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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
6・激動のグランデルト
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黒き者

 少し前まで空を覆っていた雲が徐々に減ってきていた。

 遮るものが無くなり、充分な光を持った月明りの下、崖下を走るアミス達。

 そんな5人を見下ろす姿がある。

 崖の上に立つ20名近い集団の内、見下ろしているのは先頭の数名。

 黒塗りの重厚な鎧に身を包む者が多い中、特別に軽装で大きなマントを羽織った男が口を開く。


 「そろそろ動かないと逃げられますよ」

 「……そうだな」


 静暗将軍(サイレントダーク)セリファー・グランゼルの言葉は急かす内容のものだったが、その口調や表情に焦った様子はなかった。

 ただ、会話の相手であるタリサを観察するように見つめていた。

 アミスが逃げ出す事に対しての待ち伏せ役として、副団長モルデリドからの命でタリサとセリファー、2人の将軍が共同での任務にあたっていた。

 

 (よりによってこの男と一緒とは……)


 タリサはこの男の事が苦手だった。

 前髪を含めて伸ばした髪の毛で顔を覆ってはいるが、時折見せる顔は整っており優男のイメージを感じさせ、その容姿のイメージ通り、普段はナンパな性格を見せている男で、タリサも何度か言い寄られた事がある。

 元々、ナンパな男を好まないのもあったが、それ以上にその性癖に良い噂を聞かない事がタリサがこの男を快く思わない主因だった。


 (流石に職務中に口説こうとする程非常識ではないと思いたいが……)


 今受けている絡みつくような視線は、あくまでもモルデリドの命で自分を観察しているのだろうと、タリサは思う事にしていた。


 (さて、どうするか……)


 これ以上、時間を引き延ばす事はできないだろう。

 すぐにでも、飛び降りる為の術を、セリファーにかけてもらわないといけない状況だ。

 この場にセリファーが配置されている理由として、普段からこの崖を管轄としており、この崖下には特殊な魔法の術が掛けられており、本来ではこの人数の落下速度を抑えるには相当の魔法力を消費する所、殆ど消費せずに済むうえ、セリファーの魔法のみが大幅に強化されるからだった。

 このまま、自分とセリファーが急襲をかけたら、アミスの負けは避ける事は出来ないだろう。


 (うちの部隊だけならごまかしようはあるが……)


 悩む時間も無かった。

 もう流れに身を任せるしかないと、セリファーに投下の為に魔法をかけてもらおうと合図をしようとした時だった。

 不意に殺気に近いものを含んだ視線を感じた。

 セリファー達もそれに気づいた様子で、辺りを警戒しようとした瞬間、急に現れた人影がタリサに攻撃を仕掛けてきた。

 タリサは咄嗟に抜き放った剣で突然の攻撃を受け流した。

 その来襲者はタリサや他の者に反撃する間も与えずに、間合いを取った。


 「お前は……」


 目の魔に現れたのは尖った耳と黒い肌を持った亜人種であるダークエルフだった。

 タリサは、そのダークエルフの事を知っていた。


 (確か、キルといったか……)


 それは魔族の少年ロルティと一緒に襲撃をかけてきたダークエルフの暗殺者だった。

 あの時は、キル達のターゲットはアミスであったが、その時にキルの直接の相手になり負かしたのはタリサだ。


 (復讐に来たのか……? いや……)


