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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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アミスの思い

 「将軍!」


 知衛将軍エリフェラスの執務室前。

 ルーメルを連れて戻ってきたクエルスは、その扉の前でその場を後にしようとしているエリフェラスの背中を確認して、慌てて呼び止めた。

 その声に足を止め静かに振り向くエリフェラスの表情を見て、クエルスは出しかけた次の言葉を飲み込んだ。

 

 「殺れたか?」

 「いえ、機会に恵まれずに……」


 言うべき事を言う前に、エリフェラスからの問い。

 だが、その問い自体に興味があるようには感じずに、エリフェラスの表情への違和感を強めながら、クエルスは答えを返す。

 答えにも大きな反応を示さずに、エリフェラスは2人に背を向けると足を進めだす。

 2人はそんなエリフェラスの後に続く。


 「どちらへ?」

 「団長室へだ。まだ、戻ってはいないと思うがな……」

 「まさか……」

 「ああ……」

 「やっぱりか……」


 クエルスは自分の予想が当たった事に、複雑な心境を持ちながらも、この後の事を考える。

 自分がやるべき事。

 自分達の手駒で出来る事と出来ない事。

 やるべき事を全て行うには手駒が足りないのは判り切った事だったが、何を見切り、何を優先するかを冷静に見つめ直す必要があった。


 「今回のアミスの件を切っ掛けにして、目論見より早い実行になってしまった」

 「ですね……」

 「故に、タリサの事は諦めねばなるまい」

 「!?」


 エリフェラスの発言に、それまで2人の会話を黙って聞いてただけのルーメルが焦りの表情を浮かべた。


 「タ…タリサ様を見捨てるのですか?」

 「見捨てる訳ではない。が、もう説得する時間はない。できても逃げる様に仕向けることしかできまい……」

 「素直に逃げるとは思いませんが……」


 冷静なクエルスの言葉は正しいとエリフェラスも思っていた。


 「どうにかならないの? ……ですか?」

 「ルーメルには、何か案はないのか?」


 逆に訊き返されて、ルーメルは言葉に困った。

 これから行われる計画は、タリサは決して認めないものである事はルーメルにも判っている。

 如何なる説得も聞かないだろう。

 逆に説得を試みること自体が、計画の障害になってしまうのは間違いない。

 計画を優先するなら、間違ってもタリサの耳には入れてはいけない事なのだ。


 「タリサの件は、団長と話し合って決める。あまり期待はしない方がいい……」

 「そ…そんな……」


 ルーメルにとっては、一番優先する絆はエリフェラスやクエルスとの絆だ。

 故に、タリサにとって害になる事も、しなければいけない立場だった。

 しかし、たった2年の短い期間とはいえ、タリサの下で作り上げた絆も決していい加減なものではない。

 二つを天秤にかけた時に、どちらを優先するかは分かっていても、もう一方を簡単に捨てれる程非情なルーメルではなかった。


 「ルーメル……」

 「……クエルス?」

 「何とかできる事がないか考えてはみる。だから、そんなに絶望的な顔をするなよ……」


 常に冷静な事を心掛けているクエルスが、珍しく優しげな表情でそう言った事に、ルーメルは少し驚き、そして、目に溜まりだしていた涙を堪えて右手で拭った。

 

 「クエルス、戻って準備の方を頼む」

 「承知しました」

 「ルーメルはクエルスの補佐を続けろ。あと、奴の件も引き続きお前等に任せるからな……」

 「……承知」


 2人は足を止め、エリフェラスを見送った。

 姿が見えなくなったのを確認してから、クエルスが部屋へと戻り、ルーメルがその後ろについていく。


 (どう考えても駒が足りない。このタイミングでルーメルが戻ってきてくれたことがせめてもの救いだけど……)


 今のままの戦力では、タリサの事を気にする余裕は無い。が、ルーメルにああ言った以上、何とかしようと足掻く。

 それが自分の役目なのだと……

 悩むクエルスは、執務室に入るまで気が付かなかった。

 自分達を見つめる目がある事に……





 アミス達が交代での休息を終えた頃に、ラディとミスティアルが戻ってきた。

 そして、2人が告げた情報は、先にキルが言ってたものとほぼ同一のものであり、細かい事は解らないが、グランデルト王国王都ランデルで、何か大きな事が起きそうなのは確かな様だった。


 「追っ手を送る余裕もない程で、今なら簡単に王都から逃げれると思う」

 

