交渉
登場人物紹介
アミス・アルリア;複数の聖獣と契約できる魔法使いの少年、15歳、ハーフエルフ、男
ティス;アミスの使い魔、14歳、ピクシー、女
ファイス;聖獣を求めて洞窟を探索する冒険者(戦士)、24歳、人間、男
サラ;ファイスの相棒の冒険者、22歳、人間、女
ロルティ;突然現れた魔法使いの少年、?、?、男
「ようやく、変化がでたな」
「・・そうだね・・・」
サラは不満げに言葉を返す。
アミスと別れた後、しばらく変化を感じられない通路を奥へと進んでいった。
そうして、30分程歩いた時に、一つの部屋へと出たのだった。
先程の部屋とは比べ物にならない広い空間で、相変わらず、壁は弱く光ってはいたが、広すぎて先の方までは見えない。
「・・・ふぅ・・・」
状況に変化があった機に、ファイスは深いため息をつき、サラの方へ振り返った。
サラから不満を感じ取れないほど、ファイスも鈍くはない。
「俺だって、あいつが騙そうとしてた訳じゃないんだろうと思うさ。でもな、そう決め付ける訳にはいかない。そこまで自信があって思う訳じゃない」
「一緒にひどい裏切りを受けた身としては、疑いたいのはわかるよ。でもね・・・」
ファイスの目をじっと見つめるサラ。
「ある程度、割り切らないと冒険者としてやってけないよ」
ファイスは、過去に体験した仲間の裏切りを引きずっていた。
サラもそれがわかっていたから、変に意固地になり聖獣を求めるファイスを黙って支えてきた。
いつまでファイスと一緒に旅をするかはわからないが、今のままでは、離れる訳にはいかない。
そう思い、サラはファイスに今までついてきたのだ。
「・・・割り切るために、聖獣が欲しいんだ」
サラの言葉を受け止め、僅かな思考の後、ファイスははっきりと言い放つ。
「最初は何気なく求めた聖獣だった。うまくいかずに意固地になった。そして、酷い裏切りを受けた。仲間を失った・・・」
壁の光が僅かに強くなったが、二人は気が付かない。
「冒険者として進むためには、聖獣が必要だ・・・、いや、聖獣を手に入れたという事実が必要なんだ・・・」
「・・・ファイス・・・」
「俺を冒険者として進ませてくれ」
その目から、迷いが消えていた。
あれ以来、常に感じられていた心の迷いが・・・
「・・・わかっ・・・」
「それは無理だと思うよ」
サラの返事は、別の言葉で遮られた。
慌てて声がした方へ、二人は見上げた。
一人の少年がそこに立っていた。いや、浮いていた。
ファイスとサラの頭上に、浮いていたのだった。
「な、なんだお前は・・?」
「魔力も気配を感じず、周囲の変化にも気づかない。そんな人は冒険者に向かないよ」
その少年は、ファイスの言葉を流して言葉を続けた。
「ここに眠る聖獣も、君みたいな人とは契約したくはないと思うよ」
と、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「せ、聖獣がいるのか? ここに・・・」
「多分いるよ。これでニ体目だよ。どんな聖獣かな? 強力なのがいいよね。二個しか石は作れなかったからさ」
無邪気に笑う少年に、ファイスは、少し安心感を感じ取った。
「もう一体持ってるのか? ならここの聖獣は譲ってくれ」
必死に頼むファイスの横で、サラは警戒をしていた。
少年から殺気は感じない。
油断していたとはいえ、殺気を帯びていれば、声をかけられる前に気づけたはずだった。
「・・・ボクのさっきの言葉、聞いてなかったのかい?」
少し不満げに少年は言う。
「・・・?」
「君なんかが聖獣を持っても意味ないんだよ。冒険者にむかない君が持ってもね」
「な・・・」
僅かな敵意を感じ取り、二人は武器を構えながら後ずさった。
「いやいや、君達が相手しなきゃいけないのは、ボクじゃないと思うよ」
少年は、そう言うと部屋の奥に目を向けた。
釣られて、ファイスの目も部屋の奥に向く。
「結界解いちゃったから、あれが動き出すと思うから・・・、ま、頑張ってね」
少年への警戒を解かないサラと、部屋の奥をじっと見るファイス。
「・・・?!」
奥からそれは現れた。
最初の部屋に現れたものと同型のモンスター。
