捕獲
あらすじ
アミス達は、暗黒騎士団との関わらないためにアスマからの依頼を断った。
しかし、偶然それらしき集団を見つけてしまうのであった。
アミスとラスは、6人組の冒険者を尾行していた。
尾行系のスキルに長けた二人ではないため、遠くから様子を見る程度ではあるのだが。
ティスの透明化等も考えられたが、気配や音までは消せないため、6人相手では気付かれるリスクが高いと判断した。
実際に、ラスに気づかれていた経験もある。
「ラスさん、なんであの人達を?」
「・・・理由を聞かれても、答えに困るな・・・」
「・・・?」
嫌な予感が収まらないラスだった。
その予感が当たっているなら、逆に尾行はしない方がいいはずなのだが、それを止めることができない事に自分でも不思議に思うラス。
暗黒騎士団の一員かもしれないという予感だった。
「確証がない以上、気にしてもしかたないか・・・」
「なにが?」
突然、アミスではない声が後ろから聞こえて、驚き振り向くラスの目に映ったのはアスマ達だった。
「な、なんでここに?」
「なんでって、仕事だよ」
さも当然なように言い切るアスマに、ラスはやや呆けたように表情を見せる。
「それより、奴らのことが気になるの?」
「・・・奴ら?」
「あの人達ですか?」
全員が6人組の冒険者に目を向ける。
盗賊らしき一人が壁など調べている中、他の5人は周囲へ警戒しているのが見て取れた。
「暗黒騎士団の目的の予想がついてね」
「目的? この遺跡が関係あるのか?」
「奴らの目的が聖獣だからね」
「聖獣?」
ラスは、嫌な予感が当たってしまったと思った。
もし、複数の聖獣を持つアミスの存在を知られれば、奴らのターゲットになってしまうかもしれない。
持ち主を襲ってまで、聖獣を奪う行動にでるとは限らなかったが、そういう行動に出ないとも限らない。
その可能性がある以上、やはり暗黒騎士団とは関わってはいけないと思えた。
「ここに聖獣がまだいるのか?」
「それはどうだろうね。複数の聖獣が封じられている例なんて、そうそうあるもんじゃないし、既に二体の聖獣が見つかってるって話だから、もうないと思うけどね。でも可能性が少しでもあるなら、って考えを持つのもおかしくないと思う。探窟しつくされたと思われた遺跡から、聖獣が見つかったって話はあるからね」
あくまでも可能性の話だと、アスマは言う。聖獣に関して、絶対の判断は誰にもできはしない。
「それで、奴らがその暗黒騎士団なのか?」
「情報は少ないけど、おそらく間違いないと思う」
「はっきりとした特徴もないと思うが・・・」
見た目だけでは、確証を得るだけの特徴があるようには思えなかった。
ラスも、悪い予感と僅かな魔力によって、違和感を感じただけだった。
アスマのように確信なんてあるわけがなかった。
「奴らの武器を見てよ」
アスマに言われて6人の武器に目を向けた。
「ん~、特徴あるようには・・・」
「何かありますか?」
「これと言って何も・・・」
ミスティアル、アミス、ラスと気づかずに頭を傾げる。
「ラディは何かわかる・・・?」
「刻印か・・・」
「刻印?」
ラディの言葉に、ラスは6人の武器を見直すが、刻印らしき物は確認できない。
「そんな物は・・・」
ラスが否定の言葉を言いかけるが、それをアスマが肯定する。
「そう、暗黒騎士団は、武器はそれぞれ様々な物を持つけど、必ず決められた刻印をいれるんだよ」
「でも、そんなのは・・・」
ミスティアルも刻印を見つけれずに呟く。
「刻印は見えないよ。見えないようにしてるからね」
「? どういうこと?」
「自然に見えるようには考えてるみたいだけど、布とかで隠してるんだよ。相手が一人だけなら気づかなかったけど、6人が全て布やらロープやらを巻いてたら、やっぱり不自然だよ」
そう言われて、改めて見ると夫々が何かを武器に巻いてるのがわかる。
