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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
3・暗黒騎士団の陰謀
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黒き翼

 商業都市グレートファング

 国で首都ロックエランに次ぐ大都市であり、首都と港町アクアネイルと隣国グランデルト王国との境のドラット砦とを結ぶ場所に位置するここには、様々な職の者が行き来し、様々な物とお金が動き、ここで揃わないものはないと言われている。

 近くにはエルフが住むとされている広大な森と、ドワーフが住むとされておる大きな岩山もあり、それらの亜人種達を見ることも珍しくない。

 流石にハーフエルフが2人いるパーティーは珍しかったようだが、それ程大きな注目を集めた様子はなかった。

 先の依頼料を分配し、宿で一晩。

 そこでアスマからゼオル・ラーガの事を聞き、事の面倒さを実感しながらも、この後の事を話し合っている時に、冒険者ギルドの職員から話があった。

 先の山賊とゴブリンの商隊襲撃が問題視されているらしく、その時いたアミス達への聞き取り調査と、それに付随した依頼の話がきたのだった。

 あれは間違いなく、ゼオル・ラーガによって起こされた襲撃だと思っていたが、それを素直に知らせるのを、アスマが止めた。

 繋がりがあると知られれば、この国の者がどういった行動に出るか分かったものではない。

 相手の考え方次第では、自分達が疑われたりして捕縛されかねない。

 元々、この国の王族達は、他国からの評判が悪いと、ラスもアスマも聞いていた。

 その下の者達も大したことがないのは、キックオークの一件でラスもアミスも被害を受けていてわかっている。

 できれば、この国から早く離れたかった。

 かと言って、グランデルト王国に行くのは自ら危険の中に入っていくことになる。

 

 (やはり、北上がいいか・・・)


 ラスの頭の中では、ある程度指針は決まっていたが、今は一緒に旅する仲間がいる以上、それが決定案ではなかった。

 北上し、グランデルトとは別の隣国、スリースタック公国へ向かうのが良いと思えた。

 だが、その前に、目の前の依頼を受けるかどうかの話となる。

 ドワーフが住むと噂のロックエンドという岩山の調査だった。

 ゴブリンや山賊も潜んでいるとされており、先の襲撃の手掛かりがあるかもしれないとの事、また、何か大きな事を企む者が潜んでいるかもしれないとの事だった。 

 アスマの話では、既にゼオル・ラーガはいないとの予想だが・・・


 「しかし、前の様な規模でゴブリンと山賊が手を組んでるなら、俺ら5人での調査は危険に思えるが・・・?」


 素直な意見を述べるラスに対して、ギルドの依頼者は、手を組んでるのがわかれば、それを知らせるだけで良いと言った。

 聞けば、他に色々問題があり、冒険者自体が足りていないらしかった。

 話してみて、ラスにも何となくわかったが、それほど期待されているわけではないようだった。

 冷静に自分達の事を客観的に見てみれば、当然の事だろう。

 まだ、成人したばかりに見える(実際には一人は未成年)のが4人のパーティーだ。

 ある程度まともに見えるのは、23歳のラスぐらいだ。

 実際、依頼者はラスにしか話しかけてこない状況だった。

 ラスは、アスマやアミスに目も向ける。

 アスマは頷き、アミスはラスの言葉を待つ。

 ラディやミスティアルも何も言うことはないようで、ラスに任された雰囲気がある。


 「了解した。それだけでもいいなら俺は構わないが・・・、どうだ?」


 誰からも反論はなかった。

 冒険者ギルドからの直接の依頼という事もあり、報酬額は相場通りだった。

 内容的に普通であり、アスマ達からも不満はでなかった。

 即装備を揃えて、情報収集し、昼過ぎには町を出た。

 ラスやアスマは、冒険者の中でも判断から実行までが特別早い。

 初心者の中には、早く動く代わりに、準備が不足する者が多いが、ラスやアスマは無駄なく最低限の情報を仕入れ、できるだけ早く動く。

 ラスがそれを出来るのは、いろいろと経験し考えてきたからだ。

 それでも同年齢、同経験の者の中でも、この点に関しては優れているとラス自身も自負している。

 しかし、まだ成人前のアスマが同レベルの事を出来ることは、ラスにとっては驚愕のこととしか言えない。


 (天性の才能という奴か・・・)


