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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
59/145

逃走ルートC

登場人物紹介


◎タリサ・ハールマン

 19歳 女性 暗黒騎士

 グランデルト王国、真権皇騎士団の将軍の1人で、闇氷河将軍の二つ名を持つ女騎士。

 ゼオル・ラーガのクーデターにより、追われる身となり、逃走中。


◎フェミリアーネ・ギフト

 17歳 女性 魔法戦士

 闇氷河将軍側近の1人。

 まだ若く騎士になりたてだが、その素質は誰からも評価されている。


◎ロイ

 密偵部隊『闇の衣』の部隊長。

 魔族の血が流れており、その魔力を利用した隠密能力は超一流。


◎コンスタン・バーム

 雷炎将軍の二つ名を持つ将軍で、アミスの使い魔ティスに直接手をくだした男。


◎リグス・キャンベル

 将軍の位に近いと評される魔法戦士。


◎ミックス・コトー

 将軍の位に近いと評される魔術師。


◎アミス・アルリア

 15歳 男性 魔導士

 本作の主人公。

 タリサを助けるために行動中。


 どうする事が正解だったのか?


 タリサは悩んでいた。

 ゼオルの提案に乗るべきだったのか?

 エリフェラスの勧誘を了承するべきだったのか?

 全員で行動し、全員で突破を狙うべきだったのか?

 いっそのこと、あの場で王救出という達成できない目的の為に暴れて、命を落とすべきだったのではないだろうか?

 そうしていれば、部下達も夫々の道を選択できたのではないだろうか?


 どの選択肢が正解だったとしても、もうどうにもならない事。

 自分のわがままに部下達を付き合わせ無謀な作戦に参加させてしまった思いが、タリサの心を重くする。

 今は、自らの選んだ道を進むしかない事は分かっていたが、割り切れないでいる。

 そもそも、こんな立場にいる事自体が、間違いな気がしてくる。


 敬愛する王の力になりたい。


 ただそれだけのために、力を求め、位を求め、信頼を求めてきた。


 (そうだ……、全ては王の為だったんだ……)


 タリサの心に陰が刺す。

 自分にとって全てだった王には、もう会えない。

 生き延びてどうするというのだろう?

 

 復讐


 その二文字が頭を過ぎる。

 しかし、その文字はすぐに頭から消えた。

 代わりに頭に浮かんできたのは、1人の少年の顔。

 偽りだった復讐という目的に、力になると言ってくれたアミス・アルリア。

 そんなアミスの顔が次々と浮かんでくる。

 

 どう見ても未成年の少女にしか見えない少年の顔。

 心配性で不安そうな顔。

 悲しそうな泣き顔。

 何事にも負けない強い意志を込めた男の顔。

 そして、優しい笑顔。


 (無事、国外に逃げきれただろうか?)


 元々、この国に連れてきた自分は心配する権利は無いのかもしれない、と思いながらも、心配な気持ちを簡単に消す事ができないタリサ。

 

 「ふぅ……」


 思わず口から漏れる小さな溜息。

 暗い中を共に進むフェミリアーネ・ギフトが、その溜息に反応する。


 「大丈夫ですか? 何度も溜息をついてますが……」


 最初は気を遣って、タリサの溜息をスルーしていたフェミリアーネだったが、流石にその回数の多さに心配の方が勝ってしまったようだった。

 それは無意識だったようで、指摘されて初めてタリサはそれに気付かされた。

 

 「いや、すまない……」

 「いえ、いいんですけど、心配になってしまい……


 不必要な気を遣わせてしまった事を申し訳ないと思いながら、気を張り直そうと、タリサは周囲に改めて集中する。


 「タリサ様が、皆んなを心配する気持ちはわかりますので……」


 フェミリアーネの言葉は、タリサの制止の合図により止められた。

 タリサの表情の変化に気付き、フェミリアーネも周囲に気を飛ばす。

 しかし、彼女には何も感じ取れない。

 元々、周囲には充分な警戒心を持って移動しているつもりなのだ。

 タリサもそれに気付けたのは偶然とも言えるレベルのものだった。

 元々の索敵能力の高さもあるが、それだけで説明できない僅かな違い。

 偶々、改めて索敵に集中したタイミングで現れた僅かな気の揺らぎ。

 普段であれば見落としていてもおかしくない極々小さな揺らぎだった。


 「まさか、これに気づくとは……、流石、闇氷河将軍といったところですかね……」


 それは静かに姿を現す。

 黒い影と共に……

 何も感じとる事が出来なかった場所に急に姿を見せた存在に、フェミリアーネは驚きと同時に剣を構える。

 彼女専用の炎属性の魔法剣。

 それを現れた相手に向けながら、タリサの前に出る。


 「そちらも、大したものだな。そのレベルの隠密能力は、人間レベルではないぞ……」

 「ま、一応魔族の血も入ってますからね……」

 「!?」


 それは知った顔だった。

 副団長モルデリド直属に位置する密偵部隊『闇の衣』の長を務める者。


 (たしか……、ロイだったか……)