「よく気づいたな?」
「ま、偶々だよ・・・」
アスマは謙遜するが、確証を持った物言いに、偶然さは感じなかった。
「ラスとアミスは、一度この遺跡を出た方がいいよ。もし聖獣がいたら間違いなく戦闘になる」
「・・・」
「他の奴らが見つければ、奴らが襲い掛かるだろうし、もしやつらが見つけたら、ボク達が仕掛けて、ラディかミスティアルに契約してもらう予定だ」
他国の者、特に敵対国の者に、自国に封じられてある聖獣を渡す道理はない。
アスマ達の依頼者である魔術師ギルドというより、その上にいる国の者の意思によるモノなのだろう事は、ラスにも容易に想像ができた。
国の事を考えれば、アスマ達が受けた依頼におかしなことはない。
愛国心を持ち、自国内で仕事をする冒険者にとっても、そうだろう。
ただ、ラスやアミスのように、国から国へと旅をするタイプの冒険者にとっては、国が敵になりかねない考え方に思えた。
特に、アミスの様な聖獣を求めて旅をしている者にとっては・・・
そして、ラスが気になった点は、もう一つあった。
「3人でなんとかなるのか?」
「え?」
その気になる点を、ラスはストレートに投げかけた。
相手は6人でこちらはラスやアミスを除けば3人である。
アスマの実力は充分に理解しているつもりだが、相手の実力も解らない状況で、数で倍する敵を相手にして、随分と簡単に言い切るアスマに対して不安を覚えた。
「まともに戦う気はないよ。そこまで、楽天的ではないさ」
「そ、そうか・・・」
ラスの頭に、加勢する選択肢も浮かんだが、アミスへ目を向けた後に、それを頭から消し去ることにした。
アミスと、聖獣を求める奴らを接触させるべきでないとの判断だった。
「それより、気を付けなよ」
アスマも同じ考えを浮かべたのだろう。
一言注意の言葉を投げかけてくる。
「あ、ああ・・・」
「アスマ君!」
ミスティアルの言葉に反応したのは、アスマだけではなかった。
咄嗟にアミスをラスも暗黒騎士団へと目を向ける。
6人は、奥の部屋らしき方を隠れて見ていた。
その先に他の誰かがいるのだろうと、簡単に予想がつく。
「ひょっとしたら、誰かが何かを見つけたのかな?」
「可能性はあるね」
ミスティアルが口にしたのは、ほぼ正解だろうと思えた。
だが、確認はできずに様子を見るしかなかった。
確認するためには、6人組の真後ろに立つしかない。
尾行等のスキルを持つミスティアルにも、相手に気づかれずにそこまで行くのは無理があった。
(立ち去るタイミングを逸したな・・・)
そう思いながら、ラスはアスマの後ろから暗黒騎士団らしき6人組の動きを観察していた。
アミスも、ラスの横でそれを見つめていた。
周りの緊張感を感じてか、杖を持つその両手に力がこもる。
「武器を抜いた・・・」
アスマのその言葉に緊張感が増す。
アスマもラディもミスティアルも武器を抜き、いつでも動けるように準備を怠らない。
いつまで続くかわからない張り詰めた緊張感の空間が、不意に動いた。
6人のうちの一人、盗賊系の男が静かに動き出す。
それに前衛職2人と魔術師系1人が続く。
残りの2人が後ろへ警戒を向けた為、アスマ達は動けない。
「くっ・・・」
アスマが悩む。
もし、何かを見つけた冒険者があの先にいるのなら、いち早く駆けつけなければ危ない。
しかし、警戒する2人相手に強行突破は作戦上は下策である。
「アスマ、隙を作ってやるよ」
「え?」
アスマがその言葉に反応するより先に、ラスが動いた。
ラスが自然な動きで歩き出す。
咄嗟にアミスが続く。
「待ってくださいよ」
「早くしろよ」
違和感のない2人組の冒険者のまま、警戒する2人の前に出た。
相手は咄嗟に構えるが、それにわざとビックリするような素振りを見せるラス。
そして、不思議そうにその目の前を通り過ぎる。
