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あやかしマイスターシリーズ

あやかしバトラー アキラ ~~TSした親友・ツカサに迫る危機!!~~

掲載日:2018/04/03

 俺の名前は前田マエダ アキラ!!


 あの世界的な人気を誇る『あやかしバトル』において、驚異的なセンスを持っている事に定評がある10才の小学5年生だ!


 今日は親友の弥勒寺ミロクジ ツカサと遊ぼう!!……と思ったけど、やっぱりやめておくことにしたんだぜ!


(だって、ツカサの奴……『あやかしバトル』あんまりやってくれないからな~)


 ツカサは良いヤツではあるけれど、『あやかしバトル』の事はあんまり好きじゃないらしく、そのせいで最近ツカサと遊ぶ回数が減っていた。


 何でもツカサの話曰く、昔から自分の家に生まれた男の人はあやかし関連の事件に巻き込まれており、その結果みんな決まって何故か女の人になってしまうらしいんだ。


 その話をずっと前から聞かされていたツカサは、『自分だけは絶対に女の子になんかなったりしないぞ!』と警戒しながら必死にあやかし達に関わらないように過ごしてきたんだけど、その抵抗も虚しくついにこの前あやかし関連の事件に巻き込まれてとうとう自分も女の子になってしまったんだぜ!


(……それにしても、何でツカサの事を見ているとドキッとするんだぜ……?)


 今までならツカサと気軽に学校帰りに『あやかしバトル』以外のゲームなんかで遊んでいたのに、ツカサが女の子になってから俺が俺じゃなくなったみたいにドギマギしてしまって、上手く遊びに誘う事が出来なくなっていたんだぜ。


 ……前なら『男の割に貧弱~!!』とか煽っていたアイツの見かけも、何か、こう……可愛い、っていうか?


 ……認めたくないけど、俺がツカサと最近遊ばなくなったのはツカサが『あやかしバトル』をやらない事だけじゃなくて、俺自身のどこかが変わってしまったから、みたいなんだぜ……!!


(ッ!イカン、イカン!!あやかしバトラーとして、そんな女々しい事に囚われてちゃいけないんだぜ!)


 そう判断した俺は、気持ちを切り替えてツカサ以外の奴と適当にあやかしバトルでもする事にしようと考えていた……そのときである!!


「て、てぇへんだ~~~!!アキラの兄貴、てぇへんだ~ッス!!」


 車輪が燃え盛っている自転車に乗りながら慌てて駆け付けてきたのは、俺と同じ年くらいの赤髪ショートカットにネコミミを生やした少女、フレンズあやかしの火車かしゃだった。


 火車は何かを俺に伝えようとしているらしいが、どんな時であろうと見過ごせない事がある。


 俺は、険しい顔をしながら火車の顔をジッ……と見つめる!!


「誰が底辺なんだぜ!?俺はあやかしバトラーの頂点に君臨している実力者なんだぜ!」


「その言葉信じるッス!!でも、将来ニートにでもなって自分用の猫缶とか買ってくれなくなったら速攻で縁を切るッス!」


 熱血そうな見た目と口調の割に、何てドライな奴なんだぜ……!?


 俺の身に戦慄が走る――!!


 だが、そんな俺の心情に構うことなく、火車は「それどころじゃないッス!」と要件を話し続ける――!!


「実は、ツカサの姉御がさらわれちまったみたいなんス!早く助けに行かないとマズいッス!」


「ッ!!な、なんだと!?……クソッ、こうしちゃいられない!緊急事態だ、火車!俺をお前の自転車に乗っけて欲しいんだぜ!!」


 親友であるツカサの一大事を前に、激昂した俺は無我夢中で叫んでいた――!!


 そんな俺の心意気に応えるかのように、火車はニッコリと微笑んで――。





「いや、それは無理ッス。……自分達火車の乗り物は死者の魂を乗っける用途なんで、あんまり生きてる人間を乗せちゃいけないんス」





 ……あっさりと、断りやがったんだぜ!!


「……それに自分、もともと悪人を裁く『地獄』っていう場所の住人なんで、軽いモノとはいえ、2人乗りとかそういう違反行為に加担するのはちょっと……ねぇ?」


「……そうか」


「……ハイ、ッス」


「……」


「……」


 とりあえず俺は、自分だけ自転車に乗った火車に先導されながら、ツカサのもとにダッシュで向かうことにしたんだぜ!!









