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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
134/144

命名という縛り

登場人物紹介

☆アミス一行のメンバー

◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士

 見た目は完全な美少女


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 自分を魔法生物カさせた者を探している

 魔法生物化されてる者特有の高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった

 アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 土系の精霊魔法も使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 仲間からサンと呼ばれている盗賊職

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる。

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……


☆他


◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族

 聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年

 今回のみ一時的に手を組むことになった


◎聖獣剣士

 聖獣であることが発覚した名もなき女剣士

 居合術が得意


◎≪ 剣聖 ≫ ≪ 炎獣 ≫ ≪二角炎馬 ≫

 かつてアミスが使役していた聖獣

 それぞれ、ラグナー、ガラコ、リンクの名をアミスから与えられていた

 「何とか間に合いましたな……」

 

 そう呟いたのは間違いなく≪ 剣聖 ≫だった。アミス・アルリアがかつてラグナーと名付けた聖獣。アミスと契約してたのだが、とある理由で失うことになってしまった聖獣だった。

 アミスは自分の杖に埋め込まれている聖契石に目を移した。契約済みの色に変わっている石の数は変わっていない。つまり、現在は≪ 剣聖 ≫とは契約状態にはなってはいないということだ。


 「じゃ、何でここに……?」


 目の前にこの聖獣が居るのがわからなかった。ただ、彼が自分を助けるためにその場に現れたということだけはハッキリと判る。


 「わしだけじゃない……」


 そう言うと≪ 剣聖 ≫は笑みを浮かべる。そして、それと同時に上空から感じる熱源にアミスは気づく。だが、その熱源に視線を向けることはしなかった。その感じられる熱源が何を表しているすぐに判ったから……。

 そして、今それを確認するより、()()の聖獣が現れて一変したこの状況を活かすために動くことにする。

 

 「シルア! クリス!」


 アミスが2体の聖獣の名を呼ぶと、≪ 水霊(シルア) ≫、≪ 氷霊(クリス) ≫の2体がアミスのすぐ目の前に現れる。主人が口に出さなくても聖獣に意思は伝わる。2体の聖獣が生み出した2本の剣が1体の魔獣に向かって放たれる。聖獣剣士の相手をしていたその魔獣は咄嗟に躱そうとしたが、それは誤った判断。

 先ほどその2本の剣が炎の壁により塞がれたのを見ていた事が、逆に仇となったのだ。

 まっすぐ飛んできていたはずの剣が突然消える。回避行動に出ていた魔獣の驚きという感情は、すぐに消え失せる。頭部と首に受けた剣により一瞬で絶命していたからだ。

 大魔獣の心から冷静さが消え焦りが生まれる。それでも咄嗟に近くにいる者へと攻撃する為に動き出す。このままではこちらだけが戦闘の駒を失うことになりそうだったからだ。戦況が止まる前に少しでも敵を排除しなければならないと判断しての動きだった。だが、判断する速さで負けていた。

 既に再度強化半獣状態になったリンの攻撃の方が早かった。それを咄嗟に右前足止めながら、倒れていたサンとそれを庇うタリサに向かって左前足を振り落とした。流れが変わりそうな状況だった。だからこそ、その攻撃には多量の魔力をこめた。庇うという行動を取っている女戦士が回避という行動を取らないとわかっているからこそ、2人まとめて叩き潰せるだけの威力を出すことに回復しきっていない魔力を使用した。

 だがしかし、ここが大事が場面だと判断したのは大魔獣だけではなかった。大魔獣よりずっと早くにそう判断していたタリサは、既に聖獣≪ 聖牙狼 ≫の魔力を自身の防御力強化へと還元していた。それはアミスに教えてもらった聖獣の使い方だった。使役している聖獣の性能をそのままで考えれば、攻撃かそれに近い使い方しかタリサの頭になかった。だが、アミスが教えてくれたのは、それだけではなかったのだ。

 普通なら人間の力では防ぎきることのできない大魔獣の強力な一撃。確かにタリサにはそれを完全に防ぐことをできなかった。だが、潰されるような体勢になりながらもギリギリの所で気を失って動けないサンにはその鉤爪を届かせることはしない。


 「なっ!?」


 あり得ないという考えが、大魔獣の動きを一瞬止めた。そこへリンの攻撃が再度襲いかかる。リンは敢えて大魔獣の身体ではなく鉤爪を狙う。魔力を先程の攻撃に使っていた魔獣はその攻撃を完全に受け止めることはできずに、そのままバランスを崩して吹き飛ばされる形で後ろに倒れ込んだ。

 慌てる大魔獣は、身を丸めて防御に集中する。防御に集中すれば攻撃を凌げると判断。逆に相手に魔力を無駄遣いさせようと思惑もあった。だが、いつまで待っても更なる攻撃が大魔獣に向けられることはなかった。

 大魔獣は慎重に相手の魔力を探りながら、身を起こした。そして、目を向けた光景に驚愕する。


 (全滅……だと……?)


