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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
1・聖獣と少年
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新たな聖獣

登場人物紹介

 アミス・アルリア;複数の聖獣と契約できる魔法使いの少年、15歳、ハーフエルフ、男

 ティス;アミスの使い魔、14歳、ピクシー、女

 ファイス;聖獣を求めて洞窟を探索する冒険者(戦士)、24歳、人間、男

 サラ;ファイスの相棒の冒険者スカウト、22歳、人間、女

 ロルティ;突然現れた魔法使いの少年、?、?、男

 サラの提案に全員賛同することになった。

 形だけの協力関係。

 全員が、戦闘を避けられないという考えを持っていた。

 予定通り、ロルティがマナ遮断を使う。


 (魔法じゃないのかな?)


 効果を考えると、詠唱なしで使えるレベルの術とは思えない。

 アミスは、幼少の頃から父からは様々なことを教わった。

 特に魔法と聖獣については自分でも自信が持てるぐらい教え込まれたはずだった。

 そんな自分が聞いたことのない魔法なのだろうか?


 (いや、今はそんなことより、聖獣捜索と、この後に起こるであろう戦闘の切り抜け方)


 お人好しのアミスとはいえ、ロルティの事を完全に信頼しているわけではない。

 ロルティが聖獣を見つければ、穏便に終わる可能性はある。

 しかし、それ以外の三人が見つけた場合は・・・


 「壁に、仕掛けとかはないわね・・・」

 「やっぱりそうでしょ? 壁も天井もじっくり調べたのに見つからないんだ。 探索が得意な訳じゃないから、確信は持てなかったけどね」

 「もう一度天井調べれないのか?」

 「無理だね。マナ遮断中は、ボクも黒魔法は使えないからね」


 ファイスの言葉にそう返すロルティ。

 黒魔法とは、マナ魔法を別名であり、大気中のマナで様々なことができ、その中の一つに

 【 浮 遊 】(レビテーション)や、【 飛 行 】(フライ)の魔法がある。

 宙に浮くことができる魔法で、先程ロルティが浮いていたのも、【 浮 遊 】(レビテーション)の魔法だった。


 「アイアンゴレームが動き出していいなら、いくらでも天井調べるけど・・・」

 「それは困るわ」


 当然の静止の声。

 

 「たぶん、天井にはないよ。でも、ここまで探して無いってことは、もういないのかもしれないな」

 「そうかもしれないですね・・・」


 既に聖獣を持っている二人の意見が一致する。

 だが、二人とも、同じ疑問があった。

 聖獣が封じられているにしては、余りにも単純な作りのダンジョンだった。

 そして、そんな簡単な作りのダンジョンにしては、あまりに強力な番人。

 そのアンバランスな状況に、もっと難しい秘密があると思っていた。


 (でも、見つけれない方が、平穏に終わる・・・)


 アミスがそう望んだ時だった。

 気が付いてしまった。

 聖獣があるであろう場所に・・・

 気づかない方が良かった。

 ロルティが聖獣を諦めかけていたのだ。

 戦闘を避けるためには、見つけてはいけなかったのだ。


 「ん? 解ったのかい?」

 

 まだまだ人生経験の浅いアミスの表情に見えたそれを、ロルティは見逃さなかった。


 「えっと・・・」

 「隠すつもりなら、いいよ・・・」

 

 先程まで無邪気な雰囲気を出していたロルティの表情が変わる。


 「みんな殺してから、ゆっくり探すから・・・」

 

 背筋が凍る程の殺気を感じ、ファイス、サラは武器を抜く。

 

 「でも、お礼は言わせてもらうよ。君のおかげで聖獣がいるのが解ったから・・・。危うく諦めるところだったよ」


 楽しそうな表情とは裏腹な殺気を放つロルティ。

 それをじっと見つめて考えるアミス。そして・・・


 「ファイスさん、サラさん、ごめんなさい!」

 「 ? 」


 二人はなぜ謝られたかわからない。

 しかし、ロルティは気づいた。

 冒険者としての、いや、聖獣持ちとしての直感だろうか・・・


 「セリタ・イムル・ジュ・ウンテイル・・・・」

 「き、貴様・・!!」

 