 と、タリサが考えるのは普通の流れだったが、彼女は違和感を感じ、キルを鋭い目つきで観察しだした。

 自分達のテリトリーであるこの場で、簡単に不意打ちを受けるタリサではない。

 たとえそうだとしても、今回のキルの攻撃は、おおよそ暗殺者としては二流以下と言わざるを得ない程、稚拙なものだった。

 少なくとも、彼と一度戦った事のあるタリサとしては、そんな腕の悪い暗殺者だった印象は無い。


 「1人ですか? だとすれば随分と我々も嘗められたものですね……」


 セリファーは他に隠れている気配が無い事を確認した上で、そう余裕の言葉を言い放った。

 相手の不意打ちが失敗した事と、数的な有利さ、そして、いざという時には崖下に誘導すれば、自分の術式の中という絶対有利な状況に持ち込める。

 彼が余裕を見せるのは無理もなかった。


 「静暗将軍……」

 「ん……?」

 「油断するな……、簡単な相手ではないぞ……」

 「知っているんですか?」

 「一度戦っている……、あの時は何とか勝てたが、ギリギリの戦いだった」


 タリサの言葉に、セリファーは目を見開いた。

 仮にも真権皇騎士団内でも5本の指に入ると称されている実力者のタリサ。

 そんな彼女が苦戦したという事実は、油断しかけていたセリファーの気を引き締めるには充分だった。


 「これだけの相手に何とかできるほどですか?」

 「奴は闇から闇へと移動できるは暗殺者だ。仕留めるのは簡単ではなく、油断をすれば一瞬にして首を取られる。半端な実力の者は足手まといにしかならない」


 タリサからの情報に、緊張を強めるセリファーは、その視線を目の前のダークエルフから離せなくなっていた。

 すぐにでも崖下に飛び降りるべきなのではとも思えたが、それほどの相手では、それすら確実な方法には思えなくなってきていた。

 この場にいる部下を全て失いかねないと思いだしている。

 目の前にいるタリサを監視しながら、絶対的に有利な場で逃げ疲れた少年を殺すだけの楽な任務と聞いていたセリファー。

 そんな任務で部下を失うのは馬鹿々々しいと思い、それを避ける手を考える事しかできなかった。


 「奴の相手は私がする。他の者は自分の命を守る事を最優先にして、できる範囲での支援をするだけでいい。余計な手出しをしなければ、狙われる心配はない」

 「な、なぜ?」

 「奴のターゲットは、あくまでも私だからだ」

 

 そう言いきり、キルを睨みつけるタリサ。

 キルはその言葉を肯定するかのように、薄気味悪い笑みを浮かべ、動き出す。

 湖面の影のようにキルの体が揺れたかと見えた瞬間、キルはタリサとの間合いを詰める。

 タリサは足を前に出し迎撃の態勢を取る。

 キルの右手から無数の黒い針が放たれる。

 タリサは咄嗟にそれを剣で払い、セリファーは慌ててタリサから離れた。

 セリファーの戦闘力の主は魔法ではあるが、直接戦闘にも自信はあった。

 しかし、タリサが苦戦するという暗殺者相手に、情報もなく直接戦闘を挑むほど短絡的な考えの持ち主ではなかった。

 兵たちには遠巻きで包囲する事だけに集中させ、自分も後方で援護に徹しながら相手の実力と戦い方を伺うことにした。

 そんなセリファーの動きに気付き、タリサは心の中で少し安堵していた。

 目の前のダークエルフの暗殺者の思惑を知りようはない。

 しかし、彼の登場によって、アミスに急襲をしかける事を有耶無耶にできている状況になり、正直助かっていた。


 (まさか……) 

 

 1つの可能性が頭を過ったが、タリサはすぐにその考えを頭から消した。

 不確かな予想に心を迷わした状態で戦える程、目の前のダークエルフは甘い相手でないのだから…… 





 「彼の者達は、渓谷を抜けこちらに向かっているようです」

 「まさか突破されるとはな……。何人まで減った?」

 「5名のままです……」

 「やつらは何をやっているのだ……」


 モルデリドの予想通りにアミス達は逃げ出した。

 だが、逃げ出した過程や、逃げ出した後の流れが彼の期待を裏切っていた。

 アミス達が逃げる為には、闇氷河将軍(ダークグレイシャ)タリサか知衛将軍(ウィズダムガード)エリフェラスかの手引きが必要であり、どちらかを裏切り者と貶める事ができる材料を仕入れる事ができるはずだった。

