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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
53/144

聖獣として……

 「ティス……、まだ消えてないですよね?」


 思いつめたような表情で黙り込んだまま、静かに食事を取っていたアミスが、不意に口を開いた。

 その突然の言葉に、一同の視線が集まる。

 そして、アミスはただ一点を見つめている。

 他の者には何も見えないその一点を……


 「アミちゃん……、まだいるよ……」

 

 それは小さな声。

 それを聞き洩らさない為に、一同は息を殺すように静寂を作り出す。 


 「お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

 「……」


 アミスに言葉に、ティスは返事を返さなかった。

 ティスには予想がついたからだ、アミスが言うとしているお願いの内容が……


 「ティス……僕の聖……」

 「駄目よ、アミちゃん!」


 強めの言葉で止めるティス。

 目を凝らすとアミスの視線の先に、その姿がぼんやりと見える様になっていた。


 「それ以上は言わないで……、その話は旅立つ前に終わってるはずよ」

 「でも……」

 「駄目……」

 「……」

 「……」


 2人が黙り込み、辺りを包む静寂の空間。

 他の者達も、何も言いだせずに見守るしかなかった。

 興味本位に訊いていい話ではないと感じ取れたからだ。


 「ティス……、断られてもいい。だから、言うだけ言わせて欲しい……」

 「……」


 ティスは困ってしまう。

 アミスの悲しげな表情で、お願いされると断るのが辛いから。

 だから、そのお願い自体を言わせたくなかった。

 だが、ティスは黙って頷くしかなかった。

 主人であるアミスに頼まれているのだから……


 「ティス……、僕の聖獣として生きて……」

 

 予想通りの願いだった。

 その予想通りの願いを、ティスは強い心を持って断らなければならない。

 それは旅立つ前に決めた事なのだから……


 「駄目よ、アミちゃん……、それだけは駄目……」

 「ティス……、お願いだから……」

 「駄目……」

 「……」

 

 再び黙り込む2人。

 しかし、今度は別の者がその沈黙を壊す。


 「何で駄目なの?」

 

 リンがふと思った疑問を投げかけた。

 理由が本当にわからなかったから……


 「……私が……」

 「?」

 「私が聖獣になっても意味がないから……」


 ティスからの答えを聞いても、リンは最初その真意を理解できなかった。

 それを感じ取り、ティスが言葉を続ける。


 「聖獣は力や特別な能力が無いと価値はないのよ。非力な妖精族がなっていいものじゃないもの……」

 「そんなこと関係……」

 「関係ないわけないじゃない!」


 アミスの言葉を、ティスが言葉荒げに遮った。


 「アミちゃんは、もっと自分だけの才能を大事にして……」


 一転して、小さい言葉で……


 ティスは心の中では嬉しくない訳が無かった。

 自分との絆を大事にしてくれるアミスの気持ちが嬉しかった。

 だが、それに甘える訳にはいかなかった。


 「聖獣っていうのは、本当に特別な存在なのよ。どの聖獣と契約するかによって戦い方に大きく影響するの。幸いにもアミちゃんはSランクの強力な聖獣と契約できてる。アミちゃんならこれからも強力な聖獣と出会えるはず、だから、私なんかに貴重な聖契石を使っちゃ駄目」


 言い切るティスに、アミスは俯いて言葉を出す。


 「……どんなに……」

 「え?」

 「どんな強力な聖獣を手に入れても、ティスの代わりになんてならない」

 「あ……あみちゃん……?」

 

 この話をするのは何度目だっただろう?

 いつもは、最後にはティスがアミスを言い負かし、アミスが渋々納得して終わるのが流れだった。

 しかし、今回のアミスは違った。

 引き下がれば、もうティスとそんなやり取りもできなくなる。

 そう思ったら、アミスは我慢ができなかった。

 我慢ができるわけがなかった。


 「ティスともう会えなくなるなんて嫌だ。どんな形でもいいから側にいて欲しい……」

 「アミちゃん……、でも私は足手まといは嫌なの……」

 「その程度なのか?」

 「「!?」」

 

