怒れる魔剣士
これまでの登場人物
アミス・アルリア;5体の聖獣と契約する魔法使い。ハーフエルフ、15歳
ラス・アラーグェ;見た目ハーフエルフの魔法剣士。23歳
ヴェルダ・フィライン;ラスを観察対象とする魔剣士。20歳
マーキス・サーラント;エルフの精霊使い。年齢は忘れたらしい
ティサ・フリージャ;弓使いの少女。18歳
グドル;ドワーフの格闘家。114歳
ティス;アミスの使い魔のピクシー
ラス・アラーグェがヴェルダ・フィラインと初めて出会ったのは、2年半程前のことだった。
最初は、同じ仕事をギルドから受けた為、一緒に行動した。
その時に自分の魔力を知られてしまった事は、ラスにとって不運な事だったが、ヴェルダにとっては喜ばしいことであり、それ以来、会うたびに戦闘を仕掛けてくるのだ。
そして、3度目の邂逅の時に知られてしまった。
自身の魔力の高さの理由を・・・
エンチャントドールという存在だということを・・・
「【 氷牙弾 】!」
マーキスが放った氷の刃がヴェルダを襲う。
ヴェルダは先程と同じように剣で切り払った。
氷は砕け散ったが、その氷の結晶により、剣が凍り付く。
(なるほど・・・)
ヴェルダは凍り付いた剣に目をやる。
「ぬおぉ~!!」
いつも間にかヴェルダのすぐ側まで来ていたグドルが拳を振るう。
ヴェルダはそれを余裕でかわそうとしたが、狙いはヴェルダ本人ではなく、グドルの拳はヴェルダの右手の剣を捕らえた。
凍り付いていた剣は脆くも砕け散る。
「油断じゃったの~」
「馬鹿、すぐに離れろ!!」
ラスが叫んだが、その直後にグドルの絶叫が響く。
「ぐぬあぁぁぁぁ~!!」
グドルの右手が宙に浮く。
一瞬の事で、何が起こったのか誰も解らなかった。
それを行った魔剣士を除いて・・・
「武器を壊されたので、そちらの武器も壊させてもらいました」
ヴェルダの右手には、砕け散ったはずの剣があることに気づき、その剣でグドルの腕を切断したとわかった。
「魔剣士というのは、自分用の剣なら瞬時に作り出せることを覚えておいた方がいい」
「ご教授に感謝するよ・・・」
ヴェルダの言葉に、皮肉で返すラス。
そして、ヴェルダは次はマーキスへと意識を向けた。
(ラス程ではないが魔力が高いな、さすがエルフということか、しかし・・・)
ヴェルダの姿が視界から揺らいだ思うと、そこからヴェルダの姿が消えた。
「ど、どこに?」
姿を見失い、辺りへの警戒を強める4人。
「マーキス、後ろだ!!」
「な!?」
マーキスは、ラスの声に反応し後ろを振り向いた。
「遅い」
マーキスはなす術がなかった。
が、ティサが放った矢が救う。
ヴェルダは間合いを取ると、驚きの目をティサに向けた。
「なぜ・・・? なぜわかりました?」
「ん? どうやってエルフのお兄さんの後ろに移動したかわかんないよ。ただ、なんとなくそこに現れると思ったのよ。ま、わたしって勘が良いから」
そう言ってティサはニッコリと微笑む。
ヴェルダもその言葉に笑みを浮かべた。
「なるほど・・・思いの外楽しませてくれる・・・」
ヴェルダは楽し気にそう言うと、小さく魔法の詠唱を唱えた。
(え? 何語?)