 その一言で片づけるのは癪だが、ラスにはそれ以外に理由が浮かばなかった。


 「それより、お前らは、いつも俺やアスマの意見に反論しないが、このように流されていていいのか?」


 ラスが、ラディとミスティアルに尋ねた。

 ミスティアルは、ラディに目を向け、ラディは少し考える素振りを見せる。


 「別に、2人の意見に反論がないだけです。元々、経験も浅いので・・・」

 「同じくかな?」


 ラディが丁寧だが、あまり感情の籠っていない口調で言うと、どんな答えでも同調していたことがわかる素振りのミスティアル。


 「そ、そうか・・・」

 「それより・・・」


 呆気に取られるラスに、ラディが意を決したように言葉を続けた。


 「そろそろ、俺のことを話しておこうと思います」

 「ラディ!?」


 少し慌て気味に止めようとしたミスティアルを、ラディが手のひらで制した。


 「この人達は信頼できますよ・・・ミスティ」

 「・・・いいの?」


 一同の視線がラディに集まる。

 街道から離れ、目的の岩山へと繫がる林道の入口。

 5人以外に人影はない。

 風に揺れる木々の音や、たまに聞こえてくる鳥の鳴き声以外に聞こえてこないような静かな場所だ。

 

 「背中のリュックについては気づいてたと思いますけど・・・」


 ラディはそう言うと、3人の前では決して下ろすことのなかったリュックを、初めて背から下ろした。

 そのリュックが空であることがすぐわかった。

 そして、今までリュックに入っていたものが、ラディの背にあり、それを見て3人は驚きの表情を見せていた。


 「セイレーンか・・・?」


 ラディの背にある漆黒の翼を見て、ラスが自信がなさげな回答をする。

 背翼人(セイレーン)

 海沿いに集落を造り住む亜人種。

 最大の特徴は、その背にある白い翼であり、それを使い空を飛ぶことができる種族。

 精霊魔法にも長け、戦闘能力は低くはないと言われている。

 しかし、集落を出て冒険者になる者は限りなく少なく、エルフやドワーフなどとは比べ物にならない。

 至極稀な存在であるリザードマンより、見かけることができない種族だった。 

 

 「それは・・・」


 アスマは、その翼を指さし、ようやく言葉を絞り出す。


 「そうです。一応、セイレーンです」


 アスマやラスの疑問がラディにも当然わかる。

 セイレーンは白い翼を持つ種族なのだ。


 「こんな翼なので、集落にはいれなかったんです」


 容易に予想がついた。

 混血種なだけで、ハーフエルフが迫害される世界である。

 他と異なる、しかも不吉さを連想させるその翼を持った者を、普通に受け入れる者はそうはいない。

 閉鎖的なセイレーンの集落なら、尚更だろう。

 

