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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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異常なる才能

 アミス一行は女剣士エルが目を覚ますを待った。

 目を覚ました彼女が相棒であるラミルと共に食堂に降りてきたのは、遺跡から戻ってから3回目の夜明けを迎えた朝のこと。

 既に目覚めて朝食を取っていたアミス、ラス、タリサ、レンの4人と同じテーブルにつくと、小さく息を吐く。

 

 「大丈夫ですか?」


 エルの顔色が優れないと見えたアミスの口から自然と心配の言葉が出た。それに対して彼女は再び小さく息を吐くと、自分の身体の状態を確認するように座ったまま手足を動かしてみせ、


 「まだ大きな疲労が残ってるな……」


 ずっしりとした身体の重さを感じ、そう返す。

 その口元に小さな笑みが浮かんでおり、そんな彼女をみて隣に座るラミルは満面の笑みを浮かべていた。

 その姿は、男だと判ってみても可憐で可愛らしく見え、アミスは少し見惚れてしまっていた。

 ラスはそんなアミスとラミル見比べる。

 年齢よりも幼く見える少女のような容姿も、一見魔力が弱いが見た目より優秀な魔導士であること、そして、思ったことを素直に言葉や表情に出すことなど、2人には似ている点が多かった。

 だが、アミスとの違いをハッキリと感じられる。


 (アミスでも、年齢から見ると充分に異常ともいえる強さだ……。だが、こいつは……)

 

 遺跡内で見せたラミルの能力を思い出すラス。

 今まで様々な強さの者を見てきたラスでも、更に長い冒険者歴を誇る長命なダークエルフのレンですら見たことのないタイプのものだった。

 魔力に頼らない絶対的な魔法技術。

 それは魔力に優れて更に長年魔法を研究してきたレンですら、考えられないもの。

 気持ちを切らさず諦めないようにチャンスを伺っていたものの、そのチャンスを呼び込む策がなく、誰もが心のどこかで諦めかけていた状況。

 既に悪足掻きすら浮かばないあの状況を一転させたのはラミルの魔法技術。

 そして、まだ不利だった戦況を互角まで引き上げたのも、ラミルのありえない支援能力によるもの……


 「1つ、訊いていいか?」


 ラスは珍しく遠慮気味に口を開いた。

 自分に視線が向けられていることに気づいたラミルは、人懐っこい笑顔のまま首を傾げた。


 「なんでしょうか?」


 可愛らしくも落ち着いたその声は清楚さを感じさせるものだった。


 「あの玉のことなんだが……」


 結界のこと以上に気になったのは、空を飛べない者達のために足場として用意された魔法の玉のことだった。


 「あれを一つ一つ別々に操作していたのか?」


 それは信じ難いことだった。不可能な事だと思いながらも、実際に利用した者としては、そうとしか説明のつかない動きをしていた。

 ただの足場として、ランダムに動くだけなら簡単なことでないが、高位の魔法使いならば出来るかもしれないとも思えた。

 だがしかし、そんなモノならば、自分では足場として利用することなどできない。

 正直、動かないそれだったとしても、その上で戦闘することなどできるとは思えない。

 ある程度の大きさと、足場としての踏みやすさがなければ……、自分の態度の体術では厳しい注文というのが、ラス自身の自己評価だった。

 タリサ程の体術を持ってしても同じ考えしか持てないもの。

 躊躇いもなくそれを足場にしようとしたエルがおかしいのだと思うのが普通のことだった。


 「はい、そうですよ?」


 さも当然のように肯定する言葉がラミルから返ってくる。

 唖然とするラスの表情に気づき、エルが口元に笑みをうかべていた。

 それに気づいたラスが訊ねる。


 「よく使う魔法具なのか?」

 「ん? いや、私も初めて見たが……」

 「は?」


 エルの返答に再度唖然としてしまうラス達。


 「初めて見て躊躇いもなく……?」


 信じられないことだった。

 初めて見て足場として利用しようと思うことが……


 「驚く気持ちはわかるけどな……

 だけど、お願いして了承の返答が返ってくれば、こいつは絶対に何とかしてくれる。

 そういう奴なんだよ」


 笑みを浮かべたまま肩をすくめるエルと、キョトンとした表情を見せるラミル。

 その仕草はただの少年少女が普通に見せる表情だった。

 だが、その内容はただのそれでは考えられないもの。

 ラス達は驚きの表情を消すことができないでいた。


 「最初は私も驚いて躊躇っていたけど、もうそれも無駄な思考だと分かったからね。今じゃ、ただ信じて任せるだけ……、異常な才能を持ってるだよ、こいつは……」

 