「兄貴、着いたッス!ここに、ツカサの姉御が囚われているッス!!」


 火車が指さした先に建っていたのは、ここらへんではお馴染みのパワースポット:『バビロン天守閣』だった。


 全てを覆い尽くすほどの禍々しい第六天波動が、この建物全体から迸っている――!!


 だが、そんな事よりも今は絶対に言っておかなきゃいけない事があるんだぜ!


「……ゼハーッ!!コ、コヒューッ!!……火車さんや、何坂道とか嬉しそうに飛ばしてくれちゃってるんだぜ……?」


 息を切らしながらジロリ、と睨みつけるが、火車は「フッフフ~!!」と口にしながら、唇を突き出してそっぽを向く。


 口笛でも吹いているつもりだろうか。


 自転車の2人乗りと同じかそれ以上に、下手な演技で騙そうとする行為も悪だと思うの。


(てゆうか、これはあれか?『私の自転車に乗りたかったら、早く魂だけの状態になってね♡』というコイツなりの遠回しなアプローチなのか、だぜ……?)


 ……まぁ、冷や汗を流しながら、「ここから中に入るッス!」とか言っている火車の反応を見る限り、単に何も考えずに突っ走っただけのようだが……。


 とりあえず、俺は火車に促されるまま、建物の中に入る事にしたんだぜ……!!









「……ツカサの姉御を誘拐したのは、兄貴や姉御と同じクラスメイトでライバルでもある高槻タカツキ スグル、って奴ッス!」


「スグルが相手か……アイツも俺に負けず劣らずの強力なあやかしバトラーだから、油断は出来ないぜ!!」


 スグルはツカサが女の子の身体に変わって以降、『特別な存在である俺には、普通でないお前のような者こそ相応しい!』とか言って、ツカサに自分と付き合うように迫っていた。


 スグルは変な奴だったが優れたあやかしバトラーでもあったので、ツカサに変わって俺が何度も奴を撃退していたのだ。


 スグルとの勝負は常に接戦だったのだが、ここまでは何とか追い払う事が出来ていた。


(だが、まさかこんな強引な手段を取ってくるなんて……!!)


 あやかしバトラーとして、最後の一線は超えないだろう、と見越していた自分の判断の甘さが悔やまれる。


 俺はギリッ……!!と歯を食いしばっていた。


 そんな俺を気遣う様子を見せながら、火車がこの場所の説明を始める。


「……この“バビロン天守閣”は五階建ての建築物ッス。高槻 スグルは各階に“四天王してんのう”と称したメンバーをそれぞれ配置し、最上階で兄貴の事を待ち受けるつもりみたいッス。……兄貴!心してかかってくださいッス……!!」


「分かった!!……と言う前に、向こうさんからお出ましのようなんだぜ!」


 ハッ!とした様子で、火車が俺の視線の先へと振り向く。


 眼前から、俺達の前に姿を現したのはこのフロアを担当する“四天王”と思われる一人の男子生徒だった……。









 ~バビロン天守閣・1階~


「へへっ、アキラ!この俺、幸福沢ハピザワ ホルト様のもとまで辿り着くとはなかなかツイてるようだな!!……だが、お前の強運もここまでだ!」


「……いや、運とか関係なしに普通に体力で何とか」


「何故なら!今のお前以上に、俺の方がサイッ……コォにツイているからだッ!!」


 人の話も聞かずに勝手にまくしたてるホルト。


 ……コイツ、普段大人しいくせにこっちが少し話を振ったりすると、自分の思い込みだけで一方的に話し続けるから苦手なんだよな。


 ホルトがあやかしバトルをやってるとか、俺は全然知らなかったもん。


 そこらへん、あやかしバトラーとして情報不足だった感は否めないし、どんな奴だろうとまずは関わりを持とうとするスグルの姿勢だけは少しは見習った方が良いのかもしれない。


 そんな事をぼんやり考えている間に、ホルトが自身のあやかしを高らかに呼び出す――!!


「出でよ、俺のフレンズ!!“ケセランパサラン”!並びに、“猿の手”!」


 バシュウ……ッ!!と奴の両隣に、フワフワと浮かぶ毛玉のようなモノと、不気味な干からびた腕が出現する――!!


 “ケセランパサラン”と“猿の手”。


 コイツ等はどちらも『人の願いを叶える』という能力を持った特異なあやかしである――!!