 2人の言葉を止めたのは、レンが放ったやや冷たく感じる言葉だった。

 何に対しての発言だったのかは2人共理解できずにいたが、突然出されたそれに、アミスもティスも言葉を止めてしまった。


 「あの時、聞かせてもらった思いはその程度だったのか?」

 「……あの時?」


 その言葉の意味を考えるアミスとは違い、ティスはハッとした表情を浮かべる。

 

 「あの話を聞いて、お前達の絆が特別だと思ったものだったが、単なるその場限りの言葉だったようだな……」

 「あなたに……」


 ティスは一瞬言葉を詰まらせたが、意を決したように、レンに対して言葉を投げつけた。


 「あなたに私達の何が判るっていうの!?」

 「ああ、何も判ってないかもしれない……、お前達の絆は、お前達だけのものだからな……」

 「……」


 レンは静かに言葉を返す。

 語気を荒げたティスに対して、静けさで返したレンのその言葉は、ティスの次なる言葉を止めた。


 「私ごときに、理解できるわけがない……」


 レンはそう続けると、アミスへと目を向けた。

 レンの気持ちを感じ取ってか、アミスは黙ってレンの次の言葉を待った。

 それに気づいてか、一瞬口元に笑みを浮かべてからレンは次なる言葉を口にする。


 「だが、その程度の関係とは思わなかったよ……」

 「その程度?」


 反論しかけたティスよりも先にレンが言葉を続ける。


 「諦めるのだろう? あの時の発言を無かった事にするのだろう?」

 「無かった事になんて……」

 「無かった事になるんだよ。このままだとな……」


 レンは言いながらも、そんな言葉を発する自分に心中では驚いていた。

 前までの自分であれば、仲間の絆など気になんてしない。

 そんな存在を持った事などなかったからだ。

 一時的に協力する事はあっても、殆どは一回の仕事で終わっていた絆だ。

 そんな自分が、目の前で消えそうな絆を、何とか繋ぎ止めようと説得するなんて……


 「ティス……」

 「……」

 「もう一度、話を聞いて……、そして、ティスの思いも教えて……」

 

 レンが説得をしようとしてくれているのが判り、アミスはそれに背中を押されたかのように、ようやく言葉を発した。


 「ここで諦めてティスと、もう会えなくなったら、絶対に後悔する」

 「私を聖獣にしても、後悔する……」

 「そう思う?」

 「え?」

 「本当に、ティスを聖獣にして後悔すると思う?」

 「ア……アミちゃん?」


 アミスのその言葉に、僅かに感じ取れた【怒】の感情を感じ取り、ティスは戸惑う。


 「……ティスは僕の事を誰よりも判ってくれていると思ってた……」

 「アミちゃん……」

 「でも、僕が勝手に思い込んでだだけだったみたい……」

 「アミちゃん、そんな事は……」

 「それなら、なんで……」


 アミスの右の瞳から零れる涙に、ティスは言葉を詰まらせる。


 「ティスがいなかったら、今の僕はいない……」


 アミスも必死に言葉を絞り出す。

 気を抜けば黙り込んでしまいそうになる心の揺れ、それを必死に抑え込みながらの言葉。

 零れた涙を拭い取り、ティスの目をしっかりと見つめての言葉。


 「そんなティスとの別れを回避した事を、僕が後悔するなんて、本気で思ってるの?」

 「ア、アミちゃん……」

 「……!? ……そっか……」

 

 考えたくもなかった可能性が頭を過り、アミスは沈んでいた表情を更に曇らせる。


 「ごめん……」

 「え?」

 「そうだよね……、こんな頼りない僕との契約は嫌だよね……」

 「え? ち、ちが……」

 「忘れてたよ……、出会った時に言ってたよね。こんな頼りない人を主と認めたくないって……」


 アミスの頭で、昔の記憶が再生される。

 自分との主従関係を中々認めてくれなかった事を……

 その時、まだ子供だった自分が、我が儘を言って、どれだけティスを困らせていたかを思い出す。


 「アミちゃん、違うの……、誤解しないで……」

 「いや、本当の事を言ってくれていいんだ……、自分勝手な我が儘でどれだけ迷惑をかけて……」

 「そんなことない! アミちゃんは私にとって最高の主なの!」


 ティスがそう言ってもアミスの表情は晴れない。

 まるでその言葉をまともに聞いていないかのような様子だった。


 「ただ、私は足手まといになりたくないの……、もっと凄い聖獣と契約してほしい……」


 光を失ったかのような瞳のアミスに、ティスは必死に言葉をかける。

 自分の思いを、誤解されずに伝える為に……


 「ねぇ、ティス? あなたの能力って戦闘では役に立たないかもしれないけど、充分に優秀な能力だと思うけど……、仲間と合流する為の転移魔法とかさ。それで力になれないとか……」

