エンチャントドール
登場人物
アミス・アルリア;5体の聖獣を持つ魔法使いの少年。ハーフエルフ、15歳
ラス・アラーグェ;強い魔力を持つ魔法剣士。23歳
マーキス・サーラント;エルフの精霊使い。聖獣持ち。
ティス;アミスの使い魔のピクシー。
翌日の陽が落ちる前に町に戻ることができた。
まだ、兵士も到着はしておらず、依頼には落ち度なく終了したことになった。
オーク部隊の全滅の報告を、隊長も団長も俄かに信じられないと疑ってかかったが、冒険者にそんなウソをつく意味もなく、渋々にその報告を受けとめた。
奥へ通され、暫く待たされる。
ラスは少しいやな予感がしたが、それは杞憂で終わり、契約通りの依頼料が払われた。
5人は、治安維持団の詰め所を出ると、それぞれの次なる行動を言い合った。
ティサとグドルはこの町でもう少し仕事をするとのことで、そのまま別れた。
他の3人は、次の目的地が同じだったため、そこまで一緒に向かうことになった。
このキックオークから東に3日程歩いた場所にあるタイコウという町。
正直、アミスとラスは、その町に目的があるわけではなかったが、とりあえず、このキックオークという町から出たかったのだ。
アミス達は、不足分の装備を補充し、すぐにキックオークから旅立った。
もう少し経てば、日が陰ってくる時間ではあったが、野宿を覚悟で旅立ちを早めた。
門の衛兵には、翌朝になってからの出発を勧められたが、急いでると嘘をついてそのまま旅立った。
アミスは、回復しきってはいなかったので宿で休みたかったが、押しの弱いアミスは、2人に押し切られる結果となった。
暫く進んでからその日の野営の準備をする。
明らかな疲労を感じるアミスを休ませて、ラスとマーキスで行った。
軽い食事を取ると、交代で眠りにつくことにした。
最初にアミスとティスを寝かせ、ラスとマーキスが見張りについた。
アミスの寝息が聞こえてきたのを確認してから、マーキスが小声で話し出した。
「ラスは、アミスと一緒に行動するつもりなんだよね?」
「ああ、しばらくはな・・・」
「理由を聞いてもいいかい?」
「理由・・・」
ラスは、静かにアミスへと目を向ける。
「マーキス・・・、アミスのことどう思う?」
「?・・・不思議な少年だね・・・」
「・・そうだな。しかし、冒険者として半人前だ」
「それは経験が浅いだけだと・・・」
「いや・・・」
ラスの口から出た否定の言葉。
その言葉の意味を推し量るマーキス。
「あいつは冒険者に向かない・・・」
「性格的にってこと?」
「そう・・・、あの性格を何とかしないと、遠くないうちに死ぬ。間違いなくな・・・」
ラスの言ってることを、マーキスは理解できた。
その考えに大きく間違いはなく思える。
「あいつに冒険者としての考えを植え付ける。そして、経験を積ませる。そうすれば、あいつは一流の魔法使いになれる」
「・・・なぜ?」
「ん?」
マーキスがさらに問いかけた。
「なぜ、君が? 君に何かメリットが?」
「・・・・」
ラスは黙り、マーキスが続ける。
「元々、タイコウに用事はないんだよ。ただ、君達のことが気になったから・・・」
「そうか・・・、お前もお人好しだな・・・」
「それでも良いと、私は思うけどね。それとも、冒険者はみんなあの魔剣士みたいになった方が良いかい?」
「それは、勘弁してくれ・・・」
2人は僅かに笑みを浮かべた。
「アミスは優しいよ。冒険者としては過ぎる優しさかもしれないけど・・」
「そうなんだよ・・・」
「でもね、あの優しさは大事だ」
「・・・?」
マーキスの真意がわからずにラスは言葉を待つ。
「優しい人には、味方がいっぱいできるよ。そして、お互いに守りあって強くなる。アミスはそんなタイプだと思うよ」
「そうだな・・・」
ラスは、自分はそうではないと思った。
あくまでも流れでこうなった。
自分と同様にヴェルダに目をつけられたアミスが哀れに思った。
だから、少しの間一緒に旅をして、対処の仕方、冒険者としての心構えを教えるつもりだった。
「そうか・・・違ったようだね。なら、私ももう少しだけ一緒にいることにするよ」
「お前・・・」
「私は、アミスの力になってあげたいよ。ただ、力になれるほど強くはなれないと思うから、それは諦めるつもりだったんだけどね」
「そんなこと・・・」
「いや、わかったよ。理解したよ」
ラスの言葉を遮りマーキスは話を締めた。
「わかったから・・・」
夜は更けていく。
数多の星に見守られて・・・
タイコウの町へと到着したアミス達は、まずは空腹感を満たそうということになり、食事を取れる場所を探すこととなった。
しかし、これと言った店も見つからずに、さまよううちに冒険者ギルドへと到着した。
