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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
3・暗黒騎士団の陰謀
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城塞都市ロックエラン

これまでのあらすじ


 聖獣使役に特別な素質を持つ少年魔法使いアミス・アルリアは、悪魔化した魔術師との戦いを経て、6体目の聖獣と、共に旅をする仲間を得る。

 その仲間、ラス・アラーグェと共に次の町を目指していた。

 悪魔と化した魔術師アラームとの戦いから20日程の時が過ぎた。

 2つの町と1つの村を経由して、アミス達はロックエラン王国の王都であるロックエランに到着していた。

 城塞都市としても有名なこのロックエランは、ただまっすぐ通り抜けるだけでも3分程かかる厚さの城壁に囲まれていた。

 城門に関しても五重に作られており、1つ1つを時間差を作って開閉門しているため、都市の中に入るのは、30分以上かかってしまう。

 その城壁内を潜り抜けるアミスとティスは、興味深そうに城壁の天井や壁に見渡す。

 

 「凄いですね・・・」

 「うん、すごいね~」

 「そうだな、大陸一の城壁と言われているからな」


 この城壁の歴史は神話時代まで遡り、かつて巨人達の侵攻を防ぐために神々が作り出したと語られてきた。

 無数の魔石による魔力で守られたこの城壁を破壊することは不可能とされている。

 少なくとも、この城壁が壊されている姿を見たことをある者は存在しない。

 そんな城壁を全て抜け、都市内に入ることができたアミス達は、まずは冒険者ギルドを目指した。

 一度来たことがあったラスが、アミスを案内し冒険者ギルドに到着する。


 「『神々の宿り木亭』・・・」


 ギルドの施設内にある宿屋の看板が目につき、アミスが呟いた。


 「この都市自体が、例の神話によって作られたと信じられているからな。こういった名前の店が多い」

 「なるほど・・・」

 「それより、はいろ~よ~」


 ティスが小さな体でアミスを押しながら言う。

 押して動かされるほど、ピクシーのティスには力はないのだが、アミスは押されるままに建物内へ入っていく。

 いい加減、このノリに慣れてきたラスも、少し笑いながら続いた。

 とりあえず、暫くはこの都市で仕事をすることに決めていた一行は、ギルドへの登録をすませ、そのまま宿を取り、食事への流れとなった。

 そして、注文を終え、食事が用意されるのを待っている時に、突然声を掛けられた。


 「やっぱりラスとアミスじゃないか」

  

 声がした方へ目を向けると、そこにいたのはアスマだった。

 仲間らしき二人と一緒に、ここへ入ってきたばかりのようで、外套を纏ったままだった。


 「アスマ・・・」

 「ハーフエルフ二人なんて珍しい二人組だったから、もしかしてと思ったけど・・・」

 「アスマさん、どうしてここに?」


 席から立ち上がり、アスマへ駆け寄るアミスに、アスマは笑顔で答える。


 「仕事で来たんだけどね。アミス達もかい?」

 「ここで仕事を探すつもりではいるけど、目的があってここにきたわけじゃないな」


 ラスが答えを返す。


 アスマ・ドリーマーズ。

 先の悪魔との戦いに途中から参加してきた魔法剣士。

 マジェスティ達と同じで、魔術師ギルドからの依頼で魔術研究所の調査を行っていた冒険者らしく、あの時はマジェスティへの加勢で戦闘に参加した。

 あの時ラスが受けた印象は、自分と同レベルの戦闘力を持っていること。

 そして、見慣れない魔法を使っていたこと。


 「アスマ、この人達は?」


 アスマの後ろに立っていた少女が訊いてくる。

 アミスとは逆で、一見すると少年に見えるが、服装や装備で女性なのだろうと、ラスにはわかった。

 もう一人は、フードを深く被り後ろで大人しくしている。

 僅かに見える顔のラインで若い男なのだと思えた。


 「この前話した人達だよ」

 「今回はマジェスティ達とは一緒じゃないんだな?」

 「マジェスティさん達は、別の町で仕事中のはずだよ。それより、これから食事かい? それなら、一緒していい?」

 「あ、ああ・・・別にいいが・・・」


 ラスからの返答を聞くと、先に宿を取ってくるといい、アスマ達は一旦離れた。


 「にぎやかになりそうですね」


 アミスの笑顔での言葉に、ラスは少し後悔した。


 (うるさい食事は嫌いだったんだがな・・・) 