 ロルティは、咄嗟に攻撃魔法を唱えようとするが、自身のマナ遮断によって、発動しない。 


 「くっ・・・」


 慌てて、マナ遮断を解除し、再び詠唱に入ろうとしたが、突然飛んできた矢に驚き、中断される。

 普通の弓矢なら、詠唱中の魔法結界ではじけるのだが、冷静ではないロルティは集中を切らせてしまった。


 「貴様ぁ!! マイル・ヤルイト・・【 魔 矢 】(マジックアロー)!!」 


 さらに頭に血を昇らすロルティは、今度はサラに対して、魔法を放つ。

 しかし、それは躱されてしまう。

 そして、アミスの詠唱が終わった。


 「【 聖 獣 契 約 (アグリメントリート)】」


 アミスの杖の聖契石が二つ輝きだす。

 それに合わせて、二体のアイアンゴーレムの胸にある石も輝きだした。


 「そこに? しかも二体!?」


 光がアイアンゴーレムから放たれ、アミスの聖契石に吸い込まれていく。

 マナ遮断がなくなり、起動しかけていたアイアンゴーレムは崩れ落ちるように倒れる。

 聖獣の魔力が動力源だったのだ。 


 「まだだ!! まだお前を殺せば・・・」


 アミスが(おこな)ったのは簡易的な契約だった。

 本契約には丸一日の時間を要し、聖獣自身から認められなければならない。

 認められ、魂から繫がる本契約が交わされた聖獣を奪うことは、誰もできなくなる。

 主たる契約者が死ねば、聖獣も命を落とすからだ。

 故に、本契約は殆ど結ばれないのが現状であった。

 少なくとも、本契約の儀式が行われていない以上、本契約は結ばれていないとロルティは判断し、アミスを殺して奪うことにする。


 「ファイスさん、サラさん、逃げてください!!」

 「! しかし、お前が・・・」

 「早く!」


 聖獣を勝手に契約した申し訳なさ以上に、二人を死なせたくない、その一心からの言葉。

 それを感じ取ったサラは、頷くが、ファイスは動こうとしない。


 「ファイス!」

 「あ、ああ・・・」


 二人は出口に向かって走り出した。

 勝手に聖獣と契約したアミスへの怒りや不満は不思議と湧いてこない。

 ただ、申し訳なさが強かった。

 間違いなく、ロルティはアミスを生かして帰さない。

 ロルティが見た目通りの少年ではないことは、二人も感じていた。

 アミス一人では勝ち目は薄い。

 しかし、自分達が戦力になるとは思えなかった。

 交渉の時には、強気さを見せていたサラも、それが本心ではなかった。

 ただ、聖獣を見つけ契約できたのがファイスだったなら、多少は戦力になったかもしれない。

 しかし、聖獣を見つけ、それに気づかれたアミスが、ファイス達に説明して契約を促せるチャンスがあるわけもなかった。


 「好きに逃がせばいい・・・、でも・・・」


 ロルティは既に二人に興味はない。


 「君は逃がす気はないよ」


 余裕ができたのか、乱暴になっていたロルティの口調が、戻ってきている。


 (聖獣を何体持ってようが、複数をまとめて使える訳じゃない・・・)


 冷静に分析を始めるロルティ。


 (一体ですら、魔力と精神力の消費が激しい聖獣をまとめてなんて・・・、あとは、どんな聖獣かを見極めるだけ・・・)

  (ミスは許されない・・・)


  「≪ 炎 獣 ≫(ガラコ)!」


 アミスの呼びかけに応じて、≪ 炎 獣 ≫が現れる。


 「炎の獣か・・・、なら・・・」

 「行けっ!」


 先手必勝とばかりに、アミスは≪ 炎 獣 ≫を放つ、それに対してロルティも聖獣を呼び出した。


 「焼き尽くせ! ≪ 二角炎馬(にかくえんば) ≫!!」


 ロルティの呼び出しに応じたのは、名前そのままの頭に二つの角を持つ炎を纏った馬型の聖獣だった。

 二体の炎の聖獣がぶつかり合い、共にはじけ飛んだ。

 

 (炎の聖獣? 強さ同レベル・・・、いや・・・」


 アミスは、自分の≪ 炎 獣 ≫の方が押されているのが解る。


 (でも手持ちの聖獣だけでは・・・)


 新たに契約を交わした二体の聖獣は、アミスの知識にあるものだった。

 故にどのような能力の聖獣かもわかったが、力技での現状打破は厳しく思える。

 力技の聖獣もいたが、炎の聖獣との相性の問題もあった。  


 (魔力の消費も激しいはず・・・、使って防がれたら・・・)


