魔剣使い
スリースタック公国との国境に最も近い町シャープテイル。
後二日程で到着という所で、ラディとミスティアルは別行動に出ていた。
迷子の少女を、街道から逸れた所にある村へと届ける事になり、それ程遠い場所ではない事もあり、2人で少女を連れてその集落へと向かったのだ。
未だに暗黒騎士団の目がある可能性は低いと思えたが、わざと人手を分けて動きを見ることにしたのだ。
つまり囮役である。
万が一襲われても、逃げに徹すれば逃げれる二人での行動だった。
最初は、アスマも含めた3人という考えもあったが、囮なら少なくした方が効果があるだろうという事で、2人だけとなった。
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
無事に村への少女を届け終えて、ラディ達は街道へ戻る方向へと歩き出した。
ショートカットをするように見せかけながら、わざと林の中を通る。
ラディが風の精霊を呼び出し、先行させることで、前方には誰もいない事を確認しながら進む。
もし、観察者がいれば、それには気づいているだろう。
しかし、それと同時にこっそりと、ミスティアルも同様にシルフを呼び出して、後方にも警戒を回していた。
魔力自体はラディの方が強いが、こうやって隠匿的な使い方は、ミスティアルの方が得意だった。
盗賊ギルドで教わった技術が役に立っているのだろう。
「そういえば、みんな気にしない人で良かったね」
軽く雑談している風をみせる為もあり、ミスティアルがラディに話しかける。
「ん? そうですね。打ち明けてから随分気が楽です」
「そうだよね」
「仲間って・・・」
「良いよね」
ラディは頷く。
口元に笑みを浮かべながら。
その時、同様に浮かべていたミスティアルの笑みが消える。
(・・・誰か尾行してきてる・・・)
(一人?)
(うん、一人だと思う・・・)
「ところでさ・・・」
尾行に気づいた事に気づかれないように、雑談を続ける。
(もし、動きがあったら走るから教えてください。それまではこのまま・・・)
(わかった・・・)
そのまま、何気ない会話をしながらも、いつでも動ける心の準備をしたまま林を抜け、街道に出ることができた。
しばらく進めば、街道から林が離れるはずであり、そこまで行けば隠れられる場所はなくなる。
とりあえず、そこまで行くことを考えるラディ達の目に、複数の人影が映った。
仲間である4人の影と、それを囲む見知らぬ10を超える影だった。
(また山賊か何か?)
素知らぬ顔で近づいていく二人に、囲んでいる男達が気づき、数名がそちらへも目を向けた。
近づいて見た観想しては、山賊にしては身なりが整っていると思えた。
鎧や外套等が綺麗に整い、普段から町などに出入りしている者だろうと予想がつく。
仲間である事をアピールするべきか、関係ない者を装い通り過ぎて林から様子を見るべきか、悩むラディと黙って彼の判断を待つミスティアル。
後ろを尾行してきている者の事もある。
ラディは、合流した方が良いと判断して手を挙げようとするが、ラスが魔法を使用するために魔力を貯めている事に気づき、挙げかけた手を腰に差してる剣へと移した。
急な臨戦態勢に、男達が各々武器を構えだすが、先に動いたのはタリサとアスマだった。
夫々の一番近くに立っていた戦士風の男の武器を、払いにいく。
狙われた戦士達は、慌ててそれを受けて、間合いを取る。
アスマ達は追い打ちはかけずに、ラスを含めた3人でアミスを守るように囲んで相手の動きに備える。
相手は、両手剣持ち1人、片手剣+盾持ち3人、片手斧+盾1人、短剣の二刀流1人、長物系1人、弓矢1人、神官系2人、魔術師系3人で、計13人という構成だった。
比較的新しめの装備持ちが多く、実力者に見えるのは、両手剣持ちと長物系持ちと魔術師のうち1人とラスは思っていた。
ただ、厄介なのは、最初から6人で態勢を作れなかった事だ。
数多い相手に囲まれている中、近接戦闘の技術の低いアミスを守りながら戦うことだけがネックだった。
ラディにもそれがわかり、最初から本気でかかった。
リュックのバンドを切り、翼を出し大きく広げた。
