港町ルオタ
契約した聖獣を五体に増やしたアミスは、港町ルオタに入った。
ルオタの冒険者ギルドで、自分と同じハーフエルフの冒険者と出会う・・・
敵なのか、味方なのか・・・
『引き続きの』登場人物
アミス・アルリア;15歳 ハーフエルフの少年魔法使い。
ティス ;14歳 アミスと使い魔契約を交わしているピクシー。
港町ルオタ
サウザンドリーフ王国の南東の端に位置する国一番の港町。
国の首都キュアリングから遠いが、商業都市ファンズと隣国を結ぶ経路上に位置する為、人々の行き来は盛んな町だ。
活気のある街道を、田舎者丸出しにきょろきょろと見渡しながら、アミスは、目的の場所である商業ギルドを探す。
おおよその場所は聞いていたため、そう時間も掛からずに見つけることができた。
アミスは、建物の大きさに気後れしそうになりながらも、意を決して入り口をくぐる。
「いらっしゃいませ!」
入ってすぐは広いホールになっていた。
数名の職員らしき人達が、忙しそうに仕事をしている姿が目に入る。
「どうぞこちらへ!」
正面奥からの声に目を向けると、受付らしき場所に満面の笑みを浮かべた女性が、こちらを見ていた。
「どうぞ」
「あ、はい・・・」
アミスは彼女に近づき、
「ファンズの商業ギルドからの品物を届けにきました」
と、聞かれる前に要件を伝え、背中のリュックを下ろし、依頼品を目の前の机に置いた。
「はい、お待ちしていました。品物をご確認しますので、少々お待ちください」
女性の礼儀正しい言葉に、アミスは安心感を感じ落ち着くことができた。
それ程待たないうちに、確認を終えたようで、代わりにトレイに乗せた小さな袋をアミスへ差し出す。
「今回の依頼料です。統一通貨で三百バリューになります。ご確認ください」
袋の中には、30枚の銀貨が入ってた。
契約通りの額だったので、問題ない。
「ちょっと教えてもらっていいですか?」
「はい? なんでしょうか?」
「どこかいい宿って知ってますか?」
受付の女性は優しかった。
彼女に教えてもらった宿で部屋を取ったアミスは、部屋で手持ちの所持金を確認し、この後の行動を考えた。
「急ぐ必要はないけど、やっぱりすぐに仕事は探した方が良さそうかな?」
「そうね、今は経験を積んだほうがいいから、できるだけ仕事をこなした方がいいよね」
旅に出たばかりで、さらに割のいい仕事が続いたため、懐には余裕があるが、ティスの言う通り、経験を積むのを優先する。
(もしもの為のお金を貯めた方がいいしね・・・)
二人は、明日の朝にでも冒険者ギルドへ行こうと決めていた。
そのために、既に冒険者ギルドの場所は聞いてある。
「あと、できれば仲間が欲しいところだけど・・・」
「そうね・・・いくら聖獣がいてもね・・・」
アミスの魔法使いという職種は、一人旅に向かない。
近接戦闘に向かないため、近づかれれば、初級のモンスターにすら遅れをとってしまう。
少なくとも、前衛に立つ戦士系の職業とパーティーを組まなければならない。
しかし、簡単に見つかるだろうか?
