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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
130/144

想像以上の

登場人物紹介

☆アミス一行のメンバー

◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する少年魔導士

 見た目は完全な美少女


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 自分を魔法生物カさせた者を探している

 魔法生物化されて者特有の高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 クーデタにより国を追われてアミスの仲間になった

 アミスに対しては仲間意識より忠誠心の方が強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 土系の精霊魔法も使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命令によりアミスを守る為に仲間となったが、それを知っているのは仲間ではタリサのみ


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 仲間からサンと呼ばれている盗賊職

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる。

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強いが、そこにはアミスにもまだ解析できない理由が……


☆他


◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族

 聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年

 今回のみ一時的に手を組むことになった


◎女性剣士

 聖獣であることが発覚した名もなき剣士

 居合術が得意

 幾重に張られた結界により、炎をブレスの直撃自体は耐えきることは出来た。だがしかし、広いとはいえ限られた空間でそれが放たれたことで影響が無いわけがなかった。

 結界に守られていない死体の山に引火し、煙と嫌な臭いが辺りを包む。

 メンバーの中でも半獣人化して、嗅覚が強くなっていたリンは顔を歪めながら、腕で鼻を抑える。そんな僅かに見せた隙を魔獣は許さなかった。予めその可能性が予想できたかのように……

 結界ギリギリまで近づいてからの咆哮。

 それは結界に歪みを入れるためのものであり、直後に放たれた鉤爪による重い攻撃は、幾重に張られていた結界を貫きながら、リンの身体を捉えた。

 完全に結界を無効化したわけではなく、威力が弱まっての攻撃だったため、大きなダメージは無かったが、後衛の後ろまで飛ばされるリン。


 「視界を!!」


 上空からのロルティの声に、アミスの意志より早くに≪ 風の乙女(セラリス) ≫が動いた。彼女が生み出した風により、魔獣の周囲を中心に視界の妨げになっていた煙が除去される。

 姿が見えた魔獣は続いてタリサをターゲットしようと動いていたが、タリサもそれが判っていたのか先に攻撃へと動いていた。守り優先と考えていたとはいえ、ガチガチに守りを固めて防ぐことができる相手ではないことは、その体躯の大きさから見ても判りきったことだからだ。

 そんなタリサの冷静な行動に、魔獣は出しかけていた鉤爪による攻撃を止め、硬い鱗によりタリサの斬撃を受け止める。硬さではじくだけでなく衝撃を吸収するように受け止めていることで、魔獣の戦いに技術が伴っていることをタリサはすぐに理解する。

 タリサはすぐさま、聖獣≪ 氷餓狼 ≫を呼び出し至近距離から氷のブレスを放ち、魔獣が怯んだ隙に間合いを広げた。ブレス自体のダメージは殆ど無かったが、魔獣はすぐに追撃には出てこなかった。それは、上空にいるロルティが攻撃魔法の準備をしているのが判っているからだ。しかも、その魔法が無視できるほど低い威力でないということは、感じ取れる魔力で予想はつく。

 ロルティも魔獣がこちらを警戒していることを感じ取っていた。魔獣の警戒心の強さ感じ取り、改めてやっかいな相手だと思う。

 

 (チャンスを待って、ラス・アラーグェの魔法とタイミングを合わせるか……)


 ロルティはそれが自分にできるかという疑念も持っていた。ロルティにも共闘の経験はあるが、それはそれぞれが勝手に戦うだけのもの。仲間と呼べる存在など持ったことなどない。連携を取った戦闘をしようもしたこともない。それが必要だと思ったことも……


 (だが、1人では……)


 一年前の戦いで、1人で戦う限界を知った。一対一では勝っていたはずの戦い。だが、アミスには仲間の助力があった。仲間と連携できないように、協力者を雇い策を弄し、一対一の戦いに持っていき、あと一歩まで追い詰めたのだが、それでも仲間の助力を完全に取り除くことはできずに敗北をした。