宿と酒場が併設したギルドだったので、ここで食事と宿を取ることに決める。
「4人だが、部屋は空いてるか?」
「悪いね、3人部屋なら空いてるんだけど。それで大丈夫かい?」
と、受付の女性が気さくに訊いてくる。
「4人って言っても1人はピクシーだろ? それとも2人部屋2つにするかい?」
「いや、宿側が認めてくれるなら、三人部屋で充分だ」
「そう・・・」
普通は、1人分のスペースを使わないピクシーも1人と数えられるのが普通だ。
それを敢えて3人と見てくれるとは、随分と良心的な宿だった。
部屋へ大きな荷物だけ置いてから、4人は食堂の席に着いた。
この町の名物だという羊料理を注文し、料理が出来上がるのを待つ。
「さて、今回は初級の依頼を受けようと思っているんだが・・・」
さっそく切り出したラスの提案に、マーキスは頷き、アミスとティスは首を傾げる。
そんなアミスに向かって、ラスは言う。
「冒険者としての経験も浅いんだろ?」
「はい・・そうですね」
「最初から、レベルの高いクエストを経験したようだが、あまり良いことではないな。順番に経験した方がいい事もある」
「1つは、誰かさんが持ってきた仕事だけどね・・・」
ティスがジト目をラスに向ける。
「悪かったよ。あの時は流れでそうなっちまった」
バツが悪そうにラスが頭をかく。
「一晩休んで、初級クエストを探して受ける。そういった流れでいいね」
そんなラスの代わりに、マーキスが提案しなおす。
「僕はかまいません」
「あたしも」
「仕事内容によっては、戦力不足になるかもしれないがな」
ラスの言葉に、マーキスも頷く。
「確かにこの4人じゃ、後衛に偏りすぎてるね」
戦士系の冒険者と連名で依頼が受けれればベストということで話は纏まった。
「ま、アミスはできるだけ聖獣使うなよ」
「は、はあ・・・」
「簡単に魔力が尽きてたら、戦力ならん。この前も、あの後、オークの生き残りがいたら全滅してたぞ」
アミス自身も、聖獣に頼りすぎていたことを実感していた。
しかし、今までのものは特殊な事態ばかりだったのもあったため、聖獣を使わずにはいれなかった。
「わかりました。もし使うにしても、魔力を残すように気をつけます」
「ああ、それでいい。あとな・・・」
ラスの言葉が止まる。
「・・・?」
少し考え、悩んでからようやく言葉を続けた。
「今晩、部屋で話す」
「えっと・・・」
「気になっていたんだろ? 俺に気を使ってか、質問してこなかったがな・・・」
「あ、・・・」
ラスが何を言いたいのかが、わかってアミスは戸惑う。
「なんのこと?」
「・・・?」
話が理解できないマーキスとティス。
「今晩言うよ・・・」
ラスは静かに呟いた。
古代の遺跡などで、稀に確認されるキメイラというモンスターがいる。
ライオンの頭と山羊の胴体、蛇のしっぽを持つ。
複数の生き物の各部を持つこのモンスターは、かつて神々の遊びにより融合し作られたとされており、古代より、神の技術を求める者達が、それと同じことをしようと、様々な実験、研究を繰り返してきた。
その実験の失敗の中、数々のモンスターが作られてきた。
牛や豚、鳥や小動物、魚、爬虫類など、様々な生き物を使い繰り返されてきた。
その殆どが失敗に終わったが、極一部の実験体が、遺跡や洞窟などで確認されることがあった。
そして、約50年前のことだ。
長い歴史の中では、つい最近と言っていいだろう。
その研究対象を人間や亜人へ向けた者がいたのだ。
今では、存在しないラマジ王国という国があった。
その魔法研究室でその研究は行われ、それが引き金になり、ラマジ王国は滅んだ。
聖王国と呼ばれる、サントラセーノ王国からの侵攻により。
元より、キメイラ実験自体を快く思っていなかった聖王国は、常に実験の取りやめを訴えていた。
しかし、ラマジ王国は無理をし続け、遂に人間、亜人を実験対象にする。
そのことを知った聖王国国王、ラインマーク・ロン・サントラセーノ7世がラマジ王国への侵攻の命を下し、そして、ラマジ王国はこの世界から姿を消した。
王城の地下にあった、魔王研究室と共に・・・
しかし、研究者だった魔術師達の中に、逃げのびた者が数名いた。
その数名によって、研究は続けられている。
今でも・・・
その者たちが作り出したのが、
『 エンチャントドール 』と呼ばれる魔法生命体だった。
元となった人間や亜人を他の生命と融合し、別の生命体に変えられた存在。
神ではない者の手で作られたその生命体は、不完全であり、そうなってから10年も生きることはできない。
それが、魔術師ギルドが知っている知識だった。
