表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
61/145

2人の剣士

今回の登場人物

◎シルア・アイン

 19歳 女性

 闇氷河将軍配下の作戦担当

◎トリッセル・コランジュ

 27歳 女性

 闇氷河将軍配下の剣士

◎ミフネ・バルバトス

 43歳 男性

 剣鬼将軍と呼ばれる騎士団最強の武勇を誇る剣士

◎ビラク・ロイトン

 19歳 男性

 副団長モルデリドの側近の1人

 思わぬ言葉、思わぬ提案だった。

 彼女の口から出たその言葉に、その場沈黙の時間が流れた。


 「ふっ……」


 その沈黙を崩したのは、思わず出た失笑だった。


 「我も随分と舐められたものだな。

 まさか、一対一で勝てると思われていたとは……」


 ミフネは、呆れたような笑みを浮かべながらそう言った。

 剣鬼将軍と呼ばれるミフネ・ハルバトスは、グランデルト王国の将軍の中で最高の武勇を誇り、純粋な一騎打ちで勝てる者など、そうはいないだろう。

 まして、魔法を使わない純粋な武芸だけとなると不可能に近い。

 そんな存在であるミフネに対して、トリッセルは一騎打ちを申し込んだのだ。

 その結果により全てを決しようと……

 自分が勝った時には、自分達2人を見逃すように……


 ミフネだけではなく、周りにいる者達も苦笑いや侮蔑の目を彼女に向けていた。

 トリッセルの後ろにいる仲間のシルアですら、そんな提案をした彼女に対して、戸惑いの視線を向けていた。


 「追い詰められて発狂でもしましたかね?」


 ミフネの側に立つビラクが薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

 シルアは顔を顰める。

 騎士見習いだった頃によく見た顔だった。

 自分の才能に絶対的に自信を持ち、常に周りの人達を見下していたビラクのデフォルトの表情とも言えた。

 軽く睨みつけるシルアとは違い、トリッセルはそれを気にした様子もない。

 トリッセルの視線はミフネにしか向いていない。

 そんな視線を受けて、ミフネはどうしたものかと考える。


 「何を考えている?」


 ミフネは相手の出方を伺うことにして、問う。

 

 「本当に勝てるつもりなのか?」


 トリッセルから出た一騎打ちの提案。

 この場の勝負を全て2人だけの勝負で決めようと言うのだ。

 正直、まともな提案とは思えず、何かの企みを疑ってしまう。


 「ふっ……」


 今度はトリッセルが失笑を返した。

 目付きを鋭くさせるミフネ。


 「貴方は私を評価してはくれていると思っていたのですが、そうでもなかったのですね」

 「?」


 トリッセルの言葉に、ミフネは戸惑う。

 彼女のことは評価してきたつもりだったからだ。

 故に自分の手元に置きたいと、団長のゼオルに提案したこともあるぐらいだ。


 「先程、楽しませてくれる相手がここにいるような事をおっしゃいましたよね?

 私がそう評価されていると思ったのですが……」


 トリッセルのその言葉を、ミフネは肯定しようとしたが、それより先にトリッセルが否定する。


 「自惚れていたようですね」

 「何を……」

 

 トリッセルは静かに言葉を続ける。


 「それとも、貴方は自分が確実に勝てると思う相手と戦う事を楽しみにしていたのですか?」

 「!?」

 「もしそうなら、逆に私が貴方の事を思い違いしてたようです。

 失礼しました。

 先程の提案の事は忘れてください……」


 ミフネは漸くトリッセルが言いたい事を理解した。

 自分が何気なく口にした言葉は、そう捉えられても致し方ない事だった。

 自分の失言に気付き、そして、自分の力に自惚れていた事に気付かされた。

 強敵との戦闘から離れて久しい。

 それが自分の心を腐らせていた事に、憤りを感じ、それ以上に恥じた。


 「すまぬな……、前言を全て撤回させてもらう。

 そして……」


 ミフネは目を伏せ、少しを言葉を溜めてから続きの言葉を口にした。


 「一騎打ちの申し出を受けさせてもらう」

 「しょ、将軍? 本気ですか?」


 慌てた様子で尋ねるビラクに、ミフネは静かに目を向ける。


 「今回の作戦の中心は私のはずでは?」

 「そうだったな……、だがすまぬが譲ってくれ」

 「え、いや……、それは……」


 簡単に了承する事はできなかった。

 今回こそ、シルアに敗北を認めさせて、自分のモノにする。

 そんな夢が叶うチャンスなのだ。

 将軍職を目前にしている騎士達だけに与えられたチャンスなのだ。

 将軍が着いてきているのも、万が一にもタリサ達を逃がさない為の保険であり、今回に限って言えば、作戦の決定権はビラクにあるのだ。

 ビラクは考える間も入れずに断ろうとしたが、その言葉は口から出なかった。

 味方であるはずのミフネから感じる殺気が自分に向けられているかのように感じたからだ。

 一騎打ちをしたいからと言って、味方を攻撃する訳はなかったが、そう感じてしまったビラクは動けない。

 味方であるミフネに対して警戒などするわけもなく、2人の距離は確実に攻撃を受けてしまう間合い。

 万が一、この距離でミフネに斬りかかられたら、ビラクに防ぐ手立ては無い。

 言葉を飲み込んだビラクの喉がゴクリと鳴った。


 「ダメか?」


 ビラクは了承するしかなかった。


 「安心しろ、手柄はくれてやる……」

 「はい……」


 プライドの高いビラクは、それを良しとする男ではなかった。

 自分の力で勝ち取ってこそという考えが強い。


 (やはり、断るべきだったか……)


