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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
136/144

大魔獣の切り札

登場人物紹介

☆アミス一行のメンバー

◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士

 見た目は完全な美少女


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 自分を魔法生物カさせた者を探している

 魔法生物化されてる者特有の高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった

 アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 土系の精霊魔法も使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 仲間からサンと呼ばれている盗賊職

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる。

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……


☆他


◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族

 聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年

 今回のみ一時的に手を組むことになった


◎聖獣剣士

 聖獣であることが発覚した名もなき女剣士

 居合術が得意


◎≪ 剣聖 ≫ ≪ 炎獣 ≫ ≪二角炎馬 ≫

 かつてアミスが使役していた聖獣

 戦闘再開の火蓋を切ったのは、ロルティの魔力の矢の雨だった。威力はそこまで高いわけではないが、数と貫通力に優れたこの魔法は、本来は多数の敵を相手にするのに向いている魔法ではあったが、今回のように回避より魔法防御を頼りに身を守る相手への牽制にも便利なものだった。

 やや魔力消費面での燃費が悪く、何回も使うべきものではなかったが、互いに慎重すぎて動くきっかけがない掴めない状況を崩そうと、ロルティは敢えてそれを使った。

 殆どの矢が魔力を帯びた鱗に弾かれてしまったが、雨のように数多く降り注いだそれの一部は、鱗の隙間の防御力が弱い部分に命中し、大魔獣は身が固まる。


 それを合図として、すぐに動いたのはリンと≪ 剣聖 ≫の2人。リンのヘヴィランスの重量を活かした振り下ろしに合わせて、≪ 剣聖 ≫が居合斬りを一閃。

 先の戦いで受けたリンの重い一撃が頭に残っていた大魔獣は、リンの攻撃を優先的に防ぎに鉤爪を動かしたが、続いて胴を薙いだ≪ 剣聖 ≫の一撃も、リンの攻撃に引けを取っていなかった。重く吹き飛ばす威力のリンと、切れ味の良い斬撃の≪ 剣聖 ≫。攻撃の質が異なっている為、どちらを優先するかは、状況次第になるだろう。

 リンの攻撃によりバランスを崩されるわけにもいかないが、≪ 剣聖 ≫の攻撃も一歩間違えば鱗ごと斬り裂かれる可能性を秘めているのが判り、どちらも慎重に対応しなければならないと警戒を強める。

 リンはまだ通常の半獣人状態であり、その状態ならばバランスを崩されることはないだろう。だからといって油断できる攻撃ではないが、それでも今は≪ 剣聖 ≫の攻撃に警戒の比重を大きくするべきと判断する。

 防御に徹しているだけでは、相手の攻撃に調子つかせるだけ。だからこそ、大魔獣も反撃を行う。

 大魔獣側から見れば、自分と違って相手の防御力は脆弱と言える。ダメージを与えるだけなら、全力の攻撃でなくてもいい。防御主体からの牽制のような攻撃でも、直撃させれば致命傷を与える事ができるだろう。だからこそ、大魔獣は焦らないことを己に言い聞かせていた。

 大魔獣からの反撃を防ぐのは防御に徹したタリサの役目である。攻撃能力にも長けているタリサだったが、今は2人ができるだけ攻撃に集中できるように、その2人と一撃必殺のチャンスを待つ聖獣剣士守ることに集中していた。



 上空のロルティと2体の聖獣は、遠距離からの魔法と炎による援護攻撃に徹していた。しっかりとした連携が取れているわけではない。聖獣達がアミスの使役下に入っていれば、少しは質と良い援護ができたかもしれないが、今は聖獣の判断での援護行動であり、元々攻撃的な聖獣である彼等はそういった行動は得意ではないのだ。

 ロルティはじっくりとそれぞれの動きを見ながら考えながら援護に徹していた。彼にとっては今回のことは仲間と戦う経験を積む良い機会。決して余裕のある状況ではなかったが、余裕がないからこそ密度の高い経験を積むチャンスだと思うことにしたのだ。

 アミスと協力してこの場を乗り切る事が出来れば、自分も成長できるかもしれない。仲間と戦うということをできるようになるかもしれない。それができるようになって、初めてアミスと対等にやり合えると思っているのだ。



 ラスは魔法の槍を作り終わった。アミスが≪ 風の乙女(セラリス) ≫の能力により、ラスの姿が大魔獣からは見えていないはずだが、魔力自体を感知するの能力を持っている相手にはそれはあまり意味がないかもしれない。こちらの能力のことをまったく知らずに油断してくれていれば、魔力の槍の存在を隠す事ができたかもしれない。だが、一度見せているこの槍を、再び受けてくれるとは思えない。それでもこういった細かい作業の積み重ねが、意味を生み出すと考えて行動を起こすしかないのだ。