一般の冒険者では知りようがないものだったが、魔術師ギルドに属する者は皆教えられる。
行ってはいけない禁忌の一つとして・・・
「ラスが、そのエンチャントドールってのなのか?」
マーキスは、エンチャントドールについて知識はなかったが、ラスやアミスの説明を聞き二度驚く。
エンチャントドールという存在に驚き、ラスがそのエンチャントドールだということに驚いた。
「ま、そういうことだ・・・」
「そんな・・・」
アミスも驚きを隠せない。
「俺が冒険者として旅に出たのが、16歳の時。そして、17歳の時にエンチャントドールにされた。エンンチャントドールの情報が全て本当なら、いつまで生きれるかわからない状況だ。長くてもあと4、5年ぐらいか・・・?」
ラスはらしくないぐらいに、お茶らけて話す。
こうしないと言い方が暗くなってしまうので、わざとやっているのだが、今までとあまりにも違うため、逆に心境がバレバレである。
「でも・・・」
アミスには、1つ疑問に思うことがあった。
「・・エンチャントドールって、殆ど感情を見せないって聞きましたけど・・・」
「・・・ああ、俺もそう聞いた・・・」
ラスにもそういう知識があった。
「本当にそうなのか? そもそも、なんでそれになったって知ったんだ?」
ラスは、普段冷静に話しているが、決して感情に乏しいわけではなかった。
故に、アミスもマーキスも、そのことを疑ってしまう。
「あと、誰にってことも気になりますけど・・・」
「それはわからん。わからんから困ってる」
「へ?」
ラスはどう説明すればいいか悩んだ。
ラス自身も、最初はエンチャントドールのことを知らなかった上、その説明を聞いても疑ってかかった。
あの時、ある一室で目が覚め、目の前にいるフードを被った子供にそれを告げられた。
その直前数日間の記憶がなく、そして、試してみるように言われて放った攻撃魔法は、自分の知るそれとは比べ物にならない威力があった。
「成功だね」なんて軽く呟くと、その子供は姿を消したのだ。
あまりに理解に苦しむ出来事だったが、わかったのは自分の魔力がありえないほど高まった事と、エンチャントドールになったこと。
「実際に、魔術師ギルドで調べてもらったが、高すぎる魔力によって、体が蝕まれているといわれたよ」
「魔術師ギルド・・・? ひょっとして、聖王国の?」
「そんなわけあるか、魔法で作られた存在なんて生かしておく国かよ」
「あ、そうですね・・・」
マーキスは、二人のやりとりの意味を完全には理解できなかったが、あまり良くないということは何となく理解した。
「なぜ、俺をこんなにしたのかもわからなければ、なんで感情が残っているのかもわからない。少しずつ感情を失うのかもとも思ったが、もうあれから6年近く経ってるが、なんら変わりはない」
「それで、ラスはどうするつもりなんだ?」
「そりゃ、戻れるなら普通の体に戻りたい。あとは、なぜこんなことをしたのか? 誰がこんなことをしたのかを知るために、情報を探しているんだ」
マーキスの質問に、ラスはさも当然とばかりに答える。
「・・・では、僕も手伝います」
「は?」
「ラスさん、しばらく僕と一緒に行くって言ってましたよね? なら手伝わせてもらいます」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃ・・・」
突然、やる気を見せるアミスを、ラスは少し慌て気味に止める。
「ま、とりあえず落ち着け。調べるにしても、手掛かりがないからあまり手伝ってもらうことはないから・・・。ただ、それっぽい情報が聞けたらそれを調べるだけだ」
「はあ・・・」
そう言われて、とりあえず大人しくなるアミス。
「なるほど・・・、ま、確かにできることはあまりないかな?」
マーキスは少し考えながらそう言うと、続けて
「ま、もしそれっぽい情報が聞けたら、何とか情報がラスの耳に届くようにしてあげるよ」
「あ、ああ、悪いな・・・。ただ、ヴェルダみたいに変な奴に知られたくないから、それだけは・・・」
「ああ、気をつけるよ」
マーキスは、そう言うと軽く息をついた。
「そろそろ寝るか? 明日も朝一で依頼を見なきゃ駄目だしな」
「そうだね」
二人が寝る準備を始める中、アミスだけは考えてるようで動きがない。
「アミちゃん?」
「あ、なに?」
「寝るよ?」
「あ、うん」
ティスに促され、ようやく寝る準備を始めるアミス。
その晩、アミスは中々寝付けなかった。
ラスの力になれないだろうか?
自分にできることはないだろうか?
と、考えるアミスだった。
今回は説明が殆どで申し訳ないです。
次回は、ゴブリン退治で、4月2日の19時更新予定。




