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アミス伝 ~聖獣使いの少年~  作者: 樹 つかさ
2・仲間
10/144

怒れる魔剣士

これまでの登場人物

 

 アミス・アルリア;5体の聖獣と契約する魔法使い。ハーフエルフ、15歳

 ラス・アラーグェ;見た目ハーフエルフの魔法剣士。23歳

 ヴェルダ・フィライン;ラスを観察対象とする魔剣士。20歳

 マーキス・サーラント;エルフの精霊使い。年齢は忘れたらしい

 ティサ・フリージャ;弓使いの少女。18歳

 グドル;ドワーフの格闘家。114歳

 ティス;アミスの使い魔のピクシー

 ラス・アラーグェがヴェルダ・フィラインと初めて出会ったのは、2年半程前のことだった。

 最初は、同じ仕事をギルドから受けた為、一緒に行動した。

 その時に自分の魔力を知られてしまった事は、ラスにとって不運な事だったが、ヴェルダにとっては喜ばしいことであり、それ以来、会うたびに戦闘を仕掛けてくるのだ。

 そして、3度目の邂逅の時に知られてしまった。

 自身の魔力の高さの理由を・・・

 エンチャントドールという存在だということを・・・



 「【 氷牙弾 (アイスファング)】!」


 マーキスが放った氷の刃がヴェルダを襲う。

 ヴェルダは先程と同じように剣で切り払った。

 氷は砕け散ったが、その氷の結晶により、剣が凍り付く。


 (なるほど・・・)


 ヴェルダは凍り付いた剣に目をやる。


 「ぬおぉ~!!」


 いつも間にかヴェルダのすぐ側まで来ていたグドルが拳を振るう。

 ヴェルダはそれを余裕でかわそうとしたが、狙いはヴェルダ本人ではなく、グドルの拳はヴェルダの右手の剣を捕らえた。

 凍り付いていた剣は脆くも砕け散る。


 「油断じゃったの~」

 「馬鹿、すぐに離れろ!!」


 ラスが叫んだが、その直後にグドルの絶叫が響く。


 「ぐぬあぁぁぁぁ~!!」


 グドルの右手が宙に浮く。

 一瞬の事で、何が起こったのか誰も解らなかった。

 それを行った魔剣士を除いて・・・


 「武器を壊されたので、そちらの武器も壊させてもらいました」


 ヴェルダの右手には、砕け散ったはずの剣があることに気づき、その剣でグドルの腕を切断したとわかった。


 「魔剣士というのは、自分用の剣なら瞬時に作り出せることを覚えておいた方がいい」

 「ご教授に感謝するよ・・・」


 ヴェルダの言葉に、皮肉で返すラス。

 そして、ヴェルダは次はマーキスへと意識を向けた。


 (ラス程ではないが魔力が高いな、さすがエルフということか、しかし・・・)


 ヴェルダの姿が視界から揺らいだ思うと、そこからヴェルダの姿が消えた。


 「ど、どこに?」


 姿を見失い、辺りへの警戒を強める4人。


 「マーキス、後ろだ!!」

 「な!?」


 マーキスは、ラスの声に反応し後ろを振り向いた。


 「遅い」


 マーキスはなす術がなかった。

 が、ティサが放った矢が救う。

 ヴェルダは間合いを取ると、驚きの目をティサに向けた。


 「なぜ・・・? なぜわかりました?」

 「ん? どうやってエルフのお兄さんの後ろに移動したかわかんないよ。ただ、なんとなくそこに現れると思ったのよ。ま、わたしって勘が良いから」


 そう言ってティサはニッコリと微笑む。

 ヴェルダもその言葉に笑みを浮かべた。


 「なるほど・・・思いの外楽しませてくれる・・・」


 ヴェルダは楽し気にそう言うと、小さく魔法の詠唱を唱えた。


 (え? 何語?)