 ラスの槍も、先の戦闘で作り出したのとは少し異なっている。時間をかけて魔力を安定させて、物質に近い状態にする。通常より多くの魔法力を消費するが、こうすることにより、一度投げて終わりにはならない。ラスの手から離れれば多少は魔力が散ってしまって威力は落ちてしまうが、それでも拾えば貫通力の高い魔法の槍として使用できる。ラスは一本の槍を作り終わると、続けてもう1つ作り始めた。


 (2本は厳しいか……)


 作り始めた所で、自分の残りの魔法力が同じ物をもう一本作ることが厳しい量しかないことを感じ、作り出す武器のイメージを小さく変化させる。


 (短刀程度か……)


 完全に魔法力を失うわけにはいかない。戦える程度には残す必要がある以上、この程度の大きさが限界だろう。それが大魔獣にどれ程

通用するかはわからない。それでも無いよりはマシと念の為に作っておく。

 あとは動きに変化があるまで、戦況を見つめる。1つの判断の誤りが自分達を窮地に追い込むことになりかねない。そうならない為に、じっくりと観察する。気づかなければならない事を見落とさないように……



 ジーブルは守りの意識を高めていた。

 先程の、自分が守らなければならないアミスに、逆に庇われる形になったことに悔いがあった。結果的に大事に至らなかったが、一歩間違えば致命傷を負いかねない程の状況だった。


 (誰かを守って戦う事がこんなに難しいなんて……)


 守る魔法は使える。だが、使えるからといって本当に守りたい人を守れるとは限らない。それを実感する1年間であり、先程の失態だった。

 今度は必ず自分の手で守ってみせる。

 そう強く誓うジーブルだった。



 アミスは気にしていた。

 自分の発言により≪ 剣聖 ≫の心を傷つけてしまったのではないかと……

 ≪ 剣聖 ≫からはそんな感情を感じ取ることはできなかった。だが、自分の提案が却下されたということは、まったく気にしていないということはないだろう。弟子であるという彼女が言っていた事を彼は否定しなかった。あんな事があったというのに自分との再契約を望んでいることがアミスの心を乱そうとするがそれをなんとか落ち着かせていた。今は目の前の敵を何とかするのが先決なのだ。

 アミスがラスと≪ 剣聖 ≫の契約を提案したのは、この場を切り抜ける確率を少しでも上げる為だった。

 魔力が高いラスが高い攻撃力を誇る≪ 剣聖 ≫と契約すれば、大きな戦力になる。通常戦闘をするだけなら、契約しない聖獣任せの状態でも大差ないだろう。だが≪ 剣聖 ≫という一撃必殺の斬撃が持ち味の聖獣が、より高い攻撃力を得ようとするならば契約者というのは必要不可欠となる事をアミスは知っていた。力を使った時の威力は契約者の魔力により強化される。

 魔力自体は低いアミスの契約下でも、切り札として頼りになる。それほど攻撃面では頼りになるせいじんうなのだ。

 だからこその提案だった。

 だが、それは聖獣達に拒絶された。アミスはあの後、聖獣剣士との契約を望もうとしていた。だが、あの反応を見る限り拒絶されるのは目に見えていた。故に、あれ以上は何も言えずに話は終わってしまった。いや、終わらせるしかなかったというべきだろう。

 その判断が、アミスと聖獣達の決めた事が、自分達を窮地に追い込むことになるとは知らずに……





 戦況の流れが変わりつつあった。

 採算強化された半魔獣化を繰り返してきた影響か、リンの動きに翳りが見え始めたのだ。スピードも攻撃に加わるパワーも明らかに落ちてきているのが、誰の目にもわかった。ここまで疲労していては、再度強化した姿になることは難しいかも知れない。できたとしても、極短時間になってしまうだろう。

 タリサが少しでも彼女を休ませる為に、攻撃役を一時的に変わろう考えていたが、そんな隙を与えてくれるほど大魔獣は甘い相手ではなかった。大魔獣は切り崩すチャンスだと思っていた。それでも冷静に考えて動くように気をつける。油断もしなければ慎重になり過ぎて動けないなんてこともあってはならない。状況を正確に分析して動く。慌てずとも、油断しなければ自分が有利なのだと判っているのだから。

 冷静さを失わないからこそ、上空から近づく者を見逃すこともない。近づく≪ 炎獣 ≫に対して防御に支障出ない部分の鱗を2枚、タイミングを微妙にずらして放つと、完全に躱すことができずに弾き飛ばされる≪ 炎獣 ≫。

