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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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タリサとエリフェラス

 「そんなに警戒するな、タリサ……」


 エリフェラスの口調が先程までとは異なっていた。

 それは、普段から聞き慣れた親しげなものであり、タリサは一瞬安心感に包まれそうになる。

 その安心感を咄嗟に振り払い、タリサは剣の先端をエリフェラスへと向けた。


 「敵を目の前にして、警戒をしないなんてありえないと思うが……」

 「敵か……、俺にはそんなつもりはないんだがな……」


 警戒心を前面に押し出すタリサとは逆に、エリフェラスはそれを意に返した様子も見せずに自然体だった。


 「王を裏切った者は、私にとっては敵にしかならない……」


 いつでも切りかかれるように闘気を高めるタリサ。

 エリフェラスとの間合いは、既にタリサにとっての必殺の間合いだった。

 エリフェラス自身もそれを重々承知していた。

 

 「無意味な事は止めろ……」

 「? 無意味……?」


 エリフェラスのその言葉が意味するものが理解できずに、タリサは一瞬戸惑いを見せる。

 そこへエリフェラスは、すっと間合いを詰める。

 タリサは反応できずに、エリフェラスの左手が、剣の柄を握る彼女の右手をそっと抑えた。


 「!?」


 ハッとした表情でタリサはエリフェラスの顔を見る。

 先程の冷たさを感じる雰囲気は消え去っており、優しげな笑みでタリサを見つめていた。


 「タリサ……、まずは話を聞け……」

 「……」


 タリサは、少し考えた後、柄から手を放し、それを確認してからエリフェラスも手を離した。


 「タリサ……」

 「何も言わなくていい……」

 「……?……」


 タリサは、エリフェラスに背を向ける。

 完全に警戒を解いたその姿は、エリフェラスの目にはとても弱々しく見えた。


 「あの場にフレイがいなかった時点で、全ては予想ができた……。何が起こったのかも……、私一人でどうにかできる事では無い事もな……」

 「……タリサ」

 「だがな!」

 「!?」


 タリサは振り向くと、強い意思を込めた目でエリフェラスを睨みつける。


 「簡単に割り切って見捨てれる程、私の忠義は軽いものではない!!」


 そう言うと、再び剣先をエリフェラスに向けた。


 「それが解らないお前ではないだろ? その上で、お前は私に何を言うつもりなんだ? その言葉次第では、今、この場で私かお前が死ぬことになる!」


 タリサもエリフェラスも、互いに目を逸らさずに見つめ合う。

 タリサは強い意思を込めて、エリフェラスはそのタリサの思いを感じ取ろうと……


 「ふぅ……」


 エリフェラスは、タリサから目を逸らすと、小さく溜息をついた。

 それにはハッキリとわかるほどの、諦めの感情が見て取れた。


 「わかった……、これ以上は何も言わない。お前の好きなようにしろ。代わりに情報も与えない。それで良いな?」


 タリサは少し驚きを見せたが、エリフェラスの目を見つめたまま、ゆっくりと頷いた。


 「なら、さっさと行け。他に誰か戻ってくる前にな」

 「……すまない」


 タリサは小さく謝ると、エリフェラスに背を向けて走り出した。

 エリフェラスが自分に攻撃する気はないと確信して、無警戒に……


 「死ぬなよ……」


 その小さな声は、タリサの耳に確かに届いていたが、タリサは反応を返さずにその場を後にした。

 1人残されたエリフェラス。

 再び小さな溜息を一つ。


 「やはり無理だったか……」


 無理とわかっての説得。

 その説得までもいかなかった状況に、心の中で自分に対して失笑する。

 

 「知衛将軍、ここでしたか?」


 突然の声。

 誰かが近づいてきていた事はわかっていた。

 しかし、そこへ現れた者の声を聞いて、エリフェラスの顔から表情が一瞬消える。


 「1人では危険ですよ。彼の女には1人で当たるのは危険です」

 「ああ、そうだな……」

 「? どうかされましたか?」


 そこへ現れたのは雷炎将軍(トーラムフラム)コンスタン・バームだった。

 アミスの使い魔ティスを焼き殺した者。


 「いや、気になる事があってな……」

 「気になる事?」


 興味深し表情でエリフェラスを見るコンスタン。


 「闇氷河将軍がここに戻るのではと思ってな……」

 「そんなまさか……」

 「……」


 エリフェラスは少し考えてから次なる言葉を出す。


 「いや、実際にさっきまで居た」

 「え?!」

 「私一人ではどうにもならなかったがな……」


 心から驚いた表情を見せるコンスタンに、エリフェラスは言葉を続ける。


 「それでも、私も切り札を使って傷だけは負わす事が出来た。今なら貴殿でもどうにかできるかもしれん……」

 「え? ですが……」


 コンスタンも闇氷河将軍ことタリサ・ハールマンの実力は分かっている。

 普通に考えれば1人であたる相手ではない。

 人一倍功名心が高く、大きな手柄を求めていたコンスタンもリスクが高すぎる為に、躊躇いの方が強かった。


 「モルデリド様に知らせてきます」

 「逃げられて終わりますよ」

 

 コンスタンの踏み出した足が止まる。


 「逃走ルートはわかっています。私とタリサで共有してたルートです。もしもの為に用意していたもので、どんなルートよりも外に出るのが早い……、普通では今更追いつける相手ではありませんが、相手が私が追ってこないと高を括っていれば、もしかしたら追いつけるかもしれない……」

 「ですから、急いでモルデリド様に……」

 「今すぐ追っても追いつけないかもしれないのに、そんな時間があると思いますか?」


 黙り込むコンスタン。


 「止まってる時間が惜しいです。すぐに判断を! 副団長に知らせに行くか? 若しくは……」


 急いでると言いながらも、エリフェラスは一瞬言葉を止めた。


 「すぐに追いかけるか?」


 エリフェラスはコンスタンに選ばせる。

 しかし、それはこう言えば彼ならばどうするか解った上での選択肢だった。


 (後は任せましたよ……)


 エリフェラスにも、その後の展開は予想できない。

 ただ、自分が望む形になる事を祈るだけだった。

今回はかなり短いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] その一瞬でこれからの道筋を立てるエリフェラスの才能がネギにも欲しい。
[良い点] 知衛将軍らしい判断が後半に! ただ、その中にも葛藤が有るのを垣間見た気がします。 やはり、仲の良かった同士との間には…。 間違いなくヒキに飲まれてるネギがここにいます(ΦωΦ)
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