洞窟
登場人物紹介
アミス・アルリア;複数の聖獣と契約できる魔法使いの少年、15歳、ハーフエルフ、男
ティス;アミスの使い魔、14歳、ピクシー、女
ファイス;聖獣を求めて洞窟を探索する冒険者(戦士)、24歳、人間、男
サラ;ファイスの相棒の冒険者、22歳、人間、女
アミスは、二人の案内で洞窟の入り口に来ていた。
最近見つかった魔力を感じる洞窟。
アミスもその魔力を感じ、
(同じような魔力を感じる。確かに聖獣がいるかもしれない・・・)
アミスが契約した炎獣がいた遺跡で感じた魔力に似ていた。
「ファイスが先頭、中にアミスちゃん、そして私が殿でいいわね?」
サラの自分の呼び方に、少し疑問を持ちながらも頷くアミス。
アミスが杖の先に灯した【 灯 】の灯りで、警戒しながら3人は洞窟内へ入っていく。
二人の話では、一本道を少し進んだ先にある開けた部屋でウッドゴーレムが待ち構えていたらしい。
その部屋までは何もないと思えたが、警戒は切らさない。
(あれ? 誰か近くにいるの?)
アミスの頭の中に声が響いた。
(ようやく起きたんだね。 ずいぶんとお寝坊さんだよ)
アミスも声を出さずに返す。
(誰? て、それより、ここどこ? どこに向かってるの?)
(ちょっと頼まれて、洞窟の探索にきてるんだよ。一緒にいるのは、ファイスさんとサラさんていう冒険者だよ)
(ふ~ん、なんでそんなことに?)
その声は不満減だったが、
(ティスが眠ってたから意見が訊けなくてね)
(あ、ごめん・・・)
心に響く声の主は、アミスの服に彼女用に作られたスペースで眠っていたティスという名の妖精だった。
アミスと使い魔契約を交わしている為、声での会話だけでなく、こういった無言の交信もできるのだ。
アミスは、事の次第を簡潔に説明した。
(聖獣? 三体目だね)
ティスの嬉しそうな声に、アミスは、
(駄目だよ。今回はファイスさん達に譲るから)
と返した。
(えぇ~、なんでぇ~?)
(なんでもなにも、聖獣を見つける手伝いを依頼されたんだから、見つけたら彼らに譲るのは当然だろ?)
(でも、正式なギルド経由の依頼じゃないんでしょ? 別に横取りしたって・・・)
(駄目なものは駄目! それで納得して依頼を受けたんだから、契約違反は駄目だよ)
(お人好しなんだから・・・アミちゃんは・・・)
呆れてしまうが、そんなアミスのことが好きなティスなのだった。
ファイス達は聖獣への知識が不足していた。
〖 聖獣は一人につき一体 〗
確かに一般的な認識では、そう思っているものが圧倒的に多いのだが、御多分に漏れずにファイス達もそう思っていた。
だからこそ、既に聖獣を持っているアミスに横取りされる恐れがないと、判断したのだ。
しかし、至極稀にいるのだ。
複数の聖獣と契約できる者が。
聖獣との契約には、聖契石と呼ばれる魔法の石を作る必要があり、魔力を持った者であれば、儀式により誰でも聖契石を作る事ができる。
その時にできる聖契石の数で契約可能な聖獣数が決まる。
一つの聖契石につき一体の聖獣を契約することが可能なのだ。
大多数の者が、一つだけ聖契石を作る事ができるため、一人一体の契約というのが、一般的認識となっているのだった。
アミスは複数の聖契石を所持している稀の存在だった。
その才能を活かす為に、聖獣を探すのがアミスの旅の目的。
まだまだ半人前の魔法使いとしての経験を積みながら、聖獣を探す旅に出たのだ。
聖獣は簡単に見つかるものではないが、アミスは運よく既に二体の聖獣と契約を結んでいる。
尊敬している魔導士である父から、魔法について、聖獣について、冒険者としての知識等を教わり、
15歳になったのを機に旅に出て、まだ10日程しか経っていないのだが・・・
洞窟に入ってから、30分程進むとファイス達が言っていた部屋に辿り着いた。
そこまでは岩や土で覆われた中を進んできたが、部屋の中はそれまでとは違う人工の壁で覆われていて、部屋全体が弱い光を放っていた。
「魔力に満ちてる・・・」
この明るさなら、【 灯 】はいらないかも、と、ちょうどアミスが思った時だった。
杖の先の灯りが消えた。
「 ? 」
驚き立ち止まるアミス。
「どうした?」
「・・魔法が消された?・・」
「アミスちゃん?」
「・・この部屋自体の魔力のせい?・・・」
ぶつぶつと呟くアミスを不思議そうに見つめる二人に気づいた様子もなく、アミスはティスと交信する。
(ティス、何かわかるかい?)