 突然現れた2人の冒険者。

 知衛将軍が手引きした存在なのは容易に予想がついた。

 騒ぎを起こさずに侵入し、地下にある牢から囚人を逃がすことが可能な程、真権皇騎士団の詰め所の警戒は甘くは無い。

 特殊な魔法の結界も掛けられており、侵入者がいれば奥底にある地下に侵入する前に感知できる。

 しかし、感知できたのは、侵入者に対するものではなく、囚人が逃げたというものだった。

 内部に手引きする者がいなければ不可能な事だった。

 侵入した冒険者が、アミス達と行動を共にしていた者達だった事は判った。

 しかし、彼等が何故アミス達を逃せられたのかの情報が入ってこない。

 充分な監視者を付けていたのに関わらずだ。


 (こんな事ができるのは奴しかいないのだがな……)

 

 部下、偵察、魔法、使い魔……

 あらゆる手段で無数の監視者()を持つモルデリドだったが、エリフェラスの監視だけは成功した事がなかった。

 正確に言えば、エリフェラスを監視する者はおり、ある程度の情報は入ってくるが、所々、肝心の情報が抜けているのだ。

 様々な国に顔を出している情報はあれども、その国々で何をしていたのかという情報は入らない。

 捕らえる前のアミス達の側で姿を確認できたが、彼等と接触したという情報はない。


 (こうなると、奴が2人の侵入者と接触していたのは間違いない。しかし……)


 何の証拠もなく、今回の事でエリフェラスを貶める事は無理と判断するしかなかった。


 (何とかしてタリサの方だけでも排除するしかあるまい……)


 アミス達が逃げる経路は予想がついていた。

 敢えて逃げれるように隙を見せている経路に誘導する事は容易であり、実際に奴らはその経路を進んでいる。

 そして、その経路に幾つもの罠を用意してあった。

 相手が実力者なのは重々承知している上に、エリフェラスやタリサが何らかの手を打っているだろうと思ってはいたが、それでも、5人を5人のまま逃がすはずは無かった。

 その中でも、雷炎将軍(トネールフラム)コンスタンと静暗将軍(サイレントダーク)セリファーには、特別な場所を用意していた。

 それにも関わらず、時間すらも稼ぐこともできずにすんなりと突破させた事にモルデリドは苛立ちを隠せずにいた。


 (タリサが完全に反目したか? いや……)


 タリサが明らかな反旗を翻せば、埋伏から情報が入ってくるはずだった。

 

 (まさか、私自身の手を煩わされるとはな……)