 直接、紹介された訳ではないためハッキリとした情報ではなかった。

 タリサも報告の場に居合わせた時があるので声を聞いたことはあったが、会話するのは初めてであり、能力を垣間見るのも初めてだった。

 故に、想像した以上の隠密能力と、その魔族という言葉の2つに素直に驚いていた。

 

 「ハーフ魔族というべきなんですかね……」

 「……そうか」

 「タリサ様……ゆっくりと会話してる状況では……」

 「ああ……、判ってる……」


 フェミリアーネの指摘に短く返事をする。

 そんな事は言われなくても判っている事だった。

 会話しながらも辺りに他に気配がないか探り、ロイと言う名の密偵が隙を見せないかと観察していた。

 半魔族特有なのだろうか?

 独特な魔力を纏ったその佇まいは、どう動くべきか、タリサを躊躇わせていた。

 周りに他に気配は感じない。

 目の前の半魔族レベルの隠密能力を持った者が他にいるとも思えず、ほぼ間違いなく彼一人だけだろうと、タリサは考えている。

 これだけの隠密能力があるなら、尾行する事のみを優先すれば他の者は足手まといにしかならない事は明らかなのだから。

 戦闘力の予想はつかないが、相手が1人なら強引に突破する事も可能だろう。

 逆に、躊躇い時間を経過させるのは、他の敵が合流する時間を与える。


 (やるか……)


 タリサが重心を落とす。

 フェミリアーネもそれに気づきいつでも動ける心構えをする。 

 その事は、自分達を注意深く見つめているロイも気づいているだろう事は予想がつく。

 が、目の前の半魔族は、態度に変化を見せない。

 違和感はあったが、再度躊躇う事はせずに足を踏み出そうとした瞬間だった。

 半魔族の後ろにもう一つの人影に気付き、出しかけた足を止めるタリサ。

 タリサの呼吸を捉えてタイミングを計っていたフェミリアーネは、足を踏み出してから一瞬遅れて慌てて止まった。

 そして、その人影が誰か気づき、驚きの表情を浮かべた。


 「副団長……」


 姿を見せた姿は、モルデリド・ジェル・クリセル。

 真権皇騎士団副団長。


 「まさか、貴方まで……」


 そう力なく言うフェミリアーネの表情には、絶望の色が見えた。

 そんな彼女の右肩に手を置いたタリサは、


 「落ち着きなさい……」


 と、静かに諭すように言う。


 「冷静に見れば、貴方(あなた)にも気付けるはずよ」

 「え?」


 言われた言葉の意味がわからずに、フェミリアーネは戸惑う。


 「すぐに気付ける貴女(あなた)が凄いんだと思いますよ」

 

 そう言い笑みを浮かべる半魔族ロイ。

 

 「間違いなく気配は無かった。そして、魔力もな……」

 「なるほど……」


 そんなやり取りを見せる2人の前で、フェミリアーネは少し心を落ち着かせてじっくりと見る。

 そして、漸く気づく事ができた。


 「【 幻影(ビジョン) 】……」


 目の前に見えるものが、本物のモルデリドでない事に漸く気付くフェミリアーネ。

 【 幻影 】の魔法により作られた映像。

 

 「時間稼ぎか? 残念だったな」

 「いえ、充分だったみたいですよ」

 「 ? 」


 タリサは、自分一人であればすぐにでも突破の為に動き出していた。

 しかし、モルデリドの幻影に委縮していたフェミリアーネをどうにかしなければいけない為に、少しの間を要した。

 それでもすぐに気付いてくれた為、時間的ロスは殆どない状況だった。

 故に、再度動き出す為のきっかけとばかりに投げかけた言葉に、返ってきた予想外の言葉に再び動きが止まるタリサ。


 (冷静さが足りないか……)


 気にせずに動くべきだった。

 しかし、平静を装いつつも、自分でも分かる程冷静さを失っている彼女は、相手にペースを握られている事も感じ取っていた。


 (だが、今は動くしかない……)