予想外の黒い翼を見て、魔術師2人がラディに向けて攻撃魔法を放つ。
【 魔 矢 】と【 火 弾 】の魔法がラディに襲い掛かるが、ラディはそれを宙に浮かび躱すと、そのまま翼を羽ばたかせて一気に間合いを詰めた。
ミスティアルも走りながら、懐から2本の短刀を出して、それを投げつけた。
狙いは、まだ魔法の準備中で発動させていないもう1人の魔術師だった。
神官の1人が、それに気づき杖を振るい簡易的な防御結界を生み出しそれを防ぐが、それはすぐに消える。
「荒れ狂え【 猛吹雪 】!」
ラディの目の間に氷の刃を含んだ吹雪が吹き荒れる。
翼や体に傷を負い、吹き飛ばされるラディ。
ミスティアルが駆け寄り、その前に片手剣+盾2人が立ちふさがり、魔術師1人がそのサポートに回ったようだった。
一人が傷を負った為、それで充分だと判断したのだろう。
(ブリザードとは、中々な術士だな・・・)
【 猛吹雪 】の魔法は、一般的に上位に位置する範囲系の攻撃魔法だ。
一気に複数の者をターゲットにする事も可能であるが、今回のように予め通ると分かった場所に発動させて迎撃に使う事もできる。
威力も高めなため、実際に使える者がいれば重宝する。
ただ、範囲系である為、混戦になれば味方を巻き込み兼ねない諸刃の剣となる。
現状では再度使われる事はないだろうと、思えた。
傷を負いながらも立ち上がるラディの姿を確認して、ラスは自分達の相手に集中する。
とりあえずは、こっそりと貯めることに成功したこの魔力を何に使うかだった。
相手の魔術師が気づいてないとは思えなかったが、敢えて何も言わない。
何かあっても対応できると思っているのかもしれないが、少なくともラスの魔力の高さを知らない以上、多少の油断はしてると思えた。
囲み、絶対に有利な立場にいる相手戦士達は、不覚を取らないように警戒しながら、少しずつ削るような攻撃を繰り出し続けた。
とりあえずは、両手剣と長物系であるハルバード持ち、そして、斧持ちの高い威力の一撃に警戒しながら防御に徹するラス、アスマ、タリサの3人。
一方では、負傷したラディとミスティアルは、片手剣の戦士2人に苦戦していた。
時折繰り出される攻撃魔法を受けながらである。
(・・・なるほどな)
ラスは、自分は気づいたがアスマとタリサはどうだろうと思いつつ、その動きに注意する。
反撃にでるタイミングは、ラディ次第だろうと思えた。
アミスも、ラスが魔力を貯めたまま発動させる気配がないため、自身も魔法を使うべきか悩んでいた。
しかし、一撃必殺の威力を持つラスとは違い、自分の魔力は高くない。
聖獣を使えば別だが、とりあえずは聖獣なしで戦う。
不思議とそれで問題ないと思えた。
「素人か・・・」
見た目も明らかに魔法使い系のアミスが、一切魔法を使ってこない事に、両手剣の男はそう決めつけていた。
魔法を使ったとしても、初級の魔法しか飛んでこないだろうと思え、そして、完全に守られている立場を鑑みて、特別な階級の娘なのだと判断した。
「この娘は生け捕りだな・・・」
と、ぼそりと呟いた。
彼らは冒険者稼業の傍ら、影では強盗等を行っている悪質冒険者だった。
そんな彼らのターゲットとなったのがアミス達だった。
「貴様等・・・、わかっているのか?」
ラスのその言葉に、両手剣の男は確信していた。
アミスの事を、どこかのご令嬢であると・・・
しかし、ラスが言った意味は違っていた。
単純に、相手の実力を見誤った連中を憐れんでの言葉だった。
しかも数で負けているラス達に、手加減をする余裕もないのは事実であり、ラスは完全に連中を殺すつもりで、貯めた魔力の使い道を決めていた。
後はラディからの反撃のタイミングを待つだけだった。
しかし、反撃の時を待つラス達に、その切っ掛けを与えたのはラディではなかった。
不意に、僅かな隙をついてハルバードの一撃がアミスを襲う。
タリサが、両手持ちにした剣で受け止めるが、体重差のために、アミスごと倒れ込む。
そこへ追撃をしよう振り上げたハルバードが、突然飛んできた剣によって、根本から斬り落とされる。
突然支えを失ったハルバードの先端部分が、そのまま男の頭に落ちた。