 信じられない状況だった。自分が防御に集中していたのは、ほんの短い時間だったはずだ。そんな短時間の間に、残った魔獣が全て倒されていることに、大魔獣の理解が追いついていない。


 「き、貴様ら……」


 大魔獣は混乱気味の頭を落ち着けさせながら全体を見渡す。

 タリサ、リンの2人が大魔獣に対して警戒していた。タリサの身を包んでいた聖獣の魔力は既に消えており、リンも通常の半獣人状態に戻っている。だが、その目つきは、大魔獣が攻撃を躊躇うほどの闘気を帯びていた。

 その後ろでサンの治療を行うジーブルと≪ 白翼天女 ≫。そして、他の者達はそんな治療を見守っている。

 ロルティは上空に浮いたままだが、その横には大魔獣が見たことのない2体の聖獣が居る。

 その2体も元々アミスの聖獣だったことは大魔獣は知らない。だからこそ、その状況を理解することが出来ないでいた。

 いや、元の主人であるアミスも理解し切れてはいない。ただ、助けに来てくれたという事しか……

 戸惑う大魔獣がすぐに攻撃には出てこないと判断したアミスは、視線を助けに来てくれた聖獣達に向けた。聖獣達もその瞳を見つめ返す。


 「師匠……なんでここに……?」


 アミスが訊ねるより先に口を開いたのは聖獣剣士だった。その視線は≪ 剣聖 ≫へと向けられている。


 「師匠?」

 「ふぅぅぅ……」


 一堂の視線が自分に向けられることを感じ、≪ 剣聖 ≫は深い溜息を吐き、そして……


 「お前が馬鹿すぎて動かなければならなくなっただけだ」

 

 と、聖獣剣士へと言い放った。


 「ば、ばかって……」

 「ただ、お前を諦めさせる為に言っただけだということを理解できずに、本当にあやつを倒しに来るとは……、馬鹿としか言えまい」

 「な……!」


 文句を返そうとする彼女から視線を外して、≪ 剣聖 ≫はアミスへと目を向けた。


 「ま、結果的に、アミス殿を助ける結果になったのは幸運でしたが……」

 「……」


 アミスにも訊きたいことはあった。だが、今は2人の会話の邪魔をするべきではないと思い、黙って2人のことを見つめていた。


 「ふぅ、とりあえず、これで大丈夫だと思います」


 ジーブルの言葉で視線がサンへと移し安堵の表情を浮かべるアミス。

 

 「完全に傷が塞げてるわけではないですけどね。傷がアンデット魔獣の魔力を帯びて治療魔法を中和してるので、現段階ではこれ以上の治療は無理です。それでもラシェールさんのおかげで止血はできましたし、これ以上悪化することは無いと思います」


 大魔獣の魔力により作られたアンデット魔獣が思ったよりやっかいな相手だったようだ。

 普通のアンデットと同じように考えていたことを反省するアミス。本来なら魔導士である自分が気づかなければならない立場だったと思っていた

 

 「それより……、なぜ奴がいるのですかな?」


 会話が止まった所で≪ 剣聖 ≫がそう訊ねた。()とはロルティの事。2体の聖獣≪ 炎獣 ≫と≪二角炎馬 ≫がロルティの横に控えているのは、ロルティを警戒してのこと。≪ 剣聖 ≫の意識も大魔獣よりロルティへの警戒の方が強かった。


 「なるほどね……」


 3体の聖獣に向けられている敵意で、ロルティはようやくこと次第を理解した。


 「なんで初対面の聖獣に憎まれているのかと思ったら、≪ 剣聖 ≫の弟子だったとはね……」


 その口元には笑みが浮かんでいた。まるで馬鹿にしているかのような笑みが……

 それに気づき、聖獣達が殺気を帯びる。

 

 「やめてください」


 アミスが静かな声で静止の言葉を放った。


 「今は争っている場合ではありません」


 と言うと、アミスは視線を大魔獣へと向けた。

 大魔獣は魔力の回復の為に目を閉じて瞑想していた。一見、隙だらけのように見えるが、ここまでその大きな身体に似付かない慎重さを持った大魔獣が、備えなしに敵を目の前に隙を見せるとは思えないので、攻撃を仕掛けるつもりにはなれなかった。

 

 「ボクの方には元から争う気ははないよ」

 「なら、挑発するな」


 ラスのツッコミの言葉に、ロルティは首をひそめておどけて見せる。どう見てもそれも挑発行為に見えるが、ラスはそれ以上は何言わなかった。これは指摘しても治らない性分というやつなのだろうと判断して。