童顔で華奢な体型なため、お世辞にも、強そうには見えない。
さらにあまり良く思われない、ハーフエルフという種族だ。
(ま、明日行ってみてだよね・・・)
と、ベットに横になる。
「おやすみ、ティス・・・」
「おやすみ、アミちゃん」
昼間の戦闘により、心身ともに疲れていたアミスは、すぐに眠りについた。
翌朝、アミスとティスは、朝食をとってすぐに冒険者ギルドを訪れていた。
そして、中に入って早々のトラブルを目の前にし、呆然とする。
入り口を入ってすぐに狭めのホールがあり、正面には受付と、依頼内容が貼ってあるボードが見える。
左右両側にはそれぞれ大きな扉があり、右側の扉の前で、冒険者らしき4人組と、身なりの綺麗な男性が口論している。
そして、どっちつかずの位置に立つ一人の冒険者に目を取られる。
自分と同じハーフエルフのようだった。
いくつもの冒険や戦闘を潜り抜けてきたであろう、年季の入った服装と装備。
顔だちは整っているが、その鋭い目つきは、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
(これは、関わり合いにならない方が・・・)
(うん・・・)
巻き込まれないよう、正面の受付へ進む。
「何か、登録とかって必要ですか?」
「依頼を受けるときでいいわよ。まずは掲示板から依頼を選んでちょうだい」
アミスは頷いて、掲示板に目を向けた。
「だ・か・ら!! こんな人数で、今の深淵の森を抜けるのは無理だって言ってるんだ」
「それなら人数を増やせばいいだろ?」
「なら、こんな金額じゃできね~よ!」
ヒートアップしてきたのか、口論の声が大きくなってきており、アミス達の耳にも勝手に入ってくる。
(もう・・うるさいな・・・)
下手に相手の耳に入り、こちらに飛び火しても嫌なので、ティスもアミスにだけ聞こえるように呟いていた。
「今の一人当たり3千バリューでも、安いってのに、これ以上増やしてどうするんだよ!? その分払ってくれるのか? 払ってくれないんだろ?」
「これ以上は、こちらにも予算がないからな」
「!! はあぁぁぁ・・・」
冒険者側のリーダーらしき男が、深いため息をつく。
「なら、交渉決裂だ。 勝手にしな」
4人組の冒険者は、立ち去ろうとする。
しかし、突然の殺気に武器を構えた。
「!?」
「どうした? 勝手に立ち去ればいいだろ・・・貴様らはいらん」
「あ、あぁ・・・、気のせいか・・・」
と、今度こそ立ち去る冒険者達。
そして、そこに残される依頼人らしき男と、ハーフエルフの男。
(いまの・・・気のせい?)
心の声で訊いてきたティスに、アミスは無言で首を振る。
間違いなく、依頼主が一瞬、殺気を放った。
しかも素人のそれではない。
呆然として、驚きの目で、思わず見つめてしまった。
振り向いた依頼者と、ふと目が合った。
とっさに目を逸らしたが、もう遅かった。
「君も冒険者か?」
そう言い、アミスの方へ近づいてくる。
一瞬、素知らぬ顔で逃げようとも考えたが、一瞬の躊躇がそれを逃す。
「仕事を探しに来たのだろう? 良ければ話だけでも聞いてみないかい?」
「は、はい・・・」
話だけは聞かなきゃいけない流れになってしまった。
(アミちゃん、やめた方がいいよ・・・。なんか、この人怖い)
(僕もそれは思うけど・・・、とりあえず話だけ聞くしかなさそうだよ・・・)
(そうね・・・)
「では、奥の酒場で少し話させてもらうよ。ラス君、君も大丈夫かな?」
ラスと呼ばれたハーフエルフは、黙って後をついていく。
そして、アミスも黙って続く。
右扉の奥は酒場になっていた。
まだ朝になったばかりの為、お酒を飲んでる者はいなかったが、朝食であろう食事を取っている人の姿は見えた。
「私の名前は、ディルク・ファン・ディアス。キックオークの漁業ギルドの副責任者をしている者だ。ディルクと呼んでくれていい」
「キックオーク?」
「知らぬかね? この町から東にある港町だ。まっすぐ行ければ1日もかからない距離だよ」
「・・・」
承知したと黙って頷くアミス。
「ちょっと急いで帰らなければいけなくなったので、その為の護衛を募っていたのだよ」
「護衛・・・ですか・・・」
アミスは、先程のやり取りが耳に入っていたので、何となくはわかっていた。
「深淵の森というのは・・・?」
「知らぬのかね? もしかして、ここに来るのは初めてか?」
「はい・・・」
「そうか・・・、それでは、一から説明しよう」
ディルクは淡々と説明を始めた。
部下のミスにより、国からの視察団がくることになり、その視察団が到着するのが三日後とのこと。
自分もそれに立ち会わなければならない。
しかし、普通の道で通常五日、急いでもぎりぎり三日。
ディルク自身も体力が充分なわけではなく、無理はきかずどう考えても間に合わないとのことだった。
ルオタとキックオークの間には、深淵の森と呼ばれる広大な森が国境を跨ぐように存在しており、街道はその森を避けるように作られているため、異常なまでの遠回りな道なのだ。
深淵の森はモンスターが大量に確認されている危険な森なのだが、つい20日前までは、冒険者を護衛に雇い、深淵の森を抜ける者は多く見受けられた。
深淵の森さえ抜けれれば、一日とかからない。
しかし、今は抜けようと思う者は皆無に等しい。
入ったら二度と出れない森となってしまったからだ。
「20日間弱の間に、深淵の森を抜けようとした者は、約20の集団で、100名を超えているらしい」
「その全てが・・・?」
「そう・・・抜けたという情報も、帰ってきたという情報もない・・・」
(アミちゃん・・・)
(・・・?)
