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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
133/162

予期せぬ者の助け

登場人物紹介

☆アミス一行のメンバー

◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士

 見た目は完全な美少女


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 自分を魔法生物カさせた者を探している

 魔法生物化されてる者特有の高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった

 アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 土系の精霊魔法も使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 仲間からサンと呼ばれている盗賊職

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる。

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……


☆他


◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族

 聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年

 今回のみ一時的に手を組むことになった


◎聖獣剣士

 聖獣であることが発覚した名もなき剣士

 居合術が得意

 事態は絶望的と言っても良い状況だった。

 倒したと思っていた魔獣1体だけでも、充分に絶望感を感じる相手であり、全員がその1体に集中したとしても再度倒すことができるかもわからない程だ。にも関わらず、無数のアンデット魔獣を同時に相手しなければならない。

 アンデットとして復活した魔獣の中には飛行能力のあるものが3体おり、それらは既に上空に浮くロルティを囲み込んでいた。

 元々は敵であり信用ならないとはいえ、今は共に戦う仲間であるロルティ。ラスが今は共に陣形を取って戦うべきだと思ったのも遅く、こうなってしまっては、空中の敵を任せるしかないだろう。


 ラスは考える。


 (まずは包囲を突破して壁の側まで行って壁を背にして……)


 最初に思い浮かんだその案には問題点が多いことに直ぐに気づく。

 1つ、壁までの距離があまりにも遠すぎること。4本足で走るタイプばかりの魔獣相手に、全員がそこまで逃げ切れるとは思えなかった。

 そして、もう一つ。親玉の魔獣が強力なブレスを持っているということ。壁を背にそんなものを受ければ、壁からの返しにより、ブレスの熱が倍加されてしまうことは想像に容易い。元々、ブレスは室内で受けるのは危険な攻撃であり、今いる部屋の広さにより、ブレスを吐かれたとしてもなんとかできる可能性があるだけで、その優位性を手放すのは得策ではないのがすぐに判ってしまう。

 そう考えると包囲された状態での戦いをせざるを得ないことになる。


 (アミスとジーブルを残りの5人で囲むしか……)


 それしかないのだが、それにも問題点はある。

 まずは盗賊職のサンが魔獣を相手にするには向かない事。回避を防御手段の主に置く彼には、後衛への攻撃を防ぐという役目が難しい。かと言って遊撃として複数の魔獣相手をさせる程の回避力を持ち合わせているわけではない。そこまでの回避力を持つ存在なんて現実的なものではない。

 

 (ある程度のダメージを受ければあるいは……、いや……)


 サンが持つ特殊能力がラスの頭を過ぎる。

 だが、それもすぐに否定するしかなかった。あまりにも不確かな能力であり、期待の通りにその能力を発揮するかが予測つかないからだ。

 それは血を流せば流すほど、高まる身体能力。

 精霊力なのか聖界の魔力なのかはっきりわからないが、出会った当初からサンの身体からは特殊な力を感じられていたのは確かであり、ほぼ間違いなくそれが関係していると思われたが、聖獣に詳しいアミスの知識にもそんな情報はなく、立ち寄った大きな町で文献などを求めて調べもしたが、結局それかもしれないと思える可能性すら手に入れることはできずにいた。

 それに気づいてもいなさそうなサン本人には当初は秘密裏に調べていたが、どうにもならずにそのことを本人にも話したのが半年前のこと。それからは本人の過去の話も聞きながら更なる調査を行ったが、結局わからないままだ。

 ただ、魔法などの知識の宝庫である魔術師ギルドには相談することはしないという結論に至っていた。

 12体の聖獣と契約できるアミス。

 感情を持ったエンチャントドールであるラス。

 この2人にサンを加えたこのメンバーで魔術師ギルドに行くのは危険なこと。

 未知な力や能力のことを知れば、色々調べられるだろう。魔術の研究家の中には未知なる知識を得るためには、犠牲が出る事も辞さないような危険な思想の者もいると聞く。

 ただでさえ、既におかしな敵が存在しているのだ。これ以上やっかいな者に目をつけられるのは避けたかった。その為、自分達だけで調べることに決め、未だに不確かな情報しかない待てないでいる。

