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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
7・魔力の壺
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反撃の魔球

 一同はアミスの言葉により攻撃に出たが、やはり相手が空中に浮いている事はやっかいな事だった。

 ウェディックは攻撃魔法への対策は万全であり、多少威力の高い攻撃魔法を使用しても、防御に関する高い技術により防がれてしまう。

 優秀な前衛系のメンバーを活かした近接戦闘に持ち込むことが、勝利への一番の近道だと誰もが思っているが、その状態に持っていく方法が誰にも思いつかずにいた。

 ただ、一人を除いては……


 「ラミル……」

 「はい?」


 座ったまま相棒のラミルに寄りかかるエルは、力弱く口を開く。


 「回復を頼む……」

 「? 回復ならジーブルさんが……」

 「それじゃー間に合わない……

 直ぐに前衛に戻れるようにしてくれ。

 今のままじゃ、勝ち目がない」


 その声は小さく弱々しく感じた。

 それでも焦りを感じさせようと、必死に口を開くエルに対して答えを返したのはジーブルの方だった。


 「無理を言わないでください。

 貴女は意識があることが不思議なくらいに衰弱しているんですよ。

 どんな法力の高い司祭であろうと……」

 

 ジーブルのその言葉を、彼女の顔の前に掌をかざす仕草で静止させたエルは、ラミルに対して懇願を続ける。

 ラミルはエルの心を感じ取って、


 「一つ、手が無いわけでは……」

 「それを頼む!」

 「で、ですが……」

 「いいから! 説明を聞いてる時間はないんだ!!」


 ラミルが説明しようとしている魔法は、リスクがあるものだった。

 充分な説明をして、考えてもらい、使いかどうかを決めてもらおうとしていたラミルの言葉は、エルの余りにも余裕のない剣幕の表情に制され、ラミルはそれ以上は何も言わずに頷くしかなかった。


 「座ってください……」


 ラミルが受け入れてくれた事により、エルは落ち着きを取り戻し、その指示に素直に従った。

 エルもジーブルも聞いた事の無い言語による魔法の詠唱。

 それは長く魔法の研究を続けてきたウェディックにすら解からない系統の魔法だった。


 (何をしようとしている……)


 ここまで、自分の予想外の結果を出し続けている2人のやり取りが、ウェディックは気になって仕方ない。

 話の内容を盗み聞きした限りでは、何らかの回復魔法だと思われたが、ラミルの詠唱から生まれ出る感じ取れた力は、法力でも魔力でもなかった。

 

 (精霊力か?)


 それが一番近いと思ったウェディックだったが、近いだけで異なるものだと気づき、頭の中で直ぐそれを否定した。

 ウェディックが答えを導き出す前に、ラミルの詠唱は終了し、淡い光がエルの身体を包みだしていた。


 「時間は5分です……」

 「了解」


 エルは短くそう返すと、振り返りウェディックに睨みつけるような視線を向けた。

 向けられたエルの顔は、先程までの苦しそうな表情ではない事にすぐに気づいたウェディックは、直ぐに警戒の念を強めた。


 (5分? そうだ、奴の言う事が正しいのであれば、5分耐えればいいのだ……)


 再び起こった予想外の事に、ウェディックは冷静さを失ったままそう結論付ける。

 ウェディックの知らない系統の魔法な為、それ以上に頼る情報が無かったのだ。


 「足場を頼む」

 「はい」


 エルからの次なるお願いに、ラミルは直ぐに承認の声を上げ、ローブの内ポケットに右手を入れると、ごそごそと中からある物を取り出す。

 それは小さな球状の物。

 ラミルの小さな右の掌の上に乗る無数のそれは、遠目に見て正確にどれぐらいの数があるのか数えることが困難な量だった。

 ラミルはその球を持つ右手に魔力を込めると、それをばら撒く様に空中に向かって放り投げた。

 ばら撒かれたそれは、夫々が拳大まで大きくなり飛び回りだす。

 戸惑うウェディックを囲むように…… 

 その球はエルも初めて見る物だったが、彼女は戸惑う事はせずに足場として跳んだ。 


 「!?」


 ウェディックには、エルがいくつの球を足場にして跳んできたのか解からなかった。

 気付けば、ウェディックの直ぐ目の前に現れるエルの姿。

 今まで以上のかなりのスピードではあったが、結界が無くなった状況で解放された彼女の力を予測していたウェディックの想像を超えるものではなかった為、何とか対応することが可能だった。

 だが、ラミルが用意した無数の足場を使い、エルの攻撃は連続して行われる。

 不安定そうな球状の物体を足場にするエルの器用さに、再度驚嘆するウェディック。


 「皆さんも足場として利用してください」


 そんなラミルの言葉に、誰もがそれは簡単な事では無いと思い、ウェディックは心の中で失笑していた。

 どれだけ自分の相棒が特別存在であると判っておらずに、彼女が出来ることが誰もが出来る普通の事だと思っているのだろう。

 才能に溢れた若い冒険者故の勘違い、思い込みが普通なら誰でも判る事を判らなくしているのだろうと、ウェディックは一瞬だが口元の笑みを浮かべる。

 その笑みは直ぐに消え、攻撃を続けるエルへの対応に集中する。

 時折飛んでくる攻撃魔法による援護は、得意の防御結界で防ぐことができる。

 弱体化の結界は無くなりはしたが、それだけが遺跡の力ではない。

 魔力の壺と呼ばれるその遺跡が溜め続けた魔力を、特殊な契約により使用する事が出来るウェディックは、防御主体で長期戦に持ち込めば有利なのは自分だと判っている為、決して焦りはしない。


 ラスやリンも、ラミルの言葉に躊躇いを見せていたが、


 「大丈夫ですから……」


 笑顔で言うラミル。

 その瞳は語る。


 『信じてください』


 と……

 そんなラミルの言葉に最初に行動を起こしたのはタリサだった。

 タリサ自身、自らが生み出した氷の銛を足場にした戦いを行っていた為、それより小さな球が足場だったとしても、今までの応用で対応でいるかもしれないと思って試してみることにした。

 そうと決めれば彼女の行動は早かった。

 すぐに近くの球へと跳び、それを足場に更に高い位置にある球へと移動する。

 余りにもあっさりとそれを実行したタリサに、ラスとリンは驚きを隠せなかった。

 ラスはタリサの身体能力の高さを改めて実感させられたと思っていたが、リンはそれよりも自分でもできるかもしれないという思いが生まれてきて、意を決して近場の球へと跳ぶ。

 だが、リンはタリサと違う行動を起こす。

 一つの球の上で立ち止まったのだ。

 その思いがけない行動に目を丸くするラスの目の前で、リンは吹き出すように笑い出した。


 「?」

 「ラス、大丈夫そうよ」


 リンはそう言うと、表情を真剣なそれへと変えてラスの反応を待たずにエル達への加勢に向かった。

 それに続くサンクローゼをも見送る形で残されたラスは、同じく残ったメンバーを見渡す。

 自分を除けば残っているのは後衛専属の者達と、既に戦いのレベルについてこれなくなっている者達だけだった。

 尻込み、行動が遅れた自分が恥ずかしく感じて、ラスもリン達を追いかける事を決めた。

 そして、アミスとジーブル、そしてラミル達が残されたのだった。


 (あれ? レンさんは……?)


 ジーブルはふと気づいた。

 隅の方で魔法力の回復に集中していたレンの姿がいつも間にか消えている事に……

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