 魔法の系統になら詳しいアミスにも、聞き覚えの無い言葉での詠唱だった。


 「これでいい・・・」


 詠唱を終えたヴェルダは、ティサに完全に背を向けた。


 「無視するな!」


 と、速射により3本の矢を放つ。

 しかし、それはヴェルダに届かなかった。

 ヴェルダに命中したと思った直前で、空中の何かに弾かれたように、矢は転回し落ちた。


 「風の防御フィールドですよ。これで弓矢や威力の低い魔法は通用しない」


 (これで二人・・・) 

 

 片腕を失い蹲るドワーフと弓を無効化された弓使い、二人を無力化し、ヴェルダは次の相手を探す。

 マーキスは、ヴェルダから遠ざかる。

 追いかけるか、もう一人の魔法使いを狙うか、少し悩んだ所にラスが間合いを詰めていく。


 「!?」


 ラスが右手のレイピアにより、素早い突きを放つ。

 ヴェルダは横に体を流し躱したが、ラスは素早い攻撃を続ける。

 ヴェルダはラスからの止まぬ攻撃を避けながら、ラスの強さを計る。

 そして、耳に入ったマーキスの詠唱に、


 (これは無視はできない・・・)


 予想外に強い魔法の詠唱に、油断できないと思い、魔力を込めた剣でラスを払い、避けさせた上で、その隙に間合いを取ろうとした。

 だが、ラスはその強力な一撃を受け止めた。

 いや、受け止め切れてはいない。

 肩口に斬撃を食らってしまうが、ラスは敢えてその攻撃を受けてもいいつもりで躱さなかったのだ。

 そのことで一瞬、ヴェルダの動きが遅れた。


 「【 水圧重 (ウォータープレス)】!」


 マーキスの呼び出した魔法の水が、大量にヴェルダに降り注ぐ。

 上位精霊の魔法であり、その魔力を帯びた水は、防御魔法ごと押しつぶせる威力があった。


 「くっ・・・、風よ!!」


 躱す間がないことを悟ったヴェルダは、風のフィールドに魔力を込めこれを防ぎにかかる。

 全力に込めた魔力により強化された防御フィールドは、完全ではないまでもそれを防ぐことができた。

 が、そこへラスが詰め寄る。

 ヴェルダは、下がりながらそれを剣で払おうとした。

 しかし、右足に激痛が走り、足が止まる。


 「な!?」


 右足には、ティサが放った矢が刺さっていた。

 ヴェルダの油断だった。

 先程の水圧を防ぐために魔力を消費したため、確かに風のフィールドは弱まっていたが、それでも弓矢如きは防げるはずだった。

 しかし、ティサが冷静だった。

 ティサは、風の精霊の力で矢の威力を増すことができた。

 しかし、それでも貫けないと判断したティサは、風のフィールドが弱まるのをじっくり待ったのだ。

 何もできなくなったふりをして・・・


 「ヴェルダぁ~!!」


 すでにラスの間合いだった。

 しかし、そんな状況下でも、ヴェルダは笑みを浮かべた。

 そして、レイピアを持ったラスの右手が飛んだ。

 ヴェルダが剣を振る間はなかったし、振るった様子もなかった。

 その時、ラスは気づいた。

 目の前にある透明な何かが、僅かに光を反射したことに。

 グドルの右手を切り飛ばしたのは、ヴェルダの剣ではなかったのだ。

 それは、透明な刃を持った聖獣だった。


 (なるほどな・・・、しかし)


 ラスにとって、それは関係なかった。

 予め用意してた魔力を、ずっと左手に帯びさせながら戦っていた。

 その左手の魔力をヴェルダに放つ。

 予想だにしていなかったヴェルダは、それを防ぐことはできない。


 「【 水閃槍 (ウォータースピア)】!」


 ラスの魔法が炸裂し、ヴェルダは吹き飛び、木に激突し倒れた。


 「ふぅ・・・」


 (殺ったか・・・)