 そんなことになれば、そこで全てが終わる。

 ≪ 炎 獣 ≫を呼び出しただけでも疲労を感じる。

 今のアミスでは、聖獣を連発するのは無理が過ぎる。

 

 (でも、魔法勝負では・・・)


 「・・【 魔 矢 】(マジックアロー)


 ロルティが魔法を放つ。

 距離があるため、アミスは躱すことができた。

 ロルティが、【 浮 遊 】(レビテーション)の魔法で宙に浮くと、今までいた場所を剣が切った。


 「ちっ・・」


 不意を突いたと思った斬撃を躱され、ファイスも距離を取って、アミスの前まで移動する。

 サラもその後ろに立つ。


 「なんで・・・」


 驚くアミスに、二人は笑みを浮かべた。


 「お前一人だと、死は確実だぞ」

 「ファイスさん・・・」

 「そんなことはさせないわ」

 「サラさん・・・」


 アミスは、一瞬戸惑ったが、すぐに意識をロルティに戻す。


 「君らが加わった所で、どうするつもりだい?」


 三人の視線が、宙に浮くロルティに集まる。


 「それはどうかしら・・・ね!」


 サラは弓矢を射る。


 「!?」


 女の細腕で放たれた矢など、纏っている魔法障壁で弾けるはずだった。

 しかし、その矢はロルティの頬を掠めた。


 「聖獣を探してるのに、この程度の準備してないと思った?」


 今回の仕事前に新調したばかりの魔法の弓だった。

 魔力を込めることで、障壁を貫通したり、通常の武器が効かない相手にダメージを与えることができるのだ。

 普段から魔力を帯びているわけではないため、ロルティもその弓矢を警戒していなかったのだ。


 「くっ・・・、ク・セサリ・ルム・・・」

 「!? 【 火球 】です!」

 「な・・・」

 「・・・【 火球 】(ファイアーボール)!!」

 「防いで! ≪ 白翼天女 (ラシェール)≫!」


 アミス達の前に、天界の天使を連想させる白い翼の女性が現れ、彼女が生み出した防御障壁により、【 火球 】は打ち消される。


 「≪ 白翼天女 (はくよくてんにょ)≫だと!?」


 神聖魔法に長けた上級ランクに位置する亜人型の聖獣。

 アミスは、先程契約たばかりのものを冷静に呼び出していた。


 アミスは、自分でも不思議だった。

 自分より、明らかに格上の相手に、頭が冷静に働くことが・・・。


 (経験が・・・活きてる!)


 三日前に経験した初めての仕事が、初めての戦闘の経験が、アミスに冷静さを植え付けていたのだ。


 「なら・・・ 」


 ロルティは、次なる詠唱を始める。


 「させない!」


 サラは、再び魔力を込め矢を放った。

 【 浮遊 】の魔法は、中級レベルの魔法で、少ない魔力で宙に浮くことができるが、自由が効かないため戦闘には向かず、攻撃を躱す等の能動的な動きは困難だった。

 それを知っていたサラは、立て続けに弓矢を放つ。

 魔力を込める分、連射には向かないが、魔法の詠唱の邪魔するには充分な攻撃だった。


 「ちっ・・・」


 苛立ちを顕わにするロルティは、ならばと詠唱の短い【 魔矢 】を連射する。

 それを今度はファイスが防ぐ、魔力を込めることで初期魔法程度なら防ぐことができる魔法の盾だった。

 戦力外と見下していた二人に、魔法を邪魔され、防がれ、ロルティは激怒する。


 (こんなもんじゃないはず・・・、!?)


 僅かな光明を感じながらも、浮かれずに冷静なサラは、庇うように自分の後ろに立たせていたアミスに目を向け驚く。

 優しく一見頼りない外見のアミスが、鋭い目をロルティに向けていた。


 (さっきまでとも違う・・・なにが・・・?)


