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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
8・剣の娘
120/144

新たな聖獣を……

登場人物(アミス一行)紹介


◎アミス・アルリア 16歳 男 ハーフエルフ

 物語の主人公

 複数の聖獣を使役する見た目美少女の少年魔導士


◎ラス・アラーグェ 24歳 男 元ハーフエルフ

 魔法生物化された魔法剣士

 高い魔力を持つ


◎タリサ・ハールマン 20歳 女

 元暗黒騎士団に所属していた女戦士

 アミスに対して仲間意識より忠誠心の方な強い


◎リン・トウロン 19歳 女 シェイプチェンジャー

 白虎へと姿を変えることができるシェイプチェンジャーの戦士

 精霊魔法を使う

 アミスのことが好き


◎ジーブル・フラム 17歳 女

 氷の神を信仰する女神官

 ある人物の命により、アミスを守る為に仲間となった


◎サンクローゼ・セリシェル 22歳 男

 イケイケな性格なため、常に前戦で戦いたがる盗賊

 本人曰くスロースターターなために、戦いが長引くと強い

 小高い丘の上。雲がはっきりと分かる速度で流れていく。上空はかなり強い風が吹いているに違いない。

そんな空高くに視線を向けて、彼は小さな溜息を一つ吐いた。

 丘に吹き下ろされる風は、彼にとっては適度と言うべき心地良く感じるものだった。だが、そんな心地良い風を受けていても、彼の心は沈んだままのようで、再度、溜息が彼の口から生まれてきた。


 「何をされているのですか?」


 彼は声をかけられても反応を見せなかった。その声を発した女性が近づいてきていたことは前から気づいていたが、自分から会話をする気はなかった。ここ最近何度も行われたやりとりをされるのだろうと、思っているからだ。


 「無視ですか?」

 「……」


 返ってこない反応に、彼女の表情に不機嫌さを強く現れている。

 2人の間に沈黙が続いていたが……


 「わかりました。勝手にやらせていただきます」


 と、彼に背を向ける女性。彼はその言葉にいつもより強い意志を感じとり、


 「待て」

 

 と、咄嗟に静止の言葉を発した。彼女は出しかけた足を止めたが背は向けたままだった。


 「どうするつもりだ?」

 「……」

 「何を勝手にするのかと訊いているのだ」


 彼女は返事を返さない。先程とは逆の立場となっているが、元々立場としては男の方が上なのだろう。あからさまに、男は不機嫌さを高めていた。

 彼女はそれを感じとっていないわけではなかったが、敢えて反応を返すことはしない。その態度により、自分の強い意志を示そうとしているのだ。


 「何をしようもしているのかは知らぬが、お前の自由を許してはいない。まだ未熟者のお前には何もできぬ」

 「!!」


 彼女は振り返った。

 『未熟者』の一言に反応しての動きだった。男は反応をさせるために、敢えてその言葉を選んだ。すぐに反論の言葉を発しようとした彼女だったのだが、視線合うことによって感じ取った男の威圧感に、言葉を詰まらせてしまう。


 「なんだ? それを否定できる程の技を身につけたとでも言うのか?」

 「そ、それは……」


 彼女も判っている。

 自分が目の前で男性と比べて、実力が大きく劣っていることは判りきっていた。それでも……


 「それでも、決めたことです」

 「だから、何をだ?」


 そう訊ねはしたが、男もその答には予想がついていた。だが、すんなりの認める気がないために、敢えて威圧感を発していた。まるで、今にでも左手を添えた剣を抜くと思わせるほどの気を発していた。


 「あの方の力になるつもりです!」


 その圧に屈しないように大きな声で返す。

 それに対して、男は威圧感はそのままだが、静かな言葉で訊ねる。


 「なれると思っているのか?」

 「な、なれます」

 「我に大きく及ばないその剣技でか?」

 「くっ……」


 師である目の前の男と比べれば大きく劣っていることは、否定はできなかった。それをわかっているからこそ、中々決断できずにいた。だが、それを重々承知しながらも、決めた自分の道。譲る気はない。