 「だから、自分の力で生きるしかなかった。冒険者になるしかなかったんです」


 ラディは表情を崩さない。

 いや、崩さないようにしているのは、誰の目にも明らかだった。

 意を決しての告白だったのだろう。


 「綺麗・・・」


 アミスがふと呟いた。

 本心から出た言葉だったのだが、ラディには気遣いの言葉にしか思えない。


 「そんなこと・・・素直に言ってくれていいんです。気持ち悪いって・・・。不気味だって・・・」


 流石に表情を曇らせずにいられなくなるラディの頭を、慰めるように撫でるミスティアル。


 「いえ、凄い綺麗な黒色ですよ」


 アミスは決してお世辞等は言わなかった。

 素直な感想を述べているだけだ。


 「そうだな・・・、最初はびっくりしたが、よく見ると綺麗だ」


 ラスも、アミスの言葉を受けて、じっくり見直し、そう感じる。


 「先入観って奴だね。ダークエルフとか闇の存在とか、他と違う黒い色ってわるいイメージがあるから変に捉えちゃうけど、濁りのない黒って、よく見たら綺麗だよね」


 アスマも感想を述べる。

 最初に悪く見えた事を認めることによって、その後の言葉も嘘ではないという意味を込めて・・・


 「ダークエルフとかって、闇への信仰や邪神崇拝とかで身を落として、与えられた力の証明として黒い肌になるって聞くけど、ラディは闇への信仰とかってあるの?」

 「いや、そんなのは・・・」

 「あるわけないでしょ!!」


 ラディの代わりに、ミスティアルが怒る。

 しかし、アスマは気にせずに言葉を続けた。


 「それなら、関係ないでしょ? 少なくともぼく等には関係ないよ。ね?」

 「随分と簡単に言うな・・・。本人はそうもいかないだろ?」


 アスマの言葉に反論しているようで、その表情は賛同していることを見せるラス。


 「そうですよ。全然関係ないですね」


 アミスは満面の笑みを浮かべる。


 「ラディ・・・、こんな人達もいるってことだね」

 「・・・そうですね。でも、最初に俺を受け入れてくれたのは、ミスティだけどね」

 「ま~ね~」


 大げさに誇らしげに言うミスティアルに、全員が笑みを浮かべる。

 そんな中、ラディに見えない位置で、アミスが少し表情を陰らせた事に、ラスだけが気づいた。

 しかし、その場を壊すわけにいかないと判断したラスは、アミスの前に立ち、それを隠した。

 アミスの表情を曇らせたものを、ラスも知らない。

 セイレーンという種族を見て、思い出してしまった辛い過去について知っているのは、この場ではティスだけだった。

 それを隠すように、ティスも明るい表情でラディを囲んでいた。

 




 「山賊だね・・・」


 皮鎧に身を包み各々の武器を手にした4人組を、木の陰から観察しながらミスティアルが言った。


 「だろうな、冒険者にはあまり見えない」

 「格好で決めつけるのはどうかと思うけど、十中八九山賊だね」

 「ていうか、2人程見覚えがある。襲撃を掛けてきた連中だ」


 ラスがそれに気づき、山賊である事が確定した。


 「さて、どうしますか? 捕まえますか?」


 ラディがいつでも飛び掛かれるように武器を構えながら訊ねる。

 林の中では大きな翼は邪魔なので、今はリュックにしまってある。

 あの大きさの翼を器用にまとめるもんだと、アスマは少し感心していた。


 「いや、尾行してアジトを突き止める。そして、ゴブリンとの繋がりが残ってるか? 暗黒騎士団の連中はいるか? それらを調べて報告して終わりにしよう」

 「そうだね。あまり大事にはしたくないしね」


 ラスの意見にアスマも賛同する。


 「では、音だけ消しますね。会話はティスを通じて僕がつなぎます」


 アミスがそう言うと、風の精霊魔法で、自分達が発する音を消した。

 【 消音 (ミュート)】の魔法だ。

 本来は、相手の魔法の詠唱を防ぐために使われることが多い魔法だが、アミスは逆に作用させた。

 当然、自分達が詠唱を必要とする魔法は使えなくなる。

 しかし、いざとなれば、アミスの聖獣≪ 風の乙女 (セラリス)≫の力で打ち消すことが可能なので問題なかった。

 偵察役だったのか、山賊達はある程度辺りを見回ったあとに、「そろそろ戻るか」と言って、帰路へ向かうようだった。

 予定通りに事が運びそうで、少し笑みを浮かべたラス達だったが、それは予想外の事柄により中断された。

 一人の女性が、数名の冒険者風の男たちに囲まれていたのだ。

 それに気づいた山賊達がそこへ加わる。


 「あれ? 旦那方。どうしたんですかい? なんです、その女は?」


 山賊達の言葉で、その冒険者らしき連中も山賊達の仲間らしい事がわかった。

 だが、物言いが山賊の一味ではないと思わせる。


 (もしかして・・・暗黒騎士団か?)

 (可能性はありますね・・・)


 ラスの心での呟きに、アミスが返し、他のメンバーにも伝える。

 その可能性を頭に残しながら、ラスは囲まれた女性へと目を向けた。


 肩にギリギリかかるかどうかの長さの黒い髪。

 背は女性にしてはやや高めで、皮の胸当てと皮の小手、そして、右手には片手でも両手でも使えるタイプの両刃の剣を持っていた。

 囲んでいる男達を、敵意むき出しに睨みつけている。

 その瞳も、黒い。

 東方出身者と思われる容姿だった。


 「この辺りをうろうろしてたから、調べようと思ってな」


 一人の男が、彼女の体を嘗め回すような目つきで見ながら言った。

 「本当に騎士団の連中か?」と疑問を持ってしまう程、品位が感じられない。


 「調べていたのはこちらの方だ」


 女が言う、冷たい氷のような目つきで睨みながら。


 「貴様ら・・・ダークグレイシャーという奴を知っているか?」

 「!?」


 男達は驚きの顔を見せた。

 山賊達はわからないような表情を浮かべて、男達と女を見比べている。


 (ダークグレイシャーだと? なんでそんな名前が・・・)