 そうふと思いながらも、ティスがいることで多少はうるさい食事にも慣れているラスだった。



 アスマから紹介された二人を交えての食事となった。

 少女の方の名前は、ミスティアル。

 盗賊ギルド出身の盗賊であるが。その技術を盗みなどには使わず冒険者となり、今では魔術師ギルドからの依頼を主に受けているらしい。

 そのミスティアルの相棒としてコンビを組んでるのが、先程から殆ど言葉を発さずに、黙々と食事を続ける少年で、名前をラディと名乗った。

 その容姿から、アスマを含めて全員が十代であろうと思え、ずいぶんと若い構成のメンバーだとラスは思っていた。

 そして、若さ以上に気になったのが、ラディと言う名の少年だった。

 他の2人が荷物を部屋へ置いてきているのに、ラディだけが背にリュックを背負ったままだった。

 それほど大きなリュックではなかったが、椅子に座る時に邪魔なのは明らかだ。

 ラスが軽く指摘はしたが、ミスティアルが代わりに


 「気にしないで」


 と言い、その話はそこで終わった。


 「ラス達は、この後どうするんだい?」


 食事を終え、アスマが訊いてきた。

 ラスは、特に考えた様子もなく返す。

  

 「ギルドから何らかの依頼を受けるつもりだが?」

 「まだ、仕事受けてないなら、手伝ってもらえないかな?」

 「お前らのか?」


 アスマは頷いた。

 だが、それに対してラスは、明らかに訝し気な表情を浮かべる。


 「あ、駄目かな?」

 「とりあえず、内容次第だが、お前が前回していた仕事を考えると、嫌な予感しかしないんだが・・・」


 ラスにその言葉に、アスマは苦笑いを浮かべる。


 「まず簡潔に訊く、前回と比べての危険度はどうだ?」

 「ああ・・・」


 アスマは、言葉に困ったが、それを感じ取りラスが先に言葉を続けた。


 「やめといた方が良さそうだな・・・」

 「・・・?」


 アミスは、よくわかってないようで首を傾げる。


 「流石に、前回の悪魔に比べれば、そこまでの強さではないと思うけど・・・」

 「厄介さは、今回の方が上かもね」


 ミスティアルがそう言う。


 「話を聞いた後でも断れるなら、とりあえず話だけは聞くが・・・」

 「ああ、どうしようかな・・・?」


 アスマは悩むが、代わりにミスティアルが答えた。


 「とりあえず、気をつけてもらうってことで、話しといた方が良いと思うね」

 「ん~、そうだね」

 「気をつける?」


 二人はそう決断すると、アミスとラスに仕事の話を始めた。


 今いるロックエラン王国の東に隣接するグランデルトという国がある。

 ここ20年間で最も成長した国であり、その原動力と言われているのが真権皇騎士団と名乗る騎士達の存在だった。

 漆黒の鎧とマントで統一されたその姿と、他国を圧倒するその戦闘力を恐れて、他国では暗黒騎士団と呼ばれる事が主流となっていた。 

 その暗黒騎士団の姿が、この国で見かけられたという情報が多くなってきており、その実態把握と、できる範囲での排除。それが仕事内容だった。


 「なるほど、それは厄介だな・・・」

 「厄介ですか?」


 よくわかってないアミスの言葉に、ラスが説明する。


 「国を敵にまわしたらやっかいだぞ。特に今最も力があると言われているグランデルトが相手なんて・・・」

 「そんなにすごいんですか? そのグランデルトって国は?」

 「本当に何も知らないんだな・・・」


 アミスは、小さな村の側の山奥で家族とだけで生活していた。

 時折近くの村には出てはいたが、父や兄弟から教えて貰ったことがアミスにとっての全てだった。

 そのため、冒険者として旅に出てようやく30日経ったばかりのアミスにとっては、全てが新たな知識であり、世間で知ってて当然と思われていることは、アミスにとってはまったくの未知の知識だった。

 ラスはアミスからその事を聞いてはいたが、改めて実感して呟いていた。

 