 その動きに大魔獣が僅かに意識を逸らされた隙に、もう一体の炎の聖獣≪ 二角炎馬 ≫もすぐに動きを見せた。少し間合いを詰めた位置から炎のブレスを吐きつけた。

 大魔獣が慌てる攻撃ではなかった。元々炎に強い身体であり、しっかり魔力を纏わせている鱗には大した効果がないことが判っているのだから。

 だが、それは攻撃目的のブレスではなかった。放つ時点で延焼力を高めたその炎により生まれた真っ黒な煙が大魔獣を包み込む。

 そんな煙幕にも大魔獣は慌てない。意識さえすれば、敵の姿が見えずとも、魔力感知によりおおよその動きを掴む事ができるからだ。逆に相手が正確な攻撃を行えなくなるだけであり、むしろ、自分に有利な状況だと思えた。この状況でやっかいなのは1つだけだ。大魔獣は少し後ろに下がる事で前衛達の攻撃を無効化すると、続いて放たれるであろう攻撃に備えた。

 それは大魔獣の予想通りに放たれる。

 だが、それは一度見ている予想通りの攻撃。油断なく反応した大魔獣は、予定していた対処をする。


 (やはりな……)


 ラスから投げ放たれた魔力の槍。そして、それに合わせて上空からロルティが放った無数の魔力の塊と、その魔力の槍に重ねて放たれた水と氷、2本の剣。

 先程とは違いそれらが合わさって強化された一本の槍になることはなかった。視界が遮られてそこまで正確なことが出来なかったのだろう。もし合わさって貫通力が高まったとしても今回は防ぐ自信はある大魔獣。予めそのための防御障壁を用意していたのだから。

 だが、今回はそれが必要ないと判断すると、大魔獣はそれらを魔力を込めた鉤爪で弾いてみせた。

 煙の隙間から見える弾かれた魔力の槍が見えた。そして、それを取る手に気づく。それは剣と盾を捨てたタリサの手。僅かな驚きを見せる大魔獣だったが、冷静に他の者の動きを魔力で感知しながら、対処に動く。

 魔力が捉えたのは槍を取ったタリサと≪ 剣聖 ≫、そして、後衛側からまっすぐ近づいてくる者が1人。

 それらが何をしようとしているかを冷静に予測し決断し、大魔獣は反撃に出た。遠くから来る1人が到着する前にまずは≪ 剣聖 ≫を鉤爪で横から薙いだ。≪ 剣聖 ≫は受け止める事が出来る攻撃ではないと判断して、咄嗟のバックステップにより躱す。そこへ魔力の槍による攻撃に出るタリサ。そのターゲットは大魔獣の瞳であり、その攻撃の精度は正確に目標を捉えていた。

 大魔獣はそこで用意しておいた防御障壁を展開。なんらかの防御行動があると予想していたタリサはそれごと突き破ろうと考えていたが、大魔獣が瞑想時にじっくり用意していたその障壁は、ラスやタリサの予測を大きく超えていた。貫通力の高いはずの魔力の槍に勢いと体重を乗せた一撃が簡単に弾かれる。攻撃を弾かれたタリサへと攻撃を仕掛けようとした大魔獣に対して、≪ 剣聖 ≫が一気に間合いを詰めて己の間合いへと近づいた。それに合わせて、射程範囲まで近づいていたラスが持っていた魔力の短刀を投げつける。

 タリサの攻撃を弾いた防御障壁対策の為に、ラスの短刀が着弾する場所目掛けて斬撃を放つ≪ 剣聖 ≫。タリサへの攻撃へ動いていた大魔獣に対して、2人の攻撃は確実に命中した。だが、それは固い鱗に簡単に弾かれていた。


 「な!?」


 致命傷とはいかなくても、ダメージを与える事ができるはずだった。そんな威力の攻撃を完全に防がれて驚くラスと≪ 剣聖 ≫。

 タリサへと攻撃は、2人の攻撃に邪魔されることはなかった。咄嗟に魔力の槍でその攻撃を受けようとするタリサだったが、近距離からのそこ攻撃を槍で完全に受け止めることは叶わずに、武器ごと弾き飛ばされる。なんとか着地し踏み止まった所への追撃の突進。リンが咄嗟に強化半獣人化してそれを防ごうもの割って入ったが、それが予想外の動きであったこととリン自身の大きな疲労により対応が遅れて、2人纏めて撥ね飛ばされる形となってしまった。床に叩きつけられた形で転がり倒れる。前衛の防御の要を飛ばされ、≪ 剣聖 ≫は猛攻に出るしかなくなった。大魔獣が反撃に出れないだけの連撃を繰り返すしかないと判断して、斬撃を繰り返す。

 その斬撃は確かに大魔獣が反撃に出るのを妨害していた。だが、そんな連撃をいつまでも続けれるわけではない。ラスはタリサやリンを横目見ながら、先程弾かれた魔力の短刀を拾い大魔獣へと接近する。

 貫通力があってもその細腕でどうにもならないと、大魔獣は思っていた。ラス本人も通用するとは思っていなかったが、それでも短時間の囮になれればと、フェイントとして攻撃態勢と取る。

