暗黒騎士団、将軍
アミス、ラス、アスマ、ミスティアル、ラディの5人(+1人)は一緒に行動することとなった。
この日はとりあえず同じの宿を取り、寝ることにした。
念のためにミスティアルの部屋に、アミスの使い魔であるティスも寝ることにした。
大都市であるロックエランの中でも治安が良く、人が多く往来する場所にある大きめの宿を取ったので、夜間に宿を襲われる可能性は少ないが、念には念を入れてのことだった。
「これからどうするかだな・・・」
翌朝、集まった6人はこの後の事を話し合うこととなった。
まずは相手の出方を予想する。
「奴らを移送する時に襲ってこなかったからね。別にボク等をどうこうする気はないかもしれない」
「それなら、別に一緒に行動する必要はないかもしれないな」
「それはどうかな? こちらの数が少なければ動くかもしれないしね。巻き込んでしまって申し訳ないけど、今は一緒に行動した方がいいという考えは変わらないよ」
アスマの言葉にラスから反論を出しようがなかった。
この都市周辺にどれだけの暗黒騎士団の連中が潜伏しているかわからない。
聖獣が目的という話だが、どれだけの数を求めているのか?
それとも、特定の聖獣を探しているのか?
それがわからない以上、相手の出方も予想がつかなかった。
「相手の動きを伺うだけで、動かないって訳にもいかないよね」
「逆にこちらが敢えて動くことで、相手を動かすって手もあると思うけど・・・」
ミスティアル、ラディの意見にアスマとラスは思案する。
予想がつかない以上、こちらが動くという案に大きな間違いはなく思える。
しかし、ラスは簡単に動く事に抵抗があった。
その理由はアミスの聖獣だった。
暗黒騎士団の目的が聖獣である以上、6体もの聖獣を持つアミスの事を知られたくはなかった。
知られれば、アミスが奴らのターゲットになりかねない。
アミスにあまり聖獣を使わないようには言ってある。
しかし、仲間がピンチになれば、アミスがそれを抑えれる性格ではないことは、既にラスにはわかっていること。
故にできれば、聖獣を求める者との争いは避けたかった。
特に今回の相手は大きな組織だ。
一度ターゲットになれば、逃れることは難しい。
ラス自身はそれでも別に気にはならない。
様々な者と関わる事が、自分の一番の目的であるエンチャントドールに対する情報を手に入れるきっかけになるかもしれないからだ。
暗黒騎士団からもその情報を得れる可能性は充分にある。
しかし、共に旅する仲間となったアミスにとってはどうであろう?
何もメリットはない。
大きな組織に狙われる事が、アミスのメリットになることはないだろう。
デメリットだけ、リスクを負うだけ。
まだ冒険者になったばかりの少年が負うには、あまりにも大きなリスクだった。
「ラスさん・・・」
「ん?」
「あまり、僕に気を遣わないでください・・・」
アミスにも、ラスの気遣いがわかっていた。
必要以上に気を遣われている事が、仲間としてまだまだ信頼されていないと思えた。
仲間として力になりたかったアミスは、それが少し寂しかったのだ。
「・・・わかった」
ラスは、適当な返事を返した。
仲間として認めようとしてるからこそ、気を遣ってしまう。
全ての感情をまともに受け止め、自らも感情を隠さずに表すアミス。
そんな素直過ぎるアミスを見て、気を遣うなと言うのも無理があった。
「それより・・・」
ラディが口を開いた。
「どの程度の暗黒騎士達が来ているかが問題だと思いますが・・・」
「どの程度か・・・」
アスマ達の見立てでは、捕らえた6人は騎士クラスか、若しくは準騎士程度だろうと思っている。
一人だけ実力が高かったので、それが騎士で残りの5人が準騎士といった所と判断。
少なくとも、他にも騎士クラスの者が潜伏している可能性は高いだろう。
古くからの騎士の家系であれば、実力を共わない騎士もいるだろう。
しかし、グランデルト王国の騎士は違った。
まだ、国として若いこの国の騎士は、完全に実力と功績によって得られる爵位だった。
グランデルト王国の真権皇騎士団で最も位が高いのが、大将軍又は騎士団長と呼ばれる存在だった。
