はない。

 何故なら、殆どの強化アイテムは大した効果を持っていないからだ。

 身体能力を上げる物にしろ、魔法能力を上げる物にしろ、上昇する能力は高が知れた物。

 古代人の魔法技術で作られた物には、至極稀に充分な効果の物があると聞いた事はあったが、実際に見た事もない。

 それでも万が一に備えての対策として、トリッセルが手に入れたのがこの焼魔石だった。

 焼魔石は瞬間的に身体能力を強化する消費系のアイテムであり、能力上昇値は充分なものだったが、代わりに効果は一瞬。

 希少な物であり、中々手に入る物ではないために高価なものであり、更に一瞬過ぎる効果時間はそれに意味を持たせる者はそうは居らず、希少性が好事家に好まれるだけであり、冒険者の中でもその存在を知る者は少ない。

 それ故に、ミフネもトリッセルもお互いに所持しているとは思いもよらなかった。

 だからこそ、トリッセルはあの瞬間勝利を確信していて、ミフネもあの瞬間までその存在が頭に無かった。

 その一秒にも満たない瞬間に反応し、焼魔石を発動させ、反撃にでる事ができたミフネが異常過ぎたのだ。

 

 カタナが交差する瞬間にトリッセルが一つ目の焼魔石の効果を発動させ、強化させた筋力により軌道を無理やり変えて、ミフネの腕を薙ぐ。

 そして、そこで生まれたミフネの隙を狙い、二つ目の焼魔石で強化された筋力でミフネのカタナを抑えそのままカタナの背を滑らせ、ミフネの胴を薙ぐ瞬間に最後の焼魔石で勝利確定。

 ……のはずだった。

 しかし、ミフネはトリッセルの最期の焼魔石と同時に自らの焼魔石を発動させ、自らのカタナを滑って迫るトリッセルのカタナの軌道を逸らし、ギリギリの所で右手に当てる事で防ぐと、一瞬の切り返しでトリッセルの左脇を薙いだのだ。 


 (紙一重の勝負だった……)


 対応やタイミングの僅かでもズレで、結果は変わっていたかもしれない。

 それほどのギリギリの勝負だった。


 (手加減ができなかったか……)


 ミフネはトリッセルの脇腹の傷に目を向け、残念そうな表情を浮かべた。


 「さて、どんな命令をしますか?

 やはり、支配下に置きますか?

 そうなら、シルアの事は私に……」

 「いや、そうはなるまい」

 「? それはどういう……?」


 一騎打ちの結果からの安堵と、自らの欲望が満たされる歓喜という感情を持ちながらのビラクからの問い。

 それに対して返ってきたミフネからの返答に、ビラクの表情が曇る。


 「ギリギリだったからな……

 急所を外すことができなかった」


 そう言ってトリッセルを見つめるミフネの表情も少し残念そうなものだった。 

 ミフネ自身もトリッセルを側近として側に置くつもりだったからだ。


 「神官! すぐに治癒魔法を!」

 「無理だな……」

 「!?」

 「内臓まで達しておる……。司祭レベルでもどうにかできるかどうか……」


 今回の追跡部隊に司祭は連れてきてはいなかった。

 神官レベルの治癒魔法で直せる程、浅い傷ではなかった

 例え司祭を連れてきたとしても結果は変わらなかったかもしれない……

 ミフネにとって専門外の分野とはいえ、冷静に考えれば判ることだった

 

 「し、しかし、シルアは……」


 シルアを手に入れる事がビラクの願い。

 今回に限って言えば、例え手柄を横取りされたとしても、彼女を自らのものにできるのなら我慢ができる。

 そう言った思いがビラクにはあった。

 故に、そう言った言葉が咄嗟に口から出ていた。

 が、ミフネはゆっくりと首を横に振る。


 「本当に判っておらぬのか?

 お前は、この娘の性格を把握しているのだろう?」


 そう、それはビラクにも判っている事だった。

 ビラクはシルアに目を向け冷静に考える。

 彼女の思いと考え方を……

 それはシルアの事をよく知るビラクには簡単に予想できる事だった。

 騎士見習いだった頃に知ったシルアの考え方は、ビラクのそれとは大きく異なっており、それが2人を決別させた原因となっていた。

 元々、特別仲が良かった訳ではなかったが、それでも互いに認め合い競い合うライバル同士だった。

 互いの思想の違いを知ったのは騎士への昇格試験の時。

 主席での合格を狙っていた2人は、それぞれを慕ってきていた仲間と共に競い合っていた。

 その仲間との関係が、仲間に対する考え方の違いが決別の原因。

 結果は主席の地位を取ったのはビラクだった。

 キッカケは夫々の仲間がピンチになったこと。

 ビラクはその仲間を見捨て、シルアは助けた。

 自分の仲間だけでなくビラクの仲間をも……

 結果的にその為にシルアはビラクに遅れをとった。

 しかし、シルアはそのことを後悔していなかった。

 そんなシルアの考え方がビラクは面白くなかった。

 いずれ部隊を指揮する立場になった時に、部下を見捨てなければならない状況もあり、その時を見据えたビラクの行動だった。

 シルアの甘い判断は結果的に隊全体の危機を招く行為だと思った。

 シルアは仲間を見捨てたビラクの行動を軽蔑した。

 シルアも冷酷な決断が必要な事を判っている。

 だが、今回の昇格試験にそれが必要とは思えなかった。

 熱くなっていた2人は互いに批判し合い、最後まで分かり合えずに終わった。


 (こいつは変わっていないのだろうな……)


 トリッセルを庇うように自分達を睨みつけるシルアの姿を見て、ビラクはそう悟っていた。

 約定石の力で無理やりに自分の配下にする選択肢もあっただろう。

 だが、ビラクはそうすべきでないと判断した。

 彼女の為を思えば、トリッセルと共に……

 ミフネも同じ考えなのはすぐに判った。


 「良いな?」


 ビラクの考えが判ったのだろう。

 ミフネはそう念を押す。

 ビラクは頷くしかなかった。

 ミフネも頷き返し、右手のカタナを持ち直しながら2人へと近づいていく。


 「シ、シルア……、お前だけでも生きろ……」


 トリッセルは既に力の入らなくなっている両腕でシルアを突き放そうとするが、シルアは決してトリッセルから離れる事はなかった。


 「……お前だけでもタリサの下に……」

 「ふふ……」


 不意に笑みをこぼすシルアと苦しそうに眉を顰めるトリッセル。


 「私の性格の事は敵である彼等すら知っているのに、貴女が判ってないなんてないよね?」


 呆れ気味を浮かべるシルアに、トリッセルは少し目を見開き。


 「……そ、そうだったわね……」


 呆れた笑みで返した。


 「その甘ささえなくせば……ね……」

 「それが出来ていれば苦労はしないわ……」

 「……そ、そうね……」


 2人は笑みを浮かべたまま、揃ってミフネへと目を向けた。

 ミフネは2人が覚悟を決めた事を悟ると、ゆっくりとカタナを振り上げる。


 (タリサ様……) 

 (タリサ……)


 2人はゆっくりと目を瞑った。


 ((どうかご無事で……))


 それが合図とばかりにミフネは肩を振り下ろした。

 2人を纏めて両断にする為に、力を込めて……

 両腕に力を込めて……


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