 (いや、お前も充分異常レベルの才能だが……)


 ラスはそう思った。

 レンやアミス、タリサやアスマやラディ……

 この半年にも満たない間に、異常とも言える実力者達を見てきた。エンチャントドール化して、異常と言える魔力を持つこととなった自分ですら霞んでしまうほどの才能に溢れる者達。そんな中でも、この2人の少年少女は飛び抜けた存在だった。

 そう思っていたのは一流の魔法使いと言える実力を持つレンもだった。


 「もう1つ訊いても?」


 今度はレンからの問いだった。


 「エル、貴女の体内に棲んでいるのは何?」

 「……」


 先程とは違い答えることに躊躇いを見せるエルは、横目でラミルに視線を向けた。ラミルは笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

 「そうだったな……」


 エルは小さな溜息を1つつくと、ボソリと小さい声で答えた。


 「聖竜だよ……」

 「聖竜?」

 「あの神話時代に神々と共に邪神と戦ったという伝説の?」


 それは誰もが知っている伝承に示された邪神と戦った伝説の存在。この世の全ての生き物の祖となる存在のことだった。


 「ほ、本当に存在するんですか?」

 「存在したみたいだ……、私の中に居るのが偽物でなければね……」


 誰もが知っている存在なのだが、実在しているとは思われていない。実際に過去に存在していたとしても、余りにも古過ぎて生きてはいない。故に伝説だけの存在。

 それが今の時代に生き残っているなんて、誰も思ってはいなかった。

 確かに力を全開にした彼女から感じられた魔力は、高ランクの聖獣でも発することができないと思えるほど膨大なものだった。だからと言ってそれが聖竜であるとは簡単には信じられなかった。


 「ま、私ではまだまだその力を全て使いきれてないけどね……」

 「あれでもか……」


 ラスはあの時に感じ取れた魔力を思い出していた。

 弱体化の結界をモノともしないあの魔力が完全に発揮された力では無いという事実は、僅かだが聖竜の存在を信じる気にさせるものだった。


 「ま、信じてもらえなくてもいいさ……」


 微笑みながらそう言ったエルと、それをニコニコと見つめるラミル。遺跡内で見せてきたものとは異なる年相応の表情は、2人を疑う気持ちを奪う姿に感じられた。


 「2人はこれからどうするつもりなんだ?」


 レンがそう訊ねると、僅かに返答を躊躇うエルであったが、


 「またどこかの遺跡に潜る予定です」


 と、ラミルがあっさりと答えた。


 「遺跡探索専門の冒険者なのですか?」

 「いや、そういう訳ではないのだが……」


 アミスの問いにも曖昧な返事をするエル。

 そんな彼女の姿は、何か言い難いことがあると言っているようなものだった。

 

 「何かお困りならお手伝いしましょうか?」


 エルの心中を察していないのか、アミスがそんな提案を出す。


 「いや、それは……」

 「エル、どういう話になるにしろ、隠さずに話しちゃってもいいと思いますよ」

 「ま、確かにそうなんだが……」


 相方の提案にも躊躇い口を濁すエルだったが、ラミルは気にせずに説明することにして口を開く。

 

 「大きな魔力の溜まり場を探しているんですよ」

 「魔力の?」

 「はい。できれば移動魔法向きの魔力を……」

 「移動系? 転移魔法か?」


 膨大な魔力を使う移動系と言われて、レンは自分の知識内で最初に浮かんだモノを口にした。ほぼ間違いないと思いながら……

 そして、エルとラミルは揃って頷く。


 「妨害結界を突破しての転移が必要なんだ……」

 「結界を……? お前ら何を企んでいる?」


 ラスが目つきを鋭くして訊ねる。

 転移魔法を妨害する防御結界。

 古代遺跡などでも稀に見かけるが、その結界が最も使用されているのは国の首都や主要都市や砦など、無関係な者に侵入されては困る場所。

 膨大な数の魔法使いや魔法具により儀式を用いて結界が張られる。

 遥か昔に転移魔法を使った魔族による侵攻により、大きな被害を受けた人間達が、古代魔法王国の文献を必死に調べて編み出した対抗術。


 「どこかの国王でも暗殺するつもりか……?」


 それはあり得ない可能性と思いながらも、最初に頭に浮かんだ言葉を口にするラス。それに対して返ってきたの当然のように否定の言葉だった。


 「帰るべき場所に帰るだけだ……」

 「帰るべき場所? それはいったい……」


 躊躇しながらも説明を始める2人。それはアミス達が予想できない内容。知らないことを予想することは難しいことだった。

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