魔族と罠とエンチャントドール
登場人物
アミス・アルリア ;主人公。ハーフエルフの少年魔法使い。見た目は美少女。5体の聖獣持ち。
ラス・アラーグェ ;アミスと共に行動中の魔法剣士。元ハーフエルフのエンチャントドール。
マーキス・サーラント ;アミス達と行動中のエルフの精霊使い。回復の聖獣を持つ。
ガラガルム・デュ・ガレオン ;大地神を信仰する司祭。大柄なリザードマン。
リーラ ;ガラガルム司祭と共に同行する新米冒険者。少女戦士。
マジェスティ ;魔術研究所を探す魔術師ギルドに雇われたスカウト系の自称ギャンブラー。
メイティア ;マジェスティと共に行動するフェアリーの娘。
ティス ;アミスの使い魔のピクシー。魔法力は高くないが、いろいろできる。
ロルティ ;かつてアミスに倒された少年魔術師。実は・・・
マンム ;アミス達の前に現れたエンチャントドール。ロルティと共闘中?
洞窟には、他に何もなかった。
いるかもしれないと警戒していたゴブリンシャーマンすら確認できず。
ゴブリンが拠点としてたであろう広い空洞が奥にあっただけだった。
「やはりないか・・・」
予想通りだったため、マジェスティはそう呟く。
メイティアは念のために天井を調べる。
ティスもそれを手伝う。
アミスは【 魔法感知 】で魔法の力が働いてないか調べた。
「アミス、どうだ?」
「微弱な魔力は感じますけど、魔法が発動してる感じはしません」
「そうか・・・」
ラスはそう聞いて少しがっかりする。
逆にマーキスはホッとする。
(ラスには悪いけど、これで良かった・・・)
一通り調べ終わった一行は、洞窟を出ることにした。
念のために途中も調べ直しながら戻る。
そして、出入口まで到着した。
「・・・?」
「どうした? アミス」
突然、アミスが立ち止まる。
その後ろ、最後尾を歩いていたラスも一緒に立ち止まり、尋ねる。
「何か聞こえませんか?」
「・・・?」
アミスがそう言うので、ラスも耳を澄まして遠くを聞こうとした。
そして、ラスも気づく。
「人の声・・・?」
「ですよね?」
「おい、ちょっと待ってくれ・・・」
ラスが外に出たメンバーに声をかけた瞬間だった。
目の前の光が入り込んでいた出入口が消えていった。
ラスの声に気づき、マーキスが振り返った時には出入口はなくなっていた。
マーキスは立ち尽くす。
ただの岩肌となった壁の前で・・・
迂闊だった。
冷静さを失っていたのだろう。
突き当りであった奥の空洞でしか、魔法について調べなかった。
魔術研究所という可能性を考えるなら、途中の通路も、入口も、全て魔法についても調べるべきだった。
しかし、焦っていたラスは、そこまでの可能性を考えれなかった。
自分のミスにアミスを巻き込んでしまった。
「アミス、すまない・・・」
申し訳なく思い、ラスが謝罪した。
「いえ、僕のほうこそ、すいません・・・」
「いや、俺が・・・」
「違うんです、ラスさん・・・」
「アミス・・・?」
アミスは、ゆっくりと奥の部屋へと進みだした。
さきほど調べたはずの空洞の部屋へと・・・
「おい・・・、アミス?」
ラスもついていくしかなかった。
そして、先程の奥の部屋まで行くと、そこに立っていた。
さきほどはいなかったそれが・・・
「おい、どういうことだよ?」
アミス達と共に、突然消えた入口があった岩壁の前で、マジェスティが混乱した様子で訊いてくる。
当然、マーキスにも事態は把握できずに、ただ戸惑うだけだった。
そんな中、周りの変化に気づいたのは、メイティアだった。
「マディ・・・囲まれてるよ」
「何?」
マジェスティ達は言われて気づく、周りを囲む存在に・・・
先程倒した数の倍以上のゴブリンに囲まれていた。
30匹程いるだろうか、ベテランの実力者でも厳しい数だった。
「ホブゴブリンに・・・、ゴブリンシャーマンまでいるのか」
「マジェスティさん・・・、これは異常な状態ですね」
ガラガルムの言葉に、マジェスティは少し冷静になった。
確かにおかしかった。
目の前で消滅した洞窟への入口については勿論だが、それより、ゴブリンに囲まれているこの状況、そして、巣と思っていた洞窟の規模をあきらかに超えた数のゴブリン。
「アタリだったのか・・・」
「そういう事のようです」
マジェスティの油断だった。
ここはハズレだと思い込んでしまっていたのかもしれない。
後悔。
しかし、それで終わらせるわけにいかない。
死ぬわけにはいかない。
死なせるわけにはいかなかった。
「出てきたらどうですか!!」
ガラガレムが叫ぶように言い放った。
大きな体から出たその声は、辺りに響き渡る。
