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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
9・英雄と魔族
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気づき

登場人物紹介

☆アミス一行のメンバー

◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士

 見た目は完全な美少女


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 自分を魔法生物カさせた者を探している

 魔法生物化されてる者特有の高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった

 アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 土系の精霊魔法も使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 仲間からサンと呼ばれている盗賊職

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……


★他の冒険者

◎ローエン 男

 魔族討伐隊の指揮を取るベテラン冒険者


◎マーキス 男

 一時期、アミスとラスに同行していたエルフの精霊使い

 癒し力の聖獣を持つ


◎ガラガルム 男

 マーキスと共に旅をするリザードマンの司祭

 大柄で威圧感のある見た目とは異なり、温和で落ち着いた性格

 「こういう聖獣もいるんだね〜」


 そんなリンの言葉は、仲間の耳に入っているだろうが、反応を返す者はいなかった。リン自身も、不意に思ったことが口から出ただけであり、反応が返ってくること期待してなかったために、その後は沈黙の時間が続いた。


 討伐メンバーに加わった冒険者の1人である弓使いのライトルが契約している、コロールと名付けられた聖獣≪ 三色蝶 ≫の能力により一行は周囲の景色に同化していた。

 これに風の精霊(シルフ)の力を借りた精霊魔法により音が出ないようにすれば簡単に見つかる事はないだろう。

 だが、それだけで完璧に隠密行動ができるわけではないのは、今回選ばれたメンバー全員承知しており、風の膜により話す声が外部にもれない状態になっていても、不必要な会話は控えている。先のリンの呟きも本人が意識外のものであり、それがわかっているからこそ他の者も反応を返さなかったのだ。


 「近くに何か居るな……」


 そのローエンの呟きに反応して歩みを止める一行。先頭で周囲に気を張りながら進んでいたサンとライトルの2人は、自分達が気付かなかった存在にローエンが気づいたことに訝しげな表情を見せながら、再度索敵の意識を遠くまでのばす。


 「見張りのようだな……、隠密能力が異常な程に高い」

 「何でわかった?」

 「右側の太い木の上を見てみろ。じっくりと注意深くな……」


 そう言われて、ラスは指摘された場所へ目を向ける。だが、特に何があるようには見えない。ラスが説明を求めようかと口を開くより早くに、


 「なるほど、よくこんな事に気づくものだな……」


 タリサが呟く。それに反応して再度注視するが、やはりわからないラス。わからないのはラスだけではないようで、他の者達も不思議そうな顔でローエンへタリサへそして木の上へと視線を泳がせている。


 「隠密に関して特殊な能力を持っているようだが、その能力に頼り過ぎて注意力が足りないようだな。この距離まで近づいてもこちらには気づいていないようだしな」

 「おい、本当に何か居るのか?」


 自分がわかっていないのに、話を続けようとするローエンに対して、やや苛立ち気味に言い放ったのは、弓使いライトルの仲間の戦士ランスだった。

 

 「ランス殿、落ち着いてください。音がもれないようになっているとはいえ、大声は控えるべき状況ですよ」


 と和らげに注意の言葉を発したのはガラガルム司祭だった。そして、そのまま言葉を続ける。


 「申し訳ありませんが、説明していただけますか?」


 ローエンは気づけない事は仕方ないと思っていた。逆にタリサ1人でも気づける者が居たことに少し驚いているぐらいだった。


 (やはり、普通の娘ではないな……、なぜ、これほどの者が仲間に?)


 そんか事を考えていたローエンだったが、目の前で大きなリザードマンの司祭が穏やかな表情で返事を待っていることに気づき、渋々説明することにする。


 「他の枝に比べて葉の数が明らかに少ない。それに気づいてじっくり観察してみれば、風の影響ではない揺れが見てわかる」


 そう説明されて再度観察すると、確かに不自然な揺れがあることがラスにもわかった。だが、それは言われて初めてわかるレベルのモノであり、何もきっかり無しに気付けるものではないと思えた。

 

 「この無数にある木の枝の中で、葉の数だけで気づけるものなのか……」


 驚きから自然に口から漏れたラスの言葉に悔しそうな表情を見せたのは、索敵や探索に関しての専門職であるサンやライトルだった。特にライトルは明らかな不機嫌さを見せていた。


 「ま、魔族慣れだろうな……」


 ローエンの頭には、それしか理由が浮かばなかった。多少の魔法は使えるとはいえ、自分はあくまでも戦士であり、索敵は本来なら専門外である。それでも今までの経験こそが、ここにいる誰よりも対魔族の戦力になることが出来る要因になっているのだから。


 「それより、奴をどうするか……」


 詳しく説明をすることになることを恐れたローエンは、話題を変える。敵を目の前にのんびりと説明するほどのことではないとの判断。それを理解できないものはここには居らずに、全員がローエンの言ったことについて考える。


 「ほっとくわけにはいかないだろ」


 短い思考によりすぐにそう口を開いたのはランスだった。そんなランスの意見に、ローエンは僅かに微笑んで見せた。気づき、不機嫌さを露わにするランス。馬鹿にされたと感じたのだろう。だがローエンの笑みの理由はそうではなかった。

 ただ、昔の自分にそっくりだと思っただけだった。

 深く考えることが出来なった、それにより仲間にたくさんの迷惑をかけてきた昔の自分に……


 「下手に手を出すと、逆に気づかれるキッカケを与えることになるぞ」

 「そうだな……」


 口元に笑みを残したまま、ラスの反論に返事をするローエン。


 (頭が切れるな……、良い仲間を得たみたいだな……)


 そう考えながら、アミスに視線を流す。ローエンは、アミスをさり気なく見たはずだったが、不意に視線が合い一瞬止まってしまう。そして、アミスからも返ってくる笑み。


 「!?」


 ローエンの僅かな動揺。おそらく誰も気づかないくらいに僅かな心の動きだった。だが、常に余裕を持ちながら状況を分析していた彼にとっては思わぬモノ。


 (まさか……)


 一つの可能性が彼の頭の中を()ぎる。


 (気づいているのか? ……いや、まさかな)


 その可能性は低いと判断。それでも、気をつけなければならないと気を引き締めることにした。

 頭を過ぎった可能性が正しかったことを彼は知ることとなる。どんなに経験豊かな彼でもそう知るのに時間を要した。それは気づくわけがないという自惚だった。

 経験豊かだからこその決めつけだったのかもしれない。アミスが顔を変えている自分に気づけるわけがないという思い込みを起こしてしまった結果だった。


 ローエンはアミスと会ったことがある。だが、それは昔のことであり、アミスはまだ幼かった。だからこそ気付かれるわけがない。いや、覚えてもいない可能性も充分にあるほどだ。

 だが、アミスは忘れていない。

 いや、忘れるわけがなかった。

 今、目の前にいるのが、アミスが冒険者になろうとするきっかけの人物なのだから……

 だが、ローエンはその事を知らない。知らないからこそ、思い込み、気づかれていないと決めつけた。

 昔の事を忘れていたのはローエンの方なのかも知れない。自分の方は覚えていると思っていたアミス・アルリアのことを忘れている。

 末恐ろしいと感じた少年のことを忘れてしまっていたのは、アミスの才能に嫉妬し敗北感を味わったから、それを心の奥に封印し忘れてしまっていた。

 嘗て、彼の者の血を持つものに抱いたものと同じ感情を、幼い子供から受けたことを忘れることにしたことを忘れてしまっている。

 それは彼を境地に陥れることになるなんてことも気づかずにいるのだった。

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