ラスとアミスへの警戒を残してはいるが、僅かに全体への警戒が緩んだことを、見逃さなかったのはラディだった。
壁沿いを低い体勢で走り抜ける。
魔法使い風の一人が先に気づくが、その時には既にラディが攻撃範囲に入っていた。
「き、きさ・・・」
魔法の詠唱は間に合わないと、手に持った金属製の杖で殴りかかるが、それを潜り抜けてその腕を斬りつける。
「ぐあ・・・」
「くっ・・・」
もう一人が咄嗟に剣を振るう。
ラディは後ろステップで躱すが、相手の動きが早く間合いを詰められる。
そこへアスマがカバーに入ることにより、押し返し、下がった魔法使いへ、ミスティアルが詰め寄り、魔法の援護を妨害することで、優位に立つ。
戦闘音に気づいたのか、奥から複数の足音が聞こえてきた。
仲間が戻る前に終わらすべきと判断したのか、剣士の相手をラディに任せて、アスマが魔法の詠唱を唱える。
短い詠唱により生み出された風の刃が2人に襲い掛かる。
しかし、それは大きなダメージを残せずに消える。
「!?」
一瞬驚くアスマだったが、すぐに自分の判断の甘さに気づいた。
グランデルトの者なら必ず持つ、刻印の効果の事を知っていたはずだったのに・・・
グランデルトの騎士団のその特殊な刻印には、魔法に対する耐性を高める効果があるのだ。
短詠唱での魔法に効果が期待できるわけがなかったのだ。
相手剣士は、無理をせずに守りに徹し、味方の戻りを待つ。
仲間が合流すれば、苦戦もしないと判断をしていた。
焦るアスマ達に迫る足音。
(どうする?)
一瞬悩むアスマの耳に魔法の詠唱が聞こえた。
そのラスが唱える詠唱は、勿論、相手剣士にも聞こえている。
(その程度の魔法なら・・・)
剣士は、その魔法が何か判り、その程度ならダメージにはならないと判断し、意識はアスマ、ラディから逸らさなかった。
そこへラスの魔法が飛ぶ。
【 氷刀 】
氷の精霊魔法の中でも初歩のものであり、先程のアスマが放った風の刃と同程度の威力が精々だと剣士は判断していた。
「!?」
【 氷刀 】が剣士の右腕を貫いた。
予想外のことに、剣を落とす。
そこへラディの一閃が、剣士の左足を斬りつける。
剣士は堪えきれず倒れ、そののど元にアスマに剣を向けられて動きを止められる。
そこで、ラスとアミスが詠唱を開始し、仲間を制され、その魔法の詠唱に気を取られた魔術師はミスティアルの蹴りをまともに受けて吹き飛ばされる。
「き、貴様ら、何故俺らを!?」
「その話は、後でゆっくりとするよ」
アスマがそう言うと同時に、アミスとラスの魔法の詠唱が終わる。
「「【 眠り 】」」
同じ魔法が発動する。
対称を眠りに誘う、精神系の精霊魔法だった。
魔法耐性が高い暗黒騎士団には効き難い魔法だったが、ダメージを受けた直後で気が緩んだ瞬間だったため、二人はそれを抵抗することができなかった。
「こ、これは・・・」
「貴様ら!」
奥から戻ってくる4人に対して、先手を取ったのはラスだった。
「【 氷槍 】!」
いつの間にか用意していた魔法、【 氷槍 】を前衛職の一人に放ち、それと同時に間合いを詰める。
相手はそれを盾で防ぐが、予想以上の威力のその魔法にバランスを崩し、そこへラスのレイピアが右足を捉える。
もう一人の前衛職が両手斧で、ラスに挑むが、アスマに横から攻撃されて防がれた。
「ミスティは眠ってる奴らを!」
ラディのその指示より先にミスティアルは動いており、目の前で眠っている魔術師を縛り始めていた。
相手盗賊の投げナイフや、もう一人の魔術師からの魔法も飛んだが、先手を取れたことが最後まで大きく、6名全員を制圧し縛り付けることで、戦闘はアミス達の完全勝利で終わった。
「助かったよ。ありがとう、ラス、アミス」
「ま、気にするな」
「そうですよ」
隙を作るために動いてくれただけでなく、戦闘にも参加してくれたことは、大きかったとアスマは思った。