「……ッ!!」


 この2体のあやかしの出現を前に、俺は思わず絶句する。


 そんな俺の様子を勝ち誇った表情で見ながら、ホルトが耳障りな高笑いと共にこちらを嘲るような言葉を投げかけてきた。


「……クククッ、これが俺の“幸運全振りパーティ”だ!!この“バビロン天守閣”というパワースポットの効果でコイツ等の運気の能力は更に倍増!!俺は労することなく、勝手にお前の自滅を待って勝利すれば良いだけ!!まさに、勝ち確ってのは俺の人生のためにある言葉なんだぜぇ~~~~~ッ!?」


 そんなホルトの意思に呼応するかのように、“ケセランパサラン”と“猿の手”が揺れ始めたかと思うと、それぞれ温かな白い光と不気味な紫の光を内側から放ち始め、





 そして、盛大に爆散した――。





 ポカン、とその様子を呆けた表情で見つめるホルト。


 だが、優れたあやかしバトラーである俺にしてみれば、この2体が同時に出てきた時点で結果は分かりきっていた。


 確かに“ケセランパサラン”と“猿の手”はどちらも『人の願いを叶える』という能力を持っているが、その性質は対極に位置するモノと言っても過言ではない。


 “ケセランパサラン”が純粋に人を幸福にするために願いを叶えるのに対して、“猿の手”は人の願いを捻じ曲げた形で実現させ不幸にさせる、という相容れるはずのない性質の存在なのだ。


 これが何もない場所で同時に出すだけだったのなら、互いに反発するだけで済んだかもしれないが、ここはパワースポットとして名高い“バビロン天守閣”。


 運気が爆発的に上昇した結果、“ケセランパサラン”と“猿の手”が互いの属性を限界以上に引き出そうとし、耐え切れなくなった結果、爆散する形となったのだ。


「……もっとも、普段からあやかし達の様子をしっかり観察しているバトラーなら、“ケセランパサラン”と“猿の手”の相性が悪くて反発し合っている事くらい見抜けたはずだろうが……自分のバトラーとしての実力のなさを恨むんだぜ……!!」


 そう言いながら、俺は泣きじゃくるホルトを後に火車と共に2階へと駆け上がる――!!








~バビロン天守閣・2階~


 二階に昇りつめた俺達を出迎えたのは、同じクラスの猿山サルヤマ モンキだった。


 モンキがあやかしバトルを始めていたのは驚きだったが、小学生ながらも熱心に極悪拳法道場に通っているコイツは極悪拳法で学んだ経験を活かして、力攻めかつ悪辣な手段を得意とするあやかしを使ってくるに違いない――と、俺は睨んでいた。


「へへっ、それじゃ行くぜ~……来い、俺のあやかし!“猿神サルガミ”!!」


 甲高い叫び声と共に姿を現したのは、一匹の大きな猿型のあやかしだった。


 ……なるほど、実に極悪拳法使いらしいチョイスだ。


 猿神は力ずくで人が持っている買い物袋やお土産などをひったくる習性を活かし、あやかしバトルにおいてはあやかしに持たせたアイテムを強奪することから、敵にすれば非常に厄介な相手とされているのだ。


(まぁ、警戒すべきはそれだけじゃないが……)


 猿神は野生で生きてきた猿型のあやかしであるため非常に腕力が強く、『アイテム強奪』をしてこなくても危険な存在である。


 そんな俺の焦りを見抜いたかのように、モンキが更に追い打ちをかけてくる――!!


「極悪拳法仕込みの俺の戦法はこれだけじゃないぜ!!……おい、そろそろ出番だぞ!」


 ……なんだ?さっきのホルトみたいにもう一体あやかしを呼び出すつもりなのか?


 だが俺は、すぐにそんな予想が外れていた事を思い知ることとなる――!!



「行きなさい、私のあやかし!!今のうちに、スグル君に仇為す敵を一撃のもとに粉砕するのよ!!」


「えんら~!」


 勝気な少女の声が後ろから聞こえてきた瞬間、間延びした掛け声と共に煙が俺達の身体を包み込む――!!