 【 水閃槍 】は至近距離で受けて生きているわけがない。

 ラスは、確かな手ごたえを感じて、軽く息をついた。

 殺す気はなかったが、手加減する余裕はなかったので、仕方がない。

 そう思いながら、アミスへとふと目を向けた時だった。

 アミスの表情で気づいた。

 未だに警戒心を解かないアミスの目を見て。


 ラスはヴェルダから間合いを取り、叫ぶ。


 「マーキス! 聖獣だ! 早く!!」


 決着を確信していたマーキスは、少し驚く。

 しかし、ラスの表情を見て冷静になり、聖獣を呼び出した。

 目の前に美しき水の乙女が現れる。

 彼女が天に手を広げると、雨が降り注ぎだす。

 慈愛の雨、その雨を浴び、仲間達は癒されていく。

 切断された腕も含めて・・・

 マーキスの聖獣≪ 清らかなる水姫 ≫の治癒力は絶大だった。

 相手が生きている限り、受けたばかりの傷は全て治してしまう。

 一日一度しか使えないという縛りがあるのだが・・・


 「なるほど・・・、その聖獣がいたからこその無茶な作戦か・・・」


 そう言いながらヴェルダが起き上がる。


 「まさか、あれを至近距離で食らって生きてるとは・・・」

 「私も死んだと思いましたよ・・・」


 驚くラスに、ゆっくりと近づきながらヴェルダは言う。


 「まさか、聖獣に助けられるとはね!!」

 「防御の聖獣か?」

 「・・・≪ 蜜 刃 ≫」

 「さっきの透明の刃か?」


 ラスは辺りを警戒する。


 「周りに警戒は必要ない・・・」

 「・・・なに?」

 「自分の魔力の強さ、特殊さを理解してないんですね・・・、聖獣すら殺すことができることを・・・」


 聖獣を殺すなど聞いたことはなかった。

 倒せても聖界に戻るか聖契石に戻るかだ。

 ヴェルダの思いもよらない言葉に、ラスは唖然とする。


 「ま、それについては後から考えてください」


 ヴェルダの体から強い闇の魔力が立ち上る。 

 それを感じたラスは、ヴェルダから離れた。

 そこに強い殺気が混ざり合い、ラスを、アミスを、ティサを、マーキスを、グドルを包みだす。


 「自分でも不思議でならない・・・、聖獣を殺され、怒りという感情が湧き上がることが・・・」


 ヴェルダの目がティサに向けられた。

 危険を感じたティサは弓を放つ。

 風の精霊魔法を纏わせて、そのつもりだった。

 風の精霊が現れない。

 驚くティサの目の前に、ヴェルダが詰め寄った。

 アミス、ラス、マーキスが初歩の短い詠唱を唱える。

 しかし、三人も魔法が発動しなかった。

 ティサは咄嗟に弓を投げつけ、腰の短刀を抜こうとしたが、それより早くに、ヴェルダの拳が彼女の鳩尾に入った。


 「かはっ・・・」


 一瞬で息が詰まり、倒れるティサ。

 ヴェルダはすぐに次のターゲットへ目を向ける。

 目標はマーキスだった。

 

 「シキ・ンドル・リョカ・クゲス・・・」


 (まただ・・・また知らない言語による詠唱・・・)


 驚きながらもアミスは、魔法を唱えるがやはり発動しない。


 「なら・・・≪ 炎 獣 (ガラコ)≫!」


 魔法が駄目なら聖獣で、とばかりに≪ 炎獣 ≫呼び出し、ヴェルダへ攻撃するアミス。


 「・・ほう・・・聖獣か・・・」


 ヴェルダは唱えていた魔法の相手を、聖獣へと変えた。


 「【 激(ヴェオレント) 雷(トォオーノ) 】!!」


 ヴェルダから放たれた雷を受け、≪ 炎獣 ≫は消えて聖契石へ戻る。


 「では、次は・・・」


 ヴェルダは次なるターゲットをアミスへと変えたが、ラスがそこでヴェルダに切りかかる。

 ヴェルダは、それを余裕で躱す。


 「大丈夫ですよ・・・、あなたは殺しません。ただ、他の4人には死んでもらいます」

 「させね~よ」

 「どうやってですか? 魔法も使えなくなったあなた方が、どうやって止めるのですか?」

 「何をした・・・?」

 