 「さて、どうするか……」


 悩むラスの横で、アミスが聖獣達に訊ねる。


 「このまま、力を貸してもらえるんですか?」

 「そのつもりです」


 ≪ 剣聖 ≫が答える。その声は思ってた以上に穏やかで優しい声だった。アミスと契約している時は一言も口を開かなかった為、今回初めて聞いたその声に心が落ち着かされている気分だった。


 「どちらにしても、この空間に入ってしまったからには、アレを倒さなければ出られませんからね」

 「やっぱり、倒さないとダメなんですね……」


 アンデット魔獣を殲滅して、更に戦力が増えたこの状況でも、アミスには大魔獣を倒せる方法が浮かばなかった。

 

 「まだ、再契約はできないんですよね?」


 無理だと思っていたが、念のために確認するアミスに、≪ 剣聖 ≫はゆっくりと首を横に振る。

 アミスの知識では、2度と再契約はできないはずだからだ。それでも気持ち的に確認しないわけにはいかずに、思わず出た言葉だった。


 「契約の力は返されましたが、アミス殿とは……」

 「やっぱり、そうですか……、なら……」


 答を確認してから、アミスは決断する。

 小さな声で魔法の詠唱を始めるアミス。それが何の魔法か誰もわからなかった。ただ、使われている単語から聖獣か聖界の力に関係する魔法だと聖獣達には予想ができた。

 詠唱が終わり、アミスの魔法が発動すると、≪ 剣聖 ≫、≪ 炎獣 ≫、≪二角炎馬 ≫、3体の聖獣が光を帯びる。何が起こったか戸惑う聖獣達だったが、その光は

すぐに収束したが、それでも魔法の効果を理解できなかった。


 「これで、僕の名前に縛られることはありません」

 「え?」

 「僕の名前の効果が残っていました。あのままでは他の人と契約しても100%の力は発揮できませんからね」

 「アミス殿……」


 アミスの説明に≪ 剣聖 ≫は戸惑いを隠せなかった。複雑な表情を浮かべる彼の代わりに口を開いたのは弟子である聖獣剣士だった。


 「それは、もう師匠の事を必要としてないということですか?」

 「え?」

 「師匠はいずれ貴方の聖獣として戻れることを願っているんですよ」


 聖獣剣士の剣幕に、今度はアミスが戸惑う。そんな2人の間に慌てて入る≪ 剣聖 ≫。


 「よさないか! 契約する聖獣を選ぶ権利は契約者の方にある。それは複数の聖獣と契約できるアミス殿であっても代わりはしない。それなのにその様な事を言うとは……」

 「で、ですが……」

 「ですがではない! その様な事を言うことで、心優しいアミス様は嫌でも契約しなければいけない気持ちになるのだぞ。お前はそれがわかって言っているのか?」

 「……」


 聖獣剣士は気付かされた。アミスの心の優しさは聞いていた。更に少しだけでも一緒に行動して、それを自分でも感じ取って本当のことであると実感していた。彼女は素直に反省する。それでも、師匠の気持ちを考えると、どうにかしたいという気持ちを消すことができないでいた。


 「契約を……」


 気まずくなった空気の中、口を開いたのはアミスだった。


 「僕は契約する相手を選ぶ権利は、お互いに持ってなきゃいけない思います」


 必死に考えて出した口に出した言葉。それはアミス自身の考えだった。契約するだけならルールを破らない限り、術者側からの呪文により行うことができる。

 つまり、契約の選択権は契約者側にあるというのが一般的な考え方だ。

 それは、既に聖獣と契約しているタリサやリンも思っていたことであり、聖獣側もそれが当然だと思っていた。だからこそ、アミスのその言葉は聖獣達に驚きを与えるものだった。


 「僕もまた契約したい気持ちがないわけではありません。でも、もしかしたら、もっと良い契約者に出会えるかもしれないじゃないですか? その時に僕の名前に縛られてちゃんと力を発揮できないのは良くないと思って……」


 真剣に、そして、必死に自分の気持ちを伝えるアミスの姿に、誰も口を挟むことができない。


 「だから、一度リセットさせてもらったんです。けして、みんなと再契約したくないわけじゃ……」


 と、申し訳なさげに俯くアミス。聖獣剣士もそんなアミスの表情を見て、彼が言った言葉に偽りがないと感じ、自分の放った言葉が本当に失言だったのだと実感させられていた。

 だが、アミスはすぐにその表情を変える。それは決意の表情であり、その目は大魔獣へと向けられた。


 「今は、あの魔獣を倒すのが先決です。力を貸してください」

 「もちろんです」


 ≪ 剣聖 ≫がすぐにそう返答した。それに対して他の者達も続けて頷いた。ただ1人を除いて……

 ただ1人、半魔族の少年だけが、黙ったまま上空からアミス達を見下ろしていた。 

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