 「あの方の力になりたいんです」

 「お前には無理だ」

 「なれます!」

 「お前は……」

 「なってみせます!!」


 実力が足りないかもしれない。だが、そんなことを動かない理由にしたくなかった。


 「師が力になっていただけるなら、私もこのような事は言いません」


 彼女のその言葉に男は眉を顰め、身にまとう気が高まる。今にも切り掛かりそうな気を感じ、気圧されかけながらも、彼女は次の言葉を必死の思いで口から放つ。


 「でも貴方は彼の方の力にはなれない」


 その言葉が相手の心を傷つけることはわかっていた。だが、納得させるためには言わないわけにはいかなかった。


 「だから、私が代わりに…………いえ、私では代わりになれないことは判っています。でも、力になりたいのです」


 師である男は口を挟むことができなかった。自分があの方の力になれないことが判っているから……。なりたいという思いはあっても、それが不可能な事なのだから……


 「貴方から見れば力不足かもしれません。ですが、私も貴方の血を継ぐ者。すぐには無理かもしれませんが、必ず貴方の剣の真髄を身につけて見せます」


 師としての見解としては、自分の剣の真髄に彼女が辿り着くには何十年かかるかわからないレベルだった。それほどまでに、自分と彼女の間には差があると思えた。それは自分ですらまだまだ辿り着けていない道であり、辿り着けるかもわからない遠い道なのだ。

 それを当然にできると発言することが、返って彼女を評価できない要素の一つなのだが、その事を気づいてない彼女に対して、イラつく感情が湧いてきてしまう。

 彼は大きく深呼吸をして、そんな感情を抑えつけようとする。そして、少し取り戻した冷静な思考で、1つの結論を導き出す。

 このまま、言い争っていても話に決着はつかない。


 「お前の考えはわかった。あの方の力になることを認めてやろう」


 急に考えを一転させた師の言葉に、彼女は逆に訝しげな表情を見せた。


 「ただし……」


 師は簡単に認めたわけではなかった。

 それが当然のことだと思っていた彼女は、黙って師の言葉の続きを待った。

 帰ってきた言葉は、判りやすく納得せざるを得ないものであり、彼女自身も自分に課さなければいけないものだった。

 それは簡単な事ではなかったが、自分を成長させる試練として受け入れる。

 必ずクリアしなければならない試練として彼女は挑む。まだ未熟な名なし者として……





 「昨日入ったのとは違う場所なのか?」


 ラスがタリサにそう訊ねる。

 捕らえた盗賊達を兵舎に連行した後に、宿に戻って早々に部屋に集まるように言い、集まるやいなやすぐに出されたタリサの提案に対する問だった。


 「ああ、あの遺跡より、更に森を奥に進んだ場所に別の遺跡があるらしい」

 「そんな情報をどこで?」


 ラスは疑問に思う。

 少なくとも、冒険者ギルドからの依頼の中にそんな遺跡の探索ミッションはなかったはずだ。


 「何度かの探索がされている遺跡らしくてな、それより新しく見つかった遺跡探索を優先していた為に、依頼が一度引っ込めてたらしい」

 「そんな情報をどこで聞いたの?」

 

