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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
2・仲間
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港町ルオタ

 契約した聖獣を五体に増やしたアミスは、港町ルオタに入った。

 ルオタの冒険者ギルドで、自分と同じハーフエルフの冒険者と出会う・・・

 敵なのか、味方なのか・・・


 『引き続きの』登場人物


 アミス・アルリア;15歳 ハーフエルフの少年魔法使い。

 ティス     ;14歳 アミスと使い魔契約を交わしているピクシー。

 港町ルオタ

 サウザンドリーフ王国の南東の端に位置する国一番の港町。

 国の首都キュアリングから遠いが、商業都市ファンズと隣国を結ぶ経路上に位置する為、人々の行き来は盛んな町だ。

 活気のある街道を、田舎者丸出しにきょろきょろと見渡しながら、アミスは、目的の場所である商業ギルドを探す。

 おおよその場所は聞いていたため、そう時間も掛からずに見つけることができた。

 アミスは、建物の大きさに気後れしそうになりながらも、意を決して入り口をくぐる。


 「いらっしゃいませ!」


 入ってすぐは広いホールになっていた。

 数名の職員らしき人達が、忙しそうに仕事をしている姿が目に入る。


 「どうぞこちらへ!」


 正面奥からの声に目を向けると、受付らしき場所に満面の笑みを浮かべた女性が、こちらを見ていた。


 「どうぞ」

 「あ、はい・・・」


 アミスは彼女に近づき、


 「ファンズの商業ギルドからの品物を届けにきました」


 と、聞かれる前に要件を伝え、背中のリュックを下ろし、依頼品を目の前の机に置いた。


 「はい、お待ちしていました。品物をご確認しますので、少々お待ちください」


 女性の礼儀正しい言葉に、アミスは安心感を感じ落ち着くことができた。

 それ程待たないうちに、確認を終えたようで、代わりにトレイに乗せた小さな袋をアミスへ差し出す。


 「今回の依頼料です。統一通貨で三百バリューになります。ご確認ください」


 袋の中には、30枚の銀貨が入ってた。

 契約通りの額だったので、問題ない。


 「ちょっと教えてもらっていいですか?」

 「はい? なんでしょうか?」

 「どこかいい宿って知ってますか?」



 受付の女性は優しかった。

 彼女に教えてもらった宿で部屋を取ったアミスは、部屋で手持ちの所持金を確認し、この後の行動を考えた。


 「急ぐ必要はないけど、やっぱりすぐに仕事は探した方が良さそうかな?」

 「そうね、今は経験を積んだほうがいいから、できるだけ仕事をこなした方がいいよね」

 

 旅に出たばかりで、さらに割のいい仕事が続いたため、懐には余裕があるが、ティスの言う通り、経験を積むのを優先する。

 

 (もしもの為のお金を貯めた方がいいしね・・・)


 二人は、明日の朝にでも冒険者ギルドへ行こうと決めていた。

 そのために、既に冒険者ギルドの場所は聞いてある。


 「あと、できれば仲間が欲しいところだけど・・・」

 「そうね・・・いくら聖獣がいてもね・・・」


 アミスの魔法使いという職種は、一人旅に向かない。

 近接戦闘に向かないため、近づかれれば、初級のモンスターにすら遅れをとってしまう。

 少なくとも、前衛に立つ戦士系の職業とパーティーを組まなければならない。

 しかし、簡単に見つかるだろうか?

 童顔で華奢な体型なため、お世辞にも、強そうには見えない。

 さらにあまり良く思われない、ハーフエルフという種族だ。


 (ま、明日行ってみてだよね・・・)


 と、ベットに横になる。


 「おやすみ、ティス・・・」

 「おやすみ、アミちゃん」


 昼間の戦闘により、心身ともに疲れていたアミスは、すぐに眠りについた。




 翌朝、アミスとティスは、朝食をとってすぐに冒険者ギルドを訪れていた。

 そして、中に入って早々のトラブルを目の前にし、呆然とする。

 入り口を入ってすぐに狭めのホールがあり、正面には受付と、依頼内容が貼ってあるボードが見える。

 左右両側にはそれぞれ大きな扉があり、右側の扉の前で、冒険者らしき4人組と、身なりの綺麗な男性が口論している。

 そして、どっちつかずの位置に立つ一人の冒険者に目を取られる。

 自分と同じハーフエルフのようだった。

 いくつもの冒険や戦闘を潜り抜けてきたであろう、年季の入った服装と装備。

 顔だちは整っているが、その鋭い目つきは、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。


 (これは、関わり合いにならない方が・・・)

 (うん・・・) 

 