「ゲホッ、ゴホッ!!」


「煙いッス!」


「えんら~!!」


 突如、俺達に襲い掛かってきたのは十中八九煙型のあやかし:えんらえんらに違いない。


 そして、そんな敵のあやかしの正体ともう一つ、確信した事を俺は口にしていた。


「クッ……このフロアの番人は2人いたのか!?」


 これが、モンキが2体のあやかしを呼び出してくるなら、俺もそれに合わせた数のあやかしを呼び出し対抗しようとしただろう。


 だが、モンキは1対1で戦うように見せかけ、もう一人の味方が十分な距離に近づくまで俺達の注意を“猿神”という油断ならない存在に惹きつけさせることに成功したのだ。


(不意打ちとはいえ、ここまで計算され尽くした戦法を使ってくるとは……流石、極悪拳法の使い手:猿山 モンキだぜ!!)


 そんな俺の気持ちに呼応するかのように、背後にいるらしき少女(煙で姿は見えない)が、奇襲を成功させた喜びを滲ませた様子で勝ち誇る。


「そうよ!……まぁ、正確には私は3階の守護者なんだけど、スグル君のもとに行こうとする不届きなアンタを確実に倒すために、作戦を全て立案しそれを実行するようにそこの猿男子に呼びかけたのよ!!」


「あぁ、俺は極悪拳法で培った付和雷同スピリッツを活かして、コイツの提案に全力で乗っかかっただけなんだぜ!」


 モンキが勢いよく答える。


 そんなやり取りを聞きながら、俺は認識を改める――!!


(不意打ちとはいえ、ここまで計算され尽くした戦法を全て一人で立案し、それを現実にするための確かな行動力を兼ね備えているとは……流石だぜ、誰かもよく分からない勝気そうな女子!!)


 そして、驚くほどに使えないぜ――極悪拳法!!









 敵のあやかし:えんらえんらに包まれた結果、相手の姿も確認出来ないまま攻撃を受けることになる!!


 ……と警戒していたのだが。


「……」


「……」


「……えんら~」


「……アンタ、何やってんのよ。さっさとやっちゃいなさい!」


「……いや、だって、なぁ?」


「ウッキー!!」


 どうやら、煙で相手の姿を確認出来ないのは俺達だけではなく、向こう側も同じらしい。


 えんらえんらは喋る事が出来ないようなので、俺達がいる場所を教える事も出来ないようだ。


(猿神も野生のあやかしだから、煙なんかには馴染みがないだろうし……この状況下では、野生の勘に頼るのも難しいのかもな)


 俺と火車は阿吽の呼吸で互いに音を出さないように気をつけている。


 後は、モンキ達がこの膠着した状況を打開するために何をしてくるかだが……。


「ふっ、安心しろ!!俺の猿神にこのとっておきのアイテムを装備させれば、コイツ等など一網打尽だぜ!!」


「ッ!?そ、それは!!」


 自信満々な猿山の宣言に続いて、少女の驚いたような声が聞こえてくる。


 アイテムはあやかしに持たせることによって、その戦闘中にあやかしの能力を上昇させたり普段使えないような技を使用出来るようにすることが出来るのだ。


 少女の驚きようからすると、モンキが持ち出したのは半端なアイテムではないらしい。


 筋力を増強させる“筋肉自慢のタンクトップ”か?運気上昇の“ケセランパサランの毛玉”?いや、一時的に索敵効果を与える“闇猿ゴーグル”かもしれない。


 考え出せば、キリがない。


 だが、確実に追いつめられている事は間違いない。


 いつでも反応出来るようにと、俺達は警戒感を最大限にまで引き上げる――!!


 煙の中の俺達にも聞こえるように、モンキが最後通告とばかりに高らかと告げる――!!





「これこそが人類が生み出した文明の利器:“パソコン”だ……!!」





 パソコン。


 それは、あやかしに持たせることによって知力を上昇させることが出来るアイテムである。


 だが、それがこの煙に包まれた俺達の状況にどう影響してくるのだろうか……。


 そんな俺達の疑問に答えるかのように、モンキが続ける。


「このパソコンでの学習を通じて猿神の知力を大幅に上昇させ、煙の中に紛れたコイツ等を探り出す方法を見つけだすんだ!!……武力と悪辣さ、そこに知力が加われば俺の猿神に隙はなし!!賊共、痛い目に遭いたくなければこのまま煙の中から這い出てでも、元来た道を引き返すんだな!!ガハハハハハッ!」


 そんなモンキの哄笑に続いて、カタカタ、とキーボードを打つ音が聞こえてくる。


 モンキの口上が終わると、フロア内には猿神のマウスやキーボードを操作する音だけが淡々と残されることとなった。


「……」


「……」


 どんな表情をしているのかは分からないが、押し黙るモンキと少女。


 俺は近くにいるであろう火車に、床を軽く数度コンコン、と踏み鳴らす形で意思を伝える。


「(……やるぞ、火車!)」


「(……了解、ッス!!)」


 音による暗号を解読し、火車が了解の意を示す。


 ――刹那、煙の中でも分かるくらいの煌々とした明かりが浮かび上がる。


「喰らうッス!!奥義:“烈火輪れっかりん”!!」


 燃え盛る炎の車輪を猛回転させる自転車に乗った火車が、カタカタ……と音がする方に向けて、盛大に突撃していく――!!


