聖獣の心
登場人物紹介
☆アミス一行のメンバー
◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ
物語の主人公
複数の聖獣を使役する少年魔導士
見た目は完全な美少女
◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ
魔法生物化された魔法剣士
自分を魔法生物カさせた者を探している
魔法生物化されてる者特有の高い魔力を持つ
◎タリサ・ハールマン 20歳 女
元暗黒騎士団に所属していた女戦士
クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった
アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い
◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー
白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士
土系の精霊魔法も使う
アミスのことが好き
◎ジーブル・フラム 17歳 女
氷の神を信仰する女神官
ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ
◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男
仲間からサンと呼ばれている盗賊職
イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる。
本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……
☆他
◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族
聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年
今回のみ一時的に手を組むことになった
◎聖獣剣士
聖獣であることが発覚した名もなき女剣士
居合術が得意
◎≪ 剣聖 ≫ ≪ 炎獣 ≫ ≪二角炎馬 ≫
かつてアミスが使役していた聖獣
大魔獣の耳にもアミス達のやり取りは入ってきていた。そして、少なくとも複数の聖獣を使役できる少年魔導士が新たに現れた聖獣達とは契約できないことを聞いて、心の中で安堵していた。
そして、自分のその弱気な感情に気づき、代わりに怒りの感情が湧き上がってきた。強い魔力を感じていたとはいえ、かつて自分を封印した神々の使いに比べれば、その実力は高が知れていると思っていた。だが、そんな亜人種の集団に追い詰められていると感じてしまっている自分に対する怒りが大きかった。
3体の聖獣が加わったところで、普段の自分であれば歯牙にも掛けない存在と感じてたはずだ。だが、今、契約できないと聞いてホッとしている自分が居る。それは自分で自分のプライドを打ち砕いたような気持ちだった。
だが、それは認めなければならないと自分を戒める。これ以上、不覚を取るわけにはいかない。最悪、この者達の魔力を吸収できなくなる可能性も視野に入れて戦わなければならない。それを気にしていては、三度不覚を取る可能性があると考える。外の世界であれば、神々にも殺されない自信がある。だが、この空間ならば……この空間だからこそ、自分が殺される可能性があるのだから。
だからこそ焦りを抑えて、今は魔力の回復に努める。回復にあの魔力を使いたい気持ちを抑え、それを最後の切り札として残す為にゆっくりと回復するために瞑想を続けるのだった。
上空から見下ろす形で何も言わずにアミスを見下ろすロルティ。そんなロルティに対して、聖獣達は警戒を強めていた。
だが、目を向けられているアミスは、少し不思議そうな表情でロルティを見つめ返していた。聖獣達から敵意を向けられていても、そんなロルティから敵意が返ってこないからだ。何か悩んでいるようにも感じる表情だと思えた。
ほぼ警戒を解いていたアミスに向かって、ロルティが降下を開始する。
聖獣剣士と≪ 剣聖 ≫はカタナの柄に手を充てて、いつでも居合抜きできる態勢を取りながらアミスの前に出る。上空の2体の聖獣達もロルティへの警戒を強めながらその後を追う。
だが、アミスは警戒の態勢を取らない。ただ、不思議そうな顔でじっとロルティを見つめるだけだった。
タリサとリンも大魔獣への警戒心を残したまま、いつでもロルティへも対応できるように僅かに立ち位置をアミス寄りにずらした。
だが、そんな2人より疑り深く警戒心が強いラスも、アミスと同じように警戒心を見せることはなかった。
それに気づいたタリサは、少し意外な気持ちだった。今では自分に対する警戒心は無くなっていたが、そうなるのに1年間費やした。それを考えると、今の状況でロルティを警戒しないのが不思議でならなかった。
2体の聖獣を挟んでアミスの前に降りてきたロルティは、少しバツが悪そうに視線を逸らすとボソリと言葉を放つ。