 巻き込まれないよう、正面の受付へ進む。


 「何か、登録とかって必要ですか?」

 「依頼を受けるときでいいわよ。まずは掲示板から依頼を選んでちょうだい」


 アミスは頷いて、掲示板に目を向けた。


 「だ・か・ら!! こんな人数で、今の深淵の森を抜けるのは無理だって言ってるんだ」

 「それなら人数を増やせばいいだろ?」

 「なら、こんな金額じゃできね~よ!」


 ヒートアップしてきたのか、口論の声が大きくなってきており、アミス達の耳にも勝手に入ってくる。


 (もう・・うるさいな・・・)


 下手に相手の耳に入り、こちらに飛び火しても嫌なので、ティスもアミスにだけ聞こえるように呟いていた。


 「今の一人当たり3千バリューでも、安いってのに、これ以上増やしてどうするんだよ!? その分払ってくれるのか? 払ってくれないんだろ?」

 「これ以上は、こちらにも予算がないからな」

 「!! はあぁぁぁ・・・」


 冒険者側のリーダーらしき男が、深いため息をつく。


 「なら、交渉決裂だ。 勝手にしな」


 4人組の冒険者は、立ち去ろうとする。

 しかし、突然の殺気に武器を構えた。


 「!?」

 「どうした? 勝手に立ち去ればいいだろ・・・貴様らはいらん」

 「あ、あぁ・・・、気のせいか・・・」


 と、今度こそ立ち去る冒険者達。

 そして、そこに残される依頼人らしき男と、ハーフエルフの男。


 (いまの・・・気のせい?)

 

 心の声で訊いてきたティスに、アミスは無言で首を振る。

 間違いなく、依頼主が一瞬、殺気を放った。

 しかも素人のそれではない。

 呆然として、驚きの目で、思わず見つめてしまった。

 振り向いた依頼者と、ふと目が合った。

 とっさに目を逸らしたが、もう遅かった。


 「君も冒険者か?」


 そう言い、アミスの方へ近づいてくる。

 一瞬、素知らぬ顔で逃げようとも考えたが、一瞬の躊躇がそれを逃す。


 「仕事を探しに来たのだろう? 良ければ話だけでも聞いてみないかい?」

 「は、はい・・・」


 話だけは聞かなきゃいけない流れになってしまった。


 (アミちゃん、やめた方がいいよ・・・。なんか、この人怖い)

 (僕もそれは思うけど・・・、とりあえず話だけ聞くしかなさそうだよ・・・)

 (そうね・・・)


 「では、奥の酒場で少し話させてもらうよ。ラス君、君も大丈夫かな?」


 ラスと呼ばれたハーフエルフは、黙って後をついていく。

 そして、アミスも黙って続く。


 右扉の奥は酒場になっていた。

 まだ朝になったばかりの為、お酒を飲んでる者はいなかったが、朝食であろう食事を取っている人の姿は見えた。


 「私の名前は、ディルク・ファン・ディアス。キックオークの漁業ギルドの副責任者をしている者だ。ディルクと呼んでくれていい」

 「キックオーク?」

 「知らぬかね? この町から東にある港町だ。まっすぐ行ければ1日もかからない距離だよ」

 「・・・」


 承知したと黙って頷くアミス。


 「ちょっと急いで帰らなければいけなくなったので、その為の護衛を募っていたのだよ」

 「護衛・・・ですか・・・」


 アミスは、先程のやり取りが耳に入っていたので、何となくはわかっていた。


 「深淵の森というのは・・・?」

 「知らぬのかね? もしかして、ここに来るのは初めてか?」

 「はい・・・」

 「そうか・・・、それでは、一から説明しよう」


 ディルクは淡々と説明を始めた。

 部下のミスにより、国からの視察団がくることになり、その視察団が到着するのが三日後とのこと。

 自分もそれに立ち会わなければならない。

 しかし、普通の道で通常五日、急いでもぎりぎり三日。

 ディルク自身も体力が充分なわけではなく、無理はきかずどう考えても間に合わないとのことだった。

 ルオタとキックオークの間には、深淵の森と呼ばれる広大な森が国境を跨ぐように存在しており、街道はその森を避けるように作られているため、異常なまでの遠回りな道なのだ。

 深淵の森はモンスターが大量に確認されている危険な森なのだが、つい20日前までは、冒険者を護衛に雇い、深淵の森を抜ける者は多く見受けられた。

 深淵の森さえ抜けれれば、一日とかからない。

 しかし、今は抜けようと思う者は皆無に等しい。

 入ったら二度と出れない森となってしまったからだ。


 「20日間弱の間に、深淵の森を抜けようとした者は、約20の集団で、100名を超えているらしい」

 「その全てが・・・?」

 「そう・・・抜けたという情報も、帰ってきたという情報もない・・・」

 

 (アミちゃん・・・)

 (・・・?)