 

 口を挟むことを控えていたリンが、アミスの表情の変貌に心配になったのか、口を開く。

 それに対して、ティスは悲しげな眼を向けて否定する。


 「使えないの……」

 「え?」

 「私が今まで使ってきた魔法や能力は、使い魔の能力なの……」

 「使い魔の?」


 リンのオウム返しの言葉に、ティスは頷き言う。


 「使い魔としての契約が解除されて、聖獣になったら使えない……、それほど、特殊なものなの……。今、魂を留めているこの能力もそう……、アミちゃんの力になる為に、必死になって習得した使い魔能力(スキル)……」

 「絶対に使い魔じゃないと使えないのか……」


 ラスが投げかけた質問に、ティスは無言で頷く。


 「だから、私が聖獣になっても何もできない。できると言ったら飛行能力を活かして偵察に行くぐらいかしら? それだって、他の聖獣でできる事……」

 「そんなの関係な……」

 「関係なくない!!」


 ティスの怒鳴り気味の強い言葉。

 普段のアミスであれば委縮して、一回言葉を飲み込むほどの強さだったが、


 「関係ないよ……」


 アミスは直ぐに言葉を返す。

 強くはないが、しっかりと思いを込めて……


 「ティス……、ティスが僕と一緒にいるのが嫌だって言うなら無理強いはしない……、でも、もし役に立つ役に立たないで断ってるなら、僕は絶対に引き下がらない。……だから」


 アミスはそっと目を閉じる。

 そして、深く息を吸い、意を決したように眼を開き、ティスを見つめた。 

 

 「ティス……」

 「アミちゃん、お願いだから判って……」


 2人の言葉が止まり、そのタイミングを待っていたかのようにレンが口を開く。


 「もう、アミスの力になる気がないなら、そうハッキリ言えばいいだろ?」

 「え?」

 「中途半端な言い方をするから、アミスも納得しないだ。ハッキリと言えばいい、アミスの力になる気はもうないんだと……」 

 「違う! 私はアミちゃんの力になりたい。でも、聖獣になったら、今の力は全て無くなってしまう。そんな私がなんの力になれると……」

 「……力になれないのか? 本当に?」

 「え?」

 

 そう言ってティスに向けたレンの目付きは、何かを言いたげなのがすぐにティスには判った。

 反論もできずに、レンを見つめ返していたティスは、彼女の言いたい事に気付いた。


 「ま、まさか……」


 ティスが気づいた事がわかったレンは、口元に笑みを浮かべた。

 二人以外は、わからずに頭に疑問符を浮かべている。


 「聖獣に詳しいお前でも、わからないか?」


 レンはアミスへと言葉を投げかけた。


 「え?」

 「ティスが聖獣としてお前の力になれる方法がある事を知らぬか?」

 「え?」


 アミスにはわからなかった。

 絶対的なものとは思っていないまでも、それなりの知識は持っているつもりだった。

 だが、今、レンが頭に浮かべている方法を、アミスには見当もつかなかった。  


 「あなた……なんで知ってるの? それは聖界や妖精界の者しか知りようがないことのはず……」

 「偶々、知る機会があったと言うしかないな。知識を得る機会というのは、思わぬ所に転がっているものだと……」

 

 アミスには見当もつかないが、方法がある事はわかり、アミスの表情に光が差す。


 「ティス」

 「?」

 「その方法を教えてください。そして、方法があるなら僕の聖獣として……」

 「……でも」


 ティスは戸惑う。

 方法はあるが、躊躇ってしまう。


 「力になる気がないなら、無理に言う必要はないだろ?」

 「え?」

 「だから、戸惑っているんだろ?」

 「え?」


 レンのその言葉は冷たかった。

 彼女は、挑発の為に敢えて冷たく言い放っていたのだが、やや混乱気味に悩んでいたティスは、それに気づけず、その心に苛立ちを生み出していた。


 「アミスよ、ティスはお前と一緒に居たくないらしいぞ」

 「な、何を……」


 顔色を変えるティスとは対照的に、レンは笑みを浮かべた表情のまま。


 「主の要望に応える方法を知っていながら、それを教えないという事は、そう言う事だろ?」

 「ち、違っ……」

 