暫しの静寂の後、姿を現したその者の姿に、一同は驚いた。
「リッチ・・・?」
それは黒い闇の魔力を纏い禍々しい杖を手に持っており、深く頭まで隠すようにフードを被ったその奥に見える不死者を思わせる骸骨の顔は、まさに不死の王であるリッチにしか見えなかった。
危険度特Aどころではすまないその存在を目の前にし、マジェスティもメイティアもマーキスも絶望感を感じていた。
「司祭様よ・・・、あんただけが頼りだな・・・」
不死系モンスターのは、神聖魔法が最も効果がある。
特に、神に仕える神官や司祭が使う、神々の軌跡ともいうべき神聖魔法が効果大だった。
しかし、ガラガレムは静かに言う。
「いえ、あれには【 死者浄化 】の魔法は効果ありません・・・」
「な、なんでだよ!? アンデットには・・・」
「あれはリッチでは・・・・、アンデットではありません」
「な・・・」
それを聞き、一同の目が再び、その存在に集まった。
「よくわかったな・・・」
リッチだと思っていたそれが口を開く。
「これでも司祭の位をいただいております。死者の波動は感じませんからね」
「なるほど・・・、無駄に【 死者浄化 】を使ってくれれば、すぐに終わっていたのだがな・・・」
「くっ、何者だ? 貴様は・・・」
マジェスティの言葉に、それは答えた。
「我が名はマンム・・・、此の世を支配する者」
その言葉に、少し唖然としてから、マジェスティが呟く。
「やばい、小物感が半端ないな・・・」
「何?」
「いや、悪い、気にしないでくれ・・・」
気を抜きそうになったのを、無理やり修正を計る。
魔法を使えない自分ですら感じる魔力を発している目の前の魔物が、弱いとは思えるわけもない。
「そもそも、何者なんだ?」
マーキスが訊く。
「もしかして・・・」
「そうだ、そのもしかしてだ・・・」
滅びたかの国の魔術研究所の生き残りが作った魔法生物。
エンチャントドールであることは間違いない。
マジェスティはそう判断した。
「ふっふっふっ・・・」
「何がおかしい?」
「警戒、不安、恐怖、それが見て取れるのが面白くてな・・・」
「恐怖? そんなのを・・・」
「ごまかさなくていい・・・」
マジェスティの目付きが鋭くなる。
今にでも飛び掛かろうかと感じる殺気を発して構える。
それを止めるように、ガラガルムがマジェスティの肩に手を置いた。
その後ろで、マーキスは冷静にマンムを名乗った魔物を観察する。
(このエンチャントドールも、感情がある・・・?、いや・・・)
マーキスは気づいた、マンムから見える感情への違和感に。
ラスから感じる感情とは違う違和感に
「ロルティさん・・・」
アミスは呆然としていた。
部屋の中央に立っているのは、確かにかつて聖獣契約の事で争い戦った少年魔術師ロルティだった。
「久しぶりだね」
ロルティは、笑みを浮かべていた。
アミスは、その笑みに不気味さを感じてしまう。
「知り合いか・・・?」
アミスの戸惑う表情に気づきながらも、ラスはそう尋ねる。
「はい・・・」
言葉が続かないアミスに、ロルティは更に笑う。
「ははっ、不思議かい? 殺したはずの奴が目の前にいて」
「殺した? アミスが・・・?」
驚くラスに、ロルティが言葉を続ける。
「ほんの数日前の事だよ。聖獣を求めて入った遺跡で、そこのアミスと会ってね。お互いに聖獣を欲したから・・・」
「違います!」
「・・・あ、そうだったね。君じゃなくて、他の奴が聖獣を欲しがったんだったね。でも、結局聖獣を手に入れたのは君だ・・・」
口元からは笑みを消さなかったが、明らかに不機嫌さを出すロルティ。
「そうなのか・・・?」
「はい、それで僕達を殺そうとしてきたので・・・」
「そうか・・・」
ラスは、アミスを庇うように前に出ると
「それで、どうするつもりだ・・・?」
「もちろん、復讐をさせてもらうけど? 当たり前だよね? だって、邪魔されて、殺されたんだから・・・」
「生きてるように見えるが? それとも、アンデットか?」
「そう見えるかい?」
ロルティは、そう笑う。
それに対して、アミスとラスの警戒は強まる。
「アミス、どうやって奴を・・・?」
「≪ 剣聖 ≫で首を・・・」
「あ、ボクは首刎ねられたくらいじゃ死なないんだよ」
「・・・なるほど、魔族か・・・」
「魔族・・・?」
驚くアミスに、ロルティの笑みが大きくなる。
「気づかなかったかい? ま、できるだけ人間だと思われるようにしたからね」
「お前、何を考えている? こんな大掛かりな罠でアミスをこんな所に・・・、ま、俺は予想外だったんだろうけどな・・・」
「違うよ」
「なに?」
ロルティの目に殺気が籠る。