 (駄目だよ、こんなの受けたら駄目だよ)


 ティスが不安げに止める。

 

 「つい2日前に入ったパーティーは、20人を超えた集団で、この地域でAランク冒険者と言われていた者もいたらしい」

 「Aランク・・・」

 「先程の4人組が、その次にランクが高いと評判の冒険者だったのだがな・・・」


 そう言って、ディルクは頭を抱えた。


 「でも・・・僕が依頼を受けても、どうにもなりませんよね? そちらの方と二人では・・・」

 「奴らがいても変わらないと思うがな」


 今まで、言葉を一言も発してなかった、ラスと呼ばれていたハーフエルフが口を開いた。


 「正直、俺は人を守るとかは得意ではない。誰かが守りに徹している間に、敵を倒す。 それぐらいしかできん・・・」


 と、目を伏せる。


 「間に合わない可能性が高いかもしれないが、普通に街道を通っていくことを、俺は勧めるよ」

 「僕も、それがいいかと・・・」


 アミスはラスの言葉に賛同する。

 

 「・・・やはりか・・・」

 

 ディルクも目を伏せ、深くため息をついた。


 「ここでのAランク冒険者とやらが、どの程度の力量かは知らないが、そいつらが駄目だったことを、自分を含めて二人や数名やらでできると言い切れるほど、俺は自惚れていない。遠回りして間に合わない可能性より、強行して死なずにすむ可能性の方が、圧倒的に少ないと思うがな・・・」

 「・・・わかった・・・、そうだな・・・」


 ディルクは納得したように、目をラス、アミスと向け立ち上がる。


 「他に手を考えてみる。その時にまた相談させてほしい。どこに宿を取ってるか教えてもらえるか?」

 「・・・」

 

 ディルクの言葉に、ラスはすぐに言葉を返さなかった。


 「僕は、南の門の近くの、海淵亭に・・・」

 「・・・俺も同じだ・・・」


 (!?)


 アミスはおかしいと思った。

 昨晩は、アミスがギリギリの時間でのチェックインだと言われた。

 そして、アミスを女の子と勘違いした宿の主人が言っていたのだ、


 「今日のお客さんは女性ばかりだな・・・」


 と・・・ 



 ディルクと別れたアミスは、わざとまっすぐ宿には戻らなかった。

 まだ、昼前の時間であり、それはおかしな行動ではない。

 ラスへ不信感を持ったアミスは、ラスの行動を監視することにした。


 「ティス、透明になって、あの人を尾行してもらえる?」

 「ディルクってやつ?」

 「いや、ラスさんっていうハーフエルフの人・・・」

 「?・・・、わかった」


 ティスの特殊能力の一つである『 透明化 』。

 魔法の【 透明化 (インビジブル)】とは違い魔力は発しないため、感知系の魔法では見破ることはできない。

 逆に、この能力を知っている者が疑うと、効果を失うものだった。


 ティスは、透明になるとラスの尾行を開始した。

 その後を、ティスとの 『 意識会話 』が可能なギリギリの範囲でできるだけ距離を取ってついていく。

 アミス自身は、完全にラスの視界外にいる状態だ。

 ラスは、寄り道もせず海淵亭に着いた。

 チェックイン時に、宿のルールの説明を受け、従業員の案内で部屋へ入っていった。


 (ティス・・・部屋に入れる?)

 (それは難しいかな・・・近過ぎるし、他に誰もいないと気配を感じられるかも・・・)

 (・・・わかった、戻っていいよ)


 ティスと合流し、少しの間を置いてからアミスも宿に入った。

 

 「おや? 今日もかい?」

 「はい、よろしくお願いします」

 「連泊なら、あらかじめ言ってくれれば、割引したのに」

 「いえ、仕事次第では連泊になるかわからないので、一泊ずつとりますね」

 「そうか・・わかったよ。昨日と同じ部屋でいいかい?」

 「あ、いえ・・・」


 アミスは、ラスの隣の部屋を取った。

 ラスにその光景を見られているとは、思いもよらずに・・・


次回は25日に更新できたらいいな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (ΦωΦ)ラスとの出会いの回。 お互い探り探りなのがいいね。 始まりはいつも突然。 運命を連れて行く、Time trippin' ride!! 今こそ、その運命の波に乗れっ!(ΦωΦ)…
[良い点] 解説の文章が丁寧でわかりやすく、 その上長くないのでスラスラ読めました! 目指せ、ネギの完全読破! 読み応えがあるので時間がかなりかかりそうですが(ΦωΦ) [気になる点] 小説の会話って…
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