 一瞬出た否定の言葉が止まる。

 自分にもアミスにも、未練を残さない為に敢えて教えなかった。

 それは、レンが言ったように思われても仕方のないとふと思ってしまい、ティスは黙ってしまった。

 

 「ティス……、教えて……、その方法を……」

 「……アミちゃん……」


 アミスのその表情は、決意したはずのティスの心を揺さぶる。

 期待しながらも、使い魔であるはずの自分に気を遣い、遠慮がちにお願いするアミスの表情。

 それが判るからこそ、ティスは心を強く持たなければ折れてしまいそうになる。

 

 「……フゥ……」


 レンが少し呆れ気味な溜息をつく。


 「本来なら、本人が説明するべきなのだがな……、今回は時間が無いから私から説明するか……」

 「だ、駄目よ……」

 

 ティスは慌てて静止の言葉を出すが、レンが口元から笑みを消し、冷ややかな視線をティスに向けながらその静止を無視して説明を始める。


 「聖獣と契約する方法は、基本的に……」


 聖獣契約で一般的に広く認識されているのが、場所や魔石等の物に封じられている聖獣を、特殊な魔法により作り出した聖契石という魔法の石に、特殊な呪文により移す方法で、これは調べれば誰でも知りえる方法である。

 他の方法としては、聖契石と使用する事に変わりはないが、聖獣が住む聖界や妖精界などに赴き、聖獣に直接認めてもらい契約する方法もある。

 聖界に行く事自体が困難であり、現実的な方法ではないが、アミスが持つ≪水霊≫シルア・≪氷霊≫クリスの様にこちらの世界の特殊な場所に存在している聖獣と契約できる場合もある。

 アミスが知っているもう一つの方法は、元々別の生物が死んだ時に、霊体になったその存在と互いの合意の上で契約する方法。

 アミスの契約聖獣の中では、≪魔女≫ニーネルなんかがこれに当たる。

 そして今回、アミスがティスを聖獣にしようとしているのも……

 

 「それ以外にも方法がある……、それが幼獣契約というものだ」

 「幼獣……契約?」


 オウム返しアミスの口から出た言葉に、レンは表情を変えずに頷く。


 「……」

 「ま、今回私が勧める方法は、更に特殊な形だがな……」


 レンは説明を続ける。

 生まれたばかりの聖獣との契約する方法。

 生まれたての聖獣は他の生物がそうであるように、最初は何もできない。

 成長するまで待たなければならないので、即戦力にはならない。

 だがしかし、幼獣契約には他の契約とは違う大きなメリットがある。

 それが、契約者と共に成長すること。

 厳密に言えば、聖獣が幼獣から成獣へと成長する間に、契約者の魔力が強くなった分、聖獣の能力も高くなるというものだ。

 逆に言えば、契約者の魔力が上がらなければ、何の意味もない方法。

 つまり、魔力の成長が見込めない戦士系や神官系の者は、ほぼ意味が無い。

 

 「でも、ティスは身体は小さいけど、幼獣ってわけじゃないんじゃ……」


 アミスのその疑問はもっともな意見だった。

 その認識に間違いはない。

 ティスの年齢は14歳。

 人間であれば成人前だが、成長の早いピクシーなら既に大人になって年数が経っている。


 「そうだな。だから、今回は更に特殊な方法を取る事になる」


 特殊な方法の中でも、更に特殊な方法。

 それは……


 「ティスには、妖精の卵に戻ってもらう」


 レンはハッキリと言い切った。

 既にその方法を取る事が決まったかのように……

約3か月ぶりの更新です。

間が空いて、申し訳ありません。

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[良い点] (ΦωΦ)…ほぅ…! ほぅほうほう!! そう来たか!! すっげぇ嬉しい!!ヽ(=´▽`=)ノ この言葉に尽きる!!!
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