 1つ判ったこととしては、自傷など、わざと付けた傷には反応しないということ。敵や魔物を相手にわざと攻撃を受けるなんて大きなリスクのあることをするわけにもいかずに、サンが傷を負ったときにチャンスがあれば調べる程度にしかできはしないため、未だに詳しいことはわかっていない状況だった。

 そんな不確かなモノを戦力として期待するわけにはいかなかった。



 ラスの考えが纏まるより先に、魔獣達が一斉に動き出した。結局、ラス、タリサ、リン、聖獣剣士の4人でアミスとジーブルを守る陣形を取り、サンは遊撃状態で各員の動きにより開いた隙を埋める役目に入った。

 陣形の中央ではアミスとジーブルが背中合わせの状態から、各員の支援に回った。

 ジーブルはまずは各員に個別に防御魔法をかけて、それからアミスと自分を中心とした防御結界をはる。 先程までの防御主体の戦い方とは異なり、体力に余裕があるうちに敵の数を減らさなければならない状況

と見て、前衛のメンバーの攻撃の支障にならないように、ジーブルは敢えてそのように防御結界を張ったのだ。

 アミスは今回は最初から5体の聖獣を呼び出した。出し惜しむ余裕は無いと判断してのことだった。幸いにこの空間であれば同時召喚による精神的負担が減っているために、普段では短時間しかできない5体の呼び出しをある程度の時間することが可能になっていた。

 それでも負担が小さいわけではないため、少しでも減らすために自らは魔法を使うことを控えて、聖獣操作に集中することにしていた。

 ブレス対策の為に、大魔獣が居る方向にだけ≪ 風の乙女(セラリス) ≫による風の防御壁を作り、他のメンバーには≪ 魔女(ニーネル) ≫に個別で強化魔法をかけさせる。

 そして、≪ 白翼天女(ラシェール) ≫には、1人上空で孤立してしまったロルティへの防御支援を一任する。完全に単独で動くようにするため、再度使役状態にしない限り、アミスの任意で彼女の魔法を使うことはできなくなり、余分に精神力も消費してしまうが、代わりに上空まで意識を回す必要はなくなり、地上の戦いに集中できるようになる。防御の主力である彼女の神聖魔法をそちらに取られるのは正直作戦的に痛かったが、今はロルティも大事な戦力であり、彼を失うわけにはいかないとうのがアミスの考えだった。

 残りの2体の聖獣により攻撃支援を行う。

 それに集中するための、≪ 白翼天女 ≫個別行動に回したのだ。まずは敵の数を減らすことを最優先に考えて……



 幸いな事に、親玉である魔獣は積極的に戦闘に参加してきていない。その理由は定かではない。まだ回復しきっていないのか? その大きさにより他の魔獣の連携しにくいと考えてなのか? それとも、何か策略があるのか……

 完全にそちらへの警戒を解くわけにはいかなかったが、それでも1番やっかいな敵を相手にしなくていいことにより助かっているのは事実だった。

 それでも、やはりこの数の魔獣達の相手は簡単ではなかった。アンデットである為しっかりとした思考ができないのか、連携と呼べる行動はしてこなかったが、個々の戦闘力が高く、すぐに倒すことが叶わない。更にアンデット故の痛覚の無いためなのかそれらの攻撃に躊躇いというものが無い。多少のダメージを気にすることのない連続攻撃はやっかいなものだった。

 

 「仕方ないか……」


 このままではジリ貧になると判断したリンが動きを見せた。自分がいた場所を一時的にサンに任せて、集中に入る。


 「まさか、変化するのか?」


 リンは聖獣≪ 聖牙狼 ≫の力により身体への負担少なく安定した半獣人化していた。だが、それでは力が足りないと判断し状況を打破するために、≪ 聖牙狼 ≫の魔力を更に開放させる。