(・・・・)
(・・・ティス?)
ティスからの返事がない。
また眠ったのだろうか?
いや、先程起きたばかりで、洞窟の中を探索中に寝てしまう程、非常識な性格はしていない。
「魔法が打ち消される空間なのかもしれません」
「なんだそれ?」
「どういうこと?」
アミスが突然言った言葉に驚く二人。
前も魔法が使えない場所で、ティスが眠りについていたことがあった。
「知識にない事態なので原因もわかりませんが、【 灯 】みたいな魔力を殆ど使わない魔法ですら打ち消されてますから、少なくともマナを使った魔法は使えないと思います」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「さっきみたいなウッドゴーレムレベルのモンスター出たら厳しいですね。聖獣まで使えないってことはないと思うので、戦闘は多少こなせますが・・・」
「おいおい、どうすればいいんだよ?」
あまりに突然に聞かされ、混乱気味のファイスに、
「僕は撤退した方が良いと思います。この事態に対応するには、戦力不足です」
アミスが冷静に返す。
元々、初めから戦力不足を感じてたアミスは、さらに自分が戦力になり難い状況に、素直な意見を言ったのだ。
「わたしもそう思うわ。ここは戻りましょう」
「いや、しかし・・・」
サラもアミスに同調するが、ファイスは躊躇う。
「今がチャンスなんだよ。ギルドに張り出されたばかりの依頼を見てすぐ出てきたんだ。他の連中より先にな。再度準備のために戻ったら、間違いなく他の奴らに先を越されてしまう。だから急がなきゃいけないんだ!」
「・・・」
「ファイス・・・」
捲し立てるファイスに驚くアミスと、心配するサラ。
「俺はどうしても聖獣が欲しいんだ。既に持ってるお前はそんなに執着しないだろうが、俺はどうしても欲しいんだよ」
「ちょっと、ファイス! ここに絶対聖獣がいるってわかった訳じゃないのよ。それなのに無理してどうするのよ?」
「いたらどうするんだよ? 俺はやだぞ、他の奴らより先に入ってたのに、それを他の奴らに取られるのは、もうやだぞ!!」
「・・・」
「いやなら勝手に帰れ! 俺は一人でも行く!!」
完全に感情的になっているファイスは、一人で進みだす。
仕方なく後に続く二人。
そこからも一本道だった。
先程の部屋と同様に壁が光を放っており、灯りの心配はない。
それでもアミスは、時折魔法が使えるか試してみる。
神々の加護を受けての神聖魔法、精霊の力を借りた精霊魔法は弱いながらも発動した。
しかし、大気中の魔力、マナを使ったマナ魔法は一切発動しなかった。
元々、マナ魔法をメインの魔法としているアミスには、厳しい状況だった。
「(小声) アミスちゃん、ごめんなさいね・・・」
前を歩くファイスに聞こえないように、サラに話しかけた。
「(小声) わたしもファイスと組んで、まだ2回しか仕事してないから理由は聞いてないんだけど、聖獣への執着がすごいのよね、あいつ・・・」
サラは、自分が知っている分は説明してくれた。
ファイスが聖獣を探して遺跡類に入るのは、もうこれで10回を超えるらしい。
その中で聖獣がいたのは4回。
1回目は共に入った仲間に持って逃げられ、2回目は遺跡内で迷い先を越され、3回目はその遺跡自体に入るのが遅かった。
サラ達と組んだ4回目は、仲間の裏切りにより、サラを除く他の仲間は殺された。
「(小声) わたしもどれだけ信用されてるかわからないけどね。それでも、聖契石を作らないことで自分には聖獣と契約する意思がないことを示してるの」