「ッ!?ウ、ウキーッ!!」


「さ、猿神ッーーー!?」


 パソコンにかかりきりで、咄嗟の攻撃に猿神は対処出来なかったのだろう。


 モンキの叫び声からするに、どうやら火車の特攻は確実に猿神を倒す事が出来たようだ。


 それと同時に、俺達を覆っていた煙も晴れていく。


「え、えんら~~~!!」


 えんらえんらは煙のあやかしであるため烈火輪の炎によるダメージはなかったが、突撃するときの風圧によって、その身体を吹き飛ばされる形となったのだ。


「あっ、あぁ……私のえんらえんらが!!」


 煙の晴れた先にいたのは、猿神を倒されて呆然とした様子のモンキと、髪をツインテールに結んだイメージ通り勝気そうな印象をした少女だった。


 ……結局、この2人の敗因はあやかしバトルにおける経験不足、といえるだろう。


 正直、えんらえんら自体はいつでも対処出来た。


 ただ、煙から抜け出した先に腕力と悪辣さを得意とする猿神に襲い掛かられては流石に分が悪いため、状況を打破するまでの時間稼ぎとしてこちらも煙を利用させてもらったのだ。


 この2人は完璧なタイミングで奇襲を行い俺達の動きを封じる事は出来たが、そういう部分も含めてそこからの詰めの一手が場当たりすぎで勝利を逃す形となっていたといえる。


(モンキはアイテムを持たせるなら、やはりあの場ですぐに勝利を決められるように一点特化した能力アップかスキル系のアイテムを持たせるべきだった。全体的に能力を上げようと“パソコン”を与えた結果、猿神の持ち味を失うだけに終わったんだぜ……女子の方も追いつめただけで安心せずに、もう少し作戦を煮詰めるべきだったな)


 戦意を喪失した女子の横を通り過ぎようとする。


 ……声で聞いた通り、結構可愛い顔してるんだな。


「……声で聞いた通り、結構可愛い顔してるんだな」


「ッ!?な、ななっ……!!」


 やべっ、どうやら口にしていたらしい。


 隣にいる火車に「ナンパ?ナンパっすか?」とニヤケながら聞いてきたが、俺は無視するように歩を進める。


「つまらない事言ってないで、早く行くんだぜ!!」


「合点承知ッス!!」


 俺達は一刻も早くツカサを救うために、俺達は先へ向かう――!!





「な、ななっ……何なのよ、アイツ!!わ、私の事をからかってるの!?」


 アキラ達が去っていった二階のフロア。


そこでは、最初は顔を赤くしながら固まっていたものの、すぐに激しく狼狽しながら叫ぶ少女の姿があった。









~バビロン天守閣・4階~


子供とは思えぬ怜悧な雰囲気を宿した一人の少年が、アキラ達を迎え撃つようにこのフロアに繋がる階段の前で佇んでいた。


集中力を研ぎ澄ませるためなのか、両目を閉じながら静かに精神統一を図る少年。


彼こそが、スグルのもとへ向かう上で最後の障害となる強大なあやかしバトラー:新高山ニイタカヤマ ゼロスである――!!


あやかしバトルにおいて圧倒的な実力を持っていると言われているのだが、その詳細は知られていない。


いわく、ゼロスと戦ったあやかしバトラーはその圧倒的な実力の前に口をつぐみ、何も語らぬまま逃げるかのようにあやかしバトルを辞めてしまう、と言われているからだ。


ゆえに、ついた通り名が『ダークシュライバー・ゼロス』。


『ゼロスという最強存在を超える事が出来るのは、ゼロス自身のみ』という在り方を体現したこの呼び名は、畏怖と共に尊敬の意を込めて男子生徒の間で広まっている――。


そんな彼がこのバビロン天守閣において、アキラを待ち受けるのはスグルのためなどではない。


あやかしバトラーとして、自分とアキラのどちらが強いのか知りたい、という闘争本能からくるモノであった。


ゼロスはアキラと戦う機会を設ける、というスグルの誘いを受けて、このフロアの番人として参加することにしたのだ。


「如何なる偶然か、俺達は今まで戦う機会がなかった……ゆえに、前田 アキラよ!!俺とお前、どちらが真に強いあやかしバトラーなのか、今日ここで決着をつけるとしようか……!!」


小学生の放つモノとは思えない強大な気迫が、フロアに充満していく――!!