 冷静に務めようとするモルデリドだったが、部下達の不甲斐なさに苛立ちは強まるばかりだった。


 「火の……」

 「……はい?」

 「火の用意はできているな……」

 「は…はい!」


 殺気の籠ったモルデリドの問いに、側に控えていた者達は脅えながら返答した。

 間違ってもミスを犯せない状況だという事が誰に目にも判っていた。

 もしミスを犯せば、その者はこの場で苛立ちを隠せない上司に殺されてしまう。

 場を緊張が包む。

 本来なら全員が持てるはずだった余裕が、モルデリドの殺気によって崩されていた。


 「落ち着け……」


 後ろから掛けられたその言葉は、真権皇騎士団で№2のモルデリドに対して許される口調ではなかった。

 不機嫌な状態の彼にこんな口調で話しかける命知らずなどそうはいない。

 こんな状態のモルデリドに、そんな言葉を言えるのは3人だけだろう。

 1人は国の№1に位置する国王、もう1人は騎士団№1の団長ゼオル。

 この2人はモルデリドより身分が高いのだから当然と言えた。

 しかし、今回その言葉を出したのはどちらでもなかった。

 本来ではモルデリドより下に位置する将軍職である剣鬼将軍(ソードマスター)ミフネ・ハルバドスだった。

 彼は将軍達の中でも、特別な存在だった。

 団長のゼオルや副団長のモルデリドの下にはついているが、服従しているわけではない。

 正確に言えば違うかもしれないが、分かりやすく言うなら客将のような者だった。

 国内や騎士団内の派閥争いなどには関与せず、相手が裏切らない限り仲間と戦う気もない。

 強敵との戦いを強く望み、それを叶えてくれる場と認めて騎士団に属してはいるが、逆に弱者との戦いには興味は薄く最近では本気で戦う事が減ってきていた。

 今回、アミス達を待ち伏せする最後の場所であるこの場に駆り出されてきたが、ミフネは正直期待はしてはいなかった。

 逃がさない為に、数+魔法による対応がメインとなりそうであり、自分の出番はない可能性が高いと考えている。 


 「これだけの戦力と準備がされている。心配は無用だぞ……」

 「……そうだな」


 アミス達を逃さない事だけを考えれば、ミフネの言うとおりだった。

 モルデリドには、タリサとエリフェラスをターゲットとした別の目論見があったが、ミフネにはそれを伝えていない以上そう返事をするしかなった。

 それを伝えていれば、この場にミフネは来てはくれないからだ。

 アミス達だけが相手なら、ミフネは必要のないかもしれなかったが、万が一タリサが直接的な妨害に出た場合は、ミフネの力が必要になる。

 だからこそ、表向きはアミス達への対応の為に念のために来てもらった事になっている。

 

 「モルデリド様、そろそろ来ます」

 「そうか……、ルリッチ、準備は整っているか?」

 「はい、問題なく」

 

 報告を受けて、モルデリドは自分の側に控えさせていたルリッチと呼ばれた男に訊ね、男はすぐに静かに返事を返す。

 一見して普通の騎士の装いで、浅黒い肌意外に他の者との差異は無い、一見だけでは特徴の無い存在だったが、精霊魔法に通じている者ならその身に大きな精霊力を纏っているのが判る。

 特に火の精霊力が強く、今回の待ち伏せの主戦力は『火炎使い(ファイアーマスター)』と称されるこのルリッチセント・ルーラ・サムソンだった。

 彼は騎士団としての日が浅く、まだ騎士の身分ではあったが、近いうちに将軍職に上がる話もある程の実力者である。

 

 (今回の副団長は随分と慎重だな……)


 ミフネは後ろから視線を送りながら、そう思っていた。

 相手はたった五人の冒険者相手と聞いている。

 どれほどの実力者であっても、これだけの戦力を突破できるとは思えなかった。

 これ程の兵力と充分に準備が整った魔法の罠を突破するのは、自分でも骨が折れる。

 正直、自分でも死を覚悟した上での死闘をする必要があると思えた。


 (だが、事実、ここまでの罠を突破している以上、油断は禁物という事か……)


 意外に、自分を楽しませてくれる相手なのかもしれないと思い直しかけた時、その気配が近づいてくる事を感じてそっと腰の武器に手を当てた。


 5人分の人影が近づいてくる。

 先頭を走るのはラディとミスティアルの2人。

 地形に関して充分な情報を得ており、クエルスと共に地形を踏まえた罠の予想も立ててあり、コンスタン達を振り切った後の罠も問題なく突破できたのは、2人が持つ情報と能力による所が大きい。

 ここまでの、モルデリドの予想を裏切った一番の要因。

 

 (楽には死ねると思うな……)


 そんな2人に向けたモルデリドの視線に、無意識に込められた殺気を2人は感じ取って立ち止まり、後続のアミス達も2人の動きから何者かが潜んでいる事に気付き止まる。

 それがモルデリドに再び苛立ちを与えた。

 これ以上潜む意味は無かったが、対象がこの場に来てから攻撃を仕掛けるという気にする程のない小さな予定を狂わされた苛立ち。

 何もかもが予定通りに進まないという思いがモルデリドの頭に浮かび、苛立ちながらも、冷静を装いながら小さい声で「いくぞ」と部下達に指示を出してから、アミス達の前に姿を現した。