突然の光景に動きを失う悪質冒険者達。
そこへラスが魔法を発動させた。
貯めてあった魔力の塊を、掌の中で飛散させる。
針状になった無数の魔力が、後衛の魔術師達に襲い掛かる。
ブリザードの魔術師の反応も遅れ、更に彼が思っていた以上の威力のそれを防ぐことはできずに、魔力の針は彼らの喉元や胸を貫き、神官達も魔術師達も全員倒れ落ちた。
「か・・・神よ」
1人の神官が倒れざまに呟いた言葉に、ラスは顔を歪めた。
「お前等に神の加護があるとしたら、邪神だろうが・・・」
その後は一方的な展開だった。
本当の実力を出して反撃に出たラディによって、片手剣の2人は一瞬にして斬り倒され、実力者の両手剣の戦士の腕前も、既にじっくりと観察していたタリサの敵ではなく、繰り出した渾身の一撃から生まれた隙をつかれて、タリサの一刀を受けて戦士は倒れた。
残った連中は、戦意を失い逃げだす。
アスマが追撃とばかりに放った【 風 刃 】が男達を襲ったが、それを受けながらも男達は逃げていった。
これ以上の追撃は無意味と、ラスもアスマも足を止めたが、再び林の方から飛んできた数本の剣が、逃げた悪質冒険者の夫々の喉元を捉えて、全員絶命する。
「!?」
「だ、誰だ!?」
林に警戒を向けるラス、アスマ、タリサの3人。
ラディは、林に向かって走り出し、慌ててミスティアルがそれを追いかける。
「ラディ!! 無理するな!!」
「すぐに戻ります!」
と言葉を残し、ラディ達は林に消えていった。
「ラス、追いかける?」
「ああ、そうだな」
少し躊躇いながらも、追いかけることにしたラス達。
しかし、林内のような場所での動きはラディとミスティアルの方が上だった。
特にアミスがいる以上、そんな速度では進めずにラディ達を見失ってしまう。
足跡や草木が倒れている場所を探しながら進むしかないラス達だった。
ラディとミスティアルは立ち止まった。
「ラディ・・・、戻った方が・・・」
「・・・1人なら」
自惚れかもしれないという思いはある。
しかし、1人ならいざという時に逃げれる自信があった。
「ミスティは、先に戻ってラス達を連れてきてくれませんか?」
「何言ってるの? 1人じゃ危険だって!」
1人が良いと思うラディと、決して1人にはさせてくれないミスティアル。
どう言えば納得してくれるかとラディは悩むが、ミスティアルの性格がわかっているので、逆に諦めてしまう。
「・・・1人のままですよね?」
ミスティアルは頷く。
彼女が使役しているシルフが捉えているのは1人だけだ。
だが、先程の剣を投げた相手が、本当に1人でやった事なら、相当な実力者と思える。
だが、風の精霊魔法が得意な自分達なら防ぐことは可能とも思えるミスティアル。
ラディも、翼の力を全て開放すれば、どうにでもできると思っていた。
自分の力を全力で使える初めてのチャンスに、ラディは高揚していた。
迫害の原因となったその力を使いたいという思いがずっとあり、一度使わないと、これ以上この心を抑えることができないようになってきている。
これが、闇の衝動なのか? と思う。
やはり、自分は闇の種族なのではないかと思ってしまう。
「ごめん、ミスティ・・・」
「ラディ?」
何を謝ったのか? 何について謝ったのか? ミスティアルにはわからなかった。
周りを見回すラディ。
少し開けた空間となったここならば、自分の動きが阻害されることはないだろう。
翼の力を全開にできる場所だと思える。
「・・・出てきてください。隠れているのはわかっています。それが嫌なら、全力で逃げればいい」
挑発の意味を込め、ラディが言う。
ミスティアルは、相手が隠れている方向へ目を向けた。
ラディの目も自然にそちらへ向く。
その視線の先から1本の剣が飛んで来るが、ラディは簡単にそれを払った。
払われた剣は地面に突き刺さる。
「逃げないということですね?」
「すぐに逃げるのもどうかと思いますしね」
その言葉が聞こえたと思うと同時に、その声の主はラディ達の目の前に姿を現す。
漆黒の鎧に身を包んだ若い男だった。
僅かに口元に笑みを浮かべたその顔は整った顔立ちをしており、美青年と呼んでも言い過ぎではなかった。