 「≪ 二角炎馬 ≫!!」


 ロルティが再び炎の聖獣を呼び出す。

 

 「魔力量の・・・、勝負だ!!!」

 

 ≪ 二角炎馬 ≫は、直接アミス達を攻撃しなかった。周囲に炎を吐き出す。

 吐き続けた炎がアミス達を囲む。

 アミスは、すぐに≪ 白翼天女 ≫を呼び出して結界で防ぐ。

 サラが弓矢を放つが、炎に囲まれた空間では、まっすぐに飛ばずに弾かれた。

 

 「これでどうだ? あとは、お前らの魔力が尽きるのを待つ。どうだ? どうする?」


 ≪ 白翼天女 ≫は、強力な分だけ魔力の消費が大きいのは当然であり、自分の魔力量に絶対の自信を持っていたロルティは、消耗戦に出たのだ。

 逆にアミス一人であれば、移動しながら対応される可能性はあった。

 アミスも【 浮遊 】を使える可能性はある。

 近づかれれば、防がれる作戦だ。

 しかし、一見予想外の装備で戦力になったかのように見えた二人は、ロルティから見たら足手まといにしかならない。

 ファイスの盾でも、周囲を囲む炎を防ぐのは無理。

 三人で浮こうとすれば、攻撃された時に対応ができない。

 二人がいるからアミスは移動できないのだ。


 「諦めたらどうだい? 自分から命を差し出せばそいつらだけは助けてやってもいい」


 ロルティは、そう余裕を見せながらも、油断はしないと強く思っていた。

 だが、もう状況は詰んでるはずだった。

 アミス達がどんなに考えても打開はできないはずだった。

 しかし・・・


 「!?」


 アミスの目は諦めていなかった。

 それを感じたロルティは、さらに距離を取るために天井近くまで浮く。


 (何を企んでいる? いや、企んでもどうにもならない)


 アミスから疲労の色が顕わになりだす。

 だが、ロルティの魔力量にまだ余裕がある。

 動かなければ、事態が好転しないのは明らかだった。


 「アミス・・・」

 「?」


 ファイスの呼びかけに反応するアミス。


 「何か手があるなら、俺らの事は構うなよ」

 「!?」


 ファイスの突然の言葉に、サラは少し驚いたが、


 「そう・・・わたし達を守ろうなんて考えないで・・・」


 と、賛同する。


 「逃げるように言われたのに、勝手に戻ってきたんだから・・・」

 「そうだ、俺らがいなかったら、あんな奴楽勝なんだろ? ホントに戻ってきて悪かったな」


 ファイスがわざとらしく大声で言い放つ。


 (そんな安い挑発・・・)


 ロルティは心の中で苦笑する。

 が、絶対に油断はしない。

 まだ、見ていない聖獣が二体いるはずなのだ。

 この局面を打開できる聖獣ならすでに動きがあるとは思えたが、そんな決めつけはしない。


 誰も声を出さない沈黙が続いた。

 その状況を動かしたのは、アミス。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ≪ 白翼天女 ≫の結界が大きく広がっていき、部屋中の炎が一瞬消える。

 それぞれ反対方向へ走り出すファイスとサラ。

 消える≪ 白翼天女 ≫と、疲労から倒れそうになるアミス。


 「アミス! しっかりしろ!!」


 ファイスからの激励に、アミスは踏みとどまる。

 ロルティは、再び≪ 二角炎馬 ≫に炎を吐かせた、サラに向けて・・・

 

 「?」


 慌てて弓を射るが、その弓矢と共にサラは炎に飲まれた。

 大きく魔力を込めた≪ 二角炎馬 ≫の炎を威力は絶大であり、一瞬で燃え尽きる。


 「サラ!!!」

 「まずは一人・・・」


 ロルティは慌てるファイスへ、【 火球 】を放つ。

 ファイスは、慌てて盾に魔力を込めて防ごうとするが、勝負どころと見て、できるだけの魔力を込めた【 火球 】を防げるほどの防御力はなく、吹き飛ばされて壁に激突、動かなくなる。


 「二人目・・・、これで終わりだね。 !?」

 

 と、アミスへ眼を向けたロルティは驚く。

 仲間を失い、絶望的な場面でも、一切変わらぬ目を自分に向けるアミスに・・・


 「・・・くっ・・死ね」


 ロルティは、あくまでも冷静に≪ 二角炎馬 ≫を差し向けた。


 「≪ 炎獣 ≫(ガラコ)!!」


 限界を超えて、聖獣なんてもう呼び出せないはずだったアミスが、聖獣を呼び出し、≪ 二角炎馬 ≫を抑えたことに、ロルティは驚く。

 しかし、絶対に油断はしないと誓っていたロルティは、すぐに次の魔法、【 火球 】を冷静に放とうとした。が、それは突然の矢に邪魔される。


 「な、なに!?」


 自分の肩に刺さった矢と、それが飛んできたであろう方へ眼を向けた。

 そこにはサラが立っていた。

 意味がわからなかった。


 (どうやって、炎を防いだ? 燃え尽きたように消えたのは・・・?)