 慎重になっている大魔獣は、万が一に備えているため、そのフェイントに乗って、≪ 剣聖 ≫への反撃意識が止めた。

 そこへ、背後へ移動していた2体の炎の聖獣による炎を帯びた攻撃。

 ジーブルとアミスは局所的な防御魔法で≪ 剣聖 ≫とラスも守る。効果を短時間で局所化にすることによって、防御自体の上昇値は高くなる方法だ。相手のタイミングや狙いが読めないと使いにくい方法であり、防御の狙いを外せば無防備に攻撃を受けるために、普段からは使いにくい防御魔法だった。だが、今回は精度より防御力の堅さが優先される状況だった。

 結果的にこの判断がチャンスを作り出す。

 ≪ 剣聖 ≫を狙った攻撃は、ジーブルの局地防御壁の部分に当たり弾かれる。そして、一瞬のチャンスで≪ 剣聖 ≫は攻撃へ動く。動かずにチャンスを待っていた聖獣剣士もそれに合わせて動く。

 大魔獣はそれより先に攻撃しようと動いていたが、上空からのロルティの魔法の矢により、そのタイミングを逸した。そこから防御態勢を取ることは不可能だった。

 2体の聖獣による斬撃が炸裂した。大魔獣の大きな身体を切断する威力。

 ……のはずだった。

 確かに大魔獣の魔力を帯びた鱗は切り裂いた。そのまま肉体も切り裂けるはずの斬撃だった。だが2人のカタナは鱗の下の皮膚に止められていた。


 「!?」

 「ば、ばかな……」


 そんなはずがなかった。鱗により多少は防がれるかもしれないという可能性は考えていた。しかし、鱗自体は抵抗なく斬ることが出来ている。勢いも殺されていなかった。にも関わらず、皮膚の部分で止まっている2人のカタナ。

 その原因を考えている余裕は無い。大魔獣にとってこれほどのチャンスはなかった。自分に致命傷を与える可能性がある者が3人揃って目の前にいる

 致命傷を与えることができる程近い距離にいるのだから、それを逃すわけにはいかなかった。大魔獣は全力の反撃に出る。

 防御用のモノを一切残さずに、魔力を帯びた鱗の殆どを前方へ密集させて3人に向かって放った。

 再び防御魔法を飛ばすアミスとジーブルだったが、それで防ぎ切れる攻撃ではなかった。直撃を受ければ一枚でも致命傷になりかねない重さの鱗が何十枚も重なった塊りを、至近距離で受けて防ぎ切れるわけがないのだ。

 無情にもアミスとジーブルの目に3人が弾き飛ばされる光景が写る。

 ラスと≪ 剣聖 ≫の身体はアミス達の頭上を超えて、彼等の後方まで飛ばされ、聖獣剣士はアミスの目の前に落ちた。大魔獣の背後に居た≪ 炎獣 ≫と≪二角炎馬 ≫も大きなダメージを受けて、身を丸めている。後方に放たれた鱗の数は少なかったちめ、その程度で済んでいた。

 アミスとジーブルはすぐにそれぞれに駆け寄りたかったが、大魔獣がいつでも動けるような構えている姿を見て動きを止めるしかなかった。

 すぐに動かないのは、大魔獣にも余裕がないからなのだろう。それでも、アミス達が隙を見せれば構わずに突進してくるだろうことは予想できる。故に動けないアミス達。

 唯一動けそうなのは上空に控えるロルティなのだが、勝てそうな所まで行ってから予想外の防御によりひっくり返された状況を目の前に、動くことを躊躇っていた。

 倒れているメンバーが無事なのかは確認できない。少なくとも、戦力としては考えることはできない程のダメージを受けているのは間違いないだろう。

 大魔獣も消耗しているとはいえ、アミスとジーブルと自分の3人だけで勝てる相手とは思えなかった。


 (どうすればいい? 何ができる? 今のボクに何が……)


 絶望を感じていた。今まで感じたことがないものだった。そして、襲い来る後悔。なぜ、この遺跡に入ってしまったのだろう? 手に入れた情報だけでも危険なのは判っていた。それだけでも入るべきではないと判断できた。いや、少なくともあの転移の部屋を見た時に判断できたはずなのだ。

 久しぶりに見かけたアミスの姿に、冷静な判断力を失っていたのだろう。そして、そんな自分の判断に強い後悔をしている。

 ロルティは諦めてしまっていた。もうどうにもならないと……

 どうにかできるわけがないと……


 だが、残りの2人は違った。

 アミスとジーブルは諦めることはしなかった。まだ、仲間は生きていると信じている。そして、仲間を助けなければという思いが、恐怖や諦めという感情を上回っていた。

 そう、救うべき仲間がいる限り、アミスは諦めるわけがないのだ。どうにもならないと思ったとしても、どうにかしようと考える。

 それがアミス・アルリアという少年なのだから……

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