「・・・そうなんですね・・・、僕が《 炎 獣 》《ガラコ》と契約した時も、他の人と戦闘になりましたから、わかります」
思わず出たアミスの声は、ファイスの耳には入っていたが、反応を見せずに進んでいく。
「気をつけなきゃいけないんですね・・・、僕も次は気をつけないと・・・」
「次? ・・・どういうことだ」
今度はアミスの言葉にファイスは反応した。
「え?」
「次ってなんだ?」
「え? ・・・え?・・・」
睨みながら近づいてくるファイス、脅えた表情で後ずさるアミス。
「ちょっと、どうしたのよ? ファイス・・・」
アミスを庇うようにサラは前に出る。
「既に聖獣持ってるのに、次ってどういうことだ?」
感情を抑え、冷静な口調でファイスは訊いた。
「え? 聖契石がまだありますから・・・」
戸惑い応えるアミスに、サラも驚きの表情を向ける。
ファイスとサラは、聖契石を複数持てる者が存在することを知らなかったが、アミスも知らなかったのだ。
それが一般的に認識されてなかったことを。
「お前も、騙して横取りするつもりだったのか?」
「え? そんなつもりは・・・」
「ファイス、とりあえず落ち着いて・・・」
「落ち着いてる・・・」
今にでも、飛び掛かりそうな雰囲気のファイスを必死に止めるサラ。
アミスは、まだ理解できていなかった。
「普通は一つしか聖契石を作れないこと、知らないの?」
「え?」
サラの言葉に驚くアミス。
「・・・わかった。もういい・・・」
「ファイス?・・・」
「一緒に来なくていい・・・、お前は帰れ」
ファイスは、感情を抑えてそう言うと、奥へ進みだした。
「ちょ、ちょっと・・・」
「いくぞ! サラ!」
慌てて追いかけるサラ、そして、アミスは立ち尽くすしかなかった。
二人の姿が見えなくなり、とぼとぼと引き返すアミス。
落ち着いて考えてるうちに、状況が把握できてきた。
ただ、力になろうと思っただけだった。
自分が知らなかったばかりに誤解を招いてしまった。
今更何を言っても、言い訳にしかならない。
(届けなきゃ・・・)
本来の依頼である仕事へ意識を戻すことにした。
安全かわからない洞窟の中で、呆けながら歩いてしまっていたことに気づき、意識を回りに向ける。
気づけば最初の部屋まで戻っていた。
(あれ? アミちゃん?)
不意に声が頭に響く。
「さっきの二人は?」
誰もいないことがわかり、服の中から身長20㎝程の小さな妖精が飛び出てきた。
半透明な羽を持つ妖精、ピクシー。
本来なら妖精界という別世界に住む存在だが、好奇心旺盛な性格も手伝って人界で時折見ることはある。
ティスのように使い魔として契約しているピクシーも、かつては珍しくなかった。
「・・・」
「アミちゃん?」
アミスの顔を正面から覗き込むティス。
「・・・・!? 大気のマナよ、光を灯せ 【 灯 】!」
アミスの杖に灯が灯る。
「どうしたの? アミちゃん?」
アミスは、踵を返すと駆け出した。
「え? ちょっと、アミちゃん!!」
慌てて後をついていくティス。
(この洞窟自体が、魔法を使えない空間になっていると思ってた。でも、さっき魔法が使えなかった部屋で、今、魔法が使えた。つまり・・・、誰かが、魔法を封じる空間作ってた)
そう結論付けたアミスは、ファイス達を追いかけた。
魔法を封じる空間を作れる存在。
アミスは、自分でどうにかできる相手とは思ってはいない。
しかし・・・
(助けなきゃ!!)
アミスは、その思いだけで走っていた。
次回から本格的な戦闘になります。