 そして、気づいた。

 サラの傍らに、透明で視認が困難な≪ 風の乙女 ≫がいることに。


 (か、風の聖獣だと・・・?)


 そして、まさかとばかりに吹き飛んだファイスへ眼を向け、さらに驚く。

 まだうずくまってはいたが、死んではいない。

 そして、その傍らには≪ 白翼天女 ≫がいる。


 (ばかな・・・? 三体同時使役だと・・・?)


 そして、ロルティがもう一つ上の可能性に気づいた時には、もう遅かった。

 信じられないという目をアミスへと向けた時には、四体目の聖獣が目の前まで迫っていたのだから、

 四体目の聖獣、≪ 剣 聖 ≫によって、ロルティの首は刎ねられた。



 こうしてアミスは、既に所持していた≪ 炎 獣 ≫ガラコ、≪ 風 の 乙 女 ≫セラリスに続き、≪ 白 翼 天 女 ≫ラシェール、≪ 剣 聖 ≫ラグナーと、≪ 二 角 炎 馬 ≫リンクと、契約した聖獣は、五体となった。

 ロルティと本契約されていなかった≪ 二角炎馬 ≫をファイスに譲ろうとしたが、

 「俺の欲しいタイプの聖獣じゃないから、いらねぇ」

 と、ファイスが権利を放棄したので、アミスが契約することになった。

 ファイスの言葉が、アミスに聖獣を譲るための嘘だというのは、アミスも何となくわかりはしたが、素直に好意を受け取ることにした。

 おそらく言っても、絶対に聞かないとわかったから。






 「いい人達だったね」

 「ん? ・・まあ、そうね」


 二人と別れて、本来の仕事のために港町へ向かうアミスが、歩きながら妖精ティスに話しかける。


 「 ? 」


 少し反応がおかしいティスに気づき、アミスは首を傾げる。


 「どうかした?」

 「え、いや、なんでも・・・」

 「ティスらしくないよ。言いたいことがあるなら言ってよ」


 と、アミスが立ち止まる。


 「・・・、いや、ね? 五体も聖獣手に入れたから・・・・ね?」

 

 歯切れが悪いティス。

 使い魔契約をしてから一年ほどの関係だったが、こんなティスを見るのは初めてだった。


 「ティス?」

 「・・・・」


 しばしの沈黙、そして、重い口を開く。


 「わたし・・・もういらないんじゃないかな? って・・・」

 「え?」


 予想だにしない言葉にアミスは驚く。


 「これだけ聖獣がいれば、わたしみたいな弱い使い魔はいらないでしょ?」

 「僕と一緒はイヤ?」

 「そうじゃないの・・・足手まといはいやなの」

 「! ・・・・」


 合間に口をはさみそうになったが、それを我慢して、聞くことにする。

 

 「聖獣に比べたら私なんて何もできない・・・、だから・・・」


 ティスが完全に黙ってしまったから、アミスは口を開いた。


 「今回・・・、ティスがいなかったら、僕は死んでたよね?」

 「え?」

 「ティスが二人に作戦をこっそりと伝えてくれた。ティスが魔力を分けてくれたから、最後の聖獣を呼び出せた・・・」

 「・・・・」

 「何よりも今回に限らずティスがいてくれるから、楽しい旅ができる。ティスがいなくなるなんてイヤだ。だから・・・」

 「アミちゃん・・・」

 「ティスが僕なんかと旅するのがイヤなら、しかたない・・・」

 「! そうじゃない・・・・」

 「イヤじゃないなら・・・・そんな悲しいこと言わないで・・・」

 「・・・・」


 しばしの沈黙、そして・・・

 

 「し・・・しかたないなぁ~、ホントにアミちゃんは私がいないとダメなんだからぁ~」

 「ティス・・・」


 笑顔になる二人。


 「急ぎましょ、二日連続の野宿はいやだからね」

 「うん」


 港町を目指す二人の影は、長く伸びていた。


とりあえず、1章終了です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章、終わりの一行が秀逸だと気づきました。 伸びる影の進む道は一緒。 影も心も寄り添って進む。 願わくば、ネギも多くの人とそうでありたい(ΦωΦ)
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