 今回も副団長からの指示でなければ、ミフネの助力など必要としていなかった。

 実際に最初はミフネの同行を断った。

 しかし、万全を期すモルデリドの命令により、同行させなければいけなかったのだ。


 「さて、では早速始めるか……」

 「いえ、まだです」

 「?」


 ミフネの言葉を遮り、トリッセルは懐から1つの石を取り出す。

 魔力を帯びた純白の石。

 近くで見れば古代文字が刻まれているのが見える。

 魔法品に詳しくないミフネには、それが何かわからなかったが、知識に長けるシルアとビラクにはわかる。


 「約定石……」

 「トリッセル、そんなものをいつの間に……?」


 驚きの表情を見せる2人。

 その表情を見て、何も知らないミフネも警戒するべき物なのだろうと予想ができた。


 『約定石』

 今では失われた古代魔法により作られた魔法品。

 名前が示す通り約定のための物。

 その効果は絶対的であり、この石を用いて交わされた約定を破る事は誰にもできない。

 

 「まさか、こんな所で使う気ですか?

 それがどれだけ貴重な物かわかっているのですか?」


 ビラクの言葉に、トリッセルは微笑み静かに言葉を返した。


 「勘違いしてるようだな……。

 確かにこれは約定石の一種だけど、貴方が知っている物とは違う。

 ま、私もこの手の物に詳しいわけではないが、これはそこまで強力な種の物ではないらしいぞ」

 「……約定石でも、物によって効果に差があると?」

 「そうらしいな。

 これは効果時間も短く、対象となる人数も少ないらしい……

 だが……、そうだとしても、この場を乗り切るには充分な効果だ」


 口元から笑みを消し、視線をミフネへと戻すトリッセル。


 「ま、これの存在を知っても、そちらが勝負を受けてくれたら話だがな……」

 「……」

 「将軍、受けてはダメです。

 あれは、約束・約定を魔力によって絶対に守らす魔法のアイテムです。

 あれの魔力化で勝負を受けてしまうと……」

 「なんか、問題があるか?」

 「え? ですから……」

 「お前は一騎打ちで私が負けても引くつもりは無かったということか?」

 「……」


 ビラクは言葉を詰まらせた。

 それが図星だったからだ。

 万が一、ミフネが負けたとしても、その後捕らえれば問題はないという目論見もあって、渋々一騎打ちを了承していたビラク。

 その考えも、その一つのアイテムによって崩されてしまった。


 「お前は了承しないという事か?」

 「え……いや……それは…………」

 「了承しないという事だな?」

 「いえ、そのような事は言ってはいません」

 「では、良いのだな?」

 「……はい。勿論です」


 今回の作戦の決定権はビラクにあった。

 それを充分に理解しているはずのビラクも、了承することしかできない。

 他の将軍相手なら反論できたかもしれない。

 しかし、目の前にいる剣士に反論する事は、ビラクにはできなかった。

 プライドの高いビラクがどうしても逆らう事ができない相手が目の前にいるミフネなのだ。


 「と、いう事だ。

 これで問題ないな……」

 「ええ……」


 不敵な笑みを浮かべて言うミフネに、トリッセルは静かな眼差しを向けて返事を返す。

 ゆっくりと、武器を構える2人。

 共にソリのある細身の剣。

 東方の島国から渡ってきた物で、カタナと呼ばれる武器だ。

 すぐに折れてしまいそうな見た目をしている。

 実際に当たりどころが悪ければ簡単に折れてしまう物であり、使用者の技量が求められる武器だ。

 しかし、使いこなすことができれば、その切れ味は魔法の剣に引けを取らないものであり、一撃必殺の威力を出すこともできた。


 「トリッセル……」

 「すまんな、これは私のわがままだ……」


 シルアに責めるつもりは無かった。

 剣鬼将軍ミフネの姿を見せた時点で、既に厳しい状況だったからだ。

 別の策が浮かばないシルアには、トリッセルを止めることはできない。


 「私に任せてくれ……」


 静かにそう言うトリッセルに、シルアはそれ以上何も言わずにゆっくりと頷いた。

 『任せろ』と言いながらも、負ける可能性の方が高い事はトリッセルにもわかっている。

 だが……


 「ミフネさん。

 私は10回戦って、10回勝てるなどとは思っていない。

 いや、1回か2回勝てるかどうかでしょう。

 全敗すらあり得る相手というのはわかっています。

 ですが……」


 ゆっくりと重心を下げ、闘気を高める。

 

 「必ず負けるとは思ってはいないし、当然、負けるつもりなど無い」


 ミフネは真剣なものへとなっていた表情を再び崩して、笑みを浮かべる。


 「そんな事はわかっている。

 見事、我に勝ってみせよ」


 そう言いながらも、当然ミフネも負けるつもりは無い。

 高まる2人の闘気に、シルアもビラク達ももう手も口も出すことはできなくなっていた。

 いつ始まってもおかしくない緊張感の中、先に動き出したのは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ひゃっほう!サシでの勝負宣言はどの世界でもほんとにかっこいい!! こういう負け濃厚なのがわかっていながら、 それでも挑戦するチャレンジャー的感覚! すごく大好き!! …というように、甲…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