 「ゔゔゔゔゔぅぅぅぅぅ……」


 リンの呻き声が漏れる口の中で食いしばった犬歯が鋭さを増し、手足の爪が鋭く伸び始め、見える肌に白い体毛が生え出す。だが、すぐにその白に黒い色が混ざり始めた。リンの元々の白虎の毛に、聖獣の黒狼の毛が混ざり合ってるのだ。身体全体が一回り大きく膨張し、瞳から黒目が赤く色を変え、リンの身体の変化は完了した。

 そんな変化を見届けた一行は、リンの動きを待つ。その形態に変化してしまった以上、それに合わせて戦闘を再開するしかない。

 待つというほどの時を置かずに、リンは動き出す。その動きは魔獣達にとって予想以上のものだった。いや、アンデットである魔獣達は予想というものをしないかもしれない。ただ、少なくとも即対応できるスピードではなかった。最初にターゲットになった魔獣の頭は何もすることも出来ずに切り落とされる。


 「!?」


 予想外過ぎるその動きの速さに、大魔獣は驚き、すぐに動き出さざるえなかった。だが、対応が遅れ2体目魔獣の頭もリンのヘヴィランスによって叩き潰される。重量のある武器であるとはいえ、本来は突いたり斬り払うための武器であるヘヴィランスにより、叩き潰されるという光景は大魔獣にとっても驚愕するものだった。単純な攻撃力では自分の遜色ないだろうと認めないわけにはいかないほどの……

 だが、大魔獣は冷静だった。そんなリンの力を分析し、ここまでその力を使わなかった理由をすぐに理解する。そして、その動きを冷静に見極めて、3体目の魔獣が倒される前にその動きを止めることに成功する。

 大魔獣の鉤爪により武器の動きを止められる形となったリン。それでも一瞬大きなその鉤爪ごと押し返されそうになり、大魔獣の心に浮かび上がる焦りという感情。

 だが、すぐにリンがその武器にかけられている力を緩め、それによってわざと吹き飛ばされるように跳んで大魔獣との間合いを広げる。着地した時には元の姿に戻っており、


 「やはりな……」


 大魔獣は自分の予想が当たっていたことに、満足そうに小さく笑い声をあげた。

 

 「やはり、あの姿を維持することがキツいのだな……」

 「まあね……」


 リンはバツが悪そうに頭を掻きながらそう返した。消費しきってしまってはまだ続く戦いの支障になると考えて余裕があるうちに元の姿に戻っていた。それでも、肩で息をしていて疲労の色が周囲の目からも見てとることができた。消費してしまったが、それでもアンデット化した魔獣の数を減らすことができたことは大きかった。大魔獣から見てもそう感じられたが、まだ魔獣側の優位は揺るがないだろう。未だにアンデット魔獣は7体いるのだから……

 それがわかった大魔獣の心に少しのゆとりと同時に僅かな油断を生んだ。だが、それは一瞬のことであり、すぐに1人の姿が消えていることに気づく。

 僅かに焦りを見せながら、その消えた存在を探したが、大(・)魔(・)獣(・)には見つけることができなかった。

 その事がわかった彼はそのチャンスを逃すまいと攻撃の為に大魔獣へと近づいていった。だが、それは彼の方の油断だった。確かに大魔獣は彼の動きがわからなかったのは事実だった。気づかれないように気をつけながら、彼は自身が持つ武器の中で1番大きく威力のある投槍を大魔獣の頭部に投げつけようと狙いをつける。隠し持っていたそれは貫通系の魔力を帯びており、それならば防御の魔力を突破出来るはずであり、致命傷にならなくても状況を好転させるきっかけになるという目論見があった。

 だが、サンはそれを投げることは出来なかった。

 サンが消えたことに大魔獣が気づかなかったように、その存在が消えていたことにサンもアミス達も気づいていなかったのだから……

 急に目の前に現れる一体の魔獣。アンデット化された魔獣の中で、もっとも人型に近かったその魔獣は驚きの表情を浮かべるだけしか出来ないサンの身体を、その鋭く長い爪で肩口から斬りつけた。

