脱出
誰かに名を呼ばれていた。
それに合わせて体を揺すられているのを感じる。
意識が戻ってきて、随分と長く眠っていたような感覚が彼を包んでいた。
どんどんと意識がハッキリと覚醒してくるに従って、自分の名前を呼ぶ声の主が判ってきた。
聞きなれたはずの彼女の声から、少し慌てたような語気を感じ取り、すぐに起きるべきなんだろうと判断し、彼はゆっくりと瞼を開いた。
「ミスティ……何があったんですか?」
目を開けると、すぐ目の前にミスティアルの顔があった。
あまりの近さに驚いたが、彼女の瞳に溜まっている大粒の涙にさらに驚くラディ。
「何がじゃないわよ! 私がどれだけ心配したと思ってるの?」
ミスティアルのあまりの険相に、ラディは何も言葉を返せないでいた。
そんなラディに、ミスティアルは更に捲し立てるように言い放つ。
「1人で戦って、1人で勝手にやられて、本当に死んだと思ってたんだよ!」
「死んだ……?」
ミスティアルのその言葉で、ラディも漸く思い出すことができた。
自分が暗黒騎士団の知衛将軍と戦って、その剣を胸に受けて命を落としたはずだった。
「そうだ……なんで、俺……生きて……?」
「それを聞きたいのは、こっちだよ!」
「自分の事は棚上げですね……」
更に文句を続けようとしたミスティアルの言葉を止めたのは、別の人物の声。
互いに意識が向き過ぎていたからだろうか、2人は部屋に他に人がいる事に気付いていなかった。
その為、咄嗟に警戒態勢を取って声が聞こえた方に目を向けた。
そこに居たのは、本を片手に部屋の隅にある椅子に座っているハーフエルフだった。
少年とも青年ともとれたが、2人には自分達よりは年上のように見えた。
「いつからそこに……?」
先に目を覚ましたミスティアルは、一回周りを見渡していたが、その時には気づかなかった存在に、少し薄気味悪さを感じていた。
確かに、ラディの姿に気付いてからは、そっちに意識が集中してしまっていたが、それでも他に人がいる事に気付かない程、鈍いつもりはなかった。
特にどこか判らない場所なので尚更だった。
「お前は誰だ? ここは? 何で俺達を? 目的は何だ?」
ラディが次から次と頭に浮かんできた疑問を続けざまに言葉として出した。
それに対して、ハーフエルフのクエルスは閉じた本を机の上に置くと、ゆっくりと立ち上がって口を開く。
「まず、ここがどこかという問いに答えます。ここは、知衛将軍の屋敷です」
「暗黒騎士の? つまりグランデルト領?」
「はい、王都ランデルです」
「王都……」
「とりあえず、立ち話もどうかと思いますので、こちらへ……」
と、クエルスは部屋の奥に6つ掛けに用意されたテーブルと椅子のセットへと案内するように、歩き出す。
「もうすぐ、将軍も到着する予定ですので……」
「知衛将軍が……?」
ラディとミスティアルは、警戒を強めた面持ちで互いを視線を向け合う。
それに気づいたクエルスは、小さく笑みを浮かべると
「害を加える気はないので、ご安心を……」
「それを信じろと?」
「将軍にあなた方を殺すつもりがあったら、既に命はないですよ。判っていると思いますが……」
「……確かにね……、でもなんで私達を殺さずに生かしたの……?」
ミスティアルがクエルスの後についていきながら訊ねる。
クエルスは、少し考えてから席の前で立ち止まり振り向いて言う。
「それは将軍から話して貰おうを思っていたのですが、あまり時間がないので私にできる話だけしときますか……」
そう言うと、2人に席につくように勧めた。
そして、2人が躊躇いながらも席に着いた所で、自らもその対面の席に座り、簡単な説明を始めた。
「元々、将軍にあなた方を殺す理由が無かったというのが一番の理由ですかね……」
「……」
「そんな博愛主義者なの……?」
「まさか……、そんな人ではないですよ」
「だよね……」
相対して戦った相手である。
そんなラディから見て、確かに敵意むき出しな相手ではなかったが、だからといってそんなお人好しには思えなかった。
「ラディの時は、百歩譲ってそれを理由に納得するとしても……」
「いや、納得できないって……」
「いいから……」
ミスティアルはラディの反論を制して言葉を続ける。