 ミスティアルはそう言うと、すでに逃げるルートも調べ上げているらしく、今いる一帯を中心とした地図を広げだした。


 「それなら、すぐにでも動いた方がいいな」


 ラスとリンはその地図に直ぐに目を向ける。が、


 「ちょっと待ってください……」


 アミスが躊躇いがちに、話の流れを止めた。

 視線がアミスに集まる中、アミスは言葉を続けた。


 「事が起こるまで待った方がいいと……思うんですけど……」


 言葉が尻つぼみになる。

 口に出したそれが、個人的な感情から出たものだと判っていたからだ。


 「罠だと思ってるのか?」


 早い判断が必要な状況と思っているラスがストレートに訊ねた。

 

 「罠って可能性は低いと思いますね」


 アミスより先にラディが答えたため、アミスは口を噤んでしまう。

 そんなアミスに気付きラスは、理由を続けて言おうとしていたラディを制する。


 「アミス……、待った方が良いという理由を教えてくれ」


 ラスに促されるも、アミスは躊躇いなかなか口を開かない。

 だが、その表情から、急かしては駄目だと判断したラスは、急かしたい気持ちを抑えてアミスの言葉を待った。

 暫しの時間を要して、アミスの口が開かれる。


 「個人的なものなんです。でも……」

 「かまわないから言ってくれ」


 ラスの言葉に、リンやミスティアルも頷きアミスをじっと見つめた。


 「キルって人が言ってた言葉が気になって……」

 「起きてたのか……?」


 アミスは頷き、レンは少し驚きの表情を浮かべた。

 リンが目を覚ましたことには気づけたのに、同じ場所で目を覚ましていたアミスの気配に気付けなかった事に……


 「あの人は、恩を返す相手がいると言いました。その事が気になって……」

 「……」


 アミスが言いたいことを掴み兼ねるラスやレンだったが、リンがふと呟く。


 「タリサの事?」

 「……そうだと思います」

 「どういう事だ?」


 アミスはリンの言葉に頷き、レンが疑問を投げかける。


 「この国で、キルさんと関わったと言えばタリサさんです。あの時直接相手をしていますし……」

 「そして、タリサが勝って、止めを刺さずに逃がした……」

 「それに恩を感じてると?」

 「つまり、今回兵が動かされている計画に参加していない一部隊っていうのが、タリサの部隊だと?」


 アミスは頷く。

 それに対して、ラスは深い溜息をつく。


 「まさかと思うが……、いや、まさかではないな。お前、タリサを助けようとしているのか?」


 そう、アミスの個人的な感情とは、自分を裏切った敵であるタリサを助けたいと思った事だ。

 黙り込むアミスだったが、その俯いた表情はその言葉を肯定しているように見える。

 

 「申し訳ないが、俺は反対だ」


 ラディとミスティアルは戸惑った表情を見せて黙っていたが、ラスはハッキリと言い切った。

 自分の意見を否定されたアミスでさえ、それは当然な意見だと思え、反対されるのは覚悟の上での発言だった。

 しかし、判っていても言わずにはいれなかったのだ。


 「あいつが俺達を罠に嵌めなければ、あいつは……死なずにすんだんだぞ……」


 その言葉はアミスの心に突き刺さる。

 ラスもそれが判っていながら、敢えて口に出した。

 今回はアミスの意見を通してはいけないと思ったからだ。

 