 勝つためには、連携を取れる仲間が必要なのだと実感した。そして、この1年間、自分のレベルアップと共に仲間を得ることを考えて行動していた。しかし、ロルティは未だに1人だった。

 理由はハッキリしていた。

 それは、魔族の血が流れているため……

 そして、半分しか魔族の血が流れていないため……


 (でも、今回はチャンスなんだ……)


 ロルティはそう考える。仲間との連携を学ぶチャンスなのだと。そして、アミス・アルリアの戦い方を学ぶチャンスなのだと。



 異常なほどに魔力の高い2人と、複数の聖獣を呼び出す稀有な存在。

 魔獣にとって警戒するべき相手はそんな3人だった。人間程度の直接攻撃というものは自分に対しては意味のないと思っている。しかも、前衛を守るのがまだまだ若い女性だというのだから、魔獣が甘く見てしまうのも仕方がなかった。だがしかし、そんな当初は歯牙にも掛けていなかった前衛2人が思った以上に障害になっていた。

 小さめの盾しか持っていない女戦士が、魔獣の重い攻撃に対しては意味をなさそうなそんな盾を上手く活用し、更に聖獣らしきものの魔力を使って巧みに魔獣の攻撃を捌いていた。力押しで済むと思っていた魔獣から見れば予想外のこと。

 そんな女戦士に少し手こずっている間に、吹き飛ばした半獣人娘が戻ってくる。

 技量面だけ見れば女戦士ほどではなかったが、ただ風貌からは想像しにくい重い一撃が、魔獣の前脚目掛けて繰り出されてくる。最初の一撃は無警戒に受け止めてしまったが、それが続けて受けて良いものではないことをすぐに理解し、その威力をまともに受けないように受け流す。

 魔獣が見た目に似合わずに器用に威力を分散するように受け流す姿に、タリサとリンも魔獣に対しての戦力分析を改めなければいけなかった。

 アミスとジーブルは相手の戦い方を見て、防御結界を変化させていた。全体的な結界はアミスとその聖獣が張り続けて、ジーブルは前衛2人に個別神聖魔法の【 魔力盾(シールド) 】をかけ、その防御魔法に法力を続けて流し込むことにより、簡単には消されないようにする。

 【 魔力盾 】は防御力を上げる魔法であり、神聖魔法の中でも初歩的なものだ。多少ダメージを減らす程度の効果しかなく、中レベル以上になると使用されることが無くなる程度の魔法だ。だが、今回のジーブルのようにその魔法にだけ集中して、魔法の源となる法力を注ぎ込むことにより、防御力や持続性を強化することができる。

 だが、この方法を知る者は少なく、魔法の知識にはある程度自信のあるアミスもジーブルが使用するのを見て、初めて知ったほどレアな術だった。

 魔獣もそれを知らなかったため、単純に前衛2人の防御力が優れているとしか思っていなかった。それが手こずっている要因の一つであることに気づかずに……

 だが、魔獣は慌ててはいなかった。

 確かに目の前にいる獲物達は、予想を大きく上回る実力を持っているのは間違いなかったが、それでも自分が倒されることなんてありえないと思っている。硬く魔力を中和する鱗に覆われた自分に致命傷を与える者などいるわけないのだ。

 今まで永劫と思える刻を待ったのだ、相手が力を使い果たすのを待ったっていい。負けるはずは無いのだが油断はしない。かつて油断により封印されたことを忘れてはいないからだ。相手が逃げてしまう可能性も考えて、それでも良いと思うことに決めて、じっくりと動くことにする。

 再び動けなくなることだけは避けるために……

 決して油断せずに焦ることもせずに……



 ラスにとっては予想外なことがあった。

 それは、目の前の魔獣がその絶大な身体と魔力からは予想しにくいほどに慎重だったからだ。

 身に纏った魔力から見て取れる防御力は、真正面からの力押しで突破できるほど柔いものとは思えない。

 相手の隙をつく以外に手はないのだが、その慎重さを見せる戦いからはその隙を見つけることも作り出すことも出来ないでいた。


 (僅かな戦闘だけで、こちらの戦力を把握したということか? もっと、力に自惚れてくれればいいものを……)