「私を殺す理由はあったと思うけど……」
「……そうですね。あなたは聞いてしまったんでしたね」
「つまり、あなたも知っているのね?」
ミスティアルの言葉にクエルスは黙って頷く。
冷たさすら感じるほど冷静な表情を崩さないクエルスに対して、ミスティアルはふと一つの可能性に気付く。
「もしかして、あなたも……?」
「思ったより早く気づきましたね」
「!?」
クエルスのその言葉は肯定を表している。
そう感じたミスティアルは目を丸くして驚きの表情を隠しもしなかった。
1人、何の話かわからないラディは、不満げな表情を浮かべていた。
「すいませんが、この話は将軍が来てからですね。さすがに私の独断で話す訳にはいかないですし、ミスティアルさんも少しの間、話すのを我慢してください」
「……わかったわ。ラディ、ごめんね。ちょっと待って……」
不満を表情に残しながらも、ラディは頷いた。
「とりあえず、今の現状をお話しします。将軍が来たらすぐに交渉に入れるように……」
「交渉?」
「ええ、その交渉の為に、あなた達に知っておいてもらいたいんですよ。アミス達の現在の状況を……」
「アミスに何かあったの?」
ミスティアルの表情が曇る。
自分とアスマが離れた後の事を知らない彼女は、それが原因で何かあったのかと不安になる。
自分の勝手な行動で迷惑をかけてしまったのではないかと……
「貴女が将軍と戦った時の事でしたら、問題は無かったですよ。誰も死んではいません。貴女とアスマ・ドリーマーズが一党から離れただけです」
「アスマが? アスマはどうなったの?」
「誰も死んではいないと言ったじゃないですか。ただ、アミス達とは離れただけです……」
「その話も含めて、詳しく話して貰えるんですか?」
ミスティアルが慌てている姿を見て、返って落ち着くことができたラディが冷静に訊ね、それを受けてクエルスは静かに話し出した。
アミスが捕らえられた経緯を……
アミスが捕らえらた理由を……
そして、アミスを死なせない為に逃がす計画が立てられている事を……
「俺達が今目覚めさせられたって事は……」
聞いた話を頭の中で整理して立てた予想をラディが口に出した。
「貴方達には、アミスを逃がすための駒になってもらいたい」
別の声にラディの言葉は途切れたが、その言葉は奇しくもラディが口に出そうとしてたものと同じ内容だった。
ラディとミスティアルは、その聞いた事がある声が飛んできた方へと目を向ける。
すると、そこには予想通りの人物、知衛将軍エリフェラスの姿があった。
「こういった時の駒にする為に、俺達は殺されなかったという事ですか?」
頷くエリフェラスを見て、ラディは少し考える。
嘗て、自分を殺したはずの相手を目の前にしても、ラディは自分でも少し驚いてしまうぐらいに冷静だった。
先に少しでも説明を受けて事情を知った事が落ち着かせているのだろうと思えた。
「1つ訊いていい?」
ミスティアルが訊ね、エリフェアスは静かに頷き質問するように促した。
「私達の力なんて必要なの? 正直、貴方の実力があればどうにでもできるんじゃ……」
「それは真権皇騎士団を嘗めすぎてますね。一癖も二癖もあるメンバー揃っていますからね。彼等の目を盗んで実行するのは少々骨が折れます」
「……」
「それに貴方達の実力を見込んでの依頼という訳です」
充分な観察を経て、直接戦った相手だからこその意見だった。
そこにからかいの様なものは感じず、目の前のエリフェラスが本気で自分達の力を充てにしているのがラディ達にも判った。
だが、だからすぐに了承するという訳にはいかなかった。
「ところで、ミスティが聞いたという秘密ってのは何なんですか? 他の者には知られてはいけない事ですか?」
「それを聞くと、特殊な術をかけさせてもらわないと外に出す訳にはいかなくなりますが?」
「……つまり、私は依頼を受けるのとその術を掛けられるのはセットという事?」
ミスティアルがストレートに訊く。
すると、エリフェラスも端的に答える。
「そうなりますね。ですが、その依頼終了後は自由に行動してもらって結構です。逆に私の下に残られても困りますので……」
「つまり、あなた方とは関係ない人間がアミス達を救出した態を取りたいという訳ね」