魔法の系統になら詳しいアミスにも、聞き覚えの無い言葉での詠唱だった。
「これでいい・・・」
詠唱を終えたヴェルダは、ティサに完全に背を向けた。
「無視するな!」
と、速射により3本の矢を放つ。
しかし、それはヴェルダに届かなかった。
ヴェルダに命中したと思った直前で、空中の何かに弾かれたように、矢は転回し落ちた。
「風の防御フィールドですよ。これで弓矢や威力の低い魔法は通用しない」
(これで二人・・・)
片腕を失い蹲るドワーフと弓を無効化された弓使い、二人を無力化し、ヴェルダは次の相手を探す。
マーキスは、ヴェルダから遠ざかる。
追いかけるか、もう一人の魔法使いを狙うか、少し悩んだ所にラスが間合いを詰めていく。
「!?」
ラスが右手のレイピアにより、素早い突きを放つ。
ヴェルダは横に体を流し躱したが、ラスは素早い攻撃を続ける。
ヴェルダはラスからの止まぬ攻撃を避けながら、ラスの強さを計る。
そして、耳に入ったマーキスの詠唱に、
(これは無視はできない・・・)
予想外に強い魔法の詠唱に、油断できないと思い、魔力を込めた剣でラスを払い、避けさせた上で、その隙に間合いを取ろうとした。
だが、ラスはその強力な一撃を受け止めた。
いや、受け止め切れてはいない。
肩口に斬撃を食らってしまうが、ラスは敢えてその攻撃を受けてもいいつもりで躱さなかったのだ。
そのことで一瞬、ヴェルダの動きが遅れた。
「【 水圧重 】!」
マーキスの呼び出した魔法の水が、大量にヴェルダに降り注ぐ。
上位精霊の魔法であり、その魔力を帯びた水は、防御魔法ごと押しつぶせる威力があった。
「くっ・・・、風よ!!」
躱す間がないことを悟ったヴェルダは、風のフィールドに魔力を込めこれを防ぎにかかる。
全力に込めた魔力により強化された防御フィールドは、完全ではないまでもそれを防ぐことができた。
が、そこへラスが詰め寄る。
ヴェルダは、下がりながらそれを剣で払おうとした。
しかし、右足に激痛が走り、足が止まる。
「な!?」
右足には、ティサが放った矢が刺さっていた。
ヴェルダの油断だった。
先程の水圧を防ぐために魔力を消費したため、確かに風のフィールドは弱まっていたが、それでも弓矢如きは防げるはずだった。
しかし、ティサが冷静だった。
ティサは、風の精霊の力で矢の威力を増すことができた。
しかし、それでも貫けないと判断したティサは、風のフィールドが弱まるのをじっくり待ったのだ。
何もできなくなったふりをして・・・
「ヴェルダぁ~!!」
すでにラスの間合いだった。
しかし、そんな状況下でも、ヴェルダは笑みを浮かべた。
そして、レイピアを持ったラスの右手が飛んだ。
ヴェルダが剣を振る間はなかったし、振るった様子もなかった。
その時、ラスは気づいた。
目の前にある透明な何かが、僅かに光を反射したことに。
グドルの右手を切り飛ばしたのは、ヴェルダの剣ではなかったのだ。
それは、透明な刃を持った聖獣だった。
(なるほどな・・・、しかし)
ラスにとって、それは関係なかった。
予め用意してた魔力を、ずっと左手に帯びさせながら戦っていた。
その左手の魔力をヴェルダに放つ。
予想だにしていなかったヴェルダは、それを防ぐことはできない。
「【 水閃槍 】!」
ラスの魔法が炸裂し、ヴェルダは吹き飛び、木に激突し倒れた。
「ふぅ・・・」
(殺ったか・・・)
【 水閃槍 】は至近距離で受けて生きているわけがない。
ラスは、確かな手ごたえを感じて、軽く息をついた。
殺す気はなかったが、手加減する余裕はなかったので、仕方がない。
そう思いながら、アミスへとふと目を向けた時だった。
アミスの表情で気づいた。
未だに警戒心を解かないアミスの目を見て。
ラスはヴェルダから間合いを取り、叫ぶ。
「マーキス! 聖獣だ! 早く!!」
決着を確信していたマーキスは、少し驚く。
しかし、ラスの表情を見て冷静になり、聖獣を呼び出した。
目の前に美しき水の乙女が現れる。
彼女が天に手を広げると、雨が降り注ぎだす。
慈愛の雨、その雨を浴び、仲間達は癒されていく。
切断された腕も含めて・・・
マーキスの聖獣≪ 清らかなる水姫 ≫の治癒力は絶大だった。
相手が生きている限り、受けたばかりの傷は全て治してしまう。
一日一度しか使えないという縛りがあるのだが・・・
「なるほど・・・、その聖獣がいたからこその無茶な作戦か・・・」
そう言いながらヴェルダが起き上がる。
「まさか、あれを至近距離で食らって生きてるとは・・・」
