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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
124/144

2人目の同行者

登場人物紹介


☆アミス一行のメンバー


◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する見た目美少女の少年魔導士


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 アミスに対して仲間意識より忠誠心の方な強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 精霊魔法を使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命により、アミスを守る為に仲間となった


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる盗賊

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強い


☆他


◎ロルティ・ユトピコ 男 半魔族

 聖獣を賭けてアミスと争い、その時の敗北によりアミスを目の敵にしている半魔族の少年


◎女性剣士

 仲間と逸れたという女性剣士

 何故か名を名乗らない

 今までとは違う。

 アミスは久しぶりに出会ったロルティを見て、そういう印象を受けた

 最初に出会い、形式上で協力しあっていた時ですら、敵意と殺気を隠す事もしなかった彼から、一切の悪感情を感じ取ることができないことが、返って不気味に感じてしまう状況だった。

 基本的に友好的な関係を築こうとするアミスですら、ロルティ相手に初手から手を差し伸べようとは思えない。それだけ今まで彼から受けてきた事は、簡単に許せる事ではないのだ。

 今、目の前に居るロルティ・ユトピコという人物は、アミスが明確な悪感情を向ける数少ない相手だ。本来ならば、アミス側から問答無用で攻撃に出てもおかしくない程の事を今までされてきている。

 いや、本来ならばそうすべき相手なのだが、明らかに前までと違う様子を見せるロルティに対して、アミス達は攻撃に出ることを躊躇っていた。


 「どういう事だ?」


 鋭い目付きをロルティに向け、ラスはそう訊ねた。それに対して、ロルティは前までと同じように挑発じみた答えを返そうとしたが、アミスの複雑な表情や力強く杖を握りしめている姿を見て、そうするべきでないと悟り、出しかけた言葉を噤んだ。


 「言った言葉のまんまの意味だよ」


 少し考えて相手を怒らせないように言葉を選んで発言する。だが、必要以上に下手に出ることはしない。今回は戦う気は無くとも、あくまでもアミス・アルリアは敵なのだから……


 「理由を訊いても良いですか?」


 憎しみの感情がないわけではないのだが、それでも、アミスは穏やかな口調でそう訊ねた。

 それに対して、ロルティは思考の様子を見せた後、いつもとは異なった静かな口調で口を開く。


 「理由は簡単。ここが1人で行動するには危険な場所だから……」


 確かに簡単な理由だった。そして、それが嘘だと思える要素はない。だからと言って、彼を素直に受け入れることができるわけではなかった。害を加えてこないという保証もなければ、それを宣言されても信用などできはしないのだから。


 「今しがた俺達も対処が困難な魔獣に襲われたばかりだからな、お前が1人が危険と思ったのも判る。だが、お前を迎え入れることは難しいな」


 ラスは鋭い目つきでそう言い放つが、ロルティにそれを気にした様子はない。ロルティ自身、そういう考えになるのは判りきったことだからだ。だが、1人で厳しいという考えがあるのは事実であり、今回だけはなんとかしたい思いだった。

 先程の魔獣との戦いに助太刀して、受け入れてもらえるきっかりにしようと思ったのだが、僅かに遅れを取り、他の者に倒されてしまったのが口惜しい気持ちだった。


 「誰なんだ?」


 互いに沈黙したタイミングでサンが訊ねた。


 「前に話していただいた方ですよね?」


 と、訊ねたのはジーブル。

 敵であるロルティについては2人には一度説明してあった。それをしっかりと覚えていてすぐに予想立てるジーブルと、忘れてしまっているのかそれに気づけないサン。

 性格の違いによるものなのだろう。

 それでも、ジーブルの言葉にサンもなんとなく思い出したようで、それ以上は何も言ってこなかった。

 

 「信じてもらえないかもしれないけど、今回はキミ達に危害を加えるつもりはない。そもそも、そのつもりがあるなら、このタイミングで声をかけたりしないよ。元々は接触するつもりもなかったからね」


 ロルティはできるだけ穏やかな口調で話していた。断られないために……。了承してもらえることは難しいと判っていながらも、なんとか説得しようとしていた。それほど、この空間は1人でいることが厳しいと判断して……

 聖獣さえ持っていれば、なんとかなると思えたのかもしれない。だが、今のロルティは聖獣を所持していない。嘗て自分が起こした罪により科せられた聖界のペナルティによって、聖獣と契約する力を失っているからだ。

 事前にロルティが調べた情報では、今いるこの空間は聖界と繋がっており、聖獣やそれに近しい魔獣の能力が強化される。いや、正確に言えば人間達の住む世界で聖獣達が受けている力の制約が無くなるため、100%の力を発揮できるだけ……。

 調べて手に入れた情報の中にもあったものだったにも関わらず、ロルティはこの遺跡を舐めてかかっていた。

 自分の実力ならば問題ないと……

 だが、実際にこの場に来て自分の考えの甘さをすぐに実感することになった。そして、敵対関係にあるはずのアミス・アルリアを頼らざる得なくなったのだ。


 「ここに来た目的はなんですか?」


 アミスが次なる質問を投げかけた。


 「きっと、ここには聖獣がいる可能性が高い。でも……、ロルティさん、今の貴方はまだ聖獣と契約できないですよね? そんな貴方がこの場に何故?」

 「……」


 アミスに対しての憎しみの感情が高まりそうになっているのを、ロルティは必死に抑え込む。自分が犯した罪とはいえ、聖獣と契約できなくなった事はロルティの心の傷になっており、そのきっかけとなった出来事に関わりのあるアミスにその傷を抉られた気持ちになり、一瞬憎しみが強く湧き上がる。