 それと同時に一斉に放たれた弓矢と魔法弾の雨がアミス達を襲った。

 殺気を感じ立ち止まったと同時に準備していた、3人の風の結界がそれを防ぐ。

 全ての魔法弾を防ぐことはできなかったが、充分に数を減らせていたので問題なく躱すアミス達。

 その攻撃が数度続いた所で、モルデリドが静止の合図をし、統制の取れた兵士達の攻撃の雨が一斉に止まる。


 「なるほど……、思ってた以上だな……」


 モルデリドが相手の実力を認めた。

 それが返って冷静さを取り戻させた。

 自分がしていた過小評価。

 それで全ての説明がつくわけではなかったが、ここまで突破を許した事を納得せざるを得なかった。


 「ルリッチ……」

 「承知」


 突然、辺り一帯を炎が包んだ。

 本来であれば即座に生まれる量の力ではないが、前もって儀式は終えてあり、幾層の魔法陣も重ねてある。

 元々は他国からの侵攻を防衛の為に作られた場所であり、数千の軍隊を相手に想定している。

 

 「炎の魔人(イフリート)……」

 「……な!?」

 「ほう……」


 アミスが感じ取り呟いた言葉に、ラス達は驚きの声をあげ、この場を支配する存在にアミスが気づいた事に、モルデリドは感嘆の声をあげた。

 イフリート。

 火の属性を持つ最上位の精霊。

 並みの精霊使いでは呼び出すことはできない存在であり、高レベルの精霊使いであっても属性が合わなければ不可能。

 属性が合っても呼び出せる者など、この大陸に何人いるかというレベルの話である。

 全てを焼き払う絶大なる力を有し、数名の冒険者でどうにかできる相手ではなかった。

 アミス達に絶望を与えるには充分な存在であり、その与えた絶望感がモルデリドに余裕という感情を復活させる。

 絶望に動きが硬直するラス達だったが、1人アミスだけがすぐに動きを見せた。

 対飛び道具用の風の結界をラディ達に任せて、≪ 風の乙女 ≫の力で辺りに別の風の結界を作り出した。

 それは熱を遮り、空気を確保する、二つの効果を重視したものでだった。

 膨大な炎は辺りを焼き払う前に、辺りの酸素を奪い、その熱は体力と精神力を奪う。

 そうなってしまっては、如何なる対処もできなくなる。

 アミスはまずはそれを防いだのだ。


 「モルデリド様……」

 「まさか、こういった場面での対処法を知っているとはな……、だが」


 予想以上の対処をされてもモルデリドはまだ慌てなかった。

 アミスが行ったのは、すぐに死なない為の対処でしかない。

 決して、この状況を打破するものではないのだから……

 余裕のあるモルデリドは、一つの提案をする事にした。

 それは一度は断られた提案だった。

 

 「アミス・アルリアよ。我に仕えよ」

 「お断りしたはずです」

 「お前は、経験を積めば我の後継者となれる才能を秘めている。我が娘を嫁とし、我の跡を継ぐのだ」

 「お断りします」

 「ここで仲間と共に死ぬことを希望するのか? それが許される存在だと思っているのか? お前の才能が惜しい。再考せよ」

 「お断りします」

 「少しは、考え……」

 「お断りします!!」 

 「……」


 モルデリドはアミスを過小評価していた。

 聞いていた以上の才能だと判り、心の底から殺すには惜しいと思った。

 その考えの甘ささえどうにかすれば、自分の片腕と、後継ぎとなれる存在だった。


 「あなたは、僕の大事な人を奪った」

 「……使い魔ごときがそんなに大事だったか?」

 「ごとき……?」

 「失言だったか……すまぬ」

 「いえ、大丈夫です。その言葉であなたの底が見えましたから……」

 「何?」


 ずっと真剣な表情でモルデリドを睨みつけていたアミスの口元に笑みが浮かぶ。

 それは仲間のラス達が見ても違和感を感じる表情だった。


 「僕達が今この場にいる一番の原因を判っていない。もし、判っていれば、そんな言葉は出ないんですよ」

 「何が言いたい?」

 「僕達が逃げる事が出来たのは、今あなたが『ごとき』と低く評価したティスの力です。それすらわかろうとしないあなたに仕えても、僕には何のプラスにもならない。あなたの下では僕は成長できない。僕を成長させてくれるのは、僕を仲間と認めてくれて、僕に頼ってくれる、僕に頼らせてくれるラスさん達だけです。力に劣る者を見下げて、考えに副わない者を排除する事しか考えないようなあなたの存在は、僕にとって害にしかならない」