「教えて欲しい」
何を教えて欲しいのかわからなかったアミスは、不思議そうに首を傾げる。
「今の魔法を教えて欲しい……」
「今のって……名前の？」
戸惑いながら訊ねるアミスに、ロルティはやはり目を逸らしながら頷く。
「≪ 二角炎馬 ≫は先にボクが契約していたからね」
アミスとロルティが最初に交戦した時に≪ 二角炎馬 ≫と契約していたのはロルティの方だった。つまり、先にロルティが名付けた名前があるということだ。その事を失念していたアミスは、少し申し訳なさそうに≪ 二角炎馬 ≫に視線を送った。ロルティがその聖獣の名を呼ぶことをしなかった為に完全にそのことを忘れていた。ロルティを一度倒した時に、彼が死んだと思っていたアミスは、普通に再契約をした。実際にロルティの首が落とされた時に、契約自体も一度切れていたようで、普通に契約できた。故に、聖獣に詳しいはずのアミスもその可能性を失念してしまったようだった。
「ロルティさん、それって……」
命名による縛りを解除しようとしていることだろうことがわかる。だが……
「お前まで、そんなことを？」
と、訊ねたのはラスだった。
ロルティに敵意がない事に気づいていたラスは、2人のやり取りに口を挟むつもりはなかった。だが、ロルティの思いもよらない思考に、思わずに口が出てしまった。
「どっちにしても、ボクはもう契約できないからね」
「だが……」
確かにロルティが普通の聖獣と再び契約できるようになる可能性はゼロに近いだろう。だが、アミス自身は諦めていたが、ラスはアミスなら再度契約できるようになる可能性はあると思っていた。それはラスだけでなくロルティもそう思っているだろうことは予想できる。本来は敵であり、再戦することは間違いないであろうアミスが再契約した時に、その力を100％発揮できるようにすることになる命名解除の魔法。ロルティがそういった行動を取ろうとしている事が、ラスには信じられなかった。
自分の力や知恵を用いてアミスを倒すことにこだわるロルティは、策は労するが不意打ちや騙し討ちをするタイプではなかった。ラスもそれがわかっていたからこそ、今回の同行を認め、今も必要以上の警戒をしていない。
だからと言って、今回のことは意外としか思えない考え方だった。
「ボクだって自分の聖獣を大事にしてないわけじゃないよ。ま、勉強不足からの行動で聖獣と契約できなくなったけどさ……。アミスの力を削ぐためだっただけで、聖獣自体に害を加えようとしたわけじゃない」
ロルティはずっと後悔していた。自分が3体の聖獣にしてきたことを……。人間にも魔族にも仲間を持たないロルティにとって、仲間と呼べるのは聖獣だけだった。一年前にアミスの聖獣達に取った行動も、その後自分の仲間にする気持ちがあった上でのこと。
「だから、せめてもの償いとして、100%の力を出せるようにしてあげたいと思っただけだよ……」
(それが敵の力になる可能性があったとしても……)
最後の言葉を口に出さなかったのは、ロルティの照れだったのかもしれない。らしくない優しさを見せる事が恥ずかしかったのだろう。
「……」
「ダメかな？」
見た目だけなら、ロルティはアミスより年下に見える。パッと見るだけなら、12〜13歳といったところどろう。だが実際にはアミスパーティー内で最年長のラスよりも上であり、普段から少年っぽい口調で喋りはするが、感じ取れる印象は年相応に感じる雰囲気だ。
だが、今の遠慮気味に訊ねる姿は本当に少年のそれにしか思えないものだった。
「わかりました」
満面の笑みでそう返すアミスに、ロルティは照れ笑いを浮かべながら
「ありがとう……」
と、感謝の言葉を口にした。
そんなやり取りを見て、≪ 剣聖 ≫は柄から手を離して警戒態勢を解いた。そんな≪ 剣聖 ≫の動きに、他の聖獣達は戸惑っている様子を見せる。それでも、憎むべき相手に対しての警戒は継続していた。
「えっと……≪ 剣聖 ≫さん」
かつての主人から呼ばれた聞き慣れない呼び方に、一瞬躊躇いはしたが、彼はすぐに真剣な表情に戻ってアミスの言葉を待った。
「僕以外となら契約できるんですよね？」
「……」
再び驚きへと表情を変えるが、すぐにその言葉が意味することを理解し、ゆっくりと頷いた。
「それなら、お互いに問題なければ、ラスと契約するというのはどうでしょうか？」
それに対して、≪ 剣聖 ≫以上に驚きを見せたのはラスと聖獣剣士の2人。
「お前、何を……」
戸惑うラスと、少し悲しげな表情を浮かべる聖獣剣士。
「僕が再契約できるなんていつかわかりません。いえ、できるようになる可能性は低いと思います。それなら、空いている聖契石があるラスが契約すると大きい戦力になると思うんです」
アミスのその考えに間違いはないだろう。他の者に譲るくらいなら仲間であるラスに使ってもらいたいというアミスの心情も理解できた。それでも、ラスも≪ 剣聖 ≫も、そして、聖獣剣士も納得しきれない気持ちになっていた。特に≪ 剣聖 ≫がアミスとの契約が無くなったことでらしくない程に落ち込んでいたことを知っている聖獣剣士は、怒りすら覚える提案に思えた。