 



 ~バビロン天守閣・最上階~


「いや~、まさかこの建物にエレベーターがあるとは盲点だったぜ!これのおかげで最上階まで一瞬だぜ!!」


「もう少し早く気づいていれば、戦う必要もなかったッスね……あ、どうやら着いたみたいッスよ!!」


 エレベーターから降りた俺と火車。


 その先で待っていたのは、苦しそうな表情を浮かべた女子――女体化した俺の親友である弥勒寺ミロクジ ツカサと、彼女を呼び出した自分のあやかしで追いつめようとする高槻タカツキ スグルの姿だった――。





 端正な顔立ちをしたショートカットが印象的な少女の姿をした俺の親友:ツカサ。


 しかしコイツはもともと男だったのだが、あやかし関連のある一件に巻き込まれた結果として突然女子になってしまったのだ。


 自身の経験に加えて、ツカサの家族は先祖代々あやかし関連で女体化させられ続けてきたため、ツカサはこれまであやかしという存在に対して否定的だったように思える。


 そんな俺のよく知るはずのツカサに、信じられない変化が起きていた――!!


「ハァハァ……もう少し持ちこたえて、みんな!!」


 ツカサの前には、彼女をスグルから守るように三体のあやかしがボロボロに傷つきながらも立ち上がっていた。


 労働者、銃士、インペイラー。


 三体とも人間型の中では弱い部類に入るあやかしではあるが、それでもあやかしを遠ざけてきたツカサが彼らと共にあやかしバトルをしている、という光景は俺にとって衝撃的だった。


 だが、俺に匹敵するほどのあやかしバトラーであるスグルの前では、悲しいことに相手にはならなかったようだ。


 スグルがほぼ無傷な自身のあやかしを前にした状態で、自信満々にツカサに呼びかける。


「クククッ、ツカサよ……諦めて我の物となるが良い!!貴公の奮戦には敬意を表するが、これ以上悪あがきをしたところで、結果は何一つ変わらんぞ?」


「クッ……誰が諦めるもんか!」


「フム……だが、あれだけ忌み嫌っていたあやかしを使い我を相手にあやかしバトルを挑んでいるのも、こうして2人で戯れたかったからではないのか?……フフッ、そう考えると素直になれず意地を張ってしまう姿というのも、好ましいモノではあるな」


「変なこと言うな!!ボクはお、男だ!……それに、あやかしバトルをしようと思ったのは、スグルのためなんかじゃない!!」


 顔を真っ赤にしながら、怒鳴り返すツカサ。


 だがスグルはそれを真剣に取り合うつもりもないかのように、「分かった、分かった」と言いながら、ツカサのあやかし達にトドメの一撃を放とうとする。


「余興はここまでで十分だろう。……これで終わりとしようじゃないか!!」


 スグルの命に従って、あやかしの攻撃が放たれようとする――刹那!!



「違う……これは終わりじゃない。新しい始まりなんだぜ!!」



「ッ!?アキラ!!」


 ツカサが驚きながらも、嬉しそうな声で俺の方を見つめてくる。


「ば、馬鹿なアキラだと!?ぜ、ゼロスはどうした!!奴を倒したなどあり得ん!!……それに、さっきの言葉は一体どういう意味なんだ!?」


 対してスグルは目の前にある光景が信じられないと言わんばかりに驚愕の声を上げる。


 それに対して、俺は自信満々に2人に聞こえるように答える――!!