金色に輝く長めの髪を後ろで束ねており、ミスティアルには、その綺麗な顔と髪が漆黒の鎧とは合っていないように思えた。
「他の連中のように、身分を隠すつもりはないんですか?」
「・・・ま、見つかるつもりはなかったのでね」
隠密能力に自信があったのだろう。
だが、早いうちに呼び出していたシルフの存在に気づかなかったのが、彼の見落としであり落ち度だった。
しかし、それを態々教える必要はラディ達にはない。
「自惚れていただけじゃないですか?」
挑発を続けるラディ。
こんな一面がある事に驚きながらも、ミスティアルはラディのサポートに回るつもりでいた。
しかし、それはラディの言葉で拒絶された。
「強い・・・ミスティ、君じゃ足手まといになる」
「え? ラディ?」
「邪魔だから、下がっていてって言ってるんです」
「・・・」
「下がってろ!!」
ミスティアルは下がるしかなかった。
「ラディ君といいましたか? 随分と私を評価してくれているようですね」
「過大評価でしたか? それとも、これでも過小評価ですか?」
「それはすぐにわかりますよ・・・」
男の周りに魔力を感じたと思うと、それと同時に数本の剣が現れる。
「魔剣使い?」
ラディは聞いた事があった。
魔法の一つに、自らの魔力を武器へと変化させて戦う術がある事を。
作られる武器は剣のみとは限らなかったが、その術を使う者を、魔剣使いと呼ばれる。
「いけ・・・」
男の合図に反応して、6本の剣がラディに襲い掛かった。
ラディはそれらを剣で払う。
払われた剣は、先程と違い地に落ちずに向きを変えて再びラディに襲い掛かる。
ラディは、まるで6人の剣士に囲まれたような感覚に襲われる。
(それならば・・・)
使役してるシルフを側に戻して、魔法の詠唱を始める。
「精霊魔法か・・・何を?」
風の精霊魔法を使おうとしている事は、男にはわかったが、自分の知る魔法ではないため、何をしようとしているかまではわからなかった。
(ま、予想はつきますが・・・)
「【 風纏い 】」
魔法が発動したのようだったが、風は目に見えずに男には効果がわからなかった。
念のために簡易的な魔力の結界を張り、魔法の攻撃に備えた。
しかし、ラディの魔法はそういったものではなかった。
ラディが再び襲ってくる剣を払うと、先程までとは違い剣は力を失い地面に落ちた。
「何?」
驚く男に対して、ラディは一気に間合いを詰める。
そして、その頸を狙って一閃。
だが、それは躱されて、男は間合いを広げた。
それで仕留めれるとは初めから思っていなかったラディは、そこで一旦動きを止めた。
「精霊魔法というのは面白い・・・。黒魔法や白魔法と違って、決められた形がないのが素晴らしい」
「あなたは使えないのですか?」
「ま、多少は・・・」
そう言って、男は腰の剣を抜いた。
魔剣の術が効かないと悟ったのか、それとも元々剣技の方が得意なのか。
それがわからない以上、ラディも簡単には考えない。
「ラディ君・・・君は思った以上に強いですね。うちの騎士クラスの上位・・・いや、将軍クラスに届くかもしれませんね」
「そうですか? でも・・・」
「?」
「一方的に名前を知られているのは、なんか嫌ですね」
思わぬ言葉に、男は軽く笑った。
そして、称号で名乗る。
「ウィズダムガード・・・」
「知衛将軍ですか・・・? なるほど、噂は正しくなかったということですか」
「噂・・・ですか?」
「知衛将軍は、知恵だけで強くないって噂」
「ほぉ・・・」
その評価に怒るわけでもなければ、無理に否定するわけでもなかった。
そんな静かな反応が逆に怖いと思ったのはミスティアルだった。
ラディの手助けをしたい気持ちはあったが、自分のレベルで参加できる戦いではなかった。
無理に加われば、あの魔剣の標的になった時に防ぎきれないことが、自分でもわかった。
それでも、自分にできることがないか考える。
「噂は、所詮噂ですよ」
「ですね・・・」
今度はラディから動いた。
先程より速い動きで間合いを詰める。
知衛将軍は剣を横なぐと、それと同時に再び剣を作り出す。