(駄目だよ、こんなの受けたら駄目だよ)
ティスが不安げに止める。
「つい2日前に入ったパーティーは、20人を超えた集団で、この地域でAランク冒険者と言われていた者もいたらしい」
「Aランク・・・」
「先程の4人組が、その次にランクが高いと評判の冒険者だったのだがな・・・」
そう言って、ディルクは頭を抱えた。
「でも・・・僕が依頼を受けても、どうにもなりませんよね? そちらの方と二人では・・・」
「奴らがいても変わらないと思うがな」
今まで、言葉を一言も発してなかった、ラスと呼ばれていたハーフエルフが口を開いた。
「正直、俺は人を守るとかは得意ではない。誰かが守りに徹している間に、敵を倒す。 それぐらいしかできん・・・」
と、目を伏せる。
「間に合わない可能性が高いかもしれないが、普通に街道を通っていくことを、俺は勧めるよ」
「僕も、それがいいかと・・・」
アミスはラスの言葉に賛同する。
「・・・やはりか・・・」
ディルクも目を伏せ、深くため息をついた。
「ここでのAランク冒険者とやらが、どの程度の力量かは知らないが、そいつらが駄目だったことを、自分を含めて二人や数名やらでできると言い切れるほど、俺は自惚れていない。遠回りして間に合わない可能性より、強行して死なずにすむ可能性の方が、圧倒的に少ないと思うがな・・・」
「・・・わかった・・・、そうだな・・・」
ディルクは納得したように、目をラス、アミスと向け立ち上がる。
「他に手を考えてみる。その時にまた相談させてほしい。どこに宿を取ってるか教えてもらえるか?」
「・・・」
ディルクの言葉に、ラスはすぐに言葉を返さなかった。
「僕は、南の門の近くの、海淵亭に・・・」
「・・・俺も同じだ・・・」
(!?)
アミスはおかしいと思った。
昨晩は、アミスがギリギリの時間でのチェックインだと言われた。
そして、アミスを女の子と勘違いした宿の主人が言っていたのだ、
「今日のお客さんは女性ばかりだな・・・」
と・・・
ディルクと別れたアミスは、わざとまっすぐ宿には戻らなかった。
まだ、昼前の時間であり、それはおかしな行動ではない。
ラスへ不信感を持ったアミスは、ラスの行動を監視することにした。
「ティス、透明になって、あの人を尾行してもらえる?」
「ディルクってやつ?」
「いや、ラスさんっていうハーフエルフの人・・・」
「?・・・、わかった」
ティスの特殊能力の一つである『 透明化 』。
魔法の【 透明化 】とは違い魔力は発しないため、感知系の魔法では見破ることはできない。
逆に、この能力を知っている者が疑うと、効果を失うものだった。
ティスは、透明になるとラスの尾行を開始した。
その後を、ティスとの 『 意識会話 』が可能なギリギリの範囲でできるだけ距離を取ってついていく。
アミス自身は、完全にラスの視界外にいる状態だ。
ラスは、寄り道もせず海淵亭に着いた。
チェックイン時に、宿のルールの説明を受け、従業員の案内で部屋へ入っていった。
(ティス・・・部屋に入れる?)
(それは難しいかな・・・近過ぎるし、他に誰もいないと気配を感じられるかも・・・)
(・・・わかった、戻っていいよ)
ティスと合流し、少しの間を置いてからアミスも宿に入った。
「おや? 今日もかい?」
「はい、よろしくお願いします」
「連泊なら、あらかじめ言ってくれれば、割引したのに」
「いえ、仕事次第では連泊になるかわからないので、一泊ずつとりますね」
「そうか・・わかったよ。昨日と同じ部屋でいいかい?」
「あ、いえ・・・」
アミスは、ラスの隣の部屋を取った。
ラスにその光景を見られているとは、思いもよらずに・・・
次回は25日に更新できたらいいな。