 「僕達を罠に嵌めて捕らえたのは確かにタリサさんです。でも、捕らえられていた僕達の命を守ろうとしてくれたのもタリサさんです」

 「確かにそれはそうだが……、それが危険を冒してまであいつを助ける理由にはならない。どんな理由があろうとあいつは敵だ。お前の所にも来たんだろ?」

 「……はい」


 牢に捕らえられていた時に、タリサが一度だけ1人で姿を見せた事を思い出す。

 その時に先ず謝罪された事が印象的だった。

 共に旅している時から、自分達の事を気遣った言葉を発する事はあった。

 思えば、タリサが自ら言葉を発するのは、決まってアミス達を自分から遠ざけようとしてる言葉ばかりだった。

 それは、アミス達を罠に嵌める事に、タリサ自身に抵抗があったからだろう。

 タリサの行動理念は、国王、国に対しての忠誠。

 国の為に真権皇騎士団に所属し、国の為を思えばこその命に従う。

 その中には考えに合わないものもある。

 アミスを捕らえる為の埋伏役は、個人的な感情を優先するなら気に入らない任務だった。

 それでもタリサが受けたのは、現在国の方針として行っている聖獣の研究の為。

 王命もあり、捕らえた相手の生奪の権利や、状況次第では途中で任務を打ち切る権利を貰った上で任務を受けたのだ。

 アミスを捕らえた理由を、タリサは隠さず全て説明してきた。

 悪い感情が先行しているラスから見れば、最初にそれを聞いて、ただの自分を弁護する為の言い訳に聞こえていた。

 しかし、真摯に説明し謝罪する姿と、死なせはしないという決意を語られて、ラスも最後にはタリサを責める事はしなくなっていた。

 だが、だからといって、ティスが命を落とす一因になっている事には変わりはなく、仲間ではない以上、危険を冒して助け出す理由にはならない。

 それがラスとしては当然の考え方だった。


 「でも、僕はタリサさんに助けてもらいました。僕を狙う魔族に襲われた時に……」

 「それはお前に死なれたら困るからだろ?」

 「じゃ、何で捕らえた後も、僕達が殺されない様に王命まで引き出してくれたんですか?」

 「それは……」

 「僕には……、それがタリサさんの優しさを表してるんだと感じました。この国に仕える事になった理由を聞いてないですが、本来なら自分の感情を殺して国仕えをするべき人ではないんだと思います。そう思ったら、放っておけなくて……。もしかしたら、今回僕達を助けようとしたせいで、立場を悪くしたんじゃないかと思ったら、尚更……」


 自分でも個人的な感情からの意見なのは判っていた。

 故に、その言葉は躊躇いがちだ。

 元々、タリサと同行しだしたきっかけも、アミスの個人的感情からのわがままだったからだ。

 そして、一度自分達を騙した相手を、再び信じる事は難しいのはわかっている。

 アミスが自分だけが信じて自分だけが痛い目に合うなら、躊躇う事はなかっただろう。

 だが、今の自分には仲間がいる。

 自分のわがままで、危険な目に合わせた仲間を再びわがままに付き合わせていいとは思えなかった。

 どうする事が正しいのかわからなくなったアミスは、もう自分が思っている事を言うだけ。

 わがままは言わない。

 お願いもしない。

 ただ、自分の考えを、自分の感情を、自分の思いを言うだけ。

  

 「じゃあ、様子を見ましょ」


 そう言ったリンに視線が集まる。

 

 「私はどちらでもいい。ま、直ぐに逃げた方が良いのは確かだが、多少なら待っても影響ないだろうしな」


 続いてレン。


 「ま、私もあの人が悪人だとは思わなかったかな……。だから、暗黒騎士団の将軍だって聞いた時にはびっくりしたぐらい」


 と、ミスティアル。

 女性3人からは、アミスを否定する意見はでなかった。

 そして、ラディは、


 「俺は今回、ミスティアルの意見を優先する事にしてるので……」


 一同の視線が、残ったラスへと向けられた。


 「俺は反対だ……」


 先程と同じ答。だが……


 「反対意見は俺だけだから、今回は俺の意見を通したら、俺のわがままになるな……」


 と、苦笑いを浮かべた。


 「別に私は賛成したわけではないんだがな……」


 軽く訂正するレンだったが、反対意見を出していないのは事実。


 「それでも賛成票の方が多いから、とりあえずはそれに従うよ」

 「ラスさん……」

 「勘違いするな。あくまでも様子見だ。危険を冒してまで助けるとは限らないぞ」


 ラスはそう言うと、少し照れたように視線を逸らし、乱暴に自分の頭を掻く。

 そんな仕草に、リンとミスティアルは笑みを浮かべる。

 

 「じゃ、再び偵察に出るか……」


 と、立ち上がったラディを、ラスは掌を向けるだけで制する。


 「少し休んでからの方が良い。多くの兵を動かしているなら、奴等の計画にも少し時間がかかるだろう」

 「そんな、余裕は……」

 「これ以上、犠牲を出さない為だ。万全な状態での行動を優先にしてくれ」


 それはラスなりの気遣いだった。

 ラス自身も仲間を失う事は、何度経験しても嫌なものだ。

 それが判っているからこそ、アミスに続けざまに仲間を失う経験をさせたくなかった。

 甘い発言をしながらも、いざという時には冷静に判断できるアミスは、ラスが思っているより強い心を持っているのかもしれない。

 しかし、優し過ぎるその性格に、仲間を失う事が堪え難い事なのは間違いはないだろう。

 それが続けば、きっと強い心も折れてしまう。

 そうさせないためにも、自分を含めて、仲間を失わせない様にしなければならなかった。


 ラディとミスティアルは、ラスのそんな思いに気付いたのか、少し休んでからその場を後にすることにした。

 たった1時間の休息だったが、≪ 白翼天女(ラシェール) ≫の法力の力場内でのその休息は、充分にラディとミスティアルを癒していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (ΦωΦ)思いは言葉に、言葉は思いに。 そうか、思いは口に出して言えばいいんだ。 そんな簡単なことに気付かされるネギさん。 深い…。
[良い点] 相手の気持ちにとことん主軸を置くアミスが良すぎる…(ΦωΦ) それに影響される周りの気持ちの揺れ動きみたいなのも、 毎回見てて、読んでて羨ましくなってきます。 ちょっと昔やってたソーシャ…
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