その次に参謀将軍と呼ばれるこの国独自の階級があり、その後に将軍、騎士と続くことになる。
「将軍クラスが出てくると厳しいけど・・・」
アスマは、そう言いながらも、他国に潜伏するのに将軍クラスが出てくるとは思ってもいない。
まだまだ若い騎士団で、将軍職はそんなにはいないはずだった。
将軍職は軍隊を統率するのが仕事であり、聖獣集めなどという冒険者レベルの仕事をするとは思えない。
極論を言えば、冒険者を雇えば済むレベルであり、騎士を使うことすら馬鹿げたことに思える。
「みんなは、グランデルトの将軍以上の連中ってどれぐらい知ってる?」
「・・ジェネラル以上か・・・、3人だな」
まずはラスが答えた。
「3人?」
「大将軍、闇氷河将軍、剣鬼将軍の三人だな」
「なるほど・・・」
「わたしは、その3人以外にはアンデットを操る奴がいるって聞いたけど」
「死霊使いか・・・」
ミスティアルから出たのは、アスマも知らない存在だった。
実際に敵にしたらやっかいな相手だとアスマは思った。
神に仕える司祭や神官がいなければ対応が難しい相手だった。
しかし、ラスは思う。
アミスの持つ神聖魔法のスペシャリストである聖獣≪ 白翼天女 ≫がいる以上戦い方次第だと・・・
そして、次はラディが言う。
「俺もそれぐらいしか知らないですね。ま、あとは参謀タイプもいるって話ですけど」
「そのタイプは、直接動くとは思えないから、気にしなくていいと思うけど・・・」
「・・・すいません、僕は・・・」
「アミスは、グランデルトの事も知らなかったからな・・・」
「はい・・・」
申し訳なさげに俯くアミス。
「ま、いいよ。ぼくが知ってるのはあとは3人かな」
最後にアスマが知っている将軍を言って、揃った情報を共有することとなった。
大将軍
騎士団を統率する軍事のトップ。
武勇・知略に優れ、更に統率力は国一と称されている。
聖獣とも契約しているとの情報をアスマが持っていた。
闇氷河将軍
大将軍と並んで評される統率力を持つとされている将軍であり、大きな戦では必ず先陣に陣取るとされている。
武勇でも将軍クラスで上位に位置する。
剣鬼将軍
純粋剣士であり、武勇に関しては大将軍の上と評される。
知衛将軍
大将軍の参謀役で、武勇に劣る。多少の魔法を使えるらしい。
烈火斧将軍
大柄な大斧の使い。武勇に絶対的な自信を持つ。
闇霊将軍
闇の聖獣と闇の精霊魔法を得意とする。
双剣将軍
称号以外不明、二刀流と予想される。
これらの将軍に、称号不明の死霊使いがいる。
以上が4人からの情報を纏めたものだった。
「その姿を見たことある人は?」
誰も頷かない。
「称号以外の名前を知っているのは?」
「本名の確証はないけど、大将軍の名前なら聞いたことが・・・」
ラディが答える。
「ゼオル・ラーガ・・・」
「!?」
その名に反応したのは・・・
「? アミス・・・?」
「アミちゃん・・・その名前って・・・」
アミスとティスだった。
「ぜおる・・・らーが・・・まさか」
「知ってるのかアミス?」
ラスの問いかけに、アミスは少し悩んだ。
「僕が・・・初めてダンジョンに入った時の仲間に・・・同じ名前が」
「な・・・!?」
「本当に?」
驚く一同の前で、アミス自身も信じられない表情で、思い出す。
「どんな奴だった?」
「強かった!?」
「え、えっと・・・」
「ちょっと、みんな落ち着いてよ! アミちゃんもそんなに捲し立てられたらしゃべれないよ」
ティスに止められ、ラス達は言葉を止め静かにする。
「・・・恐らく20代中頃だと思います。グレイ色の髪に青みがかった瞳で、特徴といえば鋭い目つき
でしょうか」
「強いのか?」
「そんなに戦闘があったわけではないので不確かですが、強かったと思います。・・・すごく落ち着いてて、余裕を持った戦い方でした」
アミスは思い出せる範囲で話す。
そんなアミスに心配げな目を向けるティス。
(アミちゃん・・・無理しないで・・・)
テレパシーでアミスを止めるティス。
しかし、アミスは辛かった思い出も頭に過らせながらも、思い出そうとした。
それが、ラス達の為の情報だと信じて。
初めての仲間を失った初めての冒険の事を思い出しながら・・・
次回は4月19日19時更新予定です。