 アミスの言葉に、モルデリドの表情は徐々に険しいものとなっていった。

 そんなアミスらしくない挑発的な言葉を、ラス達も驚いて聞くしかできなかった。

 自分達に打破できる状況ではなかった。

 アミスの聖獣の力を持ってしても可能とは思えなかった。

 それなのに、アミスは何でここまで強気に出れるのか解らなかった。


 「そうか……惜しいな……」

 「別に惜しくないです。でも、安心してください。あなた方をどうにかしようという考えはないですから……」

 「……?」


 アミスの言葉の意味を捉えかねて、モルデリドは怪訝な表情を浮かべた。


 「ティスを殺した貴方に恨みが無いわけではないですが、復讐なんて考えませんから……」


 アミスは視線を落とす。


 「ティスもそんな事を望んではいないですし……」

 「まるで逃げ延びれると言いたげだな……」

 「ええ……」


 アミスは満面の笑顔をモルデリドに向けて言い切る。


 「逃げきれますから」

 

 言うと同時、アミスは走り出す。

 炎の壁となっている場所へと。

 その行動の意味は解らない。が、前もって『僕を信じてついてきてください』と言われていたラス達は、アミスに続いた。


 「馬鹿な、強引に突破できる火力ではないぞ」 


 あまりに予想外の行動に、モルデリド達は混乱する。

 そんな中、ミフネだけは、アミスの自信満々な表情に興味を持って観察していた。

 そして、そんなアミスの前で炎の壁は二つに裂けて、道を作った。


 「な!?」

 

 何が起こったか分からずに、動き出そうとしたモルデリドの前に、黒い炎の壁が生まれる。

 その黒炎に視界を遮られアミス達の姿が見えなくなり、その黒炎が消えた後には、再び壁となった炎が見えるだけとなっていた。


 「な、何が起こった!? ルリッチ! どういうことだ!?」

  

 ルリッチにも何が何だか解らなかった。

 イフリートとの契約は成功している。

 契約施行中の上位精霊が、契約者である自分以外の言う事を聞くわけが無かった。


 「……追うぞ」

 

 再びモルデリドを支配する苛立ちの感情。

 ルリッチに炎を消すように指示を出したが、ルリッチがそれを躊躇った。

 一時的とはいえイフリートの炎を遮った力が生まれたのだ。

 それを行ったのはアミス達ではないことが判ったからこそ、ルリッチはイフリートの炎を消す訳にはいかないと判断したのだ。


 「モルデリド様、落ち着いてください。何者かが潜んでいる可能性が……」

 「それより、奴等を逃がすな!!」


 これ以上、伏兵や罠は用意されていない。

 逃げられれば、何も残らなくなる。

 何のために挑発し、逃げる様に仕向けたのか分からなくなってしまう。

 そんな事はあってはならなかった。

 完全に冷静さを失っているモルデリドは、怒りのままに叫ぶ。


 「奴等を殺せぇぇぇ!!」

 「させぬよ」


 聞いた事のない声が辺りに響いた。

 冷静さを残したミフネや一部の騎士達がモルデリドを守るように前に出た。

 その目の前に再び生まれる黒い炎。

 それはモルデリドに恐怖と共に僅かながらの冷静さを生んだ。


 「な…何者だ?」


 その問いに反応してか、それは姿を現す。

 少し離れた場所に別の黒い炎が立ち上ったと思った瞬間、その黒い炎は人の姿を形どり、それは姿を現した。

 それは、黒い肌と長く尖った耳を持ったダークエルフの女だった…… 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 旅を進めるごとに男らしくかっこよくなってくアミスがすこぶる良いです(*´ェ`*) グランデルト編では、皆を牽引していく側になってて、 なんか成長を感じます(ΦωΦ) 続きが気になるけど、明…
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