 ヴェルダとの間合いを一定に維持しながら、ラスは尋ねた。


 「聖獣の力ですよ。私が持つもう一体のね」


 ヴェルダの言葉に反応するように、ヴェルダの後ろにそれは姿を現した。

 聖獣には見えない、ただに黒いだけの球体がそこに浮いていた。


 「≪ マナ喰い ≫!」

 「ほう・・・知っていますか」


 アミスは知っていた。

 一定範囲内に存在する魔法の源であるマナを、一瞬にして食いつくしてしまうその聖獣のことを。


 「アミス?」

 「あれの一定範囲内で黒魔法や精霊魔法を使うことはできません。使えるのは神聖魔法ぐらい・・・」

 「何!?」


 ラスは驚きながらも、ヴェルダに近接戦闘を挑む。

 魔法を使えないなら、それしかなかった。

 ラスが作った僅かな隙をつこうと、グドルが飛び蹴りでヴェルダに襲い掛かるが、ヴェルダが短い詠唱で呼び出された雷のロープにより、空中で捕獲されて、ヴェルダの側に落ちる。

 止めをさそうとしたのか、ヴェルダは動けなくなったグドルに手を翳す。

 発動されそうになったそれをラスが横に一閃することで妨害する。

 ヴェルダは軽く飛びそれを躱した。


 「なんで、魔法が・・・」

 「?」


 驚くアミスを見て、ラスも疑問を感じた。

 単に、聖獣の契約者だけは使えるのだろうと思ってはいたのだが、この聖獣のことを知るアミスの表情を見るに、そうではないらしかった。


 「神聖魔法と同じですよ。マナを使わない魔法なら、≪ マナ喰い ≫の影響は受けない」

 「そんな魔法が・・・」

 「ちっ・・やっかいだな・・・」

 「ラスさん、まずあの聖獣を倒してください」

 「無理言うなよ・・・」


 アミスの願いをラスには聞けない。

 聖獣を倒せる威力の攻撃は、魔法なしには出せないのだ。

 もし可能性があるなら、それはアミスの聖獣だった。

 幸いにも、アミスは、まだ一体の聖獣しかみせてない。

 それも一度だけ、魔法もそれ程使っていないため、魔力にはまだまだ余裕があるだろう。

 と、思いアミスを見たラスは、不思議に思う。

 アミスの消耗が見て取れたからだ。


 (なぜ?)