「私も死んだと思いましたよ・・・」
驚くラスに、ゆっくりと近づきながらヴェルダは言う。
「まさか、聖獣に助けられるとはね!!」
「防御の聖獣か?」
「・・・≪ 蜜 刃 ≫」
「さっきの透明の刃か?」
ラスは辺りを警戒する。
「周りに警戒は必要ない・・・」
「・・・なに?」
「自分の魔力の強さ、特殊さを理解してないんですね・・・、聖獣すら殺すことができることを・・・」
聖獣を殺すなど聞いたことはなかった。
倒せても聖界に戻るか聖契石に戻るかだ。
ヴェルダの思いもよらない言葉に、ラスは唖然とする。
「ま、それについては後から考えてください」
ヴェルダの体から強い闇の魔力が立ち上る。
それを感じたラスは、ヴェルダから離れた。
そこに強い殺気が混ざり合い、ラスを、アミスを、ティサを、マーキスを、グドルを包みだす。
「自分でも不思議でならない・・・、聖獣を殺され、怒りという感情が湧き上がることが・・・」
ヴェルダの目がティサに向けられた。
危険を感じたティサは弓を放つ。
風の精霊魔法を纏わせて、そのつもりだった。
風の精霊が現れない。
驚くティサの目の前に、ヴェルダが詰め寄った。
アミス、ラス、マーキスが初歩の短い詠唱を唱える。
しかし、三人も魔法が発動しなかった。
ティサは咄嗟に弓を投げつけ、腰の短刀を抜こうとしたが、それより早くに、ヴェルダの拳が彼女の鳩尾に入った。
「かはっ・・・」
一瞬で息が詰まり、倒れるティサ。
ヴェルダはすぐに次のターゲットへ目を向ける。
目標はマーキスだった。
「シキ・ンドル・リョカ・クゲス・・・」
(まただ・・・また知らない言語による詠唱・・・)
驚きながらもアミスは、魔法を唱えるがやはり発動しない。
「なら・・・≪ 炎 獣 ≫!」
魔法が駄目なら聖獣で、とばかりに≪ 炎獣 ≫呼び出し、ヴェルダへ攻撃するアミス。
「・・ほう・・・聖獣か・・・」
ヴェルダは唱えていた魔法の相手を、聖獣へと変えた。
「【 激 雷 】!!」
ヴェルダから放たれた雷を受け、≪ 炎獣 ≫は消えて聖契石へ戻る。
「では、次は・・・」
ヴェルダは次なるターゲットをアミスへと変えたが、ラスがそこでヴェルダに切りかかる。
ヴェルダは、それを余裕で躱す。
「大丈夫ですよ・・・、あなたは殺しません。ただ、他の4人には死んでもらいます」
「させね~よ」
「どうやってですか? 魔法も使えなくなったあなた方が、どうやって止めるのですか?」
「何をした・・・?」
ヴェルダとの間合いを一定に維持しながら、ラスは尋ねた。
「聖獣の力ですよ。私が持つもう一体のね」
ヴェルダの言葉に反応するように、ヴェルダの後ろにそれは姿を現した。
聖獣には見えない、ただに黒いだけの球体がそこに浮いていた。
「≪ マナ喰い ≫!」
「ほう・・・知っていますか」
アミスは知っていた。
一定範囲内に存在する魔法の源であるマナを、一瞬にして食いつくしてしまうその聖獣のことを。
「アミス?」
「あれの一定範囲内で黒魔法や精霊魔法を使うことはできません。使えるのは神聖魔法ぐらい・・・」
「何!?」
ラスは驚きながらも、ヴェルダに近接戦闘を挑む。
魔法を使えないなら、それしかなかった。
ラスが作った僅かな隙をつこうと、グドルが飛び蹴りでヴェルダに襲い掛かるが、ヴェルダが短い詠唱で呼び出された雷のロープにより、空中で捕獲されて、ヴェルダの側に落ちる。
止めをさそうとしたのか、ヴェルダは動けなくなったグドルに手を翳す。
発動されそうになったそれをラスが横に一閃することで妨害する。
ヴェルダは軽く飛びそれを躱した。
「なんで、魔法が・・・」
「?」
驚くアミスを見て、ラスも疑問を感じた。
単に、聖獣の契約者だけは使えるのだろうと思ってはいたのだが、この聖獣のことを知るアミスの表情を見るに、そうではないらしかった。
「神聖魔法と同じですよ。マナを使わない魔法なら、≪ マナ喰い ≫の影響は受けない」
「そんな魔法が・・・」
「ちっ・・やっかいだな・・・」
「ラスさん、まずあの聖獣を倒してください」
「無理言うなよ・・・」
アミスの願いをラスには聞けない。
聖獣を倒せる威力の攻撃は、魔法なしには出せないのだ。
もし可能性があるなら、それはアミスの聖獣だった。
幸いにも、アミスは、まだ一体の聖獣しかみせてない。
それも一度だけ、魔法もそれ程使っていないため、魔力にはまだまだ余裕があるだろう。
と、思いアミスを見たラスは、不思議に思う。
アミスの消耗が見て取れたからだ。
(なぜ?)