「そう言う事です。別に真権皇騎士団と敵対するつもりはないんです。ですが、かと言ってアミスを殺させる訳にはいかない。アミスを捕らえる策は既に動いていましたし、私も秘密を持っている以上、それ自体を妨害するわけにはいかなかった。殺させない様に進言するぐらいしかね……」
「もしもの時に為の駒として、俺達は生かされたと……?」
ラディの言葉にも遠慮は無かった。
気づくと、既に自分からの話は無いとばかりに、クエルスが最初いた部屋の隅の席へと移動していた。
再び本を開いて視線をそれに落としてはいるが、耳だけはこちらに向いているだろうことは想像するに易い。
「そう言う事ですね。依頼を受けるかどうかは自由ですが、断るならしばらく外に出す訳にはいかなくなります。ですが……」
「断らないって自信あり?」
「自信というか、私からの依頼が気に入らないという感情的な理由以外では、断る理由が浮かびませんね。そして、そんな愚かな考え方をするお二人とは思えない……」
「私は、感情的になってアミス達を危険な状況に追いやったけどね……」
殺されたと思っていたラディの仇討ちの為に、危険が迫っていたアミス達から離れた事を後悔しているミスティアルは、自虐的にそう呟いた。
それに対して、エリフェラスは不思議に感じる程の柔らかな笑みを浮かべて言う。
「一度、感情的になって行動を誤っているからこそ、同じような選択ミスはしないと思いましてね……」
「ハッキリと言ってくれるね……」
「そういう性分なんでね。あと、すみませんが、あまり時間がないので、ゆっくりと考えていただけるような時間はありません。決断を急いでもらいたい」
そう言ったエリフェラスの表情から、余裕の笑みが消える。
表情で切羽詰まっていると教えようとしているのだろう。
「ミスティ、君に決めてほしい。俺はそれに従う」
「え?」
「秘密とやらを知ってるのは君だし、先に離れた俺よりアミス達の事をより知ってるのも君ですから……」
「……本当にいいの?」
頷くラディの口元の笑みを浮かべた表情を見て、ミスティアルの口にも笑みが灯る。
そして、ミスティアルはその笑みの灯った口から言葉を出した。
自分がどうしたいのかを、後悔をしない選択をしようと強く気持ちを込めて。
ハッキリとした理由もつけて言い切った。
闇に包まれた室内に居るのは3人。
「そうか、やはり動くのだな……」
「はい、主様の予想通りですね」
「貴殿も予想はついていたのだろう? 仮にも数年、側に仕えていたのだからな」
「そうですね……」
老練さを感じさせる男の声に対して、若い女性の声は小さく肯定の返事を返した。
「やはり、奴は甘いな。武勇も知恵も申し分ないが、この甘さが無くならねば使えぬ……」
「ですが、その甘さが王に好まれているのでは?」
「それは違うな。王の影響を受けて甘く育ったというべきだろうな……」
「王の影響ですか?」
闇の中のため見えないが、その声の女性が訝しげな表情を浮かべているのは、声で容易に想像できた。
「嘗て数々の勇名で馳せた王も、歳には勝てぬということだろうな、我と違ってな……」
「主と比べるのは間違いかと……」
それまで黙っていた若い男が老練な声を持ち上げる様に口を開く。
主と呼ばれた老練な声は、その言葉に反応を返さない。
「それより、逃がした娘はどうなった?」
「姿を消しました。どちらにも戻った姿は見せていません」
「そうか……、てっきりあの若造の下に戻ると思っていたのだがな……」
「元々、あちらでも意見が合わずに追い出されたのが真実のようです」
「奴らは、配下に自由を与えすぎているのだろうな」
「そうですね。ですが、私としてはそのおかげで自由に動けて楽ですね」
再び黙り込む若い男を気にした様子もなく、2人は会話を続けた。
元々、女性の報告を聞くために用意された場である為、ある意味当然の流れだった。
主と呼ばれた男は、無駄が嫌いな男だった。
故に、配下の余計な発言を好まない。
それが判っていないのか、同席している若い男は必要以上に会話に参加しようとする。
そこが彼の評価を落としている事に気付かずに……
「どうしますか? 動きに合わせて妨害しますか?」