 「攻撃聖獣を持つあなたが死ねば、終わりですね・・・」


 ヴェルダが冷たく言い放つ。

 近づかれれば終わり。

 アミスのその考えは正しい。

 しかし、遠くに離れれば、ヴェルダの側に浮かぶ≪ マナ喰い ≫を倒せない。

 魔法を使えなくなったマーキスやラスには難しかった。

 他に可能性があるとすれば、未だに最高威力の攻撃を見せていないグドルだったが、既に雷のロープに捕らえられ、その威力に気を失っていた。

 意識を取り戻しても、痺れから何もできないだろう。


 ラスは、諦めずにレイピアでの攻撃を繰り返す。

 マーキスも弓で援護するが、ティサ程の威力の矢を放てないマーキスの攻撃は、ほぼ意味をなさなかった。


 「そろそろ・・・」


 ヴェルダが、また別の魔法詠唱を始める。

 知らない系統の知らない魔法に、何が起こるか予想のつかない3人は、攻撃を繰り返すしかなかった。


 「【 爆 炎 殺 (エスプロジオーネ)】!」


 ヴェルダを中心とした爆発が起こった。

 近くにいたラスは吹き飛ばされ、辺りは煙と炎を包まれる。


 ダメージは小さくなかったが、ラスは咄嗟に立ち上がり、ヴェルダに目を向ける。

 いや、ヴェルダがいた場所に目を向けた。

 ヴェルダはすでに動いていた。

 煙と炎を隠れ蓑にして、アミスへと近づく。


 「≪ 風の乙女 (セラリス)≫!」


 聖獣≪ 風の乙女 ≫によって煙と炎は飛ばされ、アミスへと迫っていたヴェルダの姿が見えた。


 「アミス! 逃げろ!!」


 ラスが叫ぶ。しかし、アミスは逃げれなかった。

 今から背を向ければ、背を狙われて逃げれない。

 冷静に判断したアミスは、その冷静さ故に動くことができなかった。


 「だめぇ~~!!」


 アミスを庇うように目の前に姿を見せたピクシー。

 小さなピクシーが防げるわけもなく、ヴェルダの放った魔力弾に姿が消える。


 「え? ティス・・・」


 呆然とするアミス。

 無情にもそれに迫るヴェルダ。

 もうすでに射程内だ。


 「アミス!!」

 「死になさい・・」


 アミスの心臓目掛けて繰り出されたヴェルダの突きは、その目の前に現れた風の聖獣によって弾かれた。


 「なっ・・・」


 (いつの間に?)


 先程、呼び出され、煙や炎を吹き飛ばしたばかりの聖獣が目の前にいることに驚く。


 (速すぎる・・・)


 ヴェルダが次の攻撃に出るより、アミスの方が早かった。

 2体の炎の聖獣がヴェルダに襲い掛かる。ヴェルダはそれを躱しながらアミスとの間合いを離した。

 すでに3種の聖獣を出してることに驚き、さらにそれを連続召喚できることに驚くヴェルダ。

 しかし、まだ冷静だった。

 2体の炎の聖獣を撒き、アミスへ近づく、2体の聖獣より先にアミスに接近し、風の聖獣を突き抜ける攻撃を加えれば勝てる。

 そして、それをできる力がヴェルダにはあった。

 魔力を纏わせ、全力の突きを放とうとした時だった。


 「いけぇ~~~~!!」


 アミスの前に現れた聖獣≪ 剣 聖 (ラグナー)≫の攻撃を受け、ヴェルダは吹き飛ばされ、そのままの勢いで転がり倒れる。


 「はぁ、はぁ・・・ティス・・・」


 全ての精神力を使い果たし、アミスは倒れた。


 「アミス!」


 ラスとマーキスが駆け寄る。

 息が確認でき、一瞬ほっとしたが、その息は荒かった。

 治療を、と思った時だった。


 「・・・ぐ・・ぐぐ・・・」


 ヴェルダが起き上がってきた。

 ラスとマーキスは、アミスを庇うように構えを取る。

 ヴェルダも一瞬気を失ったのか、聖獣は姿を消している。


 (今の奴なら・・・)