「攻撃聖獣を持つあなたが死ねば、終わりですね・・・」
ヴェルダが冷たく言い放つ。
近づかれれば終わり。
アミスのその考えは正しい。
しかし、遠くに離れれば、ヴェルダの側に浮かぶ≪ マナ喰い ≫を倒せない。
魔法を使えなくなったマーキスやラスには難しかった。
他に可能性があるとすれば、未だに最高威力の攻撃を見せていないグドルだったが、既に雷のロープに捕らえられ、その威力に気を失っていた。
意識を取り戻しても、痺れから何もできないだろう。
ラスは、諦めずにレイピアでの攻撃を繰り返す。
マーキスも弓で援護するが、ティサ程の威力の矢を放てないマーキスの攻撃は、ほぼ意味をなさなかった。
「そろそろ・・・」
ヴェルダが、また別の魔法詠唱を始める。
知らない系統の知らない魔法に、何が起こるか予想のつかない3人は、攻撃を繰り返すしかなかった。
「【 爆 炎 殺 】!」
ヴェルダを中心とした爆発が起こった。
近くにいたラスは吹き飛ばされ、辺りは煙と炎を包まれる。
ダメージは小さくなかったが、ラスは咄嗟に立ち上がり、ヴェルダに目を向ける。
いや、ヴェルダがいた場所に目を向けた。
ヴェルダはすでに動いていた。
煙と炎を隠れ蓑にして、アミスへと近づく。
「≪ 風の乙女 ≫!」
聖獣≪ 風の乙女 ≫によって煙と炎は飛ばされ、アミスへと迫っていたヴェルダの姿が見えた。
「アミス! 逃げろ!!」
ラスが叫ぶ。しかし、アミスは逃げれなかった。
今から背を向ければ、背を狙われて逃げれない。
冷静に判断したアミスは、その冷静さ故に動くことができなかった。
「だめぇ~~!!」
アミスを庇うように目の前に姿を見せたピクシー。
小さなピクシーが防げるわけもなく、ヴェルダの放った魔力弾に姿が消える。
「え? ティス・・・」
呆然とするアミス。
無情にもそれに迫るヴェルダ。
もうすでに射程内だ。
「アミス!!」
「死になさい・・」
アミスの心臓目掛けて繰り出されたヴェルダの突きは、その目の前に現れた風の聖獣によって弾かれた。
「なっ・・・」
(いつの間に?)
先程、呼び出され、煙や炎を吹き飛ばしたばかりの聖獣が目の前にいることに驚く。
(速すぎる・・・)
ヴェルダが次の攻撃に出るより、アミスの方が早かった。
2体の炎の聖獣がヴェルダに襲い掛かる。ヴェルダはそれを躱しながらアミスとの間合いを離した。
すでに3種の聖獣を出してることに驚き、さらにそれを連続召喚できることに驚くヴェルダ。
しかし、まだ冷静だった。
2体の炎の聖獣を撒き、アミスへ近づく、2体の聖獣より先にアミスに接近し、風の聖獣を突き抜ける攻撃を加えれば勝てる。
そして、それをできる力がヴェルダにはあった。
魔力を纏わせ、全力の突きを放とうとした時だった。
「いけぇ~~~~!!」
アミスの前に現れた聖獣≪ 剣 聖 ≫の攻撃を受け、ヴェルダは吹き飛ばされ、そのままの勢いで転がり倒れる。
「はぁ、はぁ・・・ティス・・・」
全ての精神力を使い果たし、アミスは倒れた。
「アミス!」
ラスとマーキスが駆け寄る。
息が確認でき、一瞬ほっとしたが、その息は荒かった。
治療を、と思った時だった。
「・・・ぐ・・ぐぐ・・・」
ヴェルダが起き上がってきた。
ラスとマーキスは、アミスを庇うように構えを取る。
ヴェルダも一瞬気を失ったのか、聖獣は姿を消している。
(今の奴なら・・・)
ラスが飛び掛かろうと体勢を低くした瞬間、
「ふっ・・・ふふふ・・・はっ、ははは・・・」
ヴェルダが笑い出す。
一瞬、動きを止めるラスに、ヴェルダが言った。
「もう大丈夫ですよ・・・」
「な、なに?」
確かに先程までヴェルダが纏っていた闇の殺気が消えていた。
「あ、アミちゃん!」
突然の声に驚くラスの目に、先程、ヴェルダの攻撃を受けたはずのピクシーのティスがいた。
アミスを心配そうに見つめている。
「吹き飛ばしただけですよ。無駄な魔力は使いたくなかったので、大した魔力は込めていません」
「ど、どういうつもりだ?」