「いや、今はまだ信頼を崩すな。妨害役はこちらで用意する」
「わかりました」
そう返事をして女性は姿を消す。
扉も開けずに彼女が消えたのを確認してから、若い男が口を開く。
「妨害役は誰に?」
「貴殿は誰が良いと思う?」
「……私がやりましょうか?」
黙って反応を返さない主に、若い男もそれ以上何も言えず、黙って返事を待った。
「そうだな、貴殿にやってもらおう」
「は、はい! お任せを!」
漸く返ってきた肯定の言葉に、若い男は元気な声で返事を返す。
先の沈黙の意味に気付かずに……
その役が死に役だという事を気づかずに……
夜も更け、誰もが眠りにつくような時間となっていたが、地下牢で外を見る事ができないアミスには、正確な時間は判りはしない。
それでも、体に染みついた時間間隔により夜遅くだという事は予想がついていた。
昨晩までは既に眠りについていた時間だったが、今日は姿勢よく座った状態で心を落ち着けていた。
「!?」
アミスの前に突然光が生まれだす。
光は徐々に細長い形を作りだし、次第にそのフォルムがハッキリとしたものとなっていき、代わりに光が弱まっていった。
光が消えた後の残ったのは、アミスに取って見慣れた物であり、暫く見る事が出来なかった物。
無数の聖契石が埋め込まれている一本の杖。
アミス用の魔法の杖だった。
アミスが静かに杖を右手で取ると、扉の外が騒がしくなってきた。
一瞬、先程の光に気付いた牢番達が動き出したのかと、アミスは警戒を強めて立ち上がったが、なかなか扉に音が近づいてこない。
騒ぎが収まり一瞬の静けさに包まれたが、すぐに扉の鍵を開けようとする音が聞こえだした。
緊張が強まる中、開かれた扉の先に確認できた2人の顔を見て、アミスは驚きの表情を浮かべた。
「え? ラ、ラディさん? ミスティアルさんも……」
目の前に現れたのは、死んだはずの2人だった。
戸惑うアミスに、2人は一瞬笑みを向けたが、ラディがすぐに真剣な表情で口を開く。
「急いで」
そう促されて、アミスは戸惑いを残しながらも、動き出した。
ラディを先頭に牢から出た一行は、続いて一つ上の階に捕らえられているはずのラス達の牢へと向かった。
この階の牢は、厳重な金属扉だったアミスが囚われていた下の階の牢とは違い、鉄格子で仕切られていて中をすぐに確認できる作りだった。
廊下を走り抜けると、何人かの囚人だろう姿をすぐに確認できた。
そして、階の一番奥に目的の2人の姿を見つける。
既に武器を手に逃げる準備ができている様子の2人も、アミスと共に駆けつけたミスティアル達の姿に驚きを隠せない様子だった。
しかし、質問をするのは後と判断し、鉄格子が開かれるのと同時に飛び出すラスとリン。
「大丈夫?」
リンはすぐさまアミスを気づかい、アミスは自分に言い聞かせるように、
「大丈夫です」
と、返した。
「今は、チャンスを作ってくれたティスの為にも、絶対に逃げ切らないと……」
このチャンスを作ってくれたのは、死んだはずの使い魔ティスだった。
本来なら魔法が使えないはずの空間で、通信の魔法でアミス、ラス、リン等に情報を送り、独自に情報を集めてアミスを逃がすのに力を貸してくれそうな、タリサやエリフェラスにも情報を送った。
そして、本来なら魔力の効果が及ばない場所から、アミス達の装備を転移させたのもティスの力だった。
本来ならば魔力も魔法的な技術も足りないはずだったが、いざという時に自分の命と引き換えに主であるアミスを助けるために必死に覚えた妖精界独自の魔法、そして、使い魔契約した者にしか使えない魔法だった。
その効果時間は術者の魔法力で差異はあれども、長くても3日程度しか持たない。
故に、不必要に時間をかける訳にはいかなかった。
それぞれに色々と話したい事はあったが、それは逃げ切ってからと全員が思い行動を起こしていた。
(後は、タリサが本当に逃げれる道を用意してくれてるかだな……)
既に疑って足を止める選択肢はなかったが、どうしてもそう思ってしまうラス。
もしもの時に備えてできる事もなく、ティスが作ってくれた状況に従うしかなかった。
「逃げる経路は確保してあるけど、ある程度の強行突破前提だから、戦う準備だけはしといてね。でも、相手を倒すことより逃げを最優先である事は忘れずに……」