咄嗟の行動だったからなのか、魔力が減ってしまっているからか、先程より少ない3本の剣が生み出される。
ラディはその剣を払おうとしたが、それは剣に躱される。
剣に気を取られてしまった事に気づいたラディは、咄嗟に風を起こし、知衛将軍から離れてその手の剣を躱した。
「油断ですよ」
そう言いながら、今度は知衛将軍が間合いを詰める。
3本の剣でラディを囲みながら。
必死に躱していたラディの右足を一本の剣が切り払う。
それほど大きなダメージではなかったが、バランスを崩してしまう。
「ここです」
知衛将軍が魔力を発した。
ラディを包む剣の数が10本まで増えて、一斉に襲い掛かった。
ラディにはわかった。
その10本の剣を呼び出したことにより、知衛将軍が纏っている魔力が殆どなくなった事を。
これを防げば、自分の勝ちと確信し、翼の魔力を全開で開放し、10本の剣全てに風を纏わせた。
先程剣を使って行ったものの、強化版だ。
本来なら自らの剣に纏わせた風を、その剣を当てる事で相手に纏わせる術だ。
相手の武器を弾くための魔法技術だが、風を纏わせる事で
剣を操る魔力を遮断していたのだ。
それを今回は、直接纏わせる方法を取った。
確実に目標を直接捕縛するには、大量の魔力を消費する。
その為、この方法は効率は良くないのだ。
相手を直接捕縛するほどの威力はないため、武器や小型のモンスターぐらいにしか効果がないのも痛いところであり、その魔力に比べての効果の弱さゆえに使う者は殆どいないものだった。
しかし、今回は目の前にある10本を無力化すれば、自分の勝ちと判断したラディは、それを無理して実行した。
その作戦は成功し、10本の剣は力を失い地面に落ちた。
「これで終わりだ」
翼を羽ばたかせて、一気に知衛将軍に近づいた。
知衛将軍は右手にある剣で応戦しようとするが、それはラディが素早い動きで躱して、必殺の一撃を繰り出した。
だが、その一撃より先に1本の剣が、ラディの胸を貫いた。
「な・・・?」
何が起こったのかラディにはわからなかった。
新たな魔剣を作り出す魔力は残っていないはずだった。
だが、自分の胸に刺さっている剣は、間違いなく知衛将軍の魔剣だ。
「ど・・・どういう・・・」
「わかりませんか? 最初に一本の剣を払った事を忘れてしまいましたか?」
その言葉に、何が起こったか理解したラディは、そのまま倒れた。
「どういうこと?」
事態を理解できないミスティアルが、混乱したままラディへ駆け寄ろうとする。
それは、目の前に刺さった知衛将軍の投げた剣によって止められる。
「思い出してください。私が姿を見せる前に一本の剣を飛ばしたことを・・・」
ミスティアルもようやく理解した。
その時、その剣を払った時には、ラディは剣に風を纏わせていなかった。
つまり、その時の魔剣は生きていたのだ。
「ここまで魔力を使う事になるとは思いませんでしたよ。彼は大したもんでしたよ」
「ラディは・・・」
「心臓を貫かれて生きてると思いますか?」
わかっていた現実を突きつけられて、ミスティアルの目の前が真っ暗になる。
両目に涙が溜まりだすのがわかる。
「まだ、まだよ。治療すれば・・・」
ゆっくりとラディに向かって歩き出すミスティアル。
しかし、それを知衛将軍が再び止める。
「すいませんが、彼の死体は研究対象なので、持って帰らせてもらいます」
「な、何を・・・!?」
「この黒い翼のセイレーンはね・・・」
知衛将軍は、そう言いながらラディを抱えると、巻物を一つ出した。
「ま、待って、ラディを・・・」
風を解かれた巻物は、その力を解放させる。
その魔法の巻物に封じられた転移の魔法が発動し、知衛将軍は姿を消した。
ラディと共に・・・・
「ラディ・・・、ラディを返して・・・私のラディを返してぇぇ~!!」
林の中にミスティアルの絶叫が響き渡る。
それに気づいてアミス達が到着するまで、ミスティアルは泣き続けた。
どれだけラディが大切だったかを実感し、泣き続けるのだった。
今回の話を書き終えてから気づきました。
しばらく聖獣が出ていない事に
次回は何とか出す予定です。
次回更新は4月27日19時予定です。




