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あなたを探して旅してました。  作者: SAYA
1.Gerbera
8/63

8

あれから約二週間が過ぎた。

それはそれは毎日が忙しかった。

何をするにも、どこを掃除するにも全てが一日がかりなのだ。もちろん、一日で終わらない場所だってあった。


そして毎日、朝一番にこの家の主に挨拶に行くことにしていた。

とは言っても、ドア越しにだけどね。


トントンっ

「・・・」

もちろん今日も無視。

でも、めげません。

慣れましたし、もともと、期待もしてませんし。


「おはようございます。食事を用意しておきました。コーヒーは自分で淹れてください。

今日はリビングを中心に掃除する予定です。もし動かされたくない物がありましたら、早目に移動をお願いします」

「・・・」

そしてもちろん、返事はなし。

「では、失礼します」

やっぱりこの人の家だから、勝手に何かやる訳にはいかないじゃない。

それに術師の家だけあって、なんとなく危険そうな物もゴロゴロ転がってるからね。

だから返事がなくても、今日の自分の一日の行動だけは伝えようと思ってるわけ。


私が勝手にここに住みついて、掃除をしても、ご飯を作っても、彼はあれ以来何も言わなかった。

けど、たまにだけど、ふと気づいたら、私のことを見ている時がある。

視線に気づいて、話しかけようかな、なんて思っている間に彼はいなくなってしまうけど。

別に何も言われないなら、このまま勝手にやってやろうって思うんだけど、

やっぱり、ちょっと、寂しいかも…。


けど、ちょっとだけ、彼に変化があった。

それは、いつの間にか食事がなくなっていること。

彼がいつ食事をしているのかは分からないけど、気づいたら、空のお皿が残っている時がある。

とは言っても、料理がそのまま残っている時の方が多いけど。


初めて彼が料理を食べてくれた時は、思わず「やった!」って声を出してしまったわ。

その日は一日中、なんだか嬉しかった。あえて彼には、何も言わなかったけどね。変にへそ曲げられたら堪らないし。

でもいつかは、一緒に食事が出来たらいいなと、思うようになったのは、私の変化。

今日もお掃除、頑張ろう!


「…コーヒー」

んっ?何か聞こえたような。

掃除をはじめて、だいぶ時間が経過していた。掃除への集中が、ふと途切れた時だった。

気のせい?そう思いながら振り返ってみると、ダイニングテーブルに、彼が座ってこちらを見ていた。

「いっ、いつから?!」

「結構前から」

まったく気づかなかった。もっと気配を出してほしいわ!ちょっとバツの悪い思いで掃除をいったん中止し、キッチンで手を洗ってコーヒーを準備する。


初めてだ。

彼から、こんな風に話しかけられたのは。

それは純粋に嬉しかった。

少しだけ、自分が認められたような気がした。


少し緊張しながら、彼の前にコーヒーを置く。

それからどうしたらいいか分からなくて、挙動不審にキッチンに戻ってしまった。

彼は、そんな私を気にした様子もなく、コーヒーを啜っている。

何か言うわけでもなく、そして当然のように、用意していた食事に手をつけた。

だいぶ冷めてしまっているだろうに。

「作りなおす?」

って、思わず口をはさんでしまった。

内心しまったと思ったが、一度出た言葉はひっこめることは出来ない。

「…これでいい」

彼はこちらを振り向きもせずに、一言だけ言った。


(…これでいい)

心の中で、彼の言葉を、そっと、つぶやいてみる。


ドキンっ


たった一言。

それだけで、心臓が跳ね上がった。

どうしよう

どうしよう

なんだか、

すごく、嬉しい…。


なんで?

たった一言なのに。


別に、おいしいとか、ありがとうとか、そんな褒められたわけでも感謝されたわけでもないのに。

でも、こんなにも心が弾む。

今にも鼻歌を歌いだしてしまいそうなぐらいだ。

思わず顔がほころんでしまうのが自分でも分かる。

セイラはそれを隠すように、慌てて後ろを向き、キッチンに残っていた洗物を始めた。


しばらくすると、彼がダイニングから出て行った気配がした。

残ったのは、空のお皿。そのお皿を見て、身体はじんわり温まり、心臓がギューッと縮こまるような感じなのに、心は羽を持ったように浮かれるのだった。

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