共闘依頼
偶然見つけた二人の冒険者を助けた魔法使いの少年、アミス・アルリア。
その傍らには呼び出された炎の獣が寄り添っていた。
「それは・・・ひょっとして・・・」
男冒険者は少し脅えながらの尋ねようとしたが、相方の女冒険者にすぐに止められた。
「その前に助けてもらったお礼しなさいよ」
「あぁ、そうだな。助かったよ、ありがとう」
「ありがとう。私はサラ、こっちは相棒のファイス、まだまだ新米の冒険者よ」
女冒険者、サラが相方の分まで名乗った。
「僕はアミスっていいます。僕もまだ冒険者として旅立ったばかりです」
「そうなの? そのわりに随分冷静に対応してたけど・・」
アミスの言葉に驚くサラ。
「しかも、それって・・・聖獣だろ?」
ファイスは、先にしようとしてた質問を投げかける。
「はい、《 炎 獣 》と呼ばれる種で、ガラコと命名しました。三日前に契約したばかりなんですけど・・・」
「そうなのか・・・」
≪ 聖 獣 ≫
本来であれば、この世界とは違う精霊界や聖界と呼ばれる世界に生息する生き物。
人界、又は地界と呼ばれるこの世界では、極一部の限られた場所でしか生息できない。
そういった場所以外で生きる為には、この世界の生物と契約しなければならない。
契約した者の魔力を分け与えられることによって、生きることができるといわれている。
「戻っていいよ」
アミスがそう言い炎獣ガラコを撫でると、光の玉になりアミスの杖の宝石に入っていった。
「ずいぶんと強力な聖獣みたいだな」
「どうなんでしょう? 比べれるほど他の聖獣を見たことがあるわけじゃないんで・・・」
「私達も聖獣なんて、見たことないでしょ?」
「そうだな、でも強かっただろ?」
「それは確かにね」
アミス自身は、あれほどの威力の魔法は使えない。
将来的にも、自分でどんなに贔屓目にみても到達できるとは思えなかった。
それだけ聖獣の能力は優れている。
それ故にそれを求める者は多い。
「ん? お前・・・エルフか?」
ファイスが尋ねた。
アミスの耳が少し尖っていることに気づいたようだ。
「気づくの遅いわよ」
「いや、聖獣に気をとられてな・・・」
「少し短いようだから、ハーフかな?」
サラの方が観察力があるようで、わずかな違いに気づいていた。
「はい・・・」
「 ? 」
アミスの歯切れの悪い返事に、サラは首をかしげる。
ハーフエルフという存在は知っていても、詳しくないようだった。
ハーフエルフは、人間とエルフという亜人種の間に生まれた存在で、人間、エルフ、どちらからも快くは思われていないのが普通だった。
地域によっては、不幸を呼ぶ異端な存在とされている場所もあるぐらいだ。
「ふ~ん、ハーフエルフね・・・、ところで、その聖獣ってどこで手に入れたんだ? 三日前に契約したって言ってたけど・・・」
「数日前に受けた依頼で、入った遺跡の中に封じられてたのを見つけたんです。運が良かったみたいですね」
「羨ましいな。 実は俺らも聖獣を探してるんだよ」
「そうなんですか・・・」
初めてあった相手に、簡単に目的を話すファイスに、アミスは少し驚いた。
数日前に共に遺跡に入った人たちには、簡単に人を信じるべきでないことを教わった。
騙され、裏切られ、初めての仕事で大きな経験をさせてもらった。
自分が冒険者として、どれだけお人好しだったかを教えられた。
そして、お人好しが長生きできる世界ではないことを。
「それでな、この先に新しく魔力に満ちた洞窟が見つかってな。 そこの探索の依頼を受けたんだが、聖獣がいるかもしれないって噂があって、それを狙ってるんだ」
「ちょっと、ファイス・・・」
サラが止めようとしたが、ファイスは続ける。
「手伝ってくれないか? 聖獣以外の物を見つけたら、欲しい物はすべて譲ってもいい」
「とりあえず、こっち・・・」
ファイスの腕を掴み、無理やりアミスから離して、小声で文句を言うサラ。
「(小声) 何、勝手な事言ってるのよ」
「(小声) 大丈夫だって」
「(小声) 何を根拠に・・・」
短絡的にしか思えないファイスの言葉に、頭が痛いとばかりに、サラは頭を押さえる。
「(小声) 見知らぬ俺らを、わざわざ助けようとした奴だ。こちらが裏切ろうとしない限り、変なことはしない奴だと見たぜ」
「(小声) ま、それはわからなくはないけど・・・」
自信ありげに言うファイスに、サラは諦め半分に次の言葉を待つ。
「(小声) あと、あいつは既に聖獣を持ってる。 横取りされる心配もないさ」
「(小声) あの子を利用するつもり?」
不満を顕わにするサラを見て、少し慌てるファイス。
「ちがう、ちがう!」
思わず大声になり、咄嗟にアミスの方へ振り返る。
アミスと目が合い、さらに慌てるが、
「もうちょっと、待っててくれるか?」
アミスは黙って頷く。
「(小声) あくまでも交渉だ。こっちとしては聖獣以外は諦めるって言ってるんだ。もし、聖獣がいなければ、俺らが損して終わるだけ。逆に聖獣しかいなければあいつが損することになるが、それをお互いに納得した上での契約なら問題ないだろ?」
「・・・」
「(小声) もしダメなら、今回は諦めるしかない。あんなゴーレムにまた出られたら魔法のない俺らだけじゃどうもならないしな」
「・・・(小声) 騙すつもりはないのね?」
「(小声) 当たり前だろ!」
「・・・わかったわ」
サラはとりあえず納得し、アミスの方へ向き、
「改めてなんだけど、どう? 急ぎの旅? もしそうじゃなかったら力になってもらえないかしら?」
と、お願いした。
「僕じゃ、あまり力になれないかもしれないですよ? 攻撃魔法は得意じゃないですし、聖獣も魔力の消費が大きいので何度も使えませんし」
申し訳なさそうに言うアミスに、少し笑みを浮かべながら、
「わたし達も未熟だから、お互い様よ。そんなわたし達と一緒が嫌なら仕方ないけどね」
と、軽くウインクをするサラ。
そんなサラの仕草に少し驚いた表情を浮かべ、少し悩むアミス。そして、
「わかりました。僕でよければお手伝いします」
と、笑顔を浮かべるアミス。
ファイスとサラも笑顔を見せながら、アミスに近づき右手を出す。
アミスもそれに右手を出し握手を返した。
(また、お人好しだって怒られてしまうかな)
三日前まで共に旅していた仲間の顔を、頭に思い浮かべながら心の中で苦笑いをするアミスだった。
続きです。