 このままでは消耗するだけなのは明らかであり、どうにかして状況を変化させる必要があった。


 (この魔法がどの程度効果あるか……)


 ラスは今用意している攻撃魔法で戦況を動かすことにした。いくら高い防御力を持つとはいえ、この魔法であれば完全に塞がれることはないだろう。だが、まともに受けてくれるとも思えなかった。

 問題は魔獣がどのような防御行動を取るかだ。

 回避するか?

 何らかの魔法で相殺するか?

 防御魔法で受け止めるか?

 ラスの希望としては、受け止める選択を選んで欲しかった。そうしてくれれば、状況を良い方向へと変えることができる見込みがあるからだ。

 ラスは魔力を手に纏わせて準備していた魔法を、その手の中で形あるものへと変化させた。

 それは一本の長く大きな槍だった。


 「!?」


 魔獣から見てもそれは予想以上のものだったのだろう。僅かな魔力の乱れが動揺した心を表しているようだった。


 (不意打ちで放てれば1番良いのだがな……)


 と思うラスだったが、それは叶うはずのない希望だというのは承知の上であり、それが判っているからこそ、敢えてそれを放つタイミングが相手に分かるように大きく振りかぶる。

 それは敵である魔獣だけでなく味方もそのタイミングを教えるため。

 今回だけ共にいる魔族や聖獣剣士がどう動くかは解らない。だが、アミス達ならこれにより生まれる隙を活かしてくれるはずとラスは思いながら、その魔力の槍を魔獣に向かって投げつけた。

 槍はまっすぐ魔獣に向かっている。

 それに対して、魔獣は回避行動には出なかった。攻撃魔法やブレスの態勢にも入っているようには見えない。ただ、身を包む魔力が急速に高まっていく。それはラスが願っていた防御行動だったが、高まる魔力が予想を超えていた。


 (まさか、完全に防がれるのか?)


 そのすぐに次の攻撃のために前に出ようとするラス。だが、予想外のことがもう一つ起こっていることにラスは気づいた。自分達の頭上に位置取っていたロルティもラスとタイミングを合わせて魔法を放ったのだ。

 どんな魔法かは知りようがなかったが、出来れば自分の魔法が作る予定だった隙を突いて欲しかった。

 やはり、仮初の一時的な仲間では連携は難しいと思わずにはいれなかった。だが、そんなラスの悔やみを否定することが起こる。

 ロルティの魔法により放たれた魔力が、ラスの槍を包み込む。それは誰も想像していなかったことだった。ロルティの集中により集まる魔力は攻撃魔法のためのものとしか思えなかったからだ。そう思っていたのはラス達だけではない。そのターゲットになるはずだった魔獣もだった。

 だからこそ、魔獣は多少のダメージを覚悟でその槍を受けた上で、続いて放たれるであろうその攻撃魔法に備えるつもりだった。

 故に魔獣は対応に遅れる。

 もうその攻撃を防御用に高めた魔力で受けるしかなかった。それでも、予想以上の威力だったとしても、堪え切れる自信があった。

 だが、魔獣は驚愕する。

 その槍の威力を高めるものがそれだけではなかったからだ。その存在は防御結界に集中していたはずだった。こんな刹那の間にそれを変えることができるはずがなかった。直前までそう把握していたのだから。

 だが、その存在であるアミスによって追加で呼び出された2体の聖獣≪ 水霊(クリス)≫と≪ 氷霊(シルア) ≫が、その槍に更なる魔力を注ぎ込んでいたのだ。

 魔獣には何もできなかった。

 己の防御魔力を抵抗を感じさせずに貫通する槍をただ見つめていることしかできなかった。そのままその身を貫通するまで……

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