部下より仲間として
薄暗く密閉された空間。
そこがどこなのか、わかる者。
そして、この場所に入る事ができる者。
それは、闇氷河将軍とその側近の数名のみ。
タリサ・ハールマン
シルア・アイン
トリッセル・コランジュ
マリーナ・フォンセルン
ヨネン・ゲンシュ
フェミリアーネ・ギフト
6人がその部屋に集合しており、話し合いの結果、一旦この首都を離れる事に決まった。
タリサの心の中には、王を助けたい強い気持ちがありはするが、それを口に出すのは、今目の前にいる部下達に死ねと言っているようなものである。
それだけ無謀なものだと判っているからこそ、タリサはそれを口に出さずにいるのだ。
それが自分一人だけで終わるならいくらでも命を賭けることができるのだが……
普通に考えれば、信頼できる部下がいるからこそ多少の無理が効き、何かをできるかもしれなかったが、タリサにとってはそうとは限らなかった。
タリサにとって、彼女等は部下というより仲間という思いが強かった。
できれば一人として失いたくはない存在。
騎士として一軍を預かる立場なのだから、より良い結果を得るための犠牲が必要なことを理屈では理解はしていた。
そして、そうあるべきと敢えて冷たい態度で職務に就いてきた。
少し前のタリサであれば、一か八かで王救出に動いたかもしれない。
しかし、今のタリサにはそれはできなかった。
最近は、自分自身をも誤魔化す事になれた冷静で冷徹な偽りの性格。
元々、優し過ぎる性格を封じるために作り出したその仮面が、1つの出会いによって崩壊してしまっていた。
アミス・アルリアという少年との出会いによって……
「私とトリッセル、ヨネンとマリーナ、そして、将軍とフェミリという組み合わせが良いと思われます」
シルアのその提案に、少し考えてのんでいたタリサは反応が遅れた。
一瞬、心配げな表情をタリサに向けたシルアだったが、すぐに別方向から来た反発の言葉に冷静に視線を返した。
「タリサ様と、フェミリという組み合わせはどうかと思いますが……」
「そ、そうですよ。私じゃ、タリサ様の補佐は……」
マリーナからの否定の言葉。
フェミリ本人も荷が重いとばかりに賛同する。
「将軍からの命により、戦力を均等に分けた結果です」
「将軍の安全が最優先では?」
「私もそう思います……」
マリーナとフェミリの意見は正しい。
それはその場にいる誰もが思っていた。
今回の割り振りを決めたタリサとシルアですら……
「今回の最優先は、全員生き残ること。その後の作戦のためには1人として欠けてもらうわけにはいかない」
タリサが反対意見を言わせないように、威圧感込めてキッパリと言い切る。
「ですが……」
「この組み合わせなら、敵と遭遇してもなんとか振り切って逃げれるはずだ。
戦力を集中すると、どうしても弱みが出る」
マリーナの反論を許さないように、タリサは言葉を被せる。
そして、シルアがそれに続ける。
「ルーメルがいればまた違う形もあり得ましたが、いない以上、今回の編成がベストと思われます。
逆に、現段階でフェミリの能力を100%発揮させられるのは、将軍と私しかいません。
私との組み合わせだと、戦闘力に不安が残りますから、将軍との組み合わせが1番と判断しました」
タリサとシルア、作戦の決定権を持つ2人の意見が一致しているのだから、それを覆らすことが無理なのは判っていることだった。
が、マリーナが中々引き下がらない。
「申し訳ありませんが、今回はハッキリと言わせていただきます。
私は……、いえ、皆んなも思っているとおもいますが、全員が逃げ切れるとは思えません」
それも正論だった。
常識的に考えれば不可能に近い。
「囮役を1人、そして、足止めの殿を1人、これで、他の4人が逃げ切れるかどうかだと思います」
マリーナから出る意見は、どれも正しい見かただった。
それ故に、タリサもシルアもすぐに反論の言葉を出すのは難しかった。
しかし、何としてもこの編成で進むしかない理由がある。
「マリーナ、わがままを言ってこれ以上タリサ様達を困らせるなよ」
マリーナを止めたのは、ヨネンだった。
作戦の話がされている時には、いつも面倒くさそうにしてる彼女が、口を出すのは珍しかった。
考える事を面倒と言い切り、決まった作戦を実行するだけ。
そう思われているヨネン。
「ヨネンさんは黙っててください」
「今は時間が惜しいんじゃないのか? どんなに文句言っても、2人が決めた作戦が覆ることはないことは、マリーナも判っているだろ?
それなら、こんな時間の無駄は省いて、
次の作戦の説明をしてもらった方が良いと思うが……」
「そうだな……」
ヨネンの意見に、ずっと黙っていたトリッセルが短い言葉で賛同する。
「し、しかしですね……」
「マリーナにはすまないが、作戦の説明を続ける」
これ以上の口論は無用とばかりに、タリサがそう言ったため、マリーナは黙るしかなかった。
そして、全員が生き残るためという名目の作戦説明が続けられた。
そして、説明終了後、すぐに夫々に別れて逃走計画が開始された。
他の4人と別れ、タリサとフェミリが移動を開始していた。
月に薄い雲がかかり、光源が少ない暗い路地を、タリサが前、フェミリが後ろを警戒しながら進んでいく。
「タリサ様……」
フェミリの不安が呼びかけに、タリサは視線を向けずに、
「どうした?」
と、短く返す。
「今回の作戦で、本当に全員逃げ切れるのでしょうか?」
そう問うフェミリは、心の中で、タリサから勇気を貰える言葉がかけられるものと期待していた。
いつもの、強気に鼓舞してくれる将軍の姿を想像していた。
だが、期待通りの答えは返ってこない。
「……」
少しの沈黙のあと、
「それは無理だな……」
と、思ってもいなかった答えが返ってくる。
フェミリは絶句し、そして、今回がどれだけ危険な状況なのかを思い知らされた。
「少なくとも、1人は合流することはない。生死についてはわからないがな……」
「え? それはどういう……」
再び生まれる少しの沈黙の後、
「裏切り者が、何か事を起こすのには絶好の機会だから……」
タリサは呟く。
ただ、静かに……
その表情に、僅かに悲しそうな色を浮かべながら……
今回から、短して更新していこうと思います