 「俺が知ってる知識がどれだけ正しいかわからないがな・・・」

 「魔術師ギルドや、国の方でも調べているみたいだけど、大体は噂通りみたいだよ」

 「そうなのか・・・」


 ラスはその言葉を、そのままは受け取らなかった。

 戦にはなっていないが、ロックエランとグランデルトは敵対しているのは、周知の事実。

 そんなロックエランが流したグランデルトの情報が全て正しいとは思えなかった。

 王民に敵国への敵対心を持たせるため、悪い情報を主に流している事が考えられた。


 「悪いが、今回はなしだな」

 「やっぱりか・・・」


 ラスの返答を予想してたとばかりの言葉で、残念がるアスマ。


 「断るんですか?」

 「ま~な、受けたいのか?」

 「いえ、そういうわけではないんですけど・・・」


 そう言うアミスを見て、ラスは思う。


 (アミス一人なら、二つ返事で受けてそうだな・・・)


 「ラス達が力になってくれるなら、大きな戦力になってくれたと思ったんだけどな~」


 残念がるアスマとは対称的に、興味なさげにラディが椅子から立ち上がる。


 「ラディ、どうしたの?」

 「交渉が終わったなら、調査に行ってきます」


 丁寧だが、ぶっきらぼうな雰囲気で言いその場を立ち去る。


 「ちょっとラディ、街中でも一人での調査は駄目だって・・・」


 そう言いながら、ミスティアルはアスマに目を送った。

 アスマが頷くと、ミスティアルもラディに続いてその場を後にする。


 「どうも、まだわからないな・・・」


 残されたアスマが、ぼそりと呟く。

 そんなアスマに、アミスとラスは顔を見合わせる。


 「ごめんね。こちらから話を持ってったのに、変な感じになっちゃって」

 「いや、別にいいんだがな。前からの知り合いなのか?」


 アスマは首を横に振る。


 「例のエンチャントドールの悪魔の話を、ここの魔術師ギルドに報告する役目を受けちゃってね。そのためにここまで来たんだけど、そしたらついでに仕事を依頼されちゃってさ。一人は危険だからって、同じく二人だけで依頼をうけていたあの二人と一緒に動けって言われちゃってね」

 「なるほどな・・・」

 「やつらも魔術師ギルド専属の冒険者ってことか・・・」


 ラスのそんな言葉に、アスマは少しの間を空けてから言う。


 「彼等もみたいだけど、別に専属ってわけではないよ。この前のマジェスティさんは専属契約してたみたいだけど、ボクは違うんだ。元々、魔術師ギルド専属冒険者への条件に20歳以上ってのがあるから、僕や彼等は特例がないかぎり専属化はできないんだ」

 「20歳以上か・・・、そういえば、アスマって何歳なんだ?」

 「ボク? 14歳だよ」

 「お前、成人前か!?」

 「え? そうだけど、驚くこと?」


 お互いに驚いた様子のラスとアスマ。


 「いや・・・」


 エンチャントドールという特殊性を持ち。冒険者としても、約8年という経験を積んだラスは、一般的冒険者に比べて高いレベルだという自負があった。そんな自分とほぼ同等の力を持ったアスマがそんなに若いことが信じられなかった。

 この世界では15歳で成人扱いされ、独り立ちや飲酒を認められるようになる。


 「・・・あいつらは?」

 「あ、ラディとミスティは、15歳と16歳って言ってたね」

 「強いのか?」


 ラスのふとした質問にアスマは考えながら答える。


 「魔術師ギルドから仕事をまわされる以上、それなりの技量は持ってるんじゃないかな? まだ、実際に戦闘とかは見てないけど・・・」

 「そうか・・・」

 「・・・ボクも行くかな」


 そう言うとアスマは立ち上がった。


 「また、会える時を期待してるよ」


 アスマは笑顔でそう言うと、ギルドを後にした。

 その後姿を見送ったラスは、


 (なんか、すぐに会いそうだがな・・・)

 

 と、思うのだった。


  


 