 ラスもアスマも驚きの表情を浮かべる。

 アミスも辛うじて、教えてもらった暗黒騎士団の中に、そんな称号の者がいたことを思い出していた。


 「なぜ、その名を・・・?」


 その呟きに、女は反応する。剣をその男の鼻先に突き付ける。


 「知っているようだな? 暗黒騎士団の連中が、この辺で潜伏していると聞いたが、当たりだったようで良かった・・・」


 少したじろぐ男達だったが、すぐに冷静に話し出す。


 「女・・・、誰だかは知らんが、生きては林からは出れんぞ」


 と、男達が剣を抜いた。

 それに反応して、女は目の前の男に斬りかかったが、別の男に邪魔をされて防がれる。

 完全に囲まれた状態での戦闘になっていた。


 (無理をする・・・)


 ラスは思った。

 女がどんなに強くとも、騎士団の連中相手には分が悪いだろう。

 特に、最初から囲まれた状態での戦闘だ。

 それはあまりにも無茶なことだった。

 当然、山賊達も加勢する。

 女はすぐに弾き飛ばされて地面に倒れる。

 しかし、諦めずに剣を振りながら立ち上がろうとする。

 そこへ男達が次から次へと剣を振るい、女の体に少しずつ傷を負わせていく。


 (嬲るつもりか・・・)


 殺すつもりなら、すぐに終わっていただろう。

 しかし、男達も山賊も、わざと攻撃をかすらすように行っていた。

 女の服が切り裂かれ、その間から、女の傷つけられた柔肌が覗き見える。


 (ラスさん・・・)


 アミスが言いたい事はすぐにわかった。

 しかし、直接敵対するのは避けたいラスは、躊躇する。


 (ラス、ぼくもアミスに賛同だ)

 (わたしも)

 (俺も)


 アスマ、ミスティアル、ラディにも詰め寄られて、ラスも折れるしかなかった。


 (行くぞ)


 ラスの合図で、アミスが【 沈黙 】を解除する。

 アスマ、ラディ、ミスティアルは飛び出し、ラスも飛び出しながら、魔法の詠唱を始める。

 

 「な、貴様ら!?」

 

 女を嬲ることへ意識がいってた男達の反応は遅い。

 まずはラディの攻撃が男を捉える。

 それを受け止めようとした剣を持つ手に一撃。

 辛うじて剣を手放すことはなかった。

 他の者が、ラディへ攻撃をしようとするが、アスマやミスティアルがそれらへ攻撃を仕掛けて防ぐ。

 そこへラスの魔法が発動する。


 「【 魔 弾 (マジックミサイル)】!」


 無数の魔力の球が山賊達に襲い掛かる。

 続けて、アミスの【 風 刃 (ウインドカーター)】が山賊達を切り裂く。

 山賊達は混乱し、逃走を始める。

 残りの男達も、体勢を立て直せないまま決着はついた。


 2人を斬り倒して、残りの3人の武器や腕、足を使えなくした時点で、その3人の男達は全て戦意を失い降伏した。

 2人が既に死んでいることを確認し、残りを、縛り付ける。

 ラスは周りへ警戒の目を向けながら、分析する。

 前回戦った連中より、実力は大きく劣る者達だった。

 準騎士クラスかも怪しい程に。

 しかし、それ以上に気になった事が二つあった。


 一つはラディの実力。 

 前回の戦いに比べて、かなり高い戦闘力を発揮していた。

 特に速さに関しては、自分やアスマの上をいっており、それが高い攻撃力を生み出していた。

 前回までは、若いわりに実力はあるとは思っていたが、アスマに比べれば見劣りしていたと思っていた。しかし、今回見せた姿は、決して見劣りするものではなかった。

 最初は、急に実力が高まった事に違和感を覚えたが、戦闘中にラディの背負ったリュックから魔力を感じていた事で、ある程度の予想がついていた。

 前までは、翼が持つ魔力に気づかれないように抑えていたのだろうと・・・


 そして、もう一つは、目の前で自分達に訝しげな目を向ける女性の事だった。

 予想以上の実力者だった。

 囲まれた状態での、10名を超える相手の為に押されてはいたが、自分達の加勢があってからは、危なげなく1人の男を切り伏せていた。

 彼女は、急に現れたラス達への警戒を解かなかった。

 剣は抜かれたままであり、全員に意識を向けている。


 「大丈夫ですか?」

 「!?」


 傷を負っている彼女を気づかって、不意に近づくアミスに対して、咄嗟に構えを取る彼女に、アミスは驚き足を止めた。


 「え、えっと・・・」

 「傷の手当てをしようとしただけだ、そこまで警戒するな」


 困るアミスの代わりにラスは説明する。


 「お前達は何者だ? なぜ私を助けた?」

 「なぜって・・」

 「襲われている女性がいたから助けなきゃと思ったんですが、変でしょうか?」

 「それだけか? それとも、元からこの者達を狙っていたのか?」

 「両方だな・・・」


 隠すことなくラスは言った。

 元から隠すような事はない。

 目の前の女性がいなければ、戦闘をしかける気はなかったのだが・・・

  