 と、タリサが覚悟を決めた処で、辺りに変化が生まれだした。

 周りの木々が光を帯びだし、その光は周囲全体を包み込む。


 「え? な、なに?」


 慌てるフェミリアーネと冷静に周囲を見渡しながら分析するタリサ。


 (この為の時間稼ぎだったのか? しかし、あいつが準備をしていたようには見えなかったが……)


 ロイを睨みつける様に観察しながら考えるタリサ。

 どんな効果の魔法が発動するか分からないが、今から止める手段が見つからずに、取敢えず光が収まるのを待つ事にする。

 様々な可能性を頭に浮かべながら……

 光が収まるのにそれほど時間はかからず、タリサは冷静に周囲の変化を感じ取ろうとする。


 「……タリサ様……」

 「フェミル……、すぐにでも行動できる心構えだけは怠るな」

 「……はい」


 タリサはそう言いながら2歩程前に進み、ロイとの間合いを詰めた。

 先程までは、余裕な口ぶりながらもこちらへの警戒心を見せていたが、今ではそれが消えていた。

 間合いを詰めさせない警戒心を見せていたさっきまでとは違い、今は2歩だけとはいえ、簡単に間合いを詰める事を許している。

 雰囲気の変化で警戒心が薄れている事に気付いての行動だったが、感じた通りである事が返ってタリサに嫌な予感を感じさせる。


 「今の貴女では、私にかすり傷を負わす事もできませんよ」

 「 ? 」

 

 ロイの言葉に、タリサは目の間に敵や周囲だけ向けていたその意識を自分に向けた。

 そして、気づく。

 それを確認するかのように、右手に力を込めてみる。

 自分が意識したよりその手に力が籠らない。


 「弱体化の結界か……」

 「そうらしいですよ。ま、詳しい事を訊きたければ、術者が到着するのを待ってください」


 その言葉から、タリサが感じた通りに目の前にいるロイが発動させた訳ではない事がわかった。

 能力が落ちている状態で突破する事、逃げ切る事ができるだろうか?

 しかし、術者が到着するのを待つのも得策とは思えなかった。

 だが、隙をついて倒すことができればこの魔法の効果を消すことができるかもしれないという考えも浮かんでいた。


 (いや、逃げるべきだな……)


 そう決断したタリサは、フェミリアーネにアイコンタクトで合図を送ると、踵を返して走り出した。

 結界の影響で足は重いが、走れない程ではなかった。

 一瞬、ロイへと目を向けたが、すぐに追ってくる動きは見せない。


 (もう、他の者が近くまで来ているのか?)


 少なくとも、その気配は感じなかった。

 しかし、身体能力だけでなくそういった能力も落ちている可能性もある。

 そうだとしても、様々な可能性を考えつつも、今できる範囲で最善を尽くすだけだった。

 足場の悪い林の中を走り抜けるタリサとフェミリアーネ。


 (来たか……)


 タリサは感じ取る事ができた。

 弱体化の結界も感知系の能力には影響ないようで、その存在を感知する事ができていた。

 足を止めるタリサ。

 フェミリアーネも感じ取っているのか、殆ど同時に立ち止まる。

 

 (やはり、それなりの数はいるか……)


 既に囲まれている事は2人とも分かっていた。

 2人は互いに背を預ける形で周囲に気を配る。

 身体能力が落ちている状態では、一般兵士からも逃げ切る事は難しいだろう。

 何とか効果範囲外まで行けないものかと期待してみたが、流石に甘い考えだったかと、タリサは思うことしかできなかった。


 (せめて、もう少し行ければ……)


 この辺りの地理の事は把握していた。

 もう少し行けば川の上流に出る。

 急で流れの速い川である為、上手く利用すれば包囲の穴を作る事も可能だったかもしれない。

 