訝し気にヴェルダに目を向けるラスとマーキスに、ヴェルダは再び笑みを浮かべた。
「驚きですよ。さすがに私も驚愕したとしか言えません」
「・・・・」
「5体の聖獣を持ち、しかもそれを全て同時召喚するとは、ありえませんね。そうは思いませんか?」
「5体? 4体しかいなかったのでは?」
マーキスが疑問を投げかけた。
「ずっと出し続けていたのですよ。2体の聖獣をね」
「透明な聖獣か?」
「いえ、透明に見えるようにできる聖獣ですね。あの風の聖獣がもう一体の聖獣を隠していた」
「なんでそんなこと?」
ヴェルダは、さも可笑しいとばかりに笑い続ける。
「それですよ。それが最も不思議でならないこと」
「・・・?」
ラスは理解できない。
マーキスも同様である。
一人理解しているヴェルダが笑いながら続けた。
「敵の聖獣を守るためにですよ。私の聖獣がこの娘の聖獣によって守られたのです」
「あの透明な・・・」
「そうです。消えてしまったために消滅したと誤解していましたが、まさかのですよ・・・」
「こいつ・・・なんだって・・・?」
その疑問に答えたのはティスだった。
「アミちゃんは、すべてに聖獣を死なせたくないのよ。自分の聖獣は元より、敵が契約している聖獣もね」
(だからアミちゃんは、自分が死んだら聖獣を道連れにしちゃう本契約は結ばない・・・、敵に奪われちゃうかもしれないリスクが残るのに・・・)
「だから、聖獣を殺してしまうかもしれないラス君の攻撃から、あんたの聖獣を守ったの!
それを恩にも感じないだろう奴の聖獣をね!!」
ティスは泣いていた。
聖獣を5体手に入れても、自分を見捨てないアミス。
敵の聖獣をも命がけで守ってしまうアミス。
そのアミスのことが堪らなく好きで、堪らなく心配だった。
「これでいい!? アミちゃんの治療があるから、もう大人しくしてよね」
「治療できるのか?」
ラスの問いかけを無視して、ティスは詠唱を開始する。
「大気に宿りし精霊よ、われらが母たる・・・
「命の精霊魔法?」
「なに?」
超高等魔法だった。
この精霊に好かれるのは難しく、その力を借りた精霊魔法を使える精霊使いの存在を、ラスは聞いたことがなかった。
「私も初めてみるよ。里に一人だけいたけど・・・」
精霊魔法を得意とするエルフの里にすら、一人しかいないことが、その魔法の難しさを語っていた。
暫しの時間をかけたのち、ティスの魔法発動し、アミスの呼吸は正常なものへと戻っていた。
「・・・あと、よろしく・・・」
治療を終えたティスは、アミスの胸の上でぱたりと倒れた。
「一回使っただけで倒れるのかよ・・・」
ラスは、少し呆れ気味に呟くと、ホッとしたように腰を下ろした。
マーキスは、ヴェルダへの警戒を緩めていなかったが、ラスの態度に少し気が緩む。
「どうするつもりだ?」
「どうするとは?」
「殺すって言ってただろ? 俺以外の4人を・・・」
それを聞き、溜息をつくヴェルダ。
その目からはすでに敵意を感じない。
それがわかっているからこそ、ラスもこれだけ隙を見せていた。
「さっき、そこのピクシーが言ってましたが、私は恩を恩と感じない程、歪んだ性格はしてませんよ」
「どうだかな・・・」
ラスとヴェルダはお互いに笑いあう。
「もう、害意はありませんよ・・・・観察対象にはさせてもらいますがね・・・」
そう言い残すと、ヴェルダは姿を消した。
転移魔法だろうか?
まだそんな魔力を残していたことに、ラスは内心ぞっとした。
「充分歪んでるじゃないか」
と、悪態をついたラスに、マーキスも同感とばかりに頷いた。
(しばらくは・・・・)
アミスと旅を続けることを込めたラスは、
(あのことも話すしかないよな・・・)
自分がエンチャントドールであることを・・・
ハーフエルフに戻るために旅をしていることを・・・
ヴェルダ・フィラインとの戦いは一旦終了。
再度登場予定のキャラではありますが、けっこうチート能力なので、扱いに困るかも・・・
次回の内容の決まってないので、少し間空けます。
次回は4月1日の19時更新予定です。