しかし、それはウッドゴーレムではなかった。
「アイアンゴーレム・・・」
ウッドゴーレム同様、古代の魔術師が作り出したと言われている人工のモンスター。
木で出来たウッドゴーレムと比べて、金属で出来たアイアンゴーレムは桁違いの防御力を誇り、普通の武器ではダメージを与えることすら難しい。
熟練レベルの冒険者でないと厳しい相手である。
「・・・!!」
二人は驚愕した。
奥にアイアンゴーレムがもう一体確認できたからだ。
二人にとっては、一体でも絶望しそうな相手である。
それが二体いるのだ。
「ファイスさん!! サラさん!!」
逆方向から聞こえた声に、振り向く二人。
アミスはすぐに駆け寄り、
「あれから目を離しちゃ駄目です!」
と、アイアンゴーレムへの警戒を向けた。
「なんだ、魔法使いもいたんだね・・・、ま、大した戦力にみえないけど・・・」
そう言った少年も見た目には大差ない。
しかし、その醸し出す雰囲気、そして、常に宙に浮き続けれるという事実が、高位の存在なんだと教えてくれていた。
「あなたですか? マナ魔法を封じていたのは?」
目線はアイアンゴーレムに向けたまま、アミスは尋ねた。
「お、よく気づいたね。この遺跡の魔力のせいとは思わなかったのかい?」
「偶々です。先程、魔法が使えなかった部屋で、魔法が使えるようになってました」
「偶々ね・・・なるほど」
余裕を見せる少年は、じっとアミスを観察する。
(背丈はボクより少し低い、150㎝ぐらいか・・・。それ程強い魔力は感じないし、まだまだ若い・・・、いや、ハーフエルフか・・・見た目通りの歳ではないのかも・・・)
エルフという種族は長命で知られている。
人間と比べて10倍は長く生きれるだろう。
そのエルフの血をひくハーフエルフもエルフ程ではないが長命と認識されていた。
が、先に述べた通り、アミスは15歳になったばかりである。
(魔力を帯びたローブに、杖も魔力を・・・、?!)
そこで少年は気づいた。
アミスが持った杖に埋め込まれている石の存在に。
「聖契石?! それ全部、聖契石か?!」
少年は驚いた。
アミスの杖に五つの聖契石が確認できたからだ。
ありえない事だった。
聖契石は原則一人一つ。
複数持つ者は至極稀な存在。
複数といっても、2~3個の範囲でしか聞いたことがなかった。
自分ですら2個しか持ってないのに、こんな少女が五つも持っていることが信じられず、常に冷静だった少年は慌てる。
「はい、まだ二体しか契約してませんけど・・・」
「二体?」
複数の聖契石を持っている者が至極稀なら、実際に複数の聖獣と契約できている者はさらに稀な存在だった。
運が良ければ聖獣に巡り合うことはできる。
しかし、本当に有用な聖獣というのは、実はそれ程多くはない。
限られた聖契石を無駄にしないために、契約する聖獣はしっかり選ばなければいけないのが、当然の考え方だった。
契約を解除することも可能だが、一旦契約した聖契石は、契約を解除してもしばらく、他の聖獣との契約に使えなくなる。
その間に強力な聖獣を見つけたのに、契約できなければ後悔することになるため、皆慎重になるのだ。
「名は?」
「え?」
「ボクはロルティ、君の名前は?」
「アミス・・・です」
突然訊かれて、アミスは思わず名乗る。
「君みたいな女の子が、聖獣を二体も持ってるなんて・・・」
「僕・・・男です・・・」
「え?」
「嘘?」
「まじか?」
ロルティ、サラ、ファイス、三人共驚きの声をあげる。
全員勘違いしていた。
アミスが魔法使いの少女だと・・・
アミスは、年齢からみても小柄な部類であり、華奢な体格。
金色の髪を肩まで伸ばしており、顔だちも整っており、10人中8~9人は美少女と思う容姿だった。
その誤解を決定づけるのが、母の形見の髪飾りだった。
そして、本人にその自覚がないのも誤解を解けない要因だった。
「・・・ま、いいや・・・、アミス君、手伝ってもらえないかい?」
「手伝う? そんなことより、アイアンゴーレムをどうにかしないと・・・」
「まだ大丈夫そうだよ。一回マナを遮断したから、起動がまだ完全じゃないみたいだ。まだ、侵入者を認識していない」