 今度はリンが問い掛ける。


 「偶々、依頼書を掲示板から剥がす時を見たんだ。その時に確認したんだ。引っ込める理由とどんな遺跡なのかをな……」

 「でも既に探索された遺跡に態々入らなくても……」

 「いや、まだ完全には終わってないらしい」


 リンの問にもサンの問にも、タリサはすぐに返答する。もう、この話が決定させるつもりなのだ。


 「まだってことは……」

 「そう、私達が入った遺跡より大きいようだ」


 予想通りのタリサからの返答に、ラスは少し思案してから、


 「なるほど……、良いかもしれないな」

 「ラス?」


 少し驚きの表情を見せるリン。それに気づき、ラスは口元に僅かに笑みを浮かべながら言葉を続けた。


 「小さな遺跡の側にあるそれより大きな遺跡……。もしかしたら、嘗ては同じ持ち主が住んでいたのかもしれない」

 「? それで?」

 「それなら、より大きくて複雑な方に大事な物は保管するじゃないか?」


 ラスの答えに、リンも少し考えて小さく頷く。


 「ま、確証は一切ないがな……、だが、あの盗賊団が寝ぐらにもしてたって話がないってことは、結構やっかいな作りなのかもな……」

 「大丈夫なのですか? 今はあまり危険なのは避ける方針じゃ……」


 アミスが心配そうに言う。その言葉の通り、この一年間はできるだけ安全を優先しながらゆっくりと経験をつむ方針で行動してきた一行。

 それに対して笑みで返すタリサ。


 「なるほど、その方針をそろそろ転換させる時期を言うことか?」


 タリサの表情見てラスはそう口に出した。タリサも笑みを残したまま小さく頷く。

 この一年で、互いの能力についても理解し合い、互いに連携できてきている事は、それぞれも認識していること。


 「これ以上はマンネリで気が緩んでしまうだけ……もう少し前からでも良かったんだが、丁度良い依頼がなくてな」

 「その遺跡が力試しに適しているってことなのか?」


 サンのその言葉に、タリサは完全に肯定するわけではなかった。


 「それはわからない。正直言って、遺跡探索に関しては実際に入ってみなければわからない所があるからな……」

 「では、どうして……」

 「あくまでもきっかけにすぎないのさ。どこかで転換しなければいけない方針だったからな。だが……」


 タリサの考えも説明ができない不確かなものだったが、何故か今回が転機になると感じていたのだ。


 「もしかして、聖獣が……」


 ふと気づいたように呟くアミスに、タリサは頷くと


 「まだ聖獣が見つかったという情報は出ていないが……」

 「確かに昨日の遺跡と繋がりがあるなら、その可能性はありますね」


 そのアミスの言葉で、皆の視線が彼に集まる。


 「少しだけですが、不自然なエネルギーを感じていたんです。だから、もしかしたら聖獣がいるのかもと思って探索してたんです。結局、見つかりませんでしたけど……」

 「なるほど、あの遺跡と何らかの繋がりがあるなら、ということか……」


 複数の聖獣を使役できるアミスだけが持つ才能のことを考えれば、聖獣を手に入れることは、パーティーの戦力強化に最優先するべきものだ。

 アミスに限らず、ラスも一体だけ聖獣を使役する枠が残っている。

 新たに聖獣を手に入れたリンと既に契約済みのタリサの枠はもう埋まっており、サンとジーブルは残念ながら聖獣との契約に必要となる聖契石を作ることはできなかった。それは聖獣を使役する才が無いという事実を示している。

 統計的には、3割〜4割の者しか聖契石作り出せないと言われており、それを考えれば6人中4人が石を作ることができたというのは、多いと考えられた。

 だが、アミスやラスは少し意外に思っていた。

 精霊魔法と聖獣は近しい存在であり、精霊魔法を得意とする者は、聖契石を作れる言われていたからだ。

 ジーブルは氷系限定とはいえ、精霊魔法を使用しており、その威力を見る限り充分に適性があると思えた。もう1人のサンも、精霊魔法は覚えてはいないが、他の者と比べて身体を包む精霊力が高く感じられた。

 ラスやリンが仲間になる前からサンの事を気にしていたぐらいには……

 そんな2人が聖契石を作ることが出来なかったことは、アミスを含めた3人が意外に思っていたのだ。不思議に思いながらもそれは事実として受け入れるしかないわけだった。

 取り敢えず、今はアミスとラスの聖獣を手に入れることを考えるだけ。

 どちらの聖獣にするかは、その能力と状況しだいであり、リンが聖獣を手に入れた時も、その聖獣の能力がシェイプチェンジャーという特別な種族であるリンが適していたので、悩むことなく決定したのだった。


 「勿論、無理に危険度が高い依頼を受ける必要はないが、不必要に避ける必要もないだろう」


 ギルドが優先としていた遺跡の探索がある程度完了した以上、もう一つの遺跡の探索依頼も再度出されるようになるだろうと予想し、依頼が出されると同時に行動を開始しようと決まった。

 新たな聖獣を手に入れる為に……

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