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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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ウェディックの切り札

 ウェディックにとって理解に苦しむ事態だった。

 空中という安全な場所にいるはずの自分が囲まれている。

 本来であれば、対攻撃魔法への意識を強めにして時折何らかの手段により跳んでくる者を迎撃すればいいだけのはずだったのが、どうしてこうなっているのかが解からなかった。

 飛ぶ手段を持たないはずの戦士達が近接用の武器を手に、その武器が届く間合いから攻撃を仕掛けてくる。

 何が起こっているかは判ってはいるのだが、それは信じられない事であり、ウェディックは冷静な判断を取り戻す暇もないまま防御一辺倒な状況に追い込まれていた。

 自分が絶対的有利だったはずなのが、状況が一変してしまっている。

 不利な状況になったウェディックは、冷静さが戻らない中、それでも必死に状況を把握するように努める。 


 (足場はあの球……)


 女剣士エルも、女戦士タリサも、白虎娘リンも、盗賊サンクローゼも、ハーフエルフの魔法剣士ラスも、全員が小さな球を足場にして自分の目の前まで来ている。

 そこまでは理解できるが、納得できることではない。

 足場としては不十分な大きさで足場にするには不安定な形状、そんな物を足場にして戦闘を行うなんて、そんな神業じみた能力を持った者がそんなに存在する訳がないのだ。

 だからこそ、5人が戦闘を行えるレベルでその球を利用している事は信じられない事態だったが、それが現実で行われている事がウェディックが冷静な判断をすることを妨害していた。

 冷静さを失っている為に気付く事が出来ていないことがあった。

 一人の警戒するべき相手が姿を消している事を……

 そして、異常というべき能力を見せているのは、自分を取り囲む5人ではなく、たった一人の存在だという事に……


 背後からのリンの攻撃に、咄嗟に出したウェディックの攻撃魔法が気付くきっかけを作り出した。

 リンはその攻撃魔法を躱すことに成功はしたが、バランスを崩して球の足場から足を踏み外してしまう。

 リンは空中で態勢を立て直すと、リンの落下先に()()()()()()魔球を足場に再度ジャンプする。


 「!?」


 ウェディックは漸く気付くことが出来た。

 5人が球を足場にする能力を持っている訳ではない事に……

 ウェディックの意識が一人の魔法使いに向けられる。


 (そ、そんな事が……)


 気付くことは出来たが、それも理解できることは難しい。

 理解、納得できない事としては、先程のものより上かもしない。


 「5人の動きに……、戦い方に合わせて、これだけの球を操っているというのか?」


 信じられない事実に、思わずウェディックの口から漏れる疑念の言葉。

 だが、その言葉に反応して、笑みを浮かべる者がいる。

 その笑みが、その言葉を肯定しているように感じるウェディックは、僅かに取り戻した冷静さから判断し、反撃の為の行動に出る。

 ラスとサンクローゼからの攻撃を捌いた後の、僅かな間を利用して魔力を溜めると、詠唱なしにその魔力を攻撃として放出した。

 魔法としては不完全なものであり、大半の魔力を無駄にしてしまっているが、それでも遺跡の魔力を利用できるウェディックとしては、目的の為に必要な攻撃力は充分に出せる攻撃だった。

 だが、それはウェディックの思った通りの結果を生まない。

 自分の周囲を飛び回る魔球を少しでも無効化できれば良かったのだが、そんなウェディックの控えめな願いが全く叶えられないだけでなく、放った攻撃的な魔力は、魔球に吸収され、その一部がそのままウェディックへの攻撃として返ってきた。

 想像していなかったその現象に、まったく反応をできずに自らの魔法を受けるはめになったウェディック。

 返ってきたものが一部であることが幸いし負ったダメージは大きくはなかったが、それにより生まれた隙を見逃してくれるほど、囲んでいる敵は甘い相手ではない。

 次から次へと近接戦闘で襲い来る者達と、それに合わせて攻撃魔法を仕掛けてくるアミスとジーブル。

 攻撃魔法がそれほど高位の魔法でない事が、ウェディックにとっては幸いな事だったが、そういう考えが頭に浮かんだことで、一つの見落としに気付く。


 (あのダークエルフは、どこに!?)