「いずれ、認識されるんですよね? 今のうちに逃げた方が・・・」
先程まで敵と思っていた相手に、普通に話を持ち掛けられ、アミスは戸惑っていた。
「俺達、のけ者で話をしてんじゃね~よ!」
不満を顕わにするファイスを無視して、ロルティは話を続ける。
「一旦、マナ遮断をしてゴーレムを無力化してから部屋を調べたんだけど、聖獣が見つからないんだ」
「もっと奥にいるんじゃないですか?」
「馬鹿にしてるの? そんな可能性あるならこんな事言わないよ」
「あ、すみません・・・」
ロルティは怒っていたわけではないが、アミスは咄嗟に謝る。
「ここが最深部だよ。アイアンゴーレムって番兵もいるし、この部屋にあると思うんだけど・・・」
「それで、僕に何をさせようと・・?」
「二体も聖獣持ってるんなら、見つけれないかなと思って・・・」
「はぁ・・・」
ちらちらとアイアンゴーレムを見ながら、アミスはロルティの話を聞く。
「ちょっと、いいか?」
「それでさ・・・」
「ム・シ・ス・ル・ナ!!!」
怒鳴るファイスに、ロルティはようやく視線を向ける。
「もう、うるさいな。 なんだよ?」
「それで、聖獣が見つかったら、誰が契約するんだ?」
再び無視される前に、ファイスは質問を投げかけた。
「どんな聖獣かによるかな? ボクがいらないのなら好きにしていいよ」
「なんで、お前に優先権があるんだよ!?」
「別にみんな殺してからゆっくり探してもいいんだけどね」
さらっと言い放つロルティへの警戒を、改めて強める三人。
「立場的に、充分に譲歩してるつもりなんだけどね」
と、軽くため息をつくロルティ。
「僕は、ファイスさんに権利を譲ります。そういう契約ですから」
「アミス・・・」
ファイスは、驚く。
疑い、突き放したのに譲るというアミスの言葉に。
「じゃ、こういうのはどう?」
ずっと黙って聞いていたサラが、口を開いた。
「ロルティ君だっけ? 君にまたマナ遮断とかいうのを使ってもらって、ゴーレムを無力化してから4人でじっくり調べましょう。あとは早い者勝ち。最初に見つけた人の者になる」
「それって、ボクにメリットあるかな?」
「少なくとも、三対一の不利な戦闘は避けれるわ。それとも、二体も聖獣持ってるアミスちゃんを含めた三人相手でも、絶対に不覚をとらない自身がある?」
その言葉にロルティは考える。
(十中八九、はったりだと思うけど、どんな聖獣を持ってるかわからない以上、不覚を取らないとは言い切れない)
アミス、サラ、ファイスの順に目を流し、
(ファイスって奴は問題外。警戒対象は聖獣だが、この落ち着きよう・・・、この女も意外にやっかいかもしれないな)
「約束はできない。でも先にボクが見つけたら諦めてくれるんだよね?」
「そうね」
「おい、サラ・・・」
「わたし達には、これ以上の選択肢はない。すくなくとも、聖獣を見つけるまではアイアンゴーレムの脅威に脅えなくていいし、正直、アイアンゴーレム相手には戦う術はないけど、人間相手なら戦いようがあるわ」
(アイアンゴーレムを倒さずに、無力化してから、聖獣を探してるってことは、彼にとってもアイアンゴーレム相手は厳しいはず。そのレベルなら、戦いようがある。最悪の場合は、聖獣を捨てて逃げる)
まずは生き残ること。
それがサラの最優先事項だった。
(装備を見て初級冒険者と思ってたけど、思った以上に熟練者みたいだ。とりあえず、提案にのって、後は状況次第でどうにでもできる)
ロルティも冷静に考え、提案にのることにした。
(ティス・・・、大丈夫?)
(まだ寝てないけど、マナ遮断されたら厳しいかも・・・)
(じゃ、寝る前に・・・、このロルティって人・・・)
(人間じゃないよ)
(やっぱり・・・)
アミスは、自分と同じぐらいにしかみえない若さに、この落ち着きや冷徹さはおかしいと感じたのだ。
亜人種か、若しくは魔族?
最悪のケースを想定して、作戦を立てる。
経験の浅い自分ができる範囲で・・・
(それしかないか・・・)
ファイスは悩まなかった。
予定通りには、戦闘が始まらなかった。
嘘つきでした。