「それはティスから聞いてるから、重々承知してる……」
ミスティアルからの言葉に、ラスは不機嫌そうなトーンで答える。
「とりあえず、これ以上の犠牲はいらない。絶対に全員で生き残るぞ」
「当然でしょ」
厳しい表情でのラスの言葉に、リンが笑顔をつくって言い切った。
「ミスティ達も絶対に犠牲になろうとしちゃ駄目だよ」
明るくも、強い意志を感じる声だった。
ティスの名を耳にして落ち込みかけたアミスも、余裕のなさから表情をこわばらせていたラスも、迷惑のかけた借りを返す事に意識が支配されていたラディやミスティアルも
「死んだら許さないからね」
リンの声に勇気づけられている感覚だった。
「……簡単に言ってくれるな」
ラスも笑みを浮かべて軽口のようにそう言う。
アミスも、
「勿論です。そう言ってリンさんが囮になるとかもなしですからね」
と、敢えて明るい声で言い放つ。
リンは、そんなアミスの背中を軽く叩くと、魔法の詠唱を始めた。
少し遅れてアミスも続く。
「【 石礫 】!」
右90度の曲がり角、スピードを上げてラディ達より先に辿り着いたリンは、間を置かずに石の礫をその先へと飛ばした。
人工物による通路の為、土の精霊の力は弱く、威力は弱かったが待ち構えていた兵士達は不意をつかれてまともにその礫を受けて殆どが目を瞑っていた。
唯一それを防ぎ、すぐさま反撃に出ようとしていた槍を持った兵士も、続けてアミスが放った【 魔矢 】を集中的に受けて倒れた。
ラディやリンが数人の兵士を武器や蹴りで弾き飛ばして道を確保すると、兵士達が体勢を立て直すより早くに全員が一気に走り抜けた。
「跳びます!」
ラディはそう言うと、左側の大きな窓を蹴り破りながら外へと跳んだ。
他のメンバーも躊躇せずに続く。
その先に地面が無い事を知らないまま……
「え?」
跳び出た先が底がどこまであるかすぐに判断できな程の崖になってる事に気付き、それを知らないアミス達は驚き、リンが
「ここどこぉぉぉ~~~~!!!」
と、絶叫する。
元々、計画通りのラディは落ち着いて、呼び出してあった風の精霊の力により、全員の落下速度を落とす。
魔力が足りずに速度は充分には落ちなかったが、すぐにアミスとミスティアルも風の精霊を呼び出しラディの魔法の支援をして、魔法の効果は充分なものとなった。
「≪ 風の乙女 ≫」
アミスは続いて風の聖獣を呼び出した。
無事に姿を現した≪ 風の乙女 ≫の姿にアミスは一瞬だけ安堵の表情を浮かべたが、すぐに彼女に風の結界を張るように指示を出した。
風の結界が張られた直後、周囲から大量の矢が飛んできたが、それは全て風によって方向を狂わされ、力を失い落下していった。
続けて矢は放たれてきたがそれらは全て風に防がれ、時折飛んできた攻撃魔法は、ラスやリンが攻撃魔法で相殺して防いだ。
こんな場所にまで兵士を控えさせている用意周到さに、今晩の逃走するという情報が洩れているかもと思わせたが、幸いなことに、魔法使いはそれ程多く配置されていないようだった。
そうしているうちに攻撃は止み、周囲の崖を駆け降りる無数の足音が聞こえるだけとなった。
「こりゃ、待ち構えられるな」
「そうだね……、とりあえず大技をくりだそうか?」
「相手の陣形しだいだろうな……」
相手の情報伝達の速度がどれだけ早いかはわからないが、少なくとも現在崖を駆け降りる程度の数の兵士であれば、突破する事はできそうだった。
あとは他の場所からどれだけ早くに相手の応援が駆けつけるかだろう。
少なくとも将軍クラスが複数現れたら厳しいだろうと予想できる。
「思ったより多いか……」
下が見えてきた。
崖を駆け降りていた連中が既に下り終えているようで、少し疲れた様子の兵士50名程が、武器を構えて待ち構えていた。
おそらく、周囲の森の中に弓兵も控えているのだろう。
「!!」
「どうした?」
アミスが表情を強張らせた事に気付いたラスが訊ねたが、アミスは返事を返さない。
ただ、下で待ち構える1人の男を強張らせた表情のまま睨みつけていた。
この場の守りを任せられていた雷炎将軍コンスタン・バームの事を……
ティスに直接手をかけた、あの魔術師の事を……