「なるほど……」
≪ 剣聖 ≫は未だに動きを見せない大魔獣へ視線を送りながら考える。それはそれ程長い時間にはならなかった。
「アミス殿……提案はありがたいのですが……」
と、首を横に振る≪ 剣聖 ≫に、アミスは残念そうな表情を見せた。それに対して聖獣剣士が再び不満の言葉を口に出す。
「やはり、貴方は何も判っていない。私達聖獣について知識は多く持っているかもしれない。そして、優しさも持ち合わせているかもしれない。でも、やっぱり、聖獣のことを駒として考えている所がある。そういった所は、他の冒険者と変わらない……」
「え？ そんなことは……」
「そうやって師匠を他の人と契約させたいのは、この状況を切り抜ける駒として、出来るだけ力を高めるため。その考えに師匠の気持ちは必要ない時思っている」
「いや、僕はもし良ければと……」
「いえ、師匠が将来貴方の聖獣として戻りたいと思っていると言ったはずです。それを聞いた上で他者と契約しろってことはそういうことなんです。口では気持ちを理解してくれるような事を言っても……」
「やめんか！！」
師匠からの怒号により、彼女の言葉が漸く止まる。
「わしの気持ちについて語って良いのはわしだけだ。お前が口を挟む事ではない」
≪ 剣聖 ≫自身にそう言われたら、聖獣剣士はもう言葉を続けることはできない。言いたい事はまだまだあったが、もう言うわけにはいかない状況だった。
師匠の事をどうにかする権利はない。だが、それでも彼女は１つの決断をする。本来ならばここに来た目的。それを忘れる事を決めたのだ。あとはただ、この場を切り抜ける為に、今回のみの協力関係を続けるだけだ。本来なら続けたかった関係をここで終わらせるだけだった。
「アミス殿、申し訳なかった」
「いえ……」
アミスはそんな短い言葉しか返せなかった。聖獣剣士の言葉を気にしているのは明らかであり、≪ 剣聖 ≫は何か言葉をかけようと思ったが、その出かかった言葉を飲み込む。
どちらにしてもアミスの提案を受ける気はないのだから、必要以上の慰めはしてもそれ何の効果も持たないだろうと思ったからだ。
(ここでお別れなのだろうな……)
この特殊な空間だからこそ、人界と聖界との狭間にあるこんな空間だからこそ、出会い会話を交わす事ができた。それぞれが帰る世界へと戻れば、もう出会う事すら出来はしないだろう。故に、
ここで未練を断とう。
と、決断した。
アミスもその落ち込んだ気持ちを切り替える為に、意識を別のことに移す。ロルティに目を向け、出来るだけ心を落ち着けながら、彼に【 命名解除 】の魔法を教えた。
ロルティは教わったその魔法の呪文の詠唱をすぐに開始し、かつて自分が≪ 二角炎馬 ≫に付けた名前を取り消すのだった。
「さて、後はアイツを倒すだけなんだけど……」
「言うのは簡単ですけどね」
ロルティの言葉にアミスは苦笑いを浮かべながらそう返す。やはり、元気がないように感じる。だが、かける言葉は誰にも浮かんでこなかった。聖獣剣士の言葉を否定できるのはアミスだけであり、そのアミスが黙ってしまった以上、何を言っても意味がないと誰もが思えたからだ。
「通じる攻撃は、先程の攻防で効果があった２つ」
「いや、≪ 剣聖 ≫の斬撃も充分な威力があると思うよ」
その攻撃を実際受けたことのあるロルティの言葉には説得力があった。
「ですね。問題は、それをどうやって当てるかですね」
切り札になり得るのは、ラスの作り出す魔力の槍と≪ 剣聖 ≫と聖獣剣士の斬撃。
リンの全力攻撃でも多少のダメージなら与える事ができるが、致命傷はまず無理。
それは≪ 水霊 ≫、≪ 氷霊 ≫も同様だろう。
これらの攻撃を組み合わせながら、確実にトドメの一撃を与えなければならない。
次のチャンスを逃せば、そこで終わりだろうと思えた。
それは大魔獣側から見てもそう思える事。次の攻防を凌ぎ切れば大魔獣の勝ち。だからこそ、今までで1番慎重な心持ちで大魔獣は獲物達が動くのを待つ。
そして、アミス達の作戦が決まる。
陣形を作り直すアミス達に反応して、大魔獣の目がゆっくりと開かれる。それに気づきながらも、アミス達は気にせずに動く。
敵が再び大魔獣一体だけになったことにより、前衛、後衛、上空という3つに分かれた形となる。
前衛にタリサ、リン、聖獣剣士、≪ 剣聖 ≫。
後衛にアミスとジーブル。その後ろに未だに意識を取り戻していないサンとそれを守る形のラス。そして、アミスに呼び出された5体の聖獣が後衛の4人を囲む。
そして、上空にロルティ、≪ 炎獣 ≫、≪ 二角炎馬 ≫
という形となった。
アミスとジーブル、そして、≪ 白翼天女 ≫、≪ 風の乙女 ≫による各種防御魔法により守りを重点的に固める。ラスはその後ろでいつでも魔力の槍を作り出せるように集中して魔力を溜めている。
後はそれぞれが流動的に動きながらチャンスを待ち、それを生かして作戦を実行するだけ。
そして、大魔獣はそれを凌ぐ為に、慎重に警戒を強めるのであった。