 ラスが飛び掛かろうと体勢を低くした瞬間、


 「ふっ・・・ふふふ・・・はっ、ははは・・・」


 ヴェルダが笑い出す。

 一瞬、動きを止めるラスに、ヴェルダが言った。


 「もう大丈夫ですよ・・・」

 「な、なに?」


 確かに先程までヴェルダが纏っていた闇の殺気が消えていた。


 「あ、アミちゃん!」


 突然の声に驚くラスの目に、先程、ヴェルダの攻撃を受けたはずのピクシーのティスがいた。

 アミスを心配そうに見つめている。


 「吹き飛ばしただけですよ。無駄な魔力は使いたくなかったので、大した魔力は込めていません」

 「ど、どういうつもりだ?」


 訝し気にヴェルダに目を向けるラスとマーキスに、ヴェルダは再び笑みを浮かべた。


 「驚きですよ。さすがに私も驚愕したとしか言えません」

 「・・・・」

 「5体の聖獣を持ち、しかもそれを全て同時召喚するとは、ありえませんね。そうは思いませんか?」

 「5体? 4体しかいなかったのでは?」


 マーキスが疑問を投げかけた。


 「ずっと出し続けていたのですよ。2体の聖獣をね」

 「透明な聖獣か?」

 「いえ、透明に見えるようにできる聖獣ですね。あの風の聖獣がもう一体の聖獣を隠していた」

 「なんでそんなこと?」


 ヴェルダは、さも可笑しいとばかりに笑い続ける。


 「それですよ。それが最も不思議でならないこと」

 「・・・?」


 ラスは理解できない。

 マーキスも同様である。

 一人理解しているヴェルダが笑いながら続けた。


 「敵の聖獣を守るためにですよ。私の聖獣がこの娘の聖獣によって守られたのです」

 「あの透明な・・・」

 「そうです。消えてしまったために消滅したと誤解していましたが、まさかのですよ・・・」

 「こいつ・・・なんだって・・・?」


 その疑問に答えたのはティスだった。


 「アミちゃんは、すべてに聖獣を死なせたくないのよ。自分の聖獣は元より、敵が契約している聖獣もね」


 (だからアミちゃんは、自分が死んだら聖獣を道連れにしちゃう本契約は結ばない・・・、敵に奪われちゃうかもしれないリスクが残るのに・・・)


 「だから、聖獣を殺してしまうかもしれないラス君の攻撃から、あんたの聖獣を守ったの!

 それを恩にも感じないだろう奴の聖獣をね!!」


 ティスは泣いていた。

 聖獣を5体手に入れても、自分を見捨てないアミス。

 敵の聖獣をも命がけで守ってしまうアミス。

 そのアミスのことが堪らなく好きで、堪らなく心配だった。


 「これでいい!? アミちゃんの治療があるから、もう大人しくしてよね」

 「治療できるのか?」


 ラスの問いかけを無視して、ティスは詠唱を開始する。


 「大気に宿りし精霊よ、われらが母たる・・・

 「命の精霊魔法?」

 「なに?」


 超高等魔法だった。


 この精霊に好かれるのは難しく、その力を借りた精霊魔法を使える精霊使いの存在を、ラスは聞いたことがなかった。


 「私も初めてみるよ。里に一人だけいたけど・・・」


 精霊魔法を得意とするエルフの里にすら、一人しかいないことが、その魔法の難しさを語っていた。

 暫しの時間をかけたのち、ティスの魔法発動し、アミスの呼吸は正常なものへと戻っていた。


 「・・・あと、よろしく・・・」


 治療を終えたティスは、アミスの胸の上でぱたりと倒れた。


 「一回使っただけで倒れるのかよ・・・」


 ラスは、少し呆れ気味に呟くと、ホッとしたように腰を下ろした。

 マーキスは、ヴェルダへの警戒を緩めていなかったが、ラスの態度に少し気が緩む。


 「どうするつもりだ?」

 「どうするとは?」

 「殺すって言ってただろ? 俺以外の4人を・・・」


 それを聞き、溜息をつくヴェルダ。

 その目からはすでに敵意を感じない。

 それがわかっているからこそ、ラスもこれだけ隙を見せていた。


 「さっき、そこのピクシーが言ってましたが、私は恩を恩と感じない程、歪んだ性格はしてませんよ」

 「どうだかな・・・」


 ラスとヴェルダはお互いに笑いあう。


 「もう、害意はありませんよ・・・・観察対象にはさせてもらいますがね・・・」


 そう言い残すと、ヴェルダは姿を消した。

 転移魔法だろうか?

 まだそんな魔力を残していたことに、ラスは内心ぞっとした。


 「充分歪んでるじゃないか」


 と、悪態をついたラスに、マーキスも同感とばかりに頷いた。


 (しばらくは・・・・)


 アミスと旅を続けることを込めたラスは、


 (あのことも話すしかないよな・・・)


 自分がエンチャントドールであることを・・・

 ハーフエルフに戻るために旅をしていることを・・・

 


ヴェルダ・フィラインとの戦いは一旦終了。

再度登場予定のキャラではありますが、けっこうチート能力なので、扱いに困るかも・・・


次回の内容の決まってないので、少し間空けます。


次回は4月1日の19時更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2周目だけど、めちゃくちゃハラハラしました(; ・`ω・´) やっぱ多人数での戦闘シーンはいいね! そして、疾走感!! 読んでて、物凄く没頭できる回です(*´ェ`*) [一言] …とあるソ…
感想一覧
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