特に見張りで残っていた剣士が手強かった。
それを倒す援護をしてくれたことが最も大きく、それが勝負を決めたと言って良かった。
「町に戻ったら、お礼はさせてもらうよ」
アスマはそれだけは譲らなかったため、アミスもラスもそれを受けることにした。
その後、奥の部屋を確認すると、3名の冒険者の死体があった。
まだ、温かく、暗黒騎士団に殺されたことは容易に想像できた。
そして、ミスティアルが彼らが見つけたであろう隠し扉に気づく。
その先の部屋のある宝箱がまだ開けられておらず、ミスティアルが開けて中を確認。
「・・・こんな物の為に・・・」
中に入っていたのは、少しさび付いた金属製の短刀だった。
若干の魔力を帯びているようだったが、錆びつくぐらいだから、大した威力強化はされていないだろうと思われた。
この程度の物が隠された隠し扉を見つけた為に、暗黒騎士団に襲われ命を落とした3人の冥福を祈らずにはいれない一行だった。
縛り付けた6人にしゃべる事も自害することもできないように、猿轡をかませて連行した。
そのまま、都市へ連れていき、門番に事情を説明し衛兵に引き取ってもらう事で一つの仕事を終えた。
証明書を貰い、それを依頼主である魔術師ギルドに持っていくことで報酬を受け取れた。
それを手伝ってくれたアミスとラスにも分けると、アスマは更に話があると言い、アミスとラスを連れて、裏道にある酒場へと連れていく。
「ちょっとやっかいなことになったよ」
「・・・?」
酒場の6人掛けのテーブルにつくと、アスマがすぐに話を切り出した。
「やっかいて・・・?」
一緒にきていたミスティアル達にもよくわかってないようだった。
「他に誰も気づかなかった?」
誰も気づいてないようで、アスマは軽くため息をついた。
「あの遺跡を出た時に、観察されている気配を感じた」
「観察?」
「警戒をしていたみたいだったから、誰か気づいてるかと思ったんだけど・・・」
「何でその時に言わなかった?」
ラスは不満げに尋ねる。
アスマは、首を横に振りながら答える。
「下手に話して、観察している相手に、こちらが気づいたことをわからせたくなかった。みんな警戒は解いてなかったから、もし襲われても対応できたと思うけど、きっかけを与えるのが怖かったってところかな」
「だが、最後まで動きはなかった・・・」
「それって、もし暗黒騎士団の一員だとしたら、仲間を見捨てたってことだよね?」
ミスティアルの言葉に、アスマは頷く。
「捨て駒だったんだろうね。おそらく捕まえた6人は下っ端にしか過ぎなかったってことかな」
「けっこう強かったけど・・・」
「あれで下っ端・・・」
不安になるアミスとミスティアル。
実際、すんなり捕らえることができたのは、不意をつき、一気に優勢なまま終わらせれたからだ。
もし、最初の奇襲に失敗してたらどうなってたかわからないぐらいの実力はあったとミスティアル達にもわかっていた。
「それより・・・・」
ラスの言葉が少し小さくなる。
「そいつらは今でもつけてきてるのか?」
「町に入ってからは気配は感じれなくなったけど、人込みもあったから不確かだね」
「そうか・・・」
そこまでの話でラスにはアスマが何を言いたいかはわかっていた。
そして、ラスにもそれしかないとも思える。
「だから・・・」
「しばらく一緒に行動するしかないか・・・」
「・・・察しがいいね」
アスマは小さく笑みを浮かべた。
巻き込まれたくはなかったから、手伝いを断ったはずなのに、完全に巻き込まれてしまい、人生ままならないと実感するラスだった。
(俺って不運の星の元に生まれたのか?)
占いや予言など信じないラスも、そう思わずにはいられなかった。
体調不良により、ペースダウンです。
次回は余裕を見て、4月17日更新予定にします。