 「そうか・・・、近くの町の冒険者か?」

 「そっちは?」


 こちらに尋ねるだけの女性に、ラスは敢えて質問で返した。 

   

 「私は、そいつらに用がある」

 「暗黒騎士団にか?」

 「そこまで知っているのか・・・」


 その指摘に、彼女の意識がラスへと集中する間に、アミスが【 癒し (ヒール)】の魔法を彼女にかけた。


 「・・・ありがとう」


 傷が癒える事を感じ、彼女は小さく礼の言葉を呟いた。


 「僕、アミスと申します」


 彼女の正面に回り、頭を下げて名乗った。 


 「ラスだ」

 

 アミスに次いでラスも名乗ったので、アスマ達も続いた。

 全員の名乗りを受けて、女性は呆れ、諦めた様子で、剣による警戒を解いた。


 「タリサ・・・・タリサ・ハールマンだ」


 剣は収めたが、目による警戒は残したまま彼女は名乗った。

 そして、改めて同じ質問をする。


 「グレートファングの冒険者か?」

 「ああ、そこで依頼を受けた冒険者だ」


 ラスは、暗黒騎士団の事は隠したまま、依頼の内容を話した。

 その報告のために捕まえた男達は連れて行きたいことも含めて。 

 タリサはその前に、「この男達に訊きたいことがある」と、言い、それに対して、ラスは「無駄だと思う」と、返した。

 その意味をわかっているのか、タリサは無言だった。

 下っ端とはいえ、暗黒騎士団の一員が、冒険者ごときに団の事を話すわけがないと思えた。

 専門の拷問官の手によってでも可能か分かりはしない。


 「ま、訊くだけ訊けばいいさ。俺等も立ち会う事になるが、それでいいか?」

 「・・・仕方がない」


 タリサは、そう言うと一度眠らされた男達の目の前に立ち、彼等が目覚めるのを待った。

 そして、一人が目を覚ますと、その目の前に剣の先を突き付けた。


 「!?」


 目覚めてすぐに目に入った剣に、男は驚愕、動揺する。


 「な、な、な・・・」

 「ダークグレイシャーはどこにいる?」


 タリサの殺気の籠った目つきに、男は脅えていた。


 「どこだ? 答えなさい」

 「あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・」

 「これではしゃべりたくてもしゃべれないよ。少し落ち着かせないと」


 アスマの言葉に、タリサは剣を男の目の前から遠ざけた。

 そして、改めて訊きなおす。


 「ダークグレイシャー・・・、闇氷河将軍はどこにいるか知っているか?」

 「だ、だーくぐれいしゃあ? なんだそれは?」

 「? お前は、グランデルトの者じゃないのか?

 「え? ・・・なんだお前ら? ここは・・・」

 

 男の様子に違和感を覚える一同。

 

 「さっきは反応してたじゃないか?」

 「さっき? なんのことだ・・・」

 「【 操人形 (マリオネット)】?」


 アミスが一つの魔法の名を呟いた。

 暗黒神を信仰する者が使える暗黒魔法の一つだった。

 自らは使えないが、様々な魔法の事を習っていたアミスはその魔法の存在はしっていた。


 「それは・・・」

 「偽りに情報を植え付けて、人を操る魔法です。そんなのを使える人が暗黒騎士団に・・・?」

 「つまり、こいつ等は暗黒騎士団ではないのか? 完全に嵌められたな」


 ラスの言葉。

 アスマ達は言葉を失い、タリサは悔しそうに地面を睨みつけていた。 


 「とりあえず、こいつ等はギルドに連れて行くだけだな」

 (暗黒騎士団の事を話さない訳にはいかないか・・・)


 ギルドには秘密にしたかったが、そういう訳にはいかなくなった。

 そして、暗黒騎士団に、闇氷河将軍に恨みがありそうな一人の女性の存在に、また面倒な事になりそうだと予感するラスだった。

次回更新は4月24日19時予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (ΦωΦ)話の描写が描きやすいのは、    やはり、ところどころの補足が丁寧だからか…、    と、技術面で感嘆。
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