 攻撃魔法では最も警戒しなければならない相手と思っていたダークエルフの魔術師レンからの攻撃が無かった事で、その姿が見えなくなっている事に漸く気付いたのだ。

 ウェディックは、自分の持ち味である冷静さと視野の広さの両方を失っている現在の状況を、苦々しく思いつつも、それが返って改めて冷静さを取り戻させていた。


 (魔力も感じない……、完全な隠密術か……)


 意識を全てレンを探すことに集中出来ない今の状況では、見つける事は出来ない事を悟っていたが、まったく魔力を感じ取れないという事は、高位な攻撃魔法の準備はしていないということであり、そうでなければそれほど警戒する必要はないと判断する。


 (最低限の警戒をすれば対処はできる。

 だが……)


 それ以前に、自分を囲み攻撃してくる近接戦闘員達がやっかいだった。

 各々がウェディックの想像以上の実力者であり、最初は難なく捌ける相手だった盗賊のサンクローゼの動きも早くなってきており、油断できない相手へと変化していた。

 次から次と襲い来る予想外の状況。

 苛つきそうになる心を抑えて、冷静に頭を回転させる。


 (今は耐えるのが……)


 知らない術により、直ぐに回復する訳がないエルの回復。

 エルとラミルの会話を聞いた限りでは、それは一時的なもので短い時間しか持たない仮初の回復。

 それを信じて待つしかない状況だった。


 (それすら罠の可能性も……)


 一瞬だけ迷いの心が生まれるが、そんな心を振り払い、現状で最もと確率の高い方法を取るだけだった。

 ウェディックが守りに入ったその瞬間を見逃さなかったのは、アミスとジーブルの後衛2人だった。

 力の弱い冒険者達を守るために使用してきた魔力・法力(ちから)を全て攻撃へとシフトする。

 アミスは聖獣≪魔 女(ニーネル)≫を呼び出すと、高位の攻撃魔法の為に魔力を溜めて詠唱を開始したジーブルと自分の魔力強化をさせ、自身も自分が使える最も強力な攻撃魔法の詠唱へと入った。


 ウェディックの守りの心がそれに対する反応を一瞬遅らせた。

 その一瞬の遅れは、エルとタリサの牽制の為の攻撃により完全なる対処遅れとなった。


 「くっ……」

 

 ウェディックは牽制の為の攻撃魔法すら諦め、完全に防御魔法に全てを注ぎ込む判断を下す。

 遺跡の魔力をできるだけその防御魔法に回す、それで対応できると思っているウェディックには、更に切り札がある。


 (できれば使いたくないですがね……)


 ウェディックはそう思いながら、胸元に垂れ下がる首飾りに彼の意識が一瞬だけだが移った。

 そんな意識の動き気づいたのか、タリサが横からの攻撃のターゲットを首飾りへと変える。

 咄嗟に躱すウェディックへの追撃も、首飾りへと攻撃。

 サンクローゼ以外の4人の意識は首飾りに集中しており、それが自身の僅かな意識の動きが呼び込んだ状況である事に気付いたウェディックは、小さく舌打ちをする。


 (どこまでも、予想外に優秀な……)


 最初は感じ取れる魔力の高さ故に、獲物として良いメンバーが集まったと喜んでしたウェディックであった。

 だが、今は自分の計画を潰そうと襲い掛かる者達が憎くて仕方なかった。


 リンの攻撃が首飾りを掠り、大きな金属音が響く。

 それがウェディックに覚悟を決めさせた。

 もう使いたくないなどと言っている状況ではない。 

 但し、使う以上は、


 (ただではすまさないですよ……)


 強い憎しみの感情を込めた魔力に反応して、首飾りが輝きだす。


 (これから、始まるのは戦いではなく……)


 魔力を吸収した首飾りは、吸収したものより黒い魔力を放ち、その魔力はウェディックを包んでいく。

 その場にいる全員が感じ取れるほどの危険な闇。


 「ただの殺戮だ!!」


 ウェディックの切り札の発動が呼び水となり、最後の攻防が始まろうとしていた。

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