 その場に居た全員が驚きの表情を浮かべたまま、動きを止めていた。それはアミス達だけでない。大魔獣もそうだった。攻撃の範囲内で倒れたサンを追撃するのが遅れたことが、タリサの盾による防御を間に合わさせたからだ。

 だが、それはアミス達の防御陣形を完全に崩してしまった。魔獣達はこれがチャンスと動き出す。これまでいっさい見せてこなかった確かな連携を見せてくる。

 一体が無数の魔法の矢を生み出しロルティに向かって放った。その数の多さにロルティは防御に徹して、それをいなしたが、その魔法の矢のターゲットはロルティだけではなく、疲労から僅かに行動が遅れたリンの足止め目的もあったのだ。

 続いて大魔獣が咆哮する。

 強い魔力を帯びたそれをまともに受けたら一瞬とはいえ、動きを止められてしまう。それを防ぐために≪ 白翼天女 ≫が防御魔法でそのエネルギーを相殺した。

 そこへ残りの魔獣が前衛に守られていたアミスとジーブルへと狙いを定める。上空から襲いかかる2体の魔獣を≪ 水霊 ≫、≪ 氷霊 ≫で抑える。それぞれが水剣、氷剣を使って反撃で倒そうとしたが、魔獣側も元々牽制だけのつもりだったのか、反撃に出る前に詰めかけた間合いを再び広げる。それでも≪ 水霊≫、≪氷霊 ≫は倒せる間合いだと、判断して剣を飛ばしたが魔獣の手前に生まれた炎の壁により、剣の勢いが殺されてしまい魔獣には届かなかった。

 それを見ていた大魔獣は、それらの聖獣達が自分が思っている以上の力を持っていることを教えられた形となった。昔では考えられないほどに人間達も聖獣達も成長していることを理解する。

 それでも、昔から戦った神々の使い達には及ばないことには変わりはなかった。本来の力さえ取り戻せば問題ない相手だ。


 大魔獣の咆哮や上空からの攻撃により聖獣の力を使わされ、守りが手薄になった後衛2人に地上の魔獣達が襲いかかる。

 ラスと聖獣剣士2人では、それぞれ1体ずつの魔獣を止めることしかできない。残った1体の魔獣がアミスとジーブルへも迫っていく。近接戦闘が専門の戦士でも反応ができるかわからないスピードだった。それでもアミスは確かな反応を見せた。防御魔法を唱えながら、ジーブルの前に出る。


 「あ、アミス!」


 大きな怪我を負ったサンに対して意識が向いていたジーブルはそれに気づくのが遅れていた。ジーブル個人の考えでは本来なら自分がアミスを庇わなければならない立場のはずだった。ジーブル咄嗟に防御魔法をアミスにかける。できるだけ強力になるように氷の魔力も注ぎ込んで……

 咄嗟にかけたそれでどれだけ防げるかは、ジーブルにも予想はつかない。だが、自分達の目の前に猛烈な速度で迫り来る魔獣の攻撃がその防御魔法のみで防ぎきることができるほど低いものとは到底思えなかった。

 ジーブルの頭の中に、自分の判断に誤りがあったという後悔の念が過ぎる。だが、もうそれは遅い。ただ、アミスの無事を祈るしかできない。

 そんなジーブルの目の前でアミスに対して、魔獣の攻撃が振り下ろされようとしていた。だが、その魔獣は、アミスとジーブルの目の前で姿を変えた。

 頭と腕が無くなった姿へと……

 何が起こったかすぐに判断できた者は居なかった。すぐ目の前で見ていたアミスですらわかっていないのだから……

 アミスとジーブルの視線は1人の背中へと向けられる。それは、ジーブルは初めて見る、そして、アミスにとっては懐かしい背中だった。忘れることのできない背中。それは大刀を持った1人の剣士。

 かつて、契約していた聖獣の姿を、アミスが忘れるわけがないのだから……

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