 「出てきたらどうだ? それとも他の者が合流するのを待つのか?」


 既に囲まれている状況下で誰か分からない者の相手をするより、相手と会話して打開策を考える方が、可能性を探れると判断したタリサは、やや挑発気味な物言いで言い放つ。

 暫しの間の後に姿を見せたのは、3人の男達。

 それはタリサ知っている顔だった。


 将軍職が1人。

 雷炎将軍(トーネルフラム)と呼ばれるコンスタン・バーム。

 タリサの目付きが無意識に鋭くなり、フェミリアーネが不思議そうな目を向けた。

 その視線に気づいていたタリサは、心を落ち着けようと目を瞑る。

 暗くなった視界に自然に浮かんでくる小さな妖精の姿。

 タリサがその妖精ティス直接会話したことなんて、殆どなかった。

 ただ、アミス達と彼女のやり取りが自然に頭に浮かぶ。

 明るく元気に喋る姿が……

 絆を築いたという程の相手ではなかったが、そんな彼女を殺した者を目の前にして、自分でも不思議に思う程に気が高ぶっていた。

 タリサは何とか心を落ち着けると、他の2人に目を向ける。


 後の2人は将軍候補と言われてる者だった。

 1人はリグス・キャンベル。 

 既に鞘から抜かれた長剣を右手に持っており、いつでも戦闘態勢に入れる状態。

 その長剣は僅かに光を帯びており、一目で魔法の武器である事がわかった。

 近くで見ればその剣には、古代語が刻まれているのが見えただろう。

 

 (黒魔法の研究にも熱心だったはずだな……)


 ふとそう思い出すタリサ。


 (そうか……、戦闘の為に抜いた訳ではないんだな。と、いう事は……)


 自分達を纏う弱体化の魔力。

 それと同タイプのものをその長剣が帯びている事に気付き、それが魔法の発動体であり、この結界を作る為に抜かれたものだというが解った。

 

 (あの剣を破壊すれば解けるのか?)


 自ら魔法を使用できる訳でもないタリサは、魔法に関しての知識は、防衛の為程度にしか学んでおらず、そんな予想を立てる事しかできなかった。

 魔法剣士であり、自分よりは魔法の知識を持っているはずのフェミリアーネの方に目を向けるが、これといった動きを見せていない。

 その剣の意味に気付いていないのかもしれないと思うタリサ。

 知識はあっても、観察力が足りないのだろう。

 

 (チャンスがあればだな……)


 可能性だけで危険を冒すには早すぎると判断し、もう一人に目を向けた。


 ミックス・コトー。

 完全な魔法使い装束の彼の事を、タリサは何度か見かけた事はあるが、詳しく知らなかった。

 ただ、プライドが高く、威圧的な物言いをする事だけは覚えている。

 2人より一歩後ろに引いた位置に立ち、冷たい目付きでタリサとフェミリアーネの方を見つめていた。

 その佇まいは不気味なぐらい静かであり、他の2人とは違う考えでここに来ているのではと思わせる。

 

 「出し惜しみせずに、兵達も配置すればいいんじゃないか?」


 3人しか姿を見せていない状況が動きにくいと思ったタリサは、相手に動くきっかけを与えようとそう言葉を投げかけた。

 それを受けて、互いに顔を見合わせるコンスタンとリグス。

 少し躊躇いを見せるコンスタンに対して、リグスが頷きながら、


 「大丈夫ですよ……」


 と、小さく言った。

 その言葉を受けてコンスタンは周囲に合図を送る。

 周囲の気配が動き出す。

 夫々が素早い動きでタリサ達を中心とする円を作り出すように位置取り、包囲網が敷かれた。

 敵に回して改めて分かる兵士達の練度の高さ。

 一切無駄のない動きで作り出された包囲網で思い知らされた。


 (だが……)


 普段のタリサではあれば、それを突破する自信はあった。

 しかし、今は弱体化の結界の効果の中だ。

 どの程度まで身体能力が落ちているか、未だにつかめていない以上、無理はできない。

 全ては、少しの戦闘を経てそれを分析してからだと判断。

 相手から手を出させて、それを防御する事で調べようとタリサは考えていた。

 どう言えば動き出すだろう?

 プライドが高く、上を目指す向上心が高い3人だと覚えている。 

 何かのきっかけを与えれば、向こうから動いてくれるだろうと予想しているタリサは、挑発の言葉を考えていた。

 やはり、ターゲットは将軍職のコンスタンだろうか?

 そんな事を思うタリサだったが、思いもよらないものによりコトは動き出した。


 「!?」


 タリサは不意に別の者の気配を感じ取った。

 急ぐ足取りで近づいてくるその気配に、タリサは更に敵が合流してきたのだと思っていた。

 普通に考えれば更にキツイ状況になるが、逆にそれが動くチャンスなのかもしれないと思い、それの到着を待った。

 そして、姿を見せた予想もしていなかった存在に、タリサの思考は止まった。


 「な、なんで……?」


 もう会う事はないと思っていた存在。

 それは金色の髪と碧色の瞳と尖った耳を持った美少女……

 いや、美少女に見える少年、アミス・アルリアだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 窮地に立たされた場面にベストタイミングで現れるアミス…、 完璧です! 完璧にゾクッとさせられる展開!!( ゜д゜ )クワッ!!
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