「ここには3階からエレベーターを使って昇ってきたから、4階にいる奴とは戦ってないんだぜ!!あと、さっきのは何となく言ってみたかったセリフだから、そんなに気にしなくて良いんだぜ!!」



「……そうか」


「……何か、色々台なしだね……」


 2人が意気消沈した様子で下を向く。


 だが、スグルの方はすぐに気を取り直したように、俺の方へと顔を上げる。


「クククッ、正直“ダークシュライバー・ゼロス”がお前を倒すか、お前のあやかし達の体力を削ってくれることを期待していたが遭遇すらしていないとはな……他に全く策は用意していなかったが、あやかしバトラーの流儀にのっとり堂々と戦うとしよう。……出でよ、ケルベロス!デカラビア!……そして、ベルゼブブ!!」


 スグルが瞬時に三体のあやかしを呼び出す。


 コイツの発言を聞く限り、『どれだけゼロス頼みだったんだ……』という気がしないでもないが、あやかしバトルは一朝一夕で強くなれるものでもないし小手先でどうにかなる存在でもないから、有効的な作戦をいくつも用意する事は出来ないというのは仕方のない事かもしれなかった。


「……それに無理矢理ツカサを連れ去ろうとしたのは良くないけれど、作戦が全部失敗してもあやかしバトラーとして最後はキッチリ戦おうとするのは立派だぜ!!……来い、俺のフレンズ!!牛鬼ウシオニ龍神リュウジン!……斉天大聖セイテンタイセイ!!」


 互いの最強あやかしを並べて、俺達は対峙する――!!



『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』


 あらん限りの絶叫と共に、爆発的な力が激突する――!!









 ~バビロン天守閣・場外~


 いつも通り、あやかしバトルで何とかスグルを撃退した俺は、ツカサと火車を連れた状態で帰路についていた。


 ここに来るまで皆無言(火車は最初何か言っていたが、結局気まずくなって押し黙った)だったが、俺は耐え切れなくなって自分から会話を切り出すことにした。


「あ~……その、何だ?ツカサもあやかしバトル始めてたんだな」


「……」


 俺がそう呼びかけても、ツカサは答えない。


 でも、雰囲気で別に会話自体を拒絶していないことは伝わってくる。


 そう判断した俺は、そのまま会話を続けることにした。


「スグルの言っていることが全部じゃないけどさ、やっぱりツカサがあやかしバトルを始めたのってスグルみたいな奴から身を護るためなのか?」


「……もしも、そうだって言ったら何なのさ?」


 ツカサが少しぶっきらぼうな感じで俺に言葉を投げかける。


「いや、もしそうだったのならそのおかげ……っていうのも変かもしれないけど、苦手だったのにも関わらずツカサがあやかしバトルをスグル相手にしてくれていたおかげで、俺が何とか間に合う事が出来たんだな~、ってしみじみ感じていただけだぜ。……あんがとな、ツカサ」


 そう返答する俺に対して、「何がだよ……バカ」と言いながらも、ツカサが答える。


「アキラは全然分かってないな~。……ボクがあやかしバトルを始めたのは、スグルから守るための手段じゃないんだけどね」


 ……いきなり何を言いだすんだ、コイツは?


 だが、そんな俺の動揺に構わずツカサは言葉を続ける。


「アキラはこんな身体になったボクをいつも気にかけてくれているのに、最近ボクはアキラと遊べてないし……火車ちゃんが悪い子じゃないのは分かっているけど、いつもアキラとあやかしバトルで一緒にいるから、何だかアキラを盗られたみたいで悔しいっていうか……」


 ……何だろう。


 聞いていて凄い恥ずかしいけど、よく分からない嬉しさが沸き上がってくる。


 こういうときにこそ火車に何かいらない茶々を入れてきて欲しいのに、横から覗き込むようにニマニマニヤケながらこちらを見てくるだけで事の成り行きを見守るつもりのようだ。


 腹立つわ~……。


 だがツカサは、そんな事を考えている俺に構わずに前に回り込むと、ニッコリと微笑みながら感謝の言葉を口にする。



「だからね……本当はボクの方がお礼を言うべきなんだ。今日も助けてくれて本当にありがとう……アキラ」



 その笑顔を見て不覚にもドキリ、としてしまう俺。


 この胸に芽生えた感情を言い表す言葉を、俺はまだ知らなかった――。

















~バビロン天守閣・4階~


「……」


 アキラ達が甘酸っぱいひとときを過ごしていたのと同時刻、このフロアの番人である新高山ニイタカヤマ ゼロスは待ちぼうけをくらっていた。


 ぐぅ~……。


 フロア全体に、腹の虫が鳴り響く。


「……帰るか。今日はたぶんカレーだし……」


 孤高の少年は、一人寂しく帰路に着くこととなった。









 ~~完~~


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