 アミス達は、その日は町内を散策し宿に落ち着くと、翌日に仕事を探すことにして床についた。

 翌朝になると、掲示板を確認し簡単な仕事を受けることにする。

 遺跡の探窟。

 2人では危険に思えもしたが、他の手頃な仕事もなくそれを受けることにした。

 ある程度の探窟が進んでる遺跡らしく危険度は低いらしい。 

 最深部へ辿りついている冒険者もいるとのことで、初級冒険者を含めた複数の冒険者を投入し、遺跡内を探窟しつくすのが、今回の目的らしい。

 探窟用の装備を補充し、アミス達は遺跡へと向かった。


 「ここって、聖獣が見つかったって話はあるんですか?」


 遺跡内に入ってすぐにアミスが質問する。


 「ん? ああ、確か2体程見つかったって話だ。大した聖獣じゃなかったって話だが・・・」

 「そうなんですね・・・」

 「どうかしたか?」

 「いえ、聖獣が封じられている遺跡の魔力を感じたので」

 「今でもいるのか?」

 「いえ、もう見つかった聖獣の影響かもしれませんから、何とも言えませんね」

 「そうか、ま、見つかっても・・・」


 言いかけてふと思うラスは、アミスへの疑問を投げかける。


 「流石に、もう聖契石は残ってないよな?」

 「え? ありますけど・・・」

 「・・・」


 ラスは言葉を失う。

 既に6体の聖獣と契約しているアミス。

 もうこの時点で信じ難い事実である。

 複数の聖契石を持つ者の噂すら、アミスと会うまでは信じてきていなかった。

 それぐらい稀な存在だ。

 初めて会った時に、5体の聖獣と契約していると言われた時には、当然疑いの目を向けた。

 そして、それが全てだと思っていたので、この前の戦いで更に契約した時には驚く余裕もなかったが、落ち着いてみれば驚愕することだった。

 ラスが持つ常識が、それ以上はないと勝手に決めつけてかかっていたのか、そこでさらなる上を確認しなかった。

 しかし聞けば、まだあると言う。


 「全部で何個ある?」

 「12個です」

 「・・・」


 再び言葉を失うラス。

 アミスはそんなラスを不思議そうに見ていた。


 「やっぱりおかしいですか?」

 「・・・ふぅ、ま、正直びっくりはしたが、ま、それも含めて、アミス・アルリアって存在なんだろうな・・」

 「・・・そうですね」


 アミスもラスも笑みを浮かべる。

 そして、今度はアミスが質問を口にした。


 「ラスさんは、聖契石を作らないんですか?」

 「俺がか? ・・・そうだな、探窟終わって宿に戻ったら、作り方を教えてくれ」

 「はい、わかりました」

 「ま、一個もできないかもしれないけどな・・・」

 「そ、そんなことはないですよ」


 魔力がある者なら、誰でも作れると言われているが、作れない者も存在しているのが事実だった。

 そんなやり取りの中、ラスが人の気配に気づいた。

 咄嗟に身を隠すラス。

 それにならいアミスも身を隠した。


 「どうしました?」

 「・・・」


 返事のないラスの目線を負うアミス。

 その先には冒険者らしき6人組が見えた。

 全て人間の男であり、前衛職らしき3名と盗賊系らしき1名、そして、魔法職らしき2名に見え、かなりバランスのいいパーティーに思えた。


 「同じ依頼を受けた冒険者でしょうか?」

 「・・・そうかもしれないが・・・」


 ラスは、気配と同時に僅かに特殊な魔力を感じていた。

 それが6人全員から感じられたことに強い違和感を持つ。


 「アミス、隠密系の魔法って使えるか?」

 「隠密系ですか? 姿は消せるかもしれませんが、気配までは・・・」

 「そうか・・・、どうするかな」


 悩むラスに、アミスの疑問。


 「あの人達を尾行するんですか?」

 「ちょっと気になってな・・・」


 (まさかな・・・)


 一つの可能性が頭を(よぎ)る。

 昨日聞いたばかりの話。

 暗黒騎士団が、この国に入り込んでいるという話を・・・


少し、章構成を変えました。


 次回は、4月10日19時更新予定。



訂正です。

 体調不良により、更新日を変更させていただきます。


 4月12日19時更新へ

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― 新着の感想 ―
[良い点] いざ!潜入捜査! こういうのって、一行一行読んでいく時に、 こっちもハラハラしてくるよねw さぁ、ドキドキを保ったまま…次の章へ!!(ΦωΦ)
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