 だが、ロルティ自身も1番責任を負わなければならないのが自分だと判っているからこそ……、判るようになれたからこそ、我慢することができた。

 心を鎮めながら考え、そして決断する。信用されるために隠さずに話すことを……

 それはロルティの成長だった。

 一年前なら、プライドが先に立ち素直に話すことはできなかっただろう。


 「目的の魔獣がこの遺跡にいるという情報を手に入れたから……」

 「魔獣?」


 ラスが鸚鵡返し呟く。


 「そう、魔獣だ……」


 ラス達には話が見えてこなかった。

 ただ1人、アミス・アルリアを除いて……


 「もしかして、皇魔獣……ですか?」

 「やはりキミは知っていたか……」


 それはロルティも教えてもらったばかりの存在であり、知る者はそうはいない情報だった。だが、聖獣に詳しいアミスなら知っているかもと思っていたので、その予想が当たったことを心中呆れている気持ちっった。


 (これが知識の差か……、一年前勝てなかったわけだ……)


 負けを認めることができない時があった。それは半年以上に及ぶ長い期間。だが、プライドを捨て考えることができるようになってきている今、ようやく理解できるようになっていた。

 

 「皇魔獣?」


 他に知っている者はいないようだった。


 「う〜ん、僕も文献で見ただけなんですけど……、解り易く言うと、聖獣と同じように聖契石で契約できる魔獣……って、言うのが近いですね」

 「近い? なんかハッキリしない言い方ね」


 と、率直な感想を述べるリン。


 「本当のことかも確証のない情報ですからね。実際に存在が確認された例は近年ありませんし……」


 と、不確かな情報であることを申し訳なさそうな表情で頭を掻くアミス。


 「聖獣を契約できなくなったボクがそんな不確かな情報に頼る事になった。ただそれだけのことさ……」


 と、悲しそうに苦笑いを浮かべるロルティ。

 一年前では一切見なかった表情に、アミス達は複雑な心境となる。


 「その魔獣を手に入れてアミスを倒そうってことか?」


 同情しそうになったが、それを抑えてラスは出来るだけ冷たい口調でそう訊ねた。その目つきは細く鋭い。


 「……そうだね。それは否定しても信じてもらえないだろうから、素直に認めることにするよ」


 落ち込みつつあった己の心境に気づき、自分らしくない思ったロルティは笑みを浮かべながらそう軽口を返した。

 そんな表情は逆に事を良い方向へと回す。

 その言葉に偽りがないのだろうとアミスやラスが感じたからだ。


 「ではそれを手に入れた瞬間、敵対するってことなのかしら?」


 ジーブルの問いに、ロルティはすぐに首を横に振る。


 「手に入れてすぐに使いこなせると思うほど自惚れてはいないさ。少なくともアミスを倒せる自信がつくまでは襲いかかるつもりはないよ」

 「そんなの信じれと?」

 「いや……」


 サンの疑いの言葉を否定したのはラスだった。


 「こういう嘘を吐くような奴じゃないはずだ……」


 そう言ったラス自身も、ロルティとそんなに接触した経験があるわけではなかった。だが、目の前にいる半魔族がアミスを襲う理由を考えれば、そういう予想は容易に付く。

 元々は格下と思っていたアミスに負けたことによりプライドを傷つけられたことが原因なのだ。故に倒すために策は弄することはあっても不意打ちや騙し討ちするとは思えない。

 アミスもそう理解している。故にどうするべきか悩んでいた。

 ロルティには酷い目に遭わされてきたアミスだったが、最初にロルティが契約していた聖獣を自分のものにしていたという後ろめたさも僅かにあった。だが、自分を倒すための力を手に入れようとしている者と一緒に行動するのもおかしなことだと思える。


 「私は今回に限り受け入れた方がいいと思います」

 「ジーブル?」


 驚きの視線が彼女に集まる。


 「確か魔族なんですよね?」

 「そうだけど……」


 ロルティも驚きの表情を隠せていなかった。


 「プライドが高いと言われている魔族さんが、敵対相手に同行したいということは、ここは相当危険な場所なんでしょ?」


 頷くロルティと、ジーブルが何を言いたいか判り出したアミス達。


 「それならば、戦力は多いに越したことはないと思います」

 「言いたいことは判るが……」


 それでも受け入れることに躊躇いを見せるラス。


 「良いんじゃないか?」

 「タリサ?」

 「下手にこっそり着いてこられるよりは、一緒に行動した方が万が一の時に対処がし易い」

 「ま、そうかもしれないが……」


 躊躇い続けるラスだったが……


 「そうですね。では今回だけ……」


 と、1番因縁のあるアミスが認めたことでラスも警戒は解かないという条件付きで認めることになった。

 この決断がアミスとロルティの関係に1つの変化を与えつつあった。それが意味を持つようになるのはまだずっと先の話となるのだが……


 名の知らない女性剣士と敵対関係のはずの半魔族。

 思いもよらない2人の同行者を迎え入れて、アミス達は行動を開始する。危険度の高い遺跡の探索へと……

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