「アミスの前で、君を殺すのが目的だからね」
「・・・なるほどな。いい性格してる」
「なんでですか? ラスさんは関係ないじゃないですか? 狙うなら僕一人でいいじゃないですか?」
アミスは納得できない様子で、言い放った。
「それが復讐だからだよ。簡単に殺すだけじゃ、気が収まらない。半端物のハーフごときが高位なる魔族のボクの邪魔したんだから・・・、ただではすまない。自分のせいで仲間が死んでいくのを見て、どうにもできない絶望感に包まれて死んでけばいい」
ロルティの表情から笑顔が消える。
それにより、ラスは迎撃態勢を取る。
「さて、じゃ、死んで・・・」
「させません!」
アミスがラスの前に出る。
「馬鹿、お前が前に出て・・・」
「ラスさん、大丈夫です」
落ち着きを取り戻した様子のアミスに、ラスもロルティも戸惑う。
「ティス、お願いします」
「はぁ~い」
呼ばれて現れたティスが、すぐに詠唱を始める。
「なにを・・・」
「もどりまぁ~す」
ティスのその一言で魔法が発動し、アミスとラスは光に包まれてロルティの前から消えた。
「なっ・・・」
驚き呆然とするロルティ。
そして、怒りの表情を顕わにし、その部屋から消えた。
急に目の前にアミス達が現れたことに、その場の全員が驚いた。
今にも始まりそうだった戦闘がそれによって止まる。
アミスは、魔力を使い尽し、眠りにつきかけているティスを両手で受け止めると、自分の懐にあるティス用のスペースへと優しく誘った。
ティスの能力は、通信と回復だけではなかった。
仲間として登録してある者との、合流のみに使える転移魔法。
回復魔法と同様、魔力を使い切ってしまうが、本来高位の魔法である転移魔法を限定的とはいえ使うことができた。
ラスとマーキスを登録していたので、マーキスとの合流として、この魔法を発動させたのだ。
「どういうことだ・・・」
全員が呆然としていた中で、最初に言葉を発したのはマンムだった。
「ロルティの奴は? どうやって、あそこから出た?」
「どういうことか、ボクも訊きたいな」
アミス達を追って現れるロルティ。
「ロルティ、貴様の願いであの場を譲ったというのに、なぜ逃げられている?」
「ボクの方が訊きたいと言ってるだろ?」
ロルティが揉めだす中、アミスとラスも周りに目をやり、事態を把握する。
「奴らが手を組んでって事か・・・」
「魔法生命体ですよね? あそこにいるの・・・」
「把握するの速すぎだろ?」
マジェスティの言葉を流して、ラスが動く。
「話は後だ! 水と氷の精霊よ・・・・」
ラスの詠唱にロルティが気づいたが、対応する先に魔法は発動する。
「【 氷 槍 】!」
手を翳したラスの頭上に、3本の氷の槍が生み出される。
「行け!」
3本の【 氷槍 】はそれぞれ獲物へと飛んでいき、それぞれが2体のホブゴブリンと1体のゴブリンシャーマンに命中し、絶命させた。
「なっ?」
「なんて威力だ・・・」
驚くロルティやマジェスティ達。
「ほぉ・・・」
マンムが感嘆の声をあげる。
そこに僅かな違和感を案じたラスは、静かに前に出た。
「お前は、エンチャントドールか?」
「そうだが、興味があるのか? お前も魔法生命化したいのか? いつでもしてやるぞ」
「貴様がか?」
ラスは、睨みつけながら、更に足を前に進めようとしたが、マーキスとアミスに止められる。
「とりあえず、落ち着きなよ」
「そうですよ。あと、あれって・・・」
アミスは、マンムをじっと観察するように目を向けていた。
マーキス、そしてラスが感じた違和感。
「アミス、何か見当が・・・?」
「あれは違いますよね・・・」
「違う? 何がだ?」
「とりあえず、みなさん、周囲に警戒を!」
アミスが辺りを見渡しながら言った。
「囲まれてるのだから、当たり前だろ!?」
「いえ、違います。そうじゃなくて・・・」
マーキスやラスが感じていた違和感の理由にアミスが気づいた。
本来、感情という物を出さないエンチャントドールであるはずの、マンムから発せられる言葉から感じることができる感情。
「あれは、あれからじゃ・・・」
「よくきづいたな」
逆方向から出たその言葉と同時発せられたそれが、メイティアを捕らえた。
その魔力の光に貫かれたメイティアの小さな体が、静かに倒れ落ちた。
「メイティア・・・?」
突然の事態に、状況が把握できなくなるマジェスティ。
アミス達も、一瞬立ち尽くしてしまう。
少しずつ理解と共に、マジェスティの感情が爆発した。
「メイティアァァァァ~~~!!!」
マジェスティの絶叫が響き渡る。
その魔力を放った者だけが、不敵な笑みを浮